六章 第七話 セフィリアの申請 その1
用語説明w
セフィリア
竜人の女性で龍神皇国の貴族ドルグネル家の若き当主。ドルグネル流武器術を修め、騎士としても活躍中。その長く美しい金髪から、金髪の龍神王と呼ばれているドラゴンエリート
「まさか、あのちっちゃいスライムが、ここまで成長するとは…」
「ふふん、使役対象はラーズだけの特権じゃないってことよ」
ミィが得意気に言う
ミィが、ヨーウイのボスを消化しきったスライムのスーラを撫でる
ちなみに、今度は恐竜の肉を元気に消化中だ
反面、俺の相棒、フォウルはサンダーブレスを使ってヘロヘロ
恐竜の肉を少しずつ飲み込んでいる
アハハハ…
ガッハッハッハッハ…
周囲からは笑い声が聞こえる
アングルトゥブカ族の集落で宴が開かれているのだ
「楽しんでいるか? 恐竜の肉料理はどうだ」
ファイター教授がやってくる
アングルトゥブカ族の酒を飲んで、顔が真っ赤になっている
「はい。ちゃんと料理されてて、鶏肉みたいで美味しいです」
「薬草や根菜と一緒に蒸し焼きにする、伝統料理だ」
野性味はあるが、塩やスパイスが効いていて、普通に美味い
アングルトゥブカ族は、落とし穴などの罠を使って恐竜を捕まえる
そのため肉食恐竜がかかることもあり、クセが強く獣臭い肉を食すためにスパイスなどを利用する料理が多い
ちなみに、恐竜狩猟民族と呼ばれているが、巨大なブロントサウルスなどは倒せない
あくまでも、三メートル未満の落とし穴にかかる中型や小型の恐竜を狙うのだとか
「私は、このアングルトゥブカ族と暮らしている。謎に満ちた彼らの生活は、とても興味深いよ」
ファイター教授が、また酒を器に注ぐ
一緒に住む彼らのために教授は動き、そして救ってみせた
教授にとって、アングルトゥブカ族はもう他人ではないのだろう
民族と一緒に生活することで、考え方や文化、生活様式や信仰を直に知ることができる
これこそが、正に人類学と呼べるものだ
過去の遺物から人類を探求する考古学だけじゃない
こういう人類学もあるんだなぁ
「ラーズ。君は、アングルトゥブカ族の女性の関心の的のようだぞ」
「えっ!?」
「命をかけてヨーウイと勇敢に戦い、そして女性たちを救った。君さえ望めば、今日の夜、寝床に…」
「ブファッ…!」
な、何言ってんだ!
えっ、えっ、いいの!?
「凄いね、ラーズ。モテモテじゃん」
ミィが、ファイター教授から貰った酒を飲み、俺にも注いでくる
「何言ってんだよ…」
独特の匂いだが、まぁ飲めるな
「分かるぞ。私も、彼女たちに欲情してしまった」
「はい?」
教授、何を言い出すの?
「文化も言葉も生活も違う共同生活。こっちからすると、配慮が欠けると感じることも多々ある。うまくいかなくてイライラしたり、気持ちが沈んだりだってする」
「はぁ…」
「そんな時に、明るい彼女たちを見ると元気が出る。魅力的に感じることは何もおかしくない。ただ、研究者としては間違っているかもしれないがね」
「…」
ファイター教授のフィールドワーク
異民族生活に飛び込んでの調査
辛いことだってたくさんあっただろう
それを、たった一人でやり続けて、ここまでの信頼関係を作ったんだ
すごい人なんだな…
「なおさら、アングルトゥブカ族の女性に変なことできないですね。ファイター教授の大切な人達なんですから」
「ほほぉ、言うじゃないか。だが、ラーズがここで村の一員となって子供を作るという手も…」
「勘弁してください。まだ大学生なんですよ」
その後、ファイター教授はいろいろなことを教えてくれた
「アングルトゥブカ族の先祖は昔、真実の眼と呼ばれる民族と共に、竜神皇国の北区やファブル地区、クレハナ南部に広がる遺跡群を作った人々の末裔だと言い伝えられている」
「そうなんですね。ここは西区の南ですから、かなり移動してきたんですね」
「それだけじゃない。なんと、このディナソ・ティボウ・マウンテンが、ドラゴンオーブの力で出来た、なんていう伝承まであるんだ」
ラングドン先生が話に入ってくる
「ラングドン先生、わしの成果を持っていくんじゃない」
そう言いながら、ファイター教授がラングドン先生に酒を注ぐ
「いやぁ、ファイター教授の論文を読んだときには震えたよ。まさか、現地の民族にしか伝わっていない伝承があるなんてね」
ラングドン先生の言葉に熱がこもる
龍神皇国では、最近、二千年前のトライアングル・ウォーによる戦闘の跡が発見されている
その当時も、ドラゴンオーブの力で魔王を撃退したとか
それが本当なら、この龍神皇国内にドラゴンオーブとかいうトンデモなアーティファクトがあるのかも…
いや、まさかな
「…何やってんの?」
俺は、盛り上がっているラングドン先生とファイター教授の後ろで、めっちゃ近づいて聞き耳を立てているフィーナに言う
「な、何でもないよ!」
「あからさまに動揺するし」
「ラ、ラーズが女の人に変なことするって言うから…」
「するか! 人聞き悪い!」
直接的に誘惑されたら、ちょっと自信ないけども
「フィーナ、今日のラーズはモテ期到来してるみたいだよ。まずいんじゃない?」
ちょっと酔っ払ったミィがフィーナをからかう
ヤベーな、酔ってきたか?
ミィの仕草がちょっと色っぽい
「別に、私には関係ないし。ラーズ、ちょっとちょうだい」
「え、あ、おい」
フィーナが、俺の器を奪い取って飲み干す
「…変な臭い」
「酒だからな。一気に飲み過ぎだ、水も飲んどけ」
「子供扱いしないでよ!」
「いや二日酔いは地獄の苦しみだから。ほら」
「うー…!」
何でだか、機嫌の悪いフィーナなだめつつ、俺は水を飲ます
宿敵を倒した部族の宴は、夜遅くまで続いた
そして、集落の真ん中にはヨーウイのボスの生首が飾られている
ちょっと不気味だった
・・・・・・
龍神皇国 中央区
審議院
「おやおや、ようやく審議院の呼び出しに応じてくれましたなぁ」
ヒュベイルが笑顔で言う
「申し訳ありませんでした。騎士団の仕事が忙しく…。いえ、言い訳となりますね」
セフィリアは、深く頭を下げる
「ヒュベイル様。セフィリア様の騎士団でのご活躍は目覚ましく、本当にご多忙だったことは明らかです」
審議官である貴族が口を挟む
ヒュベイルは笑顔のまま、無言で頷く
話を進めろという意思表示だ
…糞が、誰に意見をしてると思っている
この女が逃げ続けていたのは明白だ
どうせ、母親が無実である証明などできはしない
さっさと始めろ!
と、心の中で怒鳴りながら
「…それでは、開廷します。セフィリア様」
「はい」
セフィリアは被告人の位置に立つ
「では原告であるヒュベイル様より進言がありました、母君セリア殿と神らしきものの教団との繋がりにつきまして…」
ヒュベイルの主張
それは、母セリアが教団と繋がっていたというもの
そして、違うならば、その証拠を出せと主張している
「はい。残念ながら、未だ証拠を出せる状態ではありません」
「ほほう。では、やはりセリア殿には起きてもらうしかありませんな」
ヒュベイルは分かりやすく広角を上げる
勝負は決した
セフィリアに残された手段は、後遺症前提でのセリアの強制覚醒か、またはヒュベイルに許しを請うかのどちらか
…セフィリアは母を愛している
当然、許しを請う以外にない
さて、告訴を取り下げるのに、どんな条件を付けてやろうか
まずは今夜、屋敷に来させて酌でもさせる
そして…
「ですので、その証明のために、名もなきダンジョンの調査をお願いしたいのです」
「な、なんだと…!?」
ざわっ…
審議院にいた貴族全員が目を見開く
名もなきダンジョン
これは貴族の中でのタブーの一つ
龍神皇国の前身、龍神皇帝国ができるきっかけとなった始源戦争
その発端となる魔王の出現地点であり、英雄たちが魔王を討った場所
だが、現在は呪詛と瘴気の立ち込めるアンデッドの巣窟となっており、なんと当時の英雄達の怨念までがさまよっていると伝えられている
そのため、このダンジョンは国家によって厳重に監視され、誰も入ることが許されていない
英雄たちが怨霊化、それが本当ならば、龍神皇帝国建国の伝説に泥を塗ることになるからだ
そのタブーを、龍神皇国の禁忌を、セフィリアは破りたいと申し立てたのだ
「なぜ、あのダンジョンの調査の必要が?」
審議官が問う
「ドルグネル家のセリアの記録を徹底的に調べました。詳細は、今は言いかねますが、当時の事件の証拠が見つかる可能性があります」
「何!?」
ヒュベイルが、いや、ここにいる貴族全員が驚愕する
「秘密保持のため、私自身がダンジョンに潜ります。もちろん、監視役の方に同行していただいて構いません。セリアの記録通りであれば…」
「その証拠とやらが見つかる可能性がある、と?」
「はい」
セフィリアは、審議官の目を見てうなずいた
スーラ 四章 第十四話 実施研修3
審議院 五章 第七話 審議院
名もなきダンジョン 五章 第十話 名もなきダンジョン3




