一章 第十五話 東玉流総合空手部
用語説明w
フィーナ
ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級で大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。
ケイト
茶髪の獣人女性。トウデン大学体育学部の先輩で柔道部。明るい性格、ふくよかな胸でキャンパス内でも人気が高い。強かな性格のヤワラちゃん
「ちょっと我慢してください」
「うぅ…」
フィーナが回復魔法をロンにかける
みるみるうちに顔の腫れが引き、怪我が治っていく
「す、凄いな、妹さん…」
「ちょっと、魔法を齧っているだけです」
謙遜するフィーナ
本当は、騎士学園を卒業した、戦車以上の戦闘力を持つBランクの騎士の卵だ
…俺達の怪我が酷かったため、フィーナに電話をしてきてもらったのだ
「頭を打ってるなら、ちゃんと病院に行ってください」
「あぁ…。そこの整形外科に行ってくる」
「分かった。またな、ロン」
「ああ。明日、大学行くだろ?」
「行くよ」
「それじゃあ、一緒にゴドー先輩とケイト先輩の所に行こうぜ」
「オッケー」
ロンは病院に入っていく
「はい、次はラーズだよ。頭は打っていない?」
「俺は大丈夫。殴られただけ」
「何でそんな…」
そう言いながら、フィーナが回復魔法を使ってくれる
俺の痛みもすぐに引いてきた
回復魔法は便利だ
聖属性の魔法で、生命力を活性化、怪我などを局所的に治癒してくれる
戦場や救急医療の現場では、即効性のある回復魔法が重宝されている
止血剤や強心剤、輸血などと併用すれば、更に患者の生存率を高めることができる
ただし、万能ではない
聖属性とは、生命力をプラスにする力
生命力が上がりすぎれば、それは老化へと転ずる
聖属性を使いすぎれば身体の負担が上がり、老化に伴う様々な疾病のリスクが上がってしまうのだ
「なんかさ、トウデン大学があるイサグ駅の周辺に不良のチームがあるんだってさ。他にも、やられてるやつがいるみたいなんだ」
「そ、そうなんだ。警察にはいかなくていいの?」
「今回は大丈夫。心配するから、父さんと母さんにも内緒な」
「う、うん…」
電車に乗って、俺達はアパートがあるイドダカ駅へと帰る
…入学式の一日が、異様に長かった気がする
ようやく、ようやく一日が終わったのだ
「腹減ったなぁ…」
「ね、今日は入学式だしさ。お祝いで、外で食べて行こうよ」
「そうするか」
仕送りは貰っているが、生活費としては心もとない
外食ばかりしていると、すぐになくなってしまう
そのため、これからは食材を買い、自炊をしなければならない
フィーナとは家事当番を決めて、順番にやることにした
ちなみに、ルールは失敗しても我慢して食べること
文句は言わない
お互いに寮生活で、料理の経験は家庭科の授業くらい
そのため、最初は阿鼻叫喚が予想される
喧嘩をしないためのルールに、お互いが賛成した
「何食べる? そこに定食あるけど」
「うーん…、ラーズは何食べたい?」
「腹減ってるから、何でもいいよ。回復魔法頼んだから、フィーナが選んでよ」
「そぉ? それじゃあ、あれ!」
「つ、つけ麺か…。旨いからいいけど」
「ふふーん」
鼻歌を歌いながら、フィーナが券売機でメニューを選ぶ
お姫様でも、つけ麺の魅力には勝てないんだな…
俺達は、つけ麺(味玉トッピング)で、お互いの入学を祝った
・・・・・・
次の日
俺は大学へ登校
昨日の不良達や、ロンに絡んでいた先輩たちには遭遇せずにホッとした
今日も午前中に学部の説明
午後は、選択授業と部活動の見学などに割り当てられている
「ロン、こっち」
「悪い、待たせたな」
ロンと落ち合って学食へ
ちゃちゃっと昼飯を終わらせる
「選択科目、どうした?」
「体育と、ルーン文字と、情報学は選ぼうかなって」
「そっか。それじゃあ、俺もそうするか」
選択科目の一般教養は、学部関係なく受けられる
同じ授業にすれば、出席のチェックやテスト範囲などで助け合える
俺とロンは選択科目を決めると、情報端末を使って履修届けを提出する
これに失敗すると単位は貰えないため、留年の危機となる
「それじゃ、行くか」
「おお」
俺達はキャンパスを歩く
向うのは、ケイト先輩に言われた場所
体育系の部室が並ぶエリアを越えると、剣道場、柔道場などに使われている武道館があった
一階が板の間、二階が畳となっており、各武道系の部活が使っているらしい
トウデン大学は部活動が盛んで、空手、柔道、剣道、合気道、拳法、ボクシング、レスリングなど、格闘・武道系も多数ある
しかし、俺達が向かうのは、立派な武道館の先
古い仮設住宅のような建物が並んでいるエリアだ
「なんなんだろ、ここ」
「今の部室棟ができる前に使っていた部室エリアだってよ」
その一番奥には、こじんまりとした平屋の建物があった
「こんにちはー」
俺達は、挨拶をしながら扉を開ける
「うわっ、凄い。道場だ」
中は板の間になっており、脇には古い畳が積み上げられている
「おう、来たか」
その畳を一枚を敷き、男が横になっている
昨日、俺達を助けてくれたゴドー先輩だった
「お、ちょうどいいタイミングだね」
振り返ると、ケイト先輩だった
「お邪魔します」
俺達は中に入って床に座る
「それで、話って何ですか?」
ロンが尋ねる
俺達は昨日、別れ際に、大事な話があると言って呼ばれたのだ
「要件はだな…。簡単に言うと、この部活に入れってことだ」
ゴドー先輩が言う
「部活?」
「そうだ」
「…」
「ゴドー。あんた、それで説明したつもりなの?」
ケイト先輩が言う
「あぁ?」
「もー…、代わりに私が説明するね」
ケイト先輩がため息をつく
「実は、この道場の取り壊しが決まっていてね。それを、ゴドーの部活が使っているって言って待ってもらってるんだけど」
「はぁ…」
「でも、四年生の先輩が卒業しちゃって、今年からゴドー一人になっちゃったの。部活動の最低人員は三人だから、この道場を残すには、あと二人を入れなくちゃいけなくて」
「それで俺達に?」
「そうなのよ」
「俺達、柔道部を見ようと思ってたんですけど…」
ロンが言う
もちろん、ケイト先輩目当てだけどな!
