五章 第一話 セフィ姉と電話
用語説明w
PIT:個人用情報端末、要はスマホ。多目的多層メモリを搭載している
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
フィーナ
ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級でハナノミヤ聖女子大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。最近はラーズの怪我の治療によって回復魔法の腕が上がっている
セフィリア
竜人の女性で龍神皇国の貴族ドルグネル家の若き当主。ドルグネル流武器術を修め、騎士としても活躍中。その長く美しい金髪から、金髪の龍神王と呼ばれているドラゴンエリート
あっという間に夏休みが終わった
なかなか来ないくせに、来たら一瞬で通り過ぎやがる
ツンデレか?
ツンデレなのか?
「明日から大学かぁ」
「私はまだだけどね」
フィーナがせんべいをパリパリしながら言う
俺も講義は来週からだが、部活が始まる
そういう意味で夏休みは終わりだ
「楽しかったね、ブリトン旅行」
「そうだなぁ…」
夏休みに行った騎士学園
ほんの二年前まで通っていたというのに、ものすごく懐かしく感じた
妖精の若木となって成長していたサプミドにも会えたし、ヤマトとミィにも会えた
ラングドン先生やマーゴット先生も元気だった
楽しい旅行だったなぁ
「ラング、おじいちゃんになってたね」
「もう十歳超えてるんだもんな」
マーゴット先生とは、ラングドン先生と同じ騎士学園の教師
回復魔法の使い手で園芸部の顧問
薬学を研究していて、たくさんの植物を育てている
妖精の苗を育てているのもマーゴット先生で、サプミドの世話もしてくれている
そして、ラングという犬を飼っている
ラングは俺達が初等部の頃に助けた犬で、それ時にマーゴット先生が引き取ってくれたのだ
愛想のいい犬で、騎士学園の生徒たちも可愛がっていた
だが、さすがに最近は年を取ってしまい寝ていることが多い
「ね、マーゴット先生とラングドン先生ってさ」
「うん、何?」
「付き合ってないのかな」
「え、どうだろう。別に普通だったじゃん」
「そりゃ、元生徒の私たちの前では隠すでしょ。でも、距離とか態度とか…ラーズじゃ分からないか」
「…その言い方、イラッとするんだけど」
プルルル…
そんな話をしていると、フィーナのPITの着信音が鳴る
「あ、セフィ姉だ。もしもし?」
フィーナが電話に出る
「うん、そうだよ。分かった、代わるね」
フィーナがPITを差し出す
「もしもし?」
「ラーズ、久しぶりね。学園島は楽しかった?」
「うん。ラングドン先生やマーゴット先生、サプミドにも会えた。ミィとヤマトにもね」
「私も行きたかったわ…」
セフィ姉が残念そうに言う
美人で仕事もできるくせに、たまに弱音を吐くのがかわいい
「俺も会いたかったよ。フィーナは龍神皇国に行ってるけど、俺は全然だから」
「大学が忙しいみたいね」
「大学というよりも、部活とバイトがだね」
「部活は格闘技を始めたのよね?」
「そうだよ。まだ下手だし、騎士の力の前だとお遊びみたいなもんだけど」
セフィ姉の魔法や特技、闘氣の前では、格闘技をやってた所で一瞬で木っ端微塵にされる
格闘技は強いからやるんじゃない
楽しいからやるんだ!
