六章 第十七話 社会の裏側1
用語説明w
ホフマン
クサナギ霊障警備の社員、魚人の男性で元ゲリラ兵の経歴を持つバウンティハンター。ゴツい体格と風貌で、見た目は完全にあっちの人。銃火器のプロでバウンティハンターの資格を持つ
クサナギ霊障警備
「ちわー」
「ラーズ、いらっしゃいでござる」
事務室では、のんびりとピッキさんがゲーム中だった
部屋を見回すが、他には誰もいない
「みんな出てるんですか?」
「いや、いるでござるよ。ビアンカは二階でホバーブーツのメンテナンス中、他の三人は打ち合わせで、すぐそこの喫茶店に行ってるでござる」
「打ち合わせ…ホフマンさんもですか?」
珍しいな
商談は、いつもレイコ社長とプリヤさんがやってるのに
「今日は、どっちかと言うとホフマンがメインみたいでござるよ」
話していると、上から足音が聞こえる
「ラーズ、やっと来たか」
「ビアンカさん、お疲れさ…」
「ほら、メンテは終わった。プロテクターを着て来い」
「あ、ありがとうございます」
「時間がない早くしろ! 今日も中級の訓練だ!」
俺はビアンカさんに急かされながら、ホバーブーツとプロテクターを着込む
ブォォォッ!
「体重移動が遅い! コースにもっと早く反応しろ!」
ガキキキキッ!
「ブレーキの切り替えが遅い!」
ギャギャギャキキッ ブォォッ!
「バランスを崩すなぁぁぁ!」
俺が全力で走り、コーナーを抜け、急ブレーキや急カーブを挟んでいるのに、ビアンカさんが影法師のように俺の真後ろをぴったりとくっついてくる
え、何なのこの人
これだけの高速移動なのに離れない、俺の動きをトレースする身体能力とホバーブーツの技術
「…っ!?」
ドッガガガガガッッ!!
ビアンカさんに驚いてバランスを崩す
案の定、そのまま吹っ飛び、アスファルトにダイブする羽目になった
「早く立て」
「死ぬ…いつか死ぬ…」
「体幹がまだまだ弱い。それと、脚力も足りん」
「高速でアスファルトにダイブ…死んでもおかしくない…あ、体中痛い…」
「ゴチャゴチャうるさい! さっさと起きて、直角カーブニ十本!」
「ちょっ、ちょっと多…」
「いや、それとクイックターンを…」
「い、行ってきます!」
俺は、ノルマを終わらせるためにこれ以上ない程集中した
・・・・・・
くそー…
前に比べたら、多少は乗れるようにはなった
転ばずに急カーブだってできるようになってきた
上達を感じている
だが、それでも毎回完璧には曲がれない
どうしても転んでしまう時がある
悪霊に追われてる時にスッ転んだら、そのまま食い殺される
まだまだ練習が足りないなぁ…
俺とビアンカさんが事務所に戻ると、レイコ社長とプリヤさん、ホフマンさんが帰って来てた
「…あ、お帰り」
レイコ社長がこっちを向く
「…」
無言でホフマンさんが二階へと上がって行く
「ホフマンさん、どうしたんですか?」
「バウンティハンターの知り合いが、ね」
プリヤさんがため息をつく
「何かあったんですか?」
「死体で見つかったんだって」
「えっ!?」
「賞金首を追いかけていたんだけど、川に浮いてい
たのよ」
「…」
さ、さすがホフマンさん
この人、まともそうに見えて銃を使う闇の住人
都会の掃除人、バウンティハンターなんだ
「…行ってくるぜ」
一階に降りてきたホフマンさんが言う
「ホフマン、ラーズを連れて行ったら?」
「はい? 俺ですか?」
「素人を連れて行っても邪魔になるだけだ」
「あんたはもうプロじゃない。ゴーストハンターの一員でしょ」
「…」
レイコ社長が言われて、ホフマンさんが黙る
「ラーズを連れて行って、守りながら調査するくらいがちょうどいいよ。暴走できなくて」
「いや、だが…」
ホフマンさんが言い淀む
「俺、どこに連れて行かれ…」
「ラーズも行きたいって」
「ホフマンを一人にできないって話をしていたとこよ」
「…」
ホフマンさんが黙って俺を見据える
「いや、あの…無理にとは…」
「来い。ただし、言うことは聞けよ」