「それは嬉しいんだけど、この道場、柔道部でもちょくちょく使わせてもらってて便利なのよ」
「なるほど…。それで、何の活動なんですか?」
「東玉流流総合空手だ」
ゴドー先輩が答える
「総合空手?」
聞きなれない言葉に俺達は顔を見合わせる
「要するに、空手のルールに拘らずにいろいろな試合に出る。そして、空手以外の試合にも出たりする。好き勝手に格闘技をやる空手だな」
ゴドー先輩が言う
「だから、私の柔道部とも交流があるの。投げや寝技の練習にね」
「へぇ…」
俺とロンは悩む
総合空手か…
特に、俺は格闘技なんてやったことがない
いきなり、そんな何でもやるルールってのも怖い気がする
「お前ら、昨日の奴らとまたやり合うことになるんだ。ここで腕を磨いとくのはいいと思うぜ」
「え?」
「ブラックマンバとかいうチーム、最近調子乗ってるからな。舐められたままじゃ、またやられるぜ」
ゴドー先輩がニヤリとする
「俺、入ります」
ロンが言う
「ロン…」
「お、そうか。お前、何か格闘技やってたのか?」
「形意拳をやってました」
「ほぉ、拳法か」
「はい」
「うーん…」
そんなロンを見ながら、俺は悩む
格闘技…格闘技かぁ
騎士の力は失った
それなら、格闘技をやって少しでも強くなるのはありだ
だが、いくら拳を振るったところでモンスターを倒せるわけじゃなし
あんまり意味があるとは思えない
…と、頭では考えたが、実は俺の感情は真逆の選択を選びかけている
「ね、ラーズ君」
「はい?」
ケイト先輩に呼ばれて、俺は顔を上げる
「コンビニで匿った時、あいつら店内まで入って来たの覚えてる?」
「はい」
「あの時、私を助けるために飛び出そうとしたでしょ」
「い、いや、ケイト先輩が何かされると思って…」
「ラーズ君は、格闘技が向いていると思うよ。誰かを助けるために動ける人って、素敵だもの」
「…っ!?」
「だから、ね。やってみない?」
「い、いや…、その…それだったら……」
ケイト先輩、好きです!
「バカ野郎。女に言われてやるなんて、どうせ続きやしねーよ」
「…!」
「ちょっと、ゴドー」
だが、ゴドー先輩がバカにしたように言う
なんだよ、それ
ちょっとカチンと来たんだけど
「ラーズっつったな。お前、強くなりたいか?」
「…はい」
俺は、素直に頷く
不良に理不尽に殴られた
元騎士の卵である俺がだ
俺は弱い
本当に、情けないほど弱い
そして、目の前のゴリラは強かった
俺だって訓練を受けてきた
あれがパワーだけじゃないことくらい分かる
揺るがない心
磨かれた技
鍛えた体
全てが化物だった
そして、不良共よりも理不尽だった
騎士とは違う、粗暴な野生味とアウトローな暴力
そんな強さに、俺は憧れてしまったのだ
「総合空手は健康志向のお遊戯じゃねえ、本気で強くなりたい奴の場所だ。だからこそ、他の部活からは異端とされている」
「…」
「男なら自分の心で感じろ。強さが欲しいのかどうか、それだけだ」
「入ります」
騎士学園では手に入らなかった、自分の納得できる強さ
ゴドー先輩の鍛えられた野蛮さ
そこには、俺が求める強さがあった
俺が思わず即答すると、ゴドー先輩がニヤリと笑った
個人プロフィール
氏名:ラーズ・オーティル
人種:竜人
性別:男
学年:人文学部一年生
バックボーン:なし(あえて言うならドルグネル流剣術)
得意技:ワン・ツー
スタイル:
ジャブとストレート以外の技がないため、喧嘩慣れしていれば簡単に対処されてしまう。
騎士学園で鍛えたためスタミナはあるが、体格は細くパワーも並み。ぶっちゃけ貧弱。
特記事項:
基本的にビビりでヘタレ。争いを好まず穏やかな性格だが、追い詰められるとキレる。騎士を諦めた過去から、強くなることに義務感を持っており、また焦ってもいる。ゴドーの強さに憧れて格闘技を始めることに。
コンビニで匿った 一章 第十一話 出会い
一章完結となります!
二章を書き上げたら、また投稿を始めます
GW前には再開したいなぁ…頑張ります