「あら、そんなことないわ」
だが、セフィ姉は予想外の反応をする
「私も武術をやっているから分かるけど、騎士として闘氣や特技、魔法を使っていても、自分の身体を使って発動するという点では同じよ」
セフィ姉の言う武術とは、ドルグネル流剣術のこと
セフィ姉の家系であるドルグネル家は武門
ドルグネル流の剣術と槍術は世界的にも有名な流派で、セフィ姉はその免許皆伝だ
「同じ…」
「身体操法は繰り返し。自分の体を最大限に活かす。それは、終わりのない自分との対話。格闘技をやって自分の身体を操ることは、いずれラーズのためになるわ」
「そうなのかな?」
「ええ。私も剣を振っているけど、いつも新しい発見があるもの」
セフィ姉は強い
剣術も騎士学園の頃から抜きん出ていた
あんなに強いのに、毎日毎日剣を振っていたのだ
「それなら、騎士に戻れたとしても無駄にならなくていいんだけどね」
「私は賛成よ。怪我をしないように頑張ってね」
「うん、ありがとう」
「それと、バイトもやってるのよね。ゴーストハンターって聞いたけど」
「そうなんだ。シグノイアにある会社なんだけど…」
俺はクサナギ霊障警備のことを簡単に説明する
「ホバーブーツ…?」
「うん。騎士じゃなくても、いろいろな装備があって面白いんだ」
騎士とは違う、ゴーストハンターという職業
レイコ社長の使う霊札や封印石などの除霊グッズ、ピッキさんのMEB
ホフマンさんの銃やエンジンカッターなどの兵器
そして、ビアンカさんのホバーブーツ
騎士にはない技術や道具
使い所によっては、魔法や特技を凌駕する効果を実現する
「…そんなブーツがあるのね」
「まだまだ下手くそだけどさ、もう少しうまくなったら今度見せるからね」
「面白そう。楽しみにしてるわ」
「ホバーブーツが何に使えるかは分からないけど…。セフィ姉が困ったら、これで駆けつけるから」
「ふふっ、待ってる。いつか私を助けてね」
セフィ姉は、社交辞令にもちゃんと答えてくれる
騎士の力を失った俺にも優しいのだ
「あ、そうそう。ラーズ」
「何?」
「まだ詳細は不明だけど、シグノイアのカツシの町で何かがあったらしいの」
「そう言えば、ニュースでやってたかも」
「一応気を付けておいてね」
そう言って、セフィ姉は電話を切った
・・・・・・
俺とフィーナは、電車に乗って出かける
フィーナが見たいと言うので、映画館にやって来たのだ
メゾン・サクラから電車に乗ってすぐ
近くにアリス記念公園という大きな公園がある
ドッグランがあるとかで、犬を連れた人が入って行くのが見える
「暑い…」
「そうだね。早く室内に入ろうよ」
俺とフィーナは、時間つぶしにゲーセンへ
まだ夏休みのため人は多めだ
「夏だなぁ」
「ゲーセンの何で夏を感じたの?」
「カップルが多い」
「ひがみじゃん」
「失礼な。俺は事実を…」
「暑い時って、デート中に涼しいゲーセンとか行くんじゃない? ラーズは知らないかもだけど」
「いや、俺だってそれくらい」
「へー、女の子とゲーセン来たことあるんだ。合コンでストーカー扱いされたくせに」
「すぐ人の古傷を抉りやがって」
俺達は、ちょうど空いていた二人プレイのガンシューティング、ゾンビをガンガン撃ちましょう的なう奴にコインを入れる
「よし、やるぞ」
「オッケー。…それで、女の子と来たことあるの?」
「…」
「あるの?」
「うっせーな、ねーよ! 見え張ったよ! すみませんでした!」
「勝手に怒こってる」
ドガガガガガッ
バン! バン!
「きゃあっ、ラーズ!」
「フィーナ、左側のゾンビ撃てって!」
意外とステージを進め、俺達は二回コンテニューで最終ボスまでやって来た
「私達、上手くない?」
「ちゃんとアイテム取るのが大事だな」
「二人一緒にリロードするのやめよ」
「声かけるわ」
あぁ、フィーナと出かけるのが楽しい
一番の理由は気楽さだな
俺の趣味にも付き合ってくれるし、フィーナの趣味にも付き合う
そして、自分の趣味じゃなくてもほどほどには楽しめる
「ラーズ、コイン!」
「俺のかよ!」
ラスボスゾンビのフルスイングで、二人一緒にやられる
だが、即座に二人でコイン追加のコンテニュー!
「こうなりゃ物量で押してやる!」
「バイトしている大学生の物量を甘く見ないで!」
俺達は、ゴルドをつぎ込んで無事にラスボスをクリア
コインは消費したが、この達成感が得られるなら安いもんだ
…後で冷静になったら後悔するかもしれないが
「そろそろ映画館に行こうよ」
「お、もうこんな時間だ」
俺達はゲーセンを出る
「あれ、フィーナさん?」
「はい?」
声をかけられ、振り返ると大学生くらいの男が立っていた
俺は知らない顔だ
「あ、ドゥブーズさん」
「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「本当ですね」
ドゥブーズと呼ばれた男とフィーナが笑い合う
「そちらの方は?」
「え、あー、…兄です」
「ああ、一緒に住んでいると言っていた…」
「はい」
「兄妹で出かけるなんて、仲が良いんですね」
「遊びに行くのはたまにですけどね」
「あ、呼び止めてしまってすみません」
「いえ…」
「今度、ぜひお茶にでも行きましょう」
フィーナが頭を下げると、男性はにこやかに去って行った
俺達は映画館に向う
そうか、フィーナも大学の知り合いくらいいるよな
フィーナに俺の知らない人間関係がある
そんな当たり前のことに、俺はちょっとモヤっとした
カツシの町 四章 第三十五話 若返り
五章開始です、よろしくお願いします!




