六章 第二十三話 危険な夜3
用語説明w
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて東玉流総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる。龍形拳の名が知れ渡り黒髪龍と呼ばれている。
階段を降りて七階から五階へ
そこでは、鉄パイプや金属バットを持った男たちがカラオケの部屋の中を一室一室確認していた
俺は階段から廊下を覗く
「何人いる?」
「この階だと三…いや、四人かな」
「とりあえず、ここで迎え撃つか。最悪は非常階段から逃げよう」
「そうだな」
ロンと簡単な作戦を立てる
だが、相手は武器を持っている
このままだと怖い
俺はロンを階段に待たせて、廊下に出る
「おい、何だお前らは。騒いでんじゃねーぞ」
部屋を確認していた男達に声をかける
「あぁっ? 余計なことに首を突っ込むんじゃねー、殺すぞ!」
奥にいた男が威嚇して来る
「あっ、フィマソンさん! そいつ、白髪竜ですよ!」
その前にいた奴が俺を指した
「なっ、てめーが…」
フィマソンと呼ばれた男が鉄パイプを構えようとする
「はぁぁっ!」
「う、うおっ!?」
バキィッ!!
ロンが階段から走り込む
面食らった男が、無防備に顔面にパンチを受けて仰向けにぶっ倒れた
「あっ、黒髪龍だ!」
「双竜コンビ、見つけたぞ!」
「何だ、お前ら。俺達を探してたのか?」
「だったら、最初からそう言えよ」
「この野郎、やっと見つけたぜ」
フィマソンが鉄パイプを構えた
「何だ、タイマンじゃねーのか? 人数集めて武器まで使うのかよ、情けねーな」
「タイマンなんかで終わると思うなよ?」
「勝てない言い訳か? 弱かったら、人数と武器で対抗するしかないもんなぁ」
「あぁっ!? てめー、舐めたこと…」
俺は、ガンガン煽る
だって、鉄パイプでぶん殴られたくないし
止めろ、ロン
お前、煽りうめーなみたいな目で見るのは止めろ
必死なだけなんだよ!
「ゴチャゴチャ言わずに、タイマンなのか負けを認めて武器使うのか、さっさと決めな」
「誰が負けを認めるだ、ふざけんな!」
「お、それじゃあ、タイマンを選ぶのか。見直したぜ」
俺は、ちょっと嬉しそうに認める振りをしてやる
舎弟共の目の前で、タイマンぐらい当然だろって雰囲気を頑張って作るのだ
「おい」
フィマソンが鉄パイプを後ろの奴に渡す
そして、素手で構えた
「…頭張ってるだけあるな。お前みたいなのは嫌いじゃねーぜ」
「ふん…」
不良の好きそうなフレーズで、更にタイマンの雰囲気を底上げ
嬉しそうにしてんなよ、バカ
…だが、何度か喧嘩を経て思うこと
タイマンに乗って来る奴、俺は嫌いじゃないかもしれない
それは、負けるかもしれないリスクを承知で勝負に来るってことだからだ
いかんいかん、思考を不良に引っ張られちゃダメだな
襲撃かましてくる時点で、こいつらはクズなんだ
「ラーズ」
「そいつは俺がやる。ねーとは思うが、お優しいお仲間がタイマンに手を出して来たら頼むぜ」
「舐めてんなよ、白髪竜! そんなショボいことするわけねーだろ!」
フィマソンが怒号
そして、おもむろに間合いを詰めて来る
「うおぉぉっ!」
フィマソンのパンチ
大振りだが早い
ゴガッ!
右ストレートで丁寧にカウンターを取る
フィマソンの顔を弾く
腰も落ちねーか、タフだな
ゴッ、ガッ、ガシュッ!
「ぐおっ…」
左フック、右アッパー
そして、左手でフィマソンの右手を抑え、右肘で横薙ぎのコンビネーション
フィマソンの左目の上に肘が直撃した
残念、切れなかったか
「おらっ…!」
フィマソンが、よろけながらも拳を振り回す
俺は、前蹴りに体重を乗せて、思いっきり押し戻す
フィマソンを、仲間の方まで後退らせてやった
「し、白髪竜、強ぇ…」
「あのフィマソンさんが一方的に…」
「ちっ、こんなもん、屁でもねぇ」
「フィマソンさんはタフだ、舐めんなよ!」
フィマソンが強引に掴みかかって来る
カウンターで、がら空きの顔面にストレート!
「…っ!?」
バシッ…
だが、読まれていた
顔を開けてパンチを誘いやがった
パンチを叩かれて、突進の勢いのまま組み付かれる
体格は向こうの方が上だ
一気に押し出される
「このっ…!」
俺は咄嗟に方向を変えて、廊下の壁方向に背中を向ける
倒されるくらいなら、壁側に寄りかかった方がましだ
ドンッ!
