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序章 第二話 義妹

用語説明w

龍神皇国:惑星ウルにある大国


「ひんやり美味しいー」


「そうだなぁ…、暑い……」


近所の駄菓子屋に木陰とアイスを求めてたどり着く

ベンチに座って、待ちに待った冷たいアイスを口に運ぶ


お腹を壊すまでアイスを胃に流し込みたくなる衝動に駆られるが、お小遣いは有限

一本で我慢して大切に食べることにする



ここは龍神皇国のファブル地区

俺が育ったミドリ町だ



「はぅー…」


フィーナが感嘆している

育ちがいいくせに、百ゴルドのアイスで喜べるのは幸せなことだ

確かに旨いんだけど



「ラーズ、もう一本食べたくない?」


「…食べたい」


「じゃあ、半分こしようよ。ラーズのお金で」


「ちょっと待て。半分ずつ出せばいいだろ」


「年上なのに?」


「それじゃあ、お兄様と呼んでみなさい」


「バーカ」


フィーナが、蔑む目で俺を見る

マジで腹立つ顔だ



フィーナはノーマン、俺は竜人

人種の違いから分かるように、血のつながりはない


フィーナは、とある事情で俺の両親と養子縁組を行い、俺の義理の妹となった

その理由というのが、一言で言うなら亡命だ


フィーナは、龍神皇国の北方を接する小国クレハナが故郷

領主の一人であり、王位継承権を持つドースさんを父に持つ


しかし、クレハナは同じ王位継承権を持つ者同士で内戦中となっており、国内の情勢は非常に不安定だ



「クレハナはどうなってるんだ?」


「え? …特に変わらないよ。内戦も続いてるし、ドース父さんも忙しそうだし」

フィーナが、真っ青な空を見上げる



フィーナは、当時まだ中等部だったセフィ姉がクレハナから龍神皇国へと連れて来た


それは、まだ幼いながら、フィーナが第四位の王位継承権を持っており、他の勢力から狙われていたからだ

そのため、フィーナの安全のためにドースさんがドルグネル家に亡命を依頼したのだ


その後、フィーナはボリュガ・バウド騎士学園に入学

この時、フィーナはまだ八歳だった


本来の入学年齢は十歳だが、特例で飛び級を認められた

なぜなら、騎士学園は全寮制であることに加えて、プロの騎士と同様の実力を持つ教師がいる

世界で一番、安心な場所の一つだからだ


更に、教育機関でありフィーナ自身の成長の場であることも都合がよかった


そんなわけで、俺とフィーナは年は違うが、同級生として騎士学園に入学

今年の夏に一緒に卒業したというわけだ



「あーあ、終わっちゃった」

フィーナが、アイスの棒を寂しそうに見つめる


「…」


元王族のお姫様がアイスの棒を名残惜しそうに…


「何?」


「フィーナってかわいい所あるよな」


「はぁっ!?」


「王族のくせに妙に庶民的というか。好感が持てるよ」


「…どういう意味?」


フィーナは意味が分かっていないようで、頭に?マークが浮かんでいる



…騎士学園を卒業する頃、クレハナはフィーナのニュース一色となった


それは、新たな王位継承権を持つフィーナがクレハナに戻れば、停滞していた内戦に影響があるから

順当にいけばドースさんの所に戻ることになるが、他の勢力もフィーナ姫を狙うことになる


憶測も飛び交い、騎士学園にもクレハナの記者やスパイが押し寄せた


この状況を危惧したドースさんは、フィーナを一時的に王家から離脱させることを決意

その理由は、フィーナの安全、そして、フィーナの成長のためだ


内戦中のクレハナで学べることは限られるため、ドースさんは、クレハナの王家の女子が伝統的に通うハナノミヤ聖女子大学にフィーナを進学させたいと考えた


そのために、セフィ姉の家であるドルグネル家…、龍神皇国の貴族に後ろ盾になってもらい、一般家庭である俺の両親と養子縁組を行った


王家を出て一般家庭に入ることで、クレハナの王家とは縁を切り、王位継承権を放棄したと世間に公表

フィーナを狙えば龍神皇国と事を構えることになるという構図を作り上げ、クレハナの勢力に対して、フィーナに手を出すことのリスクを提示したのだ



「ラーズ、じゃんけんしよ」


「…パペコ半分ずつな」


「オッケー。じゃんけん…」


「ポン」「ほい!」


「やったぁ!」「ぐあぁぁっ!?」



チョキとパーで、一発で決着がつく

悔しいが、勝負なので仕方ない


俺はアイスボックスからパペコを取り出し、おばあちゃんにお金を払いに行く



「おーい、ラーズとフィーナ」


「あ、タケルとソノコちゃん!? 久しぶりー!」


俺が店を出てくると、小学校の同級生がやって来た

俺とフィーナは途中で騎士学園に転校してしまったが、それまでは一緒のクラスだった



「ラーズとフィーナは、もう高校を卒業したんだよな?」

竜人のタケルが言う


ちなみに竜人には角の形で二種類ある

鹿に似た木の枝のような東洋龍の角と、尖った西洋竜の角で、俺は西洋竜タイプ、セフィ姉やタケルは東洋龍タイプだ


「惑星ギアの学校は、八月が入学と卒業だからね」


「いいなぁ、半年も学校に行かなくていいんだ」


「その分、初等部の時は半年早く入学したんだって」


龍神皇国のある惑星ウルは、年度の開始が四月から

そのため、惑星によって学校の入学時期が違う


俺とフィーナは惑星ギアの騎士学園を卒業し、惑星ウルの大学を受験するため、夏に卒業してから受験まで半年ほど時間がある

つまり、半分浪人生のような生活を送ることになるわけだ


フィーナは飛び級をするほど勉強ができるため、このタイムラグはもったいないと感じているのかもしれない


だが、俺からすると半年も勉強時間が

あるのはありがたい

必死に知識を詰め込み、騎士学園時代に勉強を疎かにして来たツケを払っている状況だ



「ねぇねぇ、タケルとは仲良くやってるの?」


「え…? うん、まぁ、ぼちぼちって感じだよぉ」


フィーナがソノコに聞いている


「…」


それを見ながらタケルが照れている


タケルとソノコは、家が隣通しの生粋の幼馴染

学校もずっと同じで、毎朝起こし合って登校している


大学も同じ場所を受験する上に、なんと、すでに付き合っている幼馴染カップルだ



「デートとか行った?」


「二人ともお金が無いから、なかなか…。先週、映画には行ったけど」


「フィーナ、あんま聞くなって。恥ずかしい」

タケルの耳が真っ赤になる


「ごめんね。二人とも、仲が良くて羨ましいなって」


「ラーズとフィーナだって幼馴染でしょ? 小学校も一緒だったんだし」

ソノコもちょっと顔が赤くなってる


「そ、それはそうだけど…」


「そう言えば、兄妹になったとか言ってよね」

「二人とも仲良かったし、何か変わった?」


「全然だよ。小学校の時もフィーナはよく家に来てたし」


「まぁ、確かにあまり変わってないかな。パニン父さんもディード母さんも元から優しいもん」


「兄妹になって、何かが始まって…」

「テンプレみたいな、禁じられた恋の予感…!」


お返しとばかりに、タケルとソノコが何か言ってくる


「そ、そんなの、あるわけ…」

フィーナが慌てて言う


「フィーナ、ちんちくりんだからなぁ」


「複合魔法、ぶっ放してやろうか?」


「フィーナさん、その言葉遣いはやめなさい!」


変にいきり立つフィーナに、俺は二本組の名作アイス、パペコを半分あげて機嫌を取るのだった



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