「は、はい…」
俺がチラッと振り返ると、レイコ社長、プリヤさん、ピッキさんがひらひらと手を振っていた
あぁ…、また流されて変な所について行ってしまう
俺のバカ…
ホフマンさんの運転する車で、俺達は会社を後にする
車は、方向的には東、トウク大港の方へと進んでいく
「…」
「…」
そんな車内は、重苦しい沈黙が満ちている
さっきから、ホフマンさんが全然話してくれない
「…」
「…」
車は高速道路に入り、更に進んでいく
「…ホフマンさん、今ってどこに向ってるんですか?」
「…」
「どんな依頼を受けたんですか? バウンティハンターの仕事なんですよね?」
「…」
「ホフマンさ…」
「少し黙ってろ。目的地に着いたら分かる」
「それは分かりましたけど…。せめて、どこに行くかくらいは教えてくれてもいいじゃないですか」
「…」
「お願いしますって、ホフマンさん」
「…カルメア市だ」
「カルメア市…」
カルメア市とは、シグノイアの南東にある市
海沿いの田舎で、俺がロンと免許合宿に行った場所だ
「そこで、どんな仕事をするんですか?」
「場所を聞くだけで終わらないじゃないか」
「この仕事をして、無遠慮にガンガン聞いた方がいいってことを習いました」
「社長にプリヤ、ビアンカを見てればそうなるか…」
「まぁ、ピッキさんやホフマンさんも含めて、いい人達ばかりですよ」
「…お前、洗脳されていないか?」
「自分の会社なのにとんでもないこと言いますね」
やっと、少し話してくれるようになったホフマンさんと他愛ない話をしながら、俺達はカルメア市へと向かった
「やっと着いた…。ここまで距離があるなら、電車で来ればよかったじゃないですか」
「電車で銃を運ぶ気か? 警察に声をかけられて捕まるぞ」
「車でも、同じじゃないですか?」
車を下りると、ホフマンさんが俺にホルスターを渡してくる
「あ、ありがとうございます」
渡して来たのは、俺のリボルバー
オールドホクブだ
…銃を渡してくる、つまりは必要ってこと
あぁ…バウンティハンターの仕事って、やっぱりドンパチするのかな…
「今回、やられたのは俺のダチだ」
「やられた…」
「殺られたってことだ」
「…!」
「あいつもバウンティハンターでな。追っていたのは、例の霊障を振りまいている組織の可能性がある」
「えっ!?」
「これから情報屋の所に行く。だが、この辺りは知る人ぞ知る無法地帯だ。必要なら、自分の判断で撃て」
「ええぇっ!?」
戸惑いまくっている俺に構わず、ホフマンさんがどんどん進んでいく
気が付いたら、周囲は汚ない町に
まるで、スラム街だ
こんな所で置いて行かれたら、マジで怖い
っていうか、何でこんな場所がシグノイアにあるんだよ
路上には座り込んで動かない人
角に立って、明らかにこっちを注視してる奴
怖い
俺は、ホフマンさんと離れないように必死について行く
たどり着いたのは、薄汚れた雑居ビル
エレベーターも無いので、外階段を上がって行く
このビル怪しい…
いや、外見上はクサナギ霊障警備のビルと対して変わらんか
「ここの上だ」
「何があるんです?」
「なじみの情報屋が…」
「わぷっ!?」
ホフマンさんが急に止まる
大きな背中越しに階段の上を見上げると、男が立っているのが見えた
「…っ!?」
その男は、俺の方に腕を突き出す
そして、その手には銃
ガゥン!
ガァン!
咄嗟に、ホフマンさんが俺を掴んで階段の壁越しに身を隠す
「い、い、いきなり撃って来た!?」
「ちっ、やるぞ」
「何を!?」
チラッと男を見るために頭を出す
ガァン!
「ひっ…!」
慌てて、頭をひっこめる俺
「頭を出せば、上からは予想以上に目につく。死にたくなきゃ隠れてろ」
「は、はい…」
ホフマンさんが、オートマチックの銃を胸の前で握った
ホバーブーツの技能レベル 五章 第十三話 心霊トンネル1
カルメア市 二章 第二十九話 免許合宿1
霊障を振りまく組織 四章 第三十一話 恥ずかしがり屋の悪霊2




