二章 第六話 バイト2
用語説明w
レイコ
ゴーストハンター資格を持つ有限会社クサナギ霊障警備の社長、ドワーフの女性で童顔だが年上。クサナギ流除霊術を修めた腕を持つが、社長の割に威厳と権限は少なめ
魔石:単発魔法が封印された、魔力が具現化した使い切の石
魔石装填型小型杖:魔石の魔法を発動できる携帯用の小型の杖
チャクラ封印練
封印術式によって体内の霊力と氣力の循環量を大幅に減らす鍛錬方法。騎士の力である魔法や特技、闘氣が使えなくなり、一般人と同様の状態になる。
ビルの外に出ると、レイコ社長が急いで手を挙げてタクシーを止める
「タクシーで行くんですか?」
「うちの社用車は、もう現場に着いてるの。このタクシー代は必要経費として請求するんだよ」
そう言いながら、レイコ社長は腰に付けたポシェットからお札の束を取り出した
「それ、霊札ですか?」
「そのとーり! さすが、騎士学園の卒業生だね」
レイコ社長がニヤリとする
霊札とは、霊力が封印された札だ
ゴーストやエレメントなどの霊体を主としたモンスターに有効な武器であり、霊力の爆弾に近い
物体を透過してしまうような霊体メインの存在でも、霊札の霊力が干渉して霊体を吹き飛ばしてくれる
騎士学園でも、剣で触れられないモンスターや、逆に鎧などに憑依した硬すぎるモンスターを霊札で簡単に処理するのに使っていた
「えーと、レイコ社長はゴーストハンターの資格を持ってるんですよね?」
「そうだよ。私は、なんと上級を持ってるプロのゴーストハンター。全部、任せておきさい!」
そう言いながら、レイコ社長が小型杖と魔石を用意する
小型杖とは、魔石に封印された単発魔法を発動するための発射装置
魔法使いが使う長い杖とは違い、魔法強化能力が備わっていない分、携帯性に優れている
「これから、どこへ行くんですか?」
「えーとね、ビルで発生した悪霊だって。自殺した元社員で、ポルターガイストを引き起こして暴れてるみたいだね」
「そ、そんな現場に俺も行くんですか?」
「大丈夫だって。私と社員のホフマンがいるから」
「ホフマンさん…」
その人が、除霊の補助をする人なのか
「運ちゃん、ここでいいよ。領収書はクサナギ霊障警備宛で!」
俺達は大きめのオフィスビルの前で降りる
ビルの外には、見物人が集まっていた
「この人だかりは何です…」
ガッチャーーーーーン!
何かが割れる音がして、見上げると十階くらいの窓ガラスの破片が降って来る
「あそこか! ラーズ、行くよ!」
「えっ、はい!」
レイコ社長がインカムを付けて誰かと話している
「ラーズは階段! ダッシュね!」
「えっ、十階まで!?」
レイコ社長がエレベーターに乗って扉を閉めてしまったので、俺は仕方なく階段を駆け上がる
「だーーーっ、長い!」
やっとの思いでたどり着いた、ビルの十階の入り口
そこには、迷彩服を着たゴツい魚人の大男が立っていた
その手には、拳銃らしきものが握られている
「えっ…」
な、何なの、この人
完全に雰囲気違う人が来たんだけど
どうしてゴーストハンターの現場に拳銃持って立ってるの?
「…お前が新しいバイトか?」
大男が言う
「そ、そ、そうです。いえ、バイトの面接に来ただけ…」
ゴガァッッ!
「ひぃっ!?」
その時、十階のオフィス方向から何かがぶつかる音が響いた
「ちっ、野郎、また暴れ始めやがった」
「な、何がですか!?」
「だから、悪霊だよ。悪霊」
大男が顎で示したので、俺はソロソロと廊下を覗く
すると、廊下の中央が不自然にぼやけていて、その周囲を小石が浮いてクルクルと動いている
「あれが悪霊だ。あいつのポルターガイスト現象は強い、首が吹き飛ぶレベルの威力でブロックが飛んで来るから気を付けろ」
「…っ!?」
くそっ…
何度も言うが、俺は騎士の力を失った
モンスターと化した悪霊と戦うだけの力はない
「ホフマン、配置についたよ!」
「社長、了解だ」
ホフマンがつけていたトランシーバーから声が聞こえる
やっぱりこの人がホフマンさんか
容貌は完全に軍隊、牧師や巫女みたいなイメージを持つゴーストハンターには全然見えない
「…えっ、バイトにですか?」
トランシーバーで何かを話しながら、ホフマンさんが俺を見る
「…分かりました、社長がそう言うなら」
通話を終えると、ホフマンさんが俺に何かを渡してくる
「ラーズと言ったか。お前、小型杖は使えるのか?」
「ま、魔石の魔法弾を撃つくらいならできますけど」
渡して来たのは携帯用魔石装填型小型杖だ
騎士学園でも、魔石の魔法弾は使っていた
「これから、社長が霊札を奴に貼り付ける。俺とお前でそのフォローだ」
「えっ…」
言いながら、ホフマンさんがゴーグルをつけてハンドガンを胸の前に構えて壁に背を付ける
「最初に俺が出る。合図をしたら飛び出して魔石を当てろ」
「は、はい!」
ホフマンさんが言葉を切って、オフィスに飛び込む
ガゥン!
