九章 第十話 緑黄色国立公園4
用語説明w
ラングドン先生
ラーズやフィーナの騎士学園時代の恩師。ラーズに歴史の面白さを教え、大学に進むモチベーションを与えた。魔法使いの元騎士であり、考古学研究者の一面を持つ
緑黄色国立公園
発掘現場 キャンプ
「ラーズ!」
「た、ただいま…」
やっとのことで帰って来た
フィーナが飛び込んでくる
また心配かけたなぁ…
「グルル…」
「あー、分かった分かった」
俺は、フォウルに缶詰を開けてやる
使役対象やペット化されたモンスター用の、魔素を多く含んだ肉だ
「今回は元気だね、フォウル。サンダーブレスは使わなかったんだ」
「ラングドン先生が来てくれたから…」
フォウルのブレスは強力無比
だが、たったの一回しか使えない奥の手だ
でも、ラングドン先生がいてくれたおかげで、そんな一発兵器は必要なかった
なぜなら、逃げたり、モンスターを驚かせて追い散らすのに必要な最低限の魔法を使うだけでいい
戦力を温存し、魔力や体力などのリソースの枯渇を先延ばしにする
これが騎士の実力だ
討伐対象のモンスターを見つけ出す
戦い、時に他のモンスターの乱入もある
そして、討伐後に生還する
生き残るためには、継続戦闘力が必要なのだ
「さぁ、ラーズ。気を張っていたはずだから、少し休んだ方がいい」
「ありがとうございました…」
立ち入り制限地区、いつ飛び出してくるか分からないモンスター
緊張感はとんでもなかった
騎士学園でモンスターの怖さを知っていたため、より怖く感じた
「ふぅ…」
「ラーズ、無事でよかった」
「ほらよ」
アンとアルバロがジュースを持って来てくれる
「今回は何をしてきたんだ?」
「…でっかいムカデ二匹に追われて、でっかいダンゴムシとすれ違った」
「意味が全然分からないけど、怖かったんだろうね」
「相変わらず、巻き込まれるよなぁ」
「ラーズ、無事でよかった。今日は休んで、明日から発掘作業に参加しなさい」
「オーギュスト教授、ありがとうございます」
そんなこんなで、俺はフォウルと一緒に休むことになった
…ラングドン先生の魔法の実力はさすがだった
対して、俺の騎士学園での実力は、一回しか使えない重属剣という必殺技依存
フォウルのサンダーブレスと同じで、本当の一発技
使った直後に、自分で動くこともままらなくなる
これは、騎士の現場では致命的な欠陥だ
やはり、俺に騎士は無理だったんだろうな…
俺は、そんなことを思った
・・・・・・
それから、三日間
俺達は、発掘作業の下働きをさせてもらった
考古学の学術調査に参加できるなんて、本当に貴重な経験だと思う
今日は最終日、明日の午前中にはここを出発する
最後の夜に、焚火の前でのんびりだ
「いやぁ、ここの遺跡は面白いねぇ」
「そうなんですか?」
俺は、ラングドン先生に尋ねる
自分でも発掘作業をしているし、たくさんの経験もある
それなのに、ここの遺跡はそんなに評価が高いのか
「新たな壁画や、石板などが見つかっているんだ。それに、いくつか電子記憶媒体が発見されているよ」
「記憶媒体は読み取りできますかね?」
「オーギュスト教授から聞いたよ。ラーズの研究テーマは、惑星ギアの電子記憶媒体の情報の読み取りなんだってね」
「はい。今、必死にコピーしていますけど、フォーマットが不明で全然読み込みができません」
「難しいね。四千年以上前のものだから、電子記憶媒体自体に残っているものが少ない。読み込み可能なものとなればなおさらだ。ましてや、フォーマットなんて、ね」
「はい…」
「そうだ、ラーズが落ちた穴があっただろう?」
「地面が崩れたところですか」
「うん。あそこの地下に、新たな遺跡が見つかったようだよ。建造物の痕跡が複数あるそうだ」
「そ、そうだったんですか!」
それなら、穴に落ちてからの大冒険も無駄ではなかったのかな
「掘り返すのに、かなり時間はかかりそうだけど楽しみだ。この辺りの地下に、町が一つ埋まっているかもしれないって信じられるかい?」
「ワクワクしますね」
「この二つの惑星は、まだまだ隠し事が多そうだ。一生、暇はしなそうだよ。でも、ちょっと不思議でね…」
ラングドン先生は、興奮した後にスッと素に戻る
