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六章 第二話 アレックスの決心

用語説明w


ウル:ギアと二連星をつくっている惑星

ギア:ウルと二連星をつくっている相方の惑星


アレックス

トウデン大学にやって来た留学生で、ドワーフの男性。ギアのテルミネト出身で、レスリング経験有りだがヘタレで心が折れやすい。東玉流総合空手部の後輩。


「ロン、道場に行くのか?」


「ああ。俺は今日は、もう講義がないからな」


俺とロンは三年生

順調に単位を取っているため、一般教養の講義は少なくなった


そのため、この曜日は授業がない、なんて日も作れる

ま、どうせ部活とバイトで休めないんだけどな!



「アレックスの送別会、どうするか?」


旧道場へ向かっていると、ロンが思い出したように言う


「やってやらないとな。もうすぐ帰っちゃうんだし」


アレックスの留学は終わり

新学期に大学に顔を出して、惑星ギアの実家ヘと帰るらしい



「あいつ、最初は道場破りみたいな感じで来たんだよな」


「懐かしい。実はヘタレで、根性なくて、泣き虫でさ」


「後輩の陰口、良くないデス」


「うおっ!?」

「脅かすなよ!」


突然、声をかけられて、振り返るとアレックスが立っていた



「道場行きまショ」


「そんな暇あるのかよ」

「引っ越しは終わったのか?」


「フフフ…」


変に笑いながら、アレックスは先頭になって旧道場へ入っていった



「あっ、アレックス君!」


中には、相変わらず横になっているゴドー先輩とケイト先輩がいた


「ケイト先輩、相変わらず美しいデスネ」


「そうでしょう? ね、聞いたよ。八武大杯、一緒に頑張ろうね!」


アレックスのアプローチを笑顔でスルーし、ケイト先輩がアレックスの手を取る


うむ、俺やロンも、いつもスルーされる

そして、その直後にまた、こうやって惚れさせて来るのだ



「どういうことっすか、ケイト先輩」

ロンが尋ねる


「フフフ…、ロン先輩。私、実ハ…」


「こいつ、留学を半年伸ばしたんだってよ」


「チョッ、ゴドー先輩! どうして勝手に言うデスカ!?」


「別にもったいぶることでもねーだろ」


「え、伸ばした?」

「じゃあ、残るのか?」


俺とロンは、アレックスに駆け寄る


「ハイ。ギアの大学は、学期の初めが八月デス。ダカラ、留学を夏休みまで延長し、八武大杯に出出マス」


「まじかよ、だったら掃除来させればよかった!」

「帰るっていうから、春休みの掃除を免除してやったのに」


「ナ、二人とも、私が残るっていうのに、酷イデス!」


「冗談だよ。そうか、残れるのか」

「半年とはいえ、頑張ろうな!」


「ハイ!」


喜ぶ俺達を見て、ゴドー先輩が身体を起こす

「…分かってるとは思うが、今回の八武大杯は、この面子で挑戦できる最初で最後のチャンスだ」


「…」



八武大杯


我がトウデン大学を含め、交流のある八つの大学で行う格闘技の団体戦

五人対五人のチーム戦であり、女子を必ず一人入れることになっている


つまり、ケイト先輩と、ゴドー先輩、俺とロン、アレックスが東玉流空手部チームだ


フィールドはオクタゴンを使い、道着は着ない総合格闘技ルールの戦いだ



「最初は、去年参加した大学内の選考会に出る。これで優勝すれば晴れて代表チームになり、大学対抗の本戦に出られる」


ゴドー先輩がバキバキと拳を鳴らす


「え?」


「だから、雑魚のお前らのレベルを急ピッチで上げなきゃならねぇ。言い訳も泣き言もいらねーから、黙ってやり遂げろ」


そう言って、俺たちを道場の外へと連れて行く



「見ろ、これを」


ゴドー先輩が、トラック用の大きなタイヤにロープを埋め込んだものを持ってくる


「タ、タイヤ引きでもやるんですか?」


「正解だが、それは後だ」


そう言うと、ゴドー先輩はタイヤから二十メートルくらい離れた所に座る



「うおぉぉっ!」


そして、座った状態でタイヤの紐を引っ張って引き寄せていく



「うわっ、キツそう」


「筋トレ嫌いなんだよなぁ…」


「フィジカルは、やっぱり大事だからね」

ケイト先輩が肩をすくめる



