一章 第八話 合格発表
用語説明w
セフィリア
竜人の女性で龍神皇国の貴族ドルグネル家の若き当主。ドルグネル流武器術を修め、騎士としても活躍中。その長く美しい金髪から、金髪の龍神王と呼ばれているドラゴンエリート
受験の合格発表日
ちなみに、フィーナのハナノミヤ聖女子大学は先週末
俺のトウデン大学は週明けの発表だった
「良かった、私は合格だよ」
「やったわね。フィーナ、おめでとう」
「大丈夫だと言われていても、結果発表は緊張するもんだなぁ」
ディード母さん、パニン父さんが喜んでいた
そんな三人を横目で見ながら、俺はこの週末を悶々と過ごしていたのだ
合格発表は、専用サイトに合格者の受験番号が表示される
数字の羅列を目で追いながら、俺は自分の番号を探していく…
「…」
え…、無いんだけど
いやいや、待て待て
もう一度…
「…」
やっぱり無いんだけど!
「あ、ラーズ。補欠合格者のところに番号があるよ」
「え? って、フィーナ、勝手に見るなよ!」
「いいじゃん、別に」
フィーナに促され、合格者の番号の下にある補欠合格者欄に移動する
すると、確かに俺の番号が載っていた
「補欠合格ねぇ…。ラーズは二番目の順位ってこと?」
「そうみたいだな。入学辞退者が出た場合、補欠合格者の一番上から順番に繰り上がり合格となりますって書いてある」
「補欠の二番目なら、繰り上がりは大丈夫かしらね」
「よかったな、ラーズ。ほぼ、合格みたいなものじゃないか」
「う、うん…」
両親に祝われるが、俺はしっくりこない
あれだけ頑張ったのに補欠合格とか…マジかよ…
やっぱり数学か?
それとも、物理で…、いや、歴史の…
「良かったぁ。ちゃんと合格通知が来るまでは安心はできないけど。ラーズ、おめでとう」
「あ、そ、そうね…」
俺は、微妙な顔をしながらフィーナと合格を喜び合ったのだった
・・・・・・
龍神皇国 騎士団本部
「そう、よかった。おめでとう」
フィーナとラーズの合格の一報を受けて、セフィリアは微笑んだ
「これで、二人とも大学生。早いものね…」
セフィリアは、フィーナを龍神皇国に連れてきたことを思い出す
フィーナは、あの時はまだ六歳くらいだった
フィーナの故郷であるクレハナでは、内戦が激化していた
フィーナの父親であるドースは、クレハナのウルラ領の領主
第二位の王位継承権を持つ王族の一人だ
そして、クレハナの内戦の当事者の一人であり、ウルラ領には他の勢力が侵入することも増えていた
そのため、ドースは龍神皇国に要請して、フィーナを亡命させた
その白羽の矢が立ったのがセフィリアだった
セフィリアは貴族ではあったが、当時は、まだ騎士学園の中等部の学生だった
だが、フィーナとは顔見知りであり、怯えないくて済むと判断
セフィリアの優秀さも鑑みての異例の抜擢だった
この時は、特にトラブルも起きず、フィーナは龍神皇国への亡命に成功
ラーズが住んでいた龍神皇国のファブル地区、ミドリ町にあったウルラ家の別荘へと移り住むことになった
セフィリアは、昔からお世話になっていたラーズの両親にフィーナを気にかけてくれることを頼んだ
すると、ラーズの両親は予想以上にフィーナをかわいがってくれた
子供が一人っ子のラーズだけであり、女の子が欲しかったとか
そんな、純粋に人を好きになってくれるパニンとディードが、セフィリアは好きだった
貴族に生まれたセフィリアの周りには、常に利権の拡張を狙う大人しかいない
楽しいから、好きだから
かわいそうだから、助けたいから
そんな、感情で損を取るような行動をとる者は見たことがなかったのだ
ラーズとフィーナは、セフィリアに懐いた
そんな二人は、セフィリアが通っていたボリュガ・バウド騎士学園へと入学
セフィリアを追って、二人は学校を決めたのだ
それが、セフィリアには嬉しかった
セフィリアは、若くして貴族であるドルグネル家の当主となった
その理由は家族の不幸
父は事故死
母は昏睡状態
他の親戚は、セフィリアの実家であるドルグネル家の利権を狙うものばかり
そんな中、まだ小さかったセフィリアは努力した
元来の優秀さに加え、不断の努力によって、年齢にそぐわない実力を手に入れた
学業に加えて、人類の最終兵器と呼ばれる騎士としての実力