ガン! ガン! ガガン!
オートマチックのハンドガンで連続射撃
悪霊がポルターガイスト現象で持ち上げていた大きめのブロックを次々と砕いて行く
す、すげー腕だ!
「くっ!」
ホフマンさんが、また扉から飛び込むように戻っていく
その直後…
ババババババ……!
小さなブロックの欠片が砂嵐のように飛んできた
「ラーズ! 今だ!」
「は、はい!」
俺は扉から中へと駆け込み、小型杖を構える
だが…
「ホ、ホフマンさん! 悪霊が見えないっす!」
「お、お前、霊視ゴーグルはどうした!?」
「な、何ですか、それ!」
さっきまでは、廊下の中心がぼやけて見えた
何かがいるのが分かった
だが、移動してしまったらしく、その姿が見えない
何度も言うが、チャクラ封印練によって霊力を失い、俺は悪霊の姿を目で追うことさえ出来なくなっているのだ
「ラーズ、こっちに跳んで床に伏せろ!」
「うおぉぉぉぉっ!?」
俺が床にダイブした瞬間、俺の真上を一メートルくらいあるコンクリートの塊が通り過ぎる
ゴガァッ!
ガッシャァァァァァァァン!
採光のためのすりガラスの窓に直撃
壁に大穴が開く
だが、飛んできた方向に、空間のぼやけを発見した
俺はすかさず小型杖を振る
「グギャァァァァァッツ!」
ぼやけていた空間から悲鳴が響き渡る
「よし、よくやった!」
「ホフマンさん、これって何の魔石なんですか!?」
「霊属性祓いの魔石だ! 低位の霊なら散らせられる」
「…低位じゃなかったら?」
「こっちが払われるかもなぁ」
「おいぃぃぃっ!!」
残念ながら、ポルターガイスト現象を引き起こしてビルの壁をぶっ壊せる悪霊が低位なわけがない
苦しんだのち、ぼやけた者、悪霊が俺達に向ってくる
俺に姿は見えていないが、めちゃくちゃ怒っているのだけは伝わって来る
「…」
ホフマンさんがハンドガンを構える
「ちょっと! 霊に銃なんか効くんですか!?」
「無理に決まってるだろう。後は時間を稼ぐだけだ」
「え…」
ガゥン!
悪霊がブロックの塊をポルターガイスト現象で浮遊させる
その途端、ホフマンさんが塊を銃で撃ち砕いた
「で、でも、このままじゃ…」
「もう終わってる。落ち着け」
「はい?」
「グギャァァァァァッ!!!!」
突然、歪んだ空間から叫び声
その後ろで、レイコ社長がお札を貼り付けていた
「な? レイコ社長は、頭は子供だが腕は一流だ」
「誰が子供だ!」
「遅すぎるぜ、社長。新人の子守しながらの時間稼ぎなんて、よ」
「霊札だって高いんだから。しっかりと霊力を込めて、一枚で終わらせないと」
「社長なんだから、たまにはプリヤにガツンと言ったらいいだろう。現場が最優先だって」
「それなら、ホフマンが言ってよ! 前にそれ言ったら、現場費用積み立てとして給料の半分を差し押さえるって言われたんだよ!」
「ふぅ…」
「あ、あの!」
そんな二人に、俺は声をかける
「どうした、新人」
「新人のラーズ、いいね! 小型杖も使えるし、何よりゴーストに立ち向かうその勇気が」
「勝手な事を言ってないで! それ…!」
「え?」
「ん?」
たった今、レイコ社長が除霊したゴースト
その歪んで見える空間が、まだしっかりと残っている
「あ…」
直後に、何かの力が暴走
十階全体が震えたと思った瞬間、俺とホフマンさんの真上の天井が崩落した




