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六章 第十三話 八武大杯に向けて2

用語説明w


ロン

黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて東玉流総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる。龍形拳の名が知れ渡り黒髪龍と呼ばれている


ランディ先輩

ゴドーの同期であり、魚人の男性。柔道部に所属しているが、グラレイド柔術の茶帯でもあるグラップリングエリート。打撃系のゴドーの良きライバルだったが、いろいろあったらしい。柔術をするために一年間、大学を休学して留学した


稽古が終わり、気がついたらもう夕方だ

俺たちは旧道場を掃除して大学のバス停へと向かう



「ソレじゃあ、バイト行きマス」


「お疲れー」

「じゃあな」


俺とロンは、アレックスと別れて駅前を歩く


「どこ行く?」


「とりあえず魚々でいいだろ」


俺とロンは、イサグ駅の側にある行きつけの居酒屋「魚々」に向かう



「今日は飲むの積極的だな」


「レポート地獄を乗り越え、実施研修が三つとも終わったんだぜ。開放感で乾杯したいんだよ」


「俺は武部会後で、しばらく酒はいらなかったんだけどな。まぁ、いいけど」


二人で商店街を歩いていると、前から三人組の男が向かってくる


やんちゃそうだな

肩がぶつかったとか、めんどくさいことになっても嫌だ


俺はロンの腕を引っ張って、三人組の前から逸れる



「…」


だが、三人組は軌道を変えて俺たちの目の前に立ちふさがる


何でだよ!?



「何だ、お前らは」


ロンが言う

ちなみに、顔は完全にやる気だ


お前、毎回俺の努力を見て見ぬふりするのやめろよな


「そんなキレんなって、双竜コンビ」


三人のうち、一番デカいやつが言う


「双竜って…」


「UDFで見たぜ。特に白髪竜、お前の試合は良かった」


「白髪竜って呼ぶな」


にこやかに話してくる三人組

いつもの不良と違って、威圧感は出してこない



「俺は、お前たち双竜コンビを探して何回かイサグ駅に来てたんだ」


「探す?」


「タイマンやろうぜ」

デカいやつが拳を俺に突き出す


「な、何でだよ」


「やってみたかったんだ。俺はボクシングだ、がっかりはさせねーぜ」

礼儀正しく言ってくる男


…喧嘩の誘いに、礼儀って何だろうか



「ラーズ、モテるよな。いつも」


「どうせなら女の子にモテたい…」


断ったら三人で来るんだろうし、面倒くさい

俺達は、目立たない高架下に異動する



俺は、デカいやつは向き合った



「よし、行くぜ」


「イテハド、やっちまえ」


イテハドと呼ばれたデカいやつが構える



「…」


でかいな

構えもしっかりしてる


「ラーズ、落ち着いていけ」


ロンの声を聞きながら、間合いをつめる



「しっ!」


バシ バシッッ!



イテハドがジャブ三つ

早いしキレがある


ボクサーのパンチは怖い

しかも、体がデカいからリーチまである



ドシッ


「…っ!?」



ボクサー対策のセオリー、ロー!


更に、俺からパンチ

ワン、ツーだ!



「このっ!」


ボクサーにパンチで来ると思わなかったのか

イテハドがむきになってパンチを返す



バシ!

ドスッ!


「ぐおっ…」



そのパンチを腕を突き出してガード

ムエタイ風ブロック


そのまま、踏み込んできた足に、またローを返す!



続けて、また足を見ながらローのモーション



「…っ!?」


ゴガッ!



俺の右のハイがイテハドの顔面に直撃した



下に意識を引き付けてのジャンピングハイ

決まったぜ!