「よし、それじゃあ、後輩からだ」


「ハイ。これはレスラー向きです」


ゴドー先輩から紐を受け取って、アレックスがタイヤから離れて座る


「よし、それじゃあ三十秒以内な」


「え?」


「始めっ!」


「アァァァッ!」


アレックスがタイヤを全力で引く


「ゼ、全然近づいて来ナイ、重イ!」


「遅ーぞ、オラ!」


「ヒィィ、腕痛い…!」




…春休み中、旧道場にアレックスの姿があった


「どうした、アレックス」


ゴドーは、あくびをしながら体を起こす

ジムでのプロ練習の前に、旧道場で昼寝をするのはゴドーの日課だ


ラーズとロンが成人式に行っているため部活も休みにした

それなのに、わざわざ留学が終わったアレックスがやって来たのだ


「…惑星ギアに戻る前に、お礼と謝罪に来マシタ」


「あ?」


「一年しかいない、留学生の私に空手教えてクレテありがとうゴザイマス。ソレなのに負けてしシマッテ、ゴメンナサイ」


「…はぁ。今まで負けてない奴がいると思うのか? もしいたら、それは挑戦してない野郎だけだ。一々謝るな」


「え…」


「格闘技をやってりゃ負けることだってある。ラーズやロンも去年、泣いた。ケイトだって試合で負けてる」


「…」


アレックスは、道場の床に目を落とす



「納得してねー感じだな」

ゴドーが声をかける


「私ハ…楽しかったデス。ラーズ先輩もロン先輩も、皆が私のコト励まして、見捨てたりしなクテ…」


「自惚れるなよ。あいつらは、強くなるために一生懸命だっただけだ。お前のためじゃない」


「…ソ、ソウデスヨネ」


アレックスが、寂しそうにまた俯く


「あいつらは、雑魚だが強くなる。なぜなら、負けても、失敗しても、起き上がって来るからだ」


「…」


「そして、そんなあいつらに、お前は喰らいついて、ついて行った。違うか?」


「エ…?」


「目指すべきは、負けないことじゃねー。失敗しても、負けて凹んでも、自分で起き上がることだ。それだけは、ラーズとロンは出来ている」


「…」


「顔を上げろ。お前の敗北はたった一度。これを糧にして、次の挑戦に繋げろよ」


「………嫌です」


「あ?」



アレックスが、目に涙を溜めて顔を上げる



「…私、このまま終わりたくナイ。このまま帰りタクナイデス」


「そんなこと言ったって…、留学終わりなんだろ?」


「帰るのヤメマス」


「おい、アレックス!?」


アレックスは、旧道場を飛び出していった




「ふーん。それで、本当に留学期間を延長させたんだ」


「夏まで延ばしたんだと。アレックス、変に行動力ついたよな」


ゴドーがケイトに言う


「それは、あんたと東玉流空手部の影響でしょ。平気で素人に喧嘩させたりするんだから」


「別に俺だけのせいじゃねーよ。ラーズだってやってんだから」


「だーかーらー。ラーズ君もあなたの影響受けたってことでしょ。反省しなさいよね」


「まぁ、いいじゃねーか。これで八武大杯は五人で出られるんだから」


「…ランディ先輩に借りを返せるかな?」


「返すさ。トウデン大の選考会くらいなら、人数が集まれば余裕だ」


「あんた一人が勝てたって、団体戦は勝てないんだよ? ちゃん鍛えてあげなさいよね。それに…」


「なんだよ?」


「この町、ちょっとざわついてきてる。薬をばら撒いてるグループがいるって」


「…」


「薬となると、絶対にマフィアが絡んでる。用心したほうがいいよ」


「そうだな…」



ゴドーとケイトの前では、ラーズ、ロン、アレックスが必死にタイヤに繋がったロープを引っ張っている



「握力がー! 前腕が痛ぇー!」


「ラーズ先輩、あと五メートルデス!」


「行けるぞ、もうすぐだ!」



やっと引っ張り終わって、地面に仰向けになるラーズ



「おら、次はお待ちかねのタイヤ引きだ。腰に縛って行って来い」


「鬼…」


最初は、アレックスが腰にチューブを通してタイヤの紐を結ぶ



走りに行く後輩たちを、ゴドーとケイトは見守ったのだった



道場破り 四章 第二話 新入生1

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