四章 第二十九話 地学基礎
用語説明w
アルバロ
神族の男性で、ラーズの人文学部の同期。女好きで合コン好き。チャラく緩く大学生活を楽しんでいる。
アン
魚人女性でラーズの人文学部の同期。まじめな性格で勉強も一生懸命
講義 地学基礎
「先日、ニュースでやっていたように、龍神皇国で大規模なモンスター災害が発生しました」
講師がスライドを進める
ニュースの映像が切り取られており、遠方に真っ黒い黒煙が立ち上がっている
「この映像は爆心地。ノクリア属性のドラゴンが出現し、Sランクの騎士が出動、討伐には成功した。しかし、メルトダウンを起こして大爆発。これは、その直後の映像です」
Sランク戦闘員…、単純に宇宙戦艦クラスの戦闘力を持つ能力者だ
騎士はBランク以上の戦闘ランクを持つ者であり、一般人からしたら化け物クラスの戦闘員だ
だが、Sランククラスは、騎士からしても化け物
Aランク以上は、個人の努力でなれるものではない
「モンスターの中には、天災としか思えないようなものが存在します。メルトダウンを引き起こす生体原子炉のごときノクリア属性のドラゴン。これも、その一例です」
ドラゴンは、種族特性として特化した属性を持つ
ファイアードラゴンは火属性に特化しており、成長すれば火属性を極め、火属性を増強し、とんでもない効率と威力で火属性の能力を使うようになる
この能力を属性親和性と呼び、ドラゴンは必ず属性親和性を持つ反面、無属性のドラゴンは存在しない
この点、人類はドラゴンと真反対の特性を持ち、属性親和性を持たない
属性親和性にはメリットとデメリットがあり、メリットとしては一つの属性を極められること
つまり、人類が一つの属性に特化して極めるということは、属性親和性を持ち得ない以上、不可能なのだ
デメリットは、弱点属性が出来てしまうこと
ファイアードラゴンは冷属性が弱点であり、属性親和性のある属性と相克属性が弱点となってしまう
土属性には風属性、魔属性には聖属性など、だ
更に、相克属性の技能を習得できないこともデメリットとなる
その点、属性親和性を持たない人類は、理論上、全ての属性技能を習得することができる
人類とドラゴンは、属性という点で見れば真反対に特性を持っているということになるのだ
この属性親和性は、基本的には親や種族の属性を継承する
しかし、親とは違う属性になったり、そもそも個体によって属性にばらつきのあるドラゴンもいる
自らの生命を脅かす、放射性物質と核分裂を司るノクリア属性
こんな危険な属性のドラゴンが生まれる理由は、属性親和性がたまたまノクリア属性となり、成長したドラゴンの個体が現れるからなのだ
補足として、例外を上げておく
人類にも、稀に属性親和性を獲得する者が現れたり、ドラゴンは高位になると複数の属性の親和性を得るものもいる
彼らは、種族の中でも特異点
人類でいえば英雄、ドラゴンの場合はネームドなどと呼ばれる
「さて、本来の講義に戻りましょう。シグノイアには、龍神皇国ほどの大規模な立入り制限地区はありませんが、過去に何度もモンスター災害は起きています。龍神皇国やハカルからモンスターが流れてくることもあるでしょう」
現代の社会においても、モンスター災害をゼロにすることはできない
モンスターにとっては、人類が勝手に定めた立入り制限地区なんて守るはずがないからだ
これらは、シグノイアの国軍であるシグノイア防衛軍が対処に当たっている
軍属のBランク戦闘員、騎士も所属しており、龍神皇国と違って、シグノイアでは騎士団と国軍が一つの組織となっている
「また、モンスター災害以外でも、地理的に大災害が起こる場所はあります。その一つがファビオ活火山です」
講師が話を続ける
ファビオ活火山
シグノイアとハカルとの国境付近にある活火山
数十年単位で噴火を繰り返しており、新しいものだと十年ほど前に噴火して火砕流が発生した
その際は、周囲の集落が飲み込まれて住人全員が避難、火山灰がシグノイアにも降って来ている
「他にも、海沿いであるため、過去に津波や台風などでも大きな被害が出ています。大地震にも警戒は必要でしょう。常日頃から、防災意識を保つことが重要です」
講師は、ここで講義を締めた
「ラーズ、ジェニファーの彼氏はどうだったよ?」
アルバロが声をかける
「何とかなった。相手の男に謝られたんだ、警察は勘弁してくれって」
「許したのか?」
「まぁ、土下座までされちゃったