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六章 第二十八話 知られざる犯罪2

用語説明w


魔石装填型小型杖:魔石の魔法を発動できる携帯用の小型の杖


レイコ社長

ゴーストハンター資格を持つ有限会社クサナギ霊障警備の社長、ドワーフの女性で童顔だが年上。クサナギ流除霊術を修めた凄腕だが、社長の割に威厳と権限は少なめ


ホフマン

クサナギ霊障警備の社員、魚人の男性で元ゲリラ兵の経歴を持つバウンティハンター。ゴツい体格と風貌で、見た目は完全にあっちの人。銃火器のプロでバウンティハンターの資格を持つ


ホフマンさんが、俺を轢いた車の運転手を車から助け出している


エアバッグが開き、衝撃で意識を失っているようだ

瘴気によって顔色が悪い


運転手を道路の脇に寝かせると、ホフマンさんが動けない俺に肩を貸して、社用車まで戻ってきた


「ホフマン、お帰り」


「社長、ラーズは戦闘不能だ」


「えっ、何で?」


「車に轢かれた。プロテクターがあったって、さすがに動かしたら危ない」


「えー、それは困る…」


「いや、言い方…」


体中が痛い

脳震盪を起こしたか、まだフラフラしている



「それで、どうやって、その悪霊の死体を見つけるんだ?」


「そんなの決まってるでしょ」


レイコ社長が、自分のPITを見せた


「PITで何をするつもりだ」


「もちろん通報だよ。犯罪に遭った女性がいて、私たちの手に負えない悪霊がいるんだから」


レイコ社長が電話したのは、地元の警察署

そして、この地区を管轄する防衛軍だ


第一優先は、このキャンプ場を危険区域に指定

新たに人が入らないように道路を封鎖してもらう


俺が呪いにやられて意識を喪失したように、この付近に人が近づけば呪詛に影響を受ける

実際、俺を轢いた車の運転手も呪いの影響があった


ホフマンさんは、意識を失っている運転手のために救急車を要請する




ブロロロロッ…


しばらくすると防衛軍の軍用車が到着した



「こっちです! 通報したゴーストハンターのレイコです!」


寝ている俺の横でレイコ社長が手を上げる



「状況は!?」


「霊視の結果、悪霊はスンダル・ボロンと判断。戦闘ランクはC以上、Bの可能性も考えられます」


「な、何だと!?」


やって来た防衛軍の兵隊さんが驚く



戦闘ランクは、モンスターや悪霊の危険性の目安


Cランクは、軍の兵器である戦車レベル

大火力砲台と大馬力の走破性能を誇り、銃弾をものともしない装甲を持つ


当然、そんな力を持つ相手を一個人ですることは危険

今回のスンダル・ボロンという悪霊は、それだけ凶悪な悪霊ということだ


ちなみに、Bランクとは騎士が相手をするレベル

一般兵、つまり闘氣(オーラ)を持たない戦闘員では対処不能な相手だ



「今回はBランク戦闘員を要請するべきです。これは、ゴーストハンター資格上級保持者としての進言です」


「…分かった、本部に確認を行う」


レイコ社長が、防衛軍の人と話している


あれ、ちゃんと仕事をしてる…

いつもの社長じゃないみたいだ


「おーい、回復魔法の使い手はいないか?」

ホフマンさんが防衛軍の人を呼ぶ


「私が使えます」


長い杖を持った男の人が手を挙げる

あの杖は、魔法の強化機能がある魔法使い用の杖


俺達が使う魔石装填型小型杖は、魔石の魔法を発動するだけの発射装置だが、あの杖は術者の魔法の威力を引き上げる機能がある

かなり高額の軍用装備だ



「うちの社員が一人、負傷した。それと、霊障に巻き込まれた一般人が二人。どちらも体を強く打っているから治療を頼みたい」


「分かりました」


杖を持った男性隊員が俺に近づいて行く


「動かないで…」


そして、俺は回復魔法の暖かい光に包まれる

身体の熱と痛みが引いて行くのが分かる


さすがプロの軍人…

フィーナの回復魔法よりも数段上の治癒力


一気に体全体のだるさや熱が引いて行くのが分かった



「よし、これより瘴気を抑える結界を張る。各自、地図を確認しろ!」


防衛軍の人が指示を出す


「ラーズ、動ける?」


「なんとか…」


レイコ社長が俺を呼びに来る

車ピンボールを喰らったバイトを使いすぎだよ…



「これから、防衛軍が周囲に霊札を貼って結界を作る。私達も手伝うよ」


「分かりましたよ」


俺は、レイコ社長から霊札を受け取る

これは防衛軍の物なので、使いたい放題だと喜んでいる


資金力ってのは、大きいなぁ…



キャンプ場の脇の林に散開し、俺達は指定された間隔に霊札を貼って行く

今回、ゴーストハンターの資格を持っているのはレイコ社長のみのため、レイコ社長が指揮している


防衛軍の中にもゴーストハンター資格を持つ隊員はいるらしいが、あくまでも本職はモンスター討伐や人間の戦力との戦闘