着地と同時に、胴タックル

がっちりクラッチをして、引っこ抜く


予想外だったのか、ボクサー相手だと隙を突けた

組技系と違い、思ったよりも簡単に持ち上がった


やっぱり、打撃も組みも、やって来た奴は違う

実際に手合わせしたら分かる



「うおぉっ!」


俺は、地面に思いっきり叩きつける



ゴッ…


「ぐあっ!!」



肩から落とすと、鈍い音が響く


一旦、俺が離れると、イテハドが肩を押さえながら手を挙げる


「ま、参った…。肩が…」


「…」



イテハドが降参した

思ったより、すんなり終わったな


俺は、手を下ろして構えを解く



イテハドの連れが、「大丈夫か?」と駆け寄った


「いやぁ、負けたよ。白髪竜、強いな」


「そっちのパンチ、怖かったよ。だから、パンチをフェイントに蹴りと投げで勝負したんだ」



イテハドとラーズが、感想を言い合っている

まるで、稽古で組手をしたかのように

ただの力試しだと、こんなこともある


そんな姿を見ながら、ロンは思った


このボクサーはパンチのキレがあり強かった

体も大きいしタフだろう


それなのに、的確に蹴りや投げに持って行って倒し切った


…少し驚いた

ラーズ、強くなってやがる




ようやくイテハドが立上がった


「じゃあな、白髪竜。帰るぜ」


「ああ、お大事に」


「…おい、あれ」

イテハドが不意に声を潜める


その視線の先には、俺たちより年上の若い男が歩いていた


「なんだよ、知り合いか?」


「まさか。…あいつ、売人らしいぞ。気をつけろよ」


「売人?」


「薬を売ってる奴だ。クソだぜ、あいつ」


「女が引っかかるんだってよ」

「欲しくてたまらなくなるらしいぜ」

イテハドの連れも頷く


「へー、そうなんだ」


「薬キメてセックスするとよ、気持ちよくて死にそうになるんだと。それでやめられなくなる」


「詳しいな。やってるのかよ」


「俺たちは、体に悪いもんなんて絶対やらねー。試合に出られなくなったら嫌だし」

「だったら、喧嘩なんてするなって話だけどな」


笑い合っている三人組は、ボクシングジムの仲間らしい

仲良いんだな、喧嘩についてくるって


喧嘩に慣れるってのは良くない


だが、ブラックマンバみたいにクソもいれば、こういう力試し感覚で来る奴もいる


喧嘩にも種類があるってことだ



「いてー、やっぱり喧嘩はだめだ。俺には向いてねーな」


「自分から来たくせによく言うな」

俺は、イテハドに言う


「格闘技やってると、喧嘩に勝てるか気になるだろ? 素人は簡単に勝てたけど、なんか弱い者いじめみたいで後味悪い。かといって、お前らみたいのとやるとケガするし。もう二度とやらねーよ」


「喧嘩なんていいことないだろ。危ないし」


「本当にそうだよ。お前らも喧嘩で名を売ってないで、自分の競技に集中したほうがいいんじゃねーか? それじゃあな」


そう言って、イテハド達は帰っていった

好きで名を売ったわけじゃねーわ!




・・・・・・




次の日 旧道場



「お、やってるな」


「あ、ランディ先輩」


やって来たのは、ゴドー先輩の同期で、柔道部に所属しているランディ先輩

寝技中心の武術、グラレイド柔術を学ぶために、惑星ギアに留学に行き、戻ってきたすごい人だ



「ゴドーは、まだ来ていないのか?」


「まだですね。今日は、珍しく遅くなるって言ってました」


いつもは、住んでるのかと思うくらいには旧道場で寝ているのに


「そうだったのか。タイミング悪いな」


「何かあるなら、伝えておきましょうか?」


「八武大杯のことだったんだが…。直接電話するからいい。それよりも、何を悩んでいたんだ?」


「え?」



俺は、サンドバッグの前で悩んでいた


それは、利き足でない左のミドルに威力が乗らないこと

さらに、蹴る動きに違和感があること


右のミドルのように、自然に蹴れないのだ



「…左ミドルか。一度、蹴ってみろ」


「あ、はい」



バシッ


俺は、構えて左のミドルを蹴る

柔術…、グラップリングの専門家であるランディ先輩に、蹴りとか分かるのかな?



「次は右を」


「はい」



ドッパン!


サンドバッグが曲がる

うん、やっぱり右ミドルは威力が乗る



「なるほどな」


「ゴドー先輩にも教わったんですけど、左ミドルに違和感があって…」


「おそらく骨盤の傾きだな」


「骨盤?」


「右の蹴りは、骨盤の…右足の付け根部分を持ち上げて蹴ってる。だが、左の蹴りは骨盤が水平のまま、上がっていない」


「な、なるほど…」



俺は、もう一度サンドバッグに構える

そして、ゆっくりと左のミドル


骨盤の、左足の付け根部分

骨盤の左足側を引き上げ、軸足の右足の付け根よりも高くする



ビシッ!


「あっ…!」



左のミドルが走った

その感覚があった


そ、そうか、これが骨盤を傾ける感じか

左の脇腹を縮めるというか…


確かに、右ミドルだと、骨盤を傾けて右足の付け根側が左よりも上がっている

これが、左ミドルでは傾けていなかった


…こんな簡単な差で、蹴りってのは大きく変わるんだ

だから、格闘技って面白い


人間の体を使う動きって、こんなに複雑で繊細

ちょっとしたことで大きく変わる


そして、理解した途端に突然、できたりすることがある



「お、よくなったじゃないか」


「はい、ありがとうございます!」

俺はランディ先輩にお礼を言う


たまには、ゴドー先輩以外の人のアドバイスを受けてみるのもいい


体との対話

なぜできないかの探求


スポーツってのは、こんなに頭を使う

やってみて気が付くことって多いよなぁ



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