背中を壁に付き、そこから腰を突き出して耐える姿勢になる
背中と肩を押し付けられると抵抗が出来ない
尻で壁を押し、背中を壁から浮かすのがコツだ
これは、八武大杯ためにケージでの戦い方を教わった時に知ったもの
壁際の攻防も知識とテクニックがいる
ゴッ!
肩でフィマソンの顎をカチあげ
相撲のバードンにやられた打撃で隙を作る
そして、脇を刺して体を反転
フィマソンと体を入れ替え、逆に壁際に押し付けてやる
追撃!
体重を乗せて、全力で突く
ゴン!
ガッ、ゴッ!
正拳突き、腕を引かずにつっかえ棒にする撃ち方で、壁にぶち当てるように撃つ
「うおぉぉっ!」
だが、フィマソは止まらない
思いっきり俺を突き飛ばした
…この野郎、タフだな
顔面を突いて、後頭部を壁に叩きつけてやったのに
だが、こいつは喧嘩が強いだけ
格闘技経験という感じではない
「しっ…!」
前に出てくるフィマソンを迎え撃つ
ジャブ
ワン・ツー
ガードを上げさせて…
ドンッ!
「ごはっ…」
左ボディ
レバーに突き刺すようにめり込ませる
素手だと痛いけど、ボディがしっかりと突き刺さる
…それなのに、こいつは根性がある
タフさもあり、痛みをモノともせずにがむしゃらに組み付いてくる
落ち着け
腕の内側から首を取って、即崩す
攻撃される前に封じる
肘、ショートフック、ボディを織り交ぜて混乱させ、小内刈で内側から左足を刈って壁際に押し戻す
「フィマソンさん!」
ボスが完全に押され、舎弟共が焦っている
こちとら、毎日プライドへし折られ、汗を絞り出しながら稽古してんだよ!
フィジカルと根性だけの不良なんかに負けてたまるか!
また、壁際から踏み込んで来るフィマソン
本当にタフだ
心も強い
だけどさ、お前
ワンパターンだよ
俺は、左手でフィマソンの右手を払い、すれ違うくらいに左足で踏み込む
後足の右足を引き付けてると同時に、右を中段で突き出す
見よう見まね、ロンの崩拳!
ドンッ!
「こひゅっ……」
ボディに来ると思わなかったのか、フィマソンの動きが止める
本当は、ここから龍形拳の蹴りとか立ち関節に行きたいが、さすがに無理
だったら、俺は空手に繋げる!
右足をひきつけたことで、腰が左右どちらにも回せる
ゴッ!
即座に左のハイで後頭部を刈り取る
そのまま、フィマソンが前のめりに倒れた
「ふぅ…」
「フィ、フィマソンさん!?」
俺が後ろに下がると、フィマソンに舎弟共が駆け寄る
「ラーズ、やったな。最後の、崩拳か?」
「ロンのを使わせてもらったよ。前進しながらのパンチ、使いやすいかも」
「勝手にパクりやがって」
「固いこと言うなって。それより、左ハイに繋げるの良くなかった?」
「まぁまぁだな。それよりも…」
ロンが目の前を見る
見ると、舎弟共が鉄パイプやバットを持ってこちらを睨んでいた
「さっさと、そいつを連れて行け」
俺は、舎弟たちに言う
「…」
だが、舎弟共が俺達にバットを向けた
「ちっ、これだから不良は汚いんだ」
ロンが、肩で息をしている俺の前に立ちふさがる
「白髪竜はお疲れだ。てめー一人で俺達を相手にするつもりか、黒髪龍?」
にじり寄る舎弟たち
ゆっくりと下がる俺達
さっきはタイマンに持ち込めたが、さすがに武器を持った六人相手は無理だ
普通に袋叩きにされる
「ラーズ、階段を上がれ!」
「え、ロン!?」
ロンが俺を押す
「呼吸が戻るまで逃げるぞ!」
「わ、分かった」
「待て、逃がすか!」
「ぶっ殺せ!」
鉄パイプ集団が追って来る
すげー怖い、マジで殺される!
俺とロンは階段に走る
バキッ!
ロンが、振り向きざまに鉄パイプを振り上げた男の顔面にストレート
しかも、両手で押して後ろの奴らにぶつけている
うまいな
俺達は、すぐに階段を駆け上がる
非常口だ!
アレックスたちが向かった非常口から逃げるしかない!
俺は、足りない酸素を必死に吸いながらロンと全力でダッシュ
その後ろからは、やべー怒声が響いていた