ここら辺は、オーギュスト教授と一緒だ
「ここの遺跡は、人の生活の痕跡があまりないんだ。火をくべた場所も無ければ、台所のような痕跡もない。いったい、何の施設だったんだろうね」
「…」
かつて、この丘陵地帯にも人々が住んでいた
真実の眼と呼ばれる民族らしい
たくさんの建物、壁画などを生み出した人々だ
でも、現在では、その事を知っている人は誰もいない
その存在を忘れ去られていた
世界中を、惑星をも行き来して、各地に痕跡を残し、そして歴史の陰に消えていった、謎の多い人々の残滓なのだ
「ラーズは、大学院にはいかないのかい?」
「…」
ラングドン先生は、暗くなり始めた空を眺める
星が、ここにいるよとアピールするように輝き始めている
「就活をしていますが、大学院も考えています」
「…その様子だと、他にやりたいことがありそうだね」
「えっ!?」
ラングドン先生は、いたずらっぽく微笑んでいた
「ラーズの担任を九年間もやらせてもらったんだ。分かるさ」
「そ、そうですか…」
「ラーズは、良くも悪くも印象に残る生徒だったよ。何を悩んでいるんだい?」
「…シグノイアの防衛軍を受けてみたいなって思ってるんです」
「防衛軍…、国軍ということだね」
国軍とは、各国が自衛のために持つ軍隊のこと
モンスターとの戦闘や、他国からの国土防衛のために、軍備というものが取られている
少数精鋭の騎士団と違い、特殊能力をもたない一般兵が主な構成員だが、国家防衛の要の組織と言える
「被災地のボランティアに行って、隊員の人に誘われたんです。それと、人を助ける仕事っていいなって思って」
「なるほど、身体を張ってパーティを守ってきたラーズには向いている思うよ」
「はい…。でも……」
「何を悩んでいるんだい? 軍を目指すのに、これ以上ない動機だと思うけど」
ラングドン先生は、相変わらず優しい表情で俺の答えを待ってくれている
「フィーナを見ていると思うんです。それと、ヤマトやミィもですかね」
「何がだい?」
「…騎士と比べると、一般兵なんて本当に取るに足りない存在に思えちゃって。戦えるモンスターも限られるし、闘氣が無い分、危険も多しでしょうし」
「でも、やってみたいんだろう?」
「それは…、はい」
「目的は、人を助けること。騎士でなくても、やることは同じさ。被災地の人を助けたのは、一般兵の人たちだったんだろう?」
「…」
「ラーズ。人が何かを成し遂げるためには、二つの能力が必要なんだ」
「二つですか?」
「そうだ。一つは当然、物事を成し遂げる能力。騎士の才能だったり、頭の良さだったり、コミュニケーション能力だったりするものだね」
「はい」
「そして、もう一つが、自分の能力を生かす能力だ。自分に得意な事、モチベーションが保てることを見つける、選択できる、そして実行できる能力だ」
「…」
「自分の才能と、その才能を生かす能力。ピッチャーの才能を持つ者が野球をすれば活躍できる。でも、サッカーを選べば才能は生かされない。さぁ、どうやって自分の才能を活かしたらいい?」
ラングドン先生が、教師としての質問をする
これは、俺が騎士学園時代に言われていたこと
久々に言われて、思い出した
俺が騎士を諦めたことを
そして、それを決断した時のことを
「…勇気を持つことです」
「正解だ。誰だって、人生の決断をするのは怖い。不安はある。それでも、勇気をもって挑戦するしかないんだ。そして、仮に失敗したって、その経験は無駄にはならない」
「はい」
「大丈夫だ、ラーズが悩んでいることは、一歩踏み出す勇気さえあれば必ずできるようになる。今までもそうだったらろ?」
「そう…でしたかね?」
失敗ばかりだったから、うんとは言えない
「報われない努力はあるが、無駄な努力なんてない。それが、僕の信条だよ。何事も、成し遂げるまでは不可能に感じられるものさ。ラーズらしく、挑戦してみればいい。ラーズが目指す自分になれるようにね」
「はい…。ありがとうございます」
ラングドン先生が微笑む
その笑顔は、俺に勇気を与えてくれた
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