ゴーストの専門家は、やはりゴーストハンターの力と知識・経験が必要なのだ



「地元の警察が道路を封鎖してくれました。朝になったら、悪霊となった被害者の捜索を行うそうです」


「分かった。Bランク戦闘員は?」


「中隊本部から、出動が決定されたとの回答がありました。間もなく到着かと…」


「あ、あれ…」



上空から、小さい光が降りて来る

近くなってくると、それがライトを首にかけた人間であることが分かった


「シグノイア防衛軍所属、Bランク戦闘員のビビアンです」


「はっ、ご苦労様です!」


Bランクの戦闘員…

シグノイアの国軍である防衛軍に所属するプロの騎士だ


女性だったのか


「私はゴーストハンター資格を持っています。除霊能力もあるので、近くの現場からこちらに転身するように言われました」


「現場のゴーストハンターが、瘴気を封じ込めるために結界を構成中です」


「分かりました、急ぎましょう」


そう言うと、ビビアンは持っていた魔法使いの杖を横にして腰を掛ける

すると、杖がふわりと浮き上がった


すげー、魔法使いの長い杖を魔法の箒みたいに使ってるんだ…




林にビビアンを案内すると、レイコ社長と防衛軍の人たちがすでに結界を張り終えていた


「ゴーストハンターの方は?」


「私です!」

レイコ社長が走ってくる


「レイコ社長、シグノイアのBランク戦闘員のビビアンさんです」


「えっ、もう来てくれたんですか!?」


「ちょど近くの現場にいたので急行しました。悪霊と言うのは?」


「スンダル・ボロンです。霊視結果で…」


レイコ社長が早口で説明

その簡単な説明だけで、ビビアンは頷いて杖をかかげた



「…我、命の輝きに…」


皆が見守る中、ビビアンは魔法を構成

更に魔法強化作用のある呪文を詠唱して出力を引き上げる



「…」


俺は、そんなビビアンを見守る



力を失った

魔力を失った


だから、俺には何も感じられない

これから発動する魔法が、何の魔法かも俺には分からない



「聖属性…範囲魔法……」


レイコ社長が呟く



林の中に展開された大きい魔法陣


そこから迸る、真っ白な閃光


直後に広がる聖属性、生命力をプラスにする力


それは、生命力をマイナスに転化したアンデッドの生命力をゼロに戻す力となる



「……アァァァァァァァァ…………!!!」


林の中にけたたましく響く悲鳴



真っ白い光の中に映し出されたのは、血の涙を流す女性


無念さと、怨恨、憤怒、自分でも止められない負の感情に変質させられた魂が叫ぶ


消失の間際に発する、復讐を成し遂げられない絶望の慟哭だ



「安心しなさい!」


「…!」


突然、叫ぶレイコ社長


「あなたの恨みは絶対に晴らす! 同じ女の私に任せなさい!」


「…」


「あなたを殺した男は絶対に許さない! 絶対に捕まえる、絶対に裁きを受けさせる! 絶対に忘れさせないわ!」


「…」


消え去る直前の悪霊が動きを止めた

そして、レイコ社長を見つめる


憤怒の表情が少しだけ治まったように見えた






………






……











その後、朝になると警察官が到着、林の中の捜索が行われた


すると、腐乱した女性の死体が林の中に埋められているのが発見

特別捜査本部が立ち上り、犯人の逮捕に向けて捜査が始まったとか



「では、これで失礼します」

ビビアンが、防衛軍の人に挨拶して帰り支度をする


「はっ、お疲れさまでした!」

防衛軍の人がかしこまって挨拶


やはり、Bランク戦闘員…騎士の力は圧倒的

扱いも別格だ


「あなたの所の社長さん、やり手ね」


「え?」

不意に、ビビガンが俺に話しかけてくる


レイコ社長が勝てないと判断した悪霊を、範囲魔法一発で吹き飛ばした

どう考えても、Bランク以上の騎士の方が力は上だ



「ふふふっ、ゴーストハンターは力だけじゃないわ」


ビビアンは、俺の考えていることが分かったのか、否定する


「ゴースト…、悪霊となったものの気持ちを理解して、言葉を失った者を納得させる言葉を持つ。それがコーストハンターの力量」


「はぁ…」


「究極的には、悪霊が自分の死を受け入れられる手助けをする。それが除霊の目的だから。私には、できないことよ」


「…」


Bランクの騎士が、レイコ社長をめっちゃ褒めている

あんなにいつも、めちゃくちゃなのに…



「ラーズ、シグノイアの騎士と何を話してたんだ?」


ホフマンさんが、あくびをしながら近づいてきた


「…よく分かりませんでした」


俺は、林から運び出される女性の遺体に手を合わせているレイコ社長を眺めた



戦闘ランク 一章 第一話 受験勉強

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