まだ学生にも関わらず、プロの騎士と遜色ない戦闘力を手に入れたのだ
その理由は二つ
一つは、セフィリアに受け継がれた龍神王の血
セフィリアには、龍族の強い力が宿っていた
それを、想像を絶する鍛錬によって幼少の頃に無理矢理覚醒させた
そして、二つ目がドルグネル流
セフィリアの生家であるドルグネル家は武門の家
世界的に有名な流派であるドルグネル流剣術と槍術の宗家だ
セフィリアは、父が亡くなり、母が倒れた後、叔父にドルグネル流を叩き込まれた
そして、期待以上の実力を身につけて見せたのだ
その後、実力で叔父を黙らせたセフィリアは動いた
龍神皇国の筆頭貴族であるカエサリル家、皇太子の妻である皇太子妃サビーナという強力な後ろ盾を得て、叔父からドルグネル家の家督を平和的に譲渡させることに成功したのだ
「セフィ姉、騎士団はどうなの?」
電話口からのフィーナの声で、セフィリアは我に返る
「やっと、少し慣れてきたところかしらね…」
セフィリアは、騎士団に入団
その実力を遺憾なく発揮し、すでに頭角を表し始めている
しかし、なかなか上手くは行かない
なぜなら、ドルグネル家はいわく付きの家柄だから
一度、没落しかけた家であり現在も再興中
しかし、貴族界からの逆風によって、それも思わしくないのが現状だ
「ミィ姉とヤマトは元気?」
「ええ、もちろん。ヤマトは騎士団の訓練に参加しているし、ミィも騎士大学の寮への引っ越しが終わったみたい。今は惑星ギアの実家に戻っているわ」
ラーズ、ヤマト、ミィ、フィーナ
この四人は、騎士学園でパーティを組んでいた
そのパーティ名をエレメンタルという
エレメンタルは、ラーズたちの学年のトップパーティに上り詰めた
騎士学園では、実践を想定したカリキュラムとして、ダンジョンアタックの実習がある
エレメンタルは、そんなダンジョン踏破の学園タイ記録を叩き出した
それは、セフィリアが出した記録でもある
「それじゃあ、フィーナ。ラーズに代わってくれる?」
…セフィリアは、そんなエレメンタルをいつも羨ましく思っていた
自身の高すぎる実力によって
そして、妥協を許さない鍛錬によって
セフィリアの元を同級生は去っていった
そのため、セフィリアはずっと一人だった
ソロでダンジョンに挑み、たった一人で鍛錬を続け、そして、結果を出し続けた
親族間でも、たった一人で戦い続けて来たセフィリア
その孤独は、騎士学園でも変わらなかったのだ
だからこそ、セフィリアはエレメンタルのことを羨ましく思っている
四人で力を合わせて、あのダンジョンを駆け抜けた
相談し、試行錯誤を繰り返し、時に喧嘩をして、最後まで諦めずにたどり着いて見せた
その四人を見て、セフィリアはますます孤独を感じるようになったのだ
「…もしもし?」
「ラーズ、合格おめでとう」
「ありがとう、セフィ姉。でも補欠合格だから、まだ分からないよ」
「二番目なら大丈夫。例年、最低でも十人は繰り上がり合格しているみたいだから」
「う、うん、それならいいけど…」
そんなセフィリアは今、仲間を集めている
優秀な人材を探して、チームを作ろうとしているのだ
言うなれば、騎士学園の時には作れなかったパーティを組もうとしている
セフィリアの目的を果たすために
セフィリアは孤独を深めていた
だが、一人の言葉がセフィリアを変えた
俺は、セフィ姉とパーティを組みたい
寂しそうだから、守ってあげたい
ずっと、そう言い続けてくれた男の子
…それが、ラーズ
セフィリアは変わった
自分が孤独ではないと思えたから
ラーズは、見てくれている
私を人として、姉として、家族として
才能は並み
発想の面白さはあれど、突出した所はない
それでも、ラーズの存在はセフィリアの救いだった
「…本当は、ラーズには騎士団に来てほしかった。ちょっと寂しいわ」
「えっ、その…。ごめん…」
「ふふふ、いいのよ。ラーズが自分で決めたんだもの。たくさん勉強して、経験して、チャクラ封印練が終わったら、私のことを助けてね」
「が、頑張るよ」
電話を切ると、セフィリアは窓の外を眺める
ラーズの受験が終わった
これで一安心だ
少しだけ微笑むと、セフィリアは残っている膨大な事務作業に戻る
そして、高速で処理を始めたのだった




