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五章 第三十二話 オープントーナメントⅡ3

用語説明w


ロン

黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて東玉流総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる。龍形拳の名が知れ渡り黒髪龍と呼ばれている


アレックス

トウデン大学にやって来た留学生で、ドワーフの男性。ギアのテルミネト出身で、レスリング経験有りだがヘタレで心が折れやすい。東玉流総合空手部の後輩


「始め!」


レフェリーが腕を振り下ろし、アレックスの試合が始まる



キックボクシングと相撲をバックボーンとするトルイ選手

小柄だが、見るからに筋肉が締まっている


お互いに見合いながら、じりじりと間合いを詰めていく



パンッ!


まずは、トルイ選手のジャブ

キックをやっているだけあって、かなりきれいなジャブだ



ドッ!


ロー、タックルを狙っていたアレックスの前足にヒットする



「アレックス、ちゃんとカットしろ。足を潰されるぞ!」

ロンが大声で言う



聞こえているんだかいないんだか


アレックスは、相手を凝視

集中してるのはいいことだ



力強いワン・ツー!


更に、トルイ選手がストレートの構え



「…っ!!」


そのパンチに合わせて、アレックスが渾身のタックル!



「待てっ……!」


ゴガッ!!



ゴドー先輩が怒鳴る


その直後、アレックスのタックルにトルイ選手が前蹴りを合わせた



「止めーーー!」

「アレックス!」


跳び込んだアレックスに膝が直撃

首が仰け反り、そのまま前のめりに倒れるアレックス



レフェリーが止めるのと同時に、ゴドー先輩とケイト先輩が走り出す


「ドクター!」


ヘッドギアがあるとはいえ、カウンターで蹴りが直撃

アレックスの意識は完全に飛んでいる



「ケイト、頼む」


「うん、任せて」


担架で運ばれるアレックスに、ケイト先輩がついて行った



「アレックス…」

「…」


ゴドー先輩が相手の陣営に挨拶に行くのを何となく見守る


格闘技は非情だ

勝敗が、ここまではっきりする競技なのだ


トルイ選手は、豪快なKO勝ちに喜びを爆発させている



「おら、切り替えろ。次はお前たちの試合だぞ」


「はい」


「ラーズ、水飲んでおけよ」


「分かった」


次の試合は俺

ロンがケイト先輩の代わりに、準備をしてくれる



「二回戦の相手は…モイゼス選手か」


「MMAがベースのストライカーらしいな」


「打撃か…」


大まかな情報しか得られないのは、このオープントーナメントの参加人数が多いから

当日にブロック分けされるため、自分のトーナメントの八人が誰になるか分からない


さすがに、全員の選手の情報を事前に集めるのはダルすぎるのだ



「赤、ラーズ選手! 白、モイゼス選手!」



「ラーズ!」


呼ばれて、試合場に入ろうとすると声を変えられる

フィーナが、試合場の横に立っていた


俺は、軽く頷く


また勝ちたい

だが、欲を出さない


アレックスのKOを、俺はチラッと思い出す


一緒に練習して来たんだ、悔しいよな…

だが、あれは勝負に行った結果だ


アレックスは悪くない

狙ってた相手が上手かったんだ


…俺も、全力を尽くそう




モイゼス選手の構えは、重心を落としたボクシングに似ている



パン、ブォン!


「うわっ!?」



ジャブからの、いきなり右のオーバーハンドが飛んで来る


「ラーズ、まっすぐ下がるな!」

「自分からジャブだ!」



パパン!


ジャブ二回にロー



カットはされなかったが、道着をつかまれる


グンッ!


振られたところに、フック


このっ!


首相撲に持ち込んで、お互いに崩し合う



「ぐあっ…!」


崩されて、道着を引き落とされる

畳に片手をついて転倒を防ぐ



ドッ…!


「くっ…」



だが、上からパンチを振るわれる


後頭部への攻撃は反則だが、モイゼス選手は俺の道着の襟を引き落したまま、顔にアッパー気味のパンチを叩き込んでくる


なんとかガードしながら、隙を伺う

だが、連続でパンチを振るわれ、しかも抑えつけられているため動けない



「ゴドー先輩! あれ、ラーズが片手ついてるのにパウンドにならないんですか?」


「レフェリーが止めてないからな。完全に寝てるわけじゃないし、そもそも、あの体勢でコントロールされるのが悪い」



くそー…、上手いな、こいつ


組んでからの打撃か厄介だ

ロンだったら、組んでからの攻防が強いから、いい勝負できたのかもしれない


もっと首相撲をやらないとだなぁ…


片手のパンチを打ちこまれてるだけなので、ガードは出来てる

だが、このままじゃ削られるだけだ


自分から寝るのも考えたが、上を取られたらポイントを奪われる

だから、できるなら投げたい


…勝負!



「うぉっ!?」


モイゼス選手のパンチの引きに合わせて、俺は体を反転

ガードを捨て、両手で両足タックル


袖を掴まれていたので、抵抗される


一度尻を突かせたが、抑えられなかったため、すぐに立ち上がられた



まだだぁ!


俺は右足を踏み出して右フック

ガードされるが、そのまま道着を掴む



「らぁっ!」


足をかけながら引き出す体落とし!



完全な投げ

柔道なら一本だろ!


だが、これは東玉流ルール

こっからだ!



「ラーズ、そこから!」

「しっかりと抑えろ!」


分かってますってば!


ゴドー先輩とロンの声を聴きながら、俺は動く


寝技は難しい

いきなり関節技は決まらない


寝技ってのは、まずはポジションだ

最初にいい場所を取って、初めて技は極まる


散々、ケイト先輩に極められて、教わって、覚えたことだ


実際に、ゴドー先輩に極められる時は、これでもかと顔を畳にこすりつけられ、全く動けない状態にされてから極められたりする


あれ、マジで痛いし苦しいんだよなあ…



ま、とにかくだ


せっかく投げが決まって、良いポジションを取ったんだ

そこをキープしてから仕掛ける



ゴッ!


「ぐっ…」



モイゼス選手が嫌がって、拳を振り回す

それが、顔にヒット


おい、寝技中は打撃禁止だろ!


ムカついたが、まずは勝つことに集中

下を向こうとするので、そのままバックを取る


そして、首に腕を差し込んで、全力のチョークスリーパー!



「ぐおぉぉっ!」


だが、極めきれない

モイゼス選手が腰を上げて逃げようとする



絶対に逃がさねぇ

左右の手を入れ替えながら、何度もチョークを狙う



「ラーズ、固執するなよ!」


ロンの声



確かに、技はチョークだけじゃない

こいつには、完全にチョークを警戒されている


それなら…



ケイト先輩に教わった技、その一


バックから腕を取り右足を胴に巻き付けて半回転

モイゼス選手の左足を瞬間的に左肩と頭の下をくぐらせる


「なっ、しまっ……!」


そして、両足でをモイゼス選手の右腕を挟んで延ばす

バックからの腕十字固めだ!


自分で分かる、完全に極まった感触

隙を突かれたモイゼス選手は、すぐに俺の足を叩いてタップした




・・・・・・




救護室



「アレックス、大丈夫か?」


「ぐすっ…ヒッヒッ…ヒック……オ、オメデトウ…ござマス……」


アレックスが、壁にもたれて泣いている



「治療は終わってるよ。ヘッドガードが無かったら、鼻の骨が折れてたって」

ケイト先輩が言う


「完全に合わせられたからな」


「多分、アレックス君がレスリング出身って知ってたよね」


「パンチでタックルを誘いやがったからな」


ゴドー先輩とケイト先輩が話している



「よし、治療が終わってるなら行くぞ。そろそろ、ロンの試合だからな」


「ハイ…」


アレックスがフラフラと立ち上がった



「赤、ロン選手! 白、ニールソン選手!」



「ロン、落ち着いて行け!」

「自分のペース!」


ゴドー先輩とケイト先輩が呼びかける

あの人たち、凄い選手のくせに後輩の面倒見がいい



「ラーズ、おめでとう」

フィーナがやって来る


「ああ、何とか勝てたよ」


「後輩の人の治療、大丈夫なの?」


「ヘッドギアしてたから大丈夫だって。それと、医務室のお医者さんが回復魔法できるみたいなんだ」


「そうなんだ」



ロンが、ワンツー

更に、右足を踏み込みながら左のストレート


空手の追い突きという打ち方だ



ニールソン選手は柔術出身

寝技を狙っている



「ロン君、勝てるかな?」

フィーナが尋ねる


「どうだろう。強いんだけど、相手の実力も…って、おい!」



なんと、ロンが自分からタックル

ニールソン選手に組み付く


寝業師に自分から組み付くって!

打撃で勝負しろよ!



ゴッ!

ガッ!


だが、ロンは組んだ状態から打撃を打つ

更に、龍形拳の踏みつけ蹴り


そして、首相撲から崩す



「しっ…!」


ニールソン選手が、体重をかけての引き込み

だが、ロンは腰を落として、崩れずに耐える


そして、的確にパンチや蹴りを入れることで、ペースを掴ませない



「…」

「…」


時折、ニールソン選手が寝ころぶが、ロンはすぐに掴みを切って離れる



徹底して寝技に行かなければ、レフェリーがストップをかけてスタンドからの再開だ



ドガッ!


「こひゅっ……!」



ロンが組み…をフェイントにミドル

それが、きれいにわき腹にめり込む


そのまま、前のめりに倒れるニールソン選手



呆気なく、そして危なげなく

ロンは、勝ちをつかみ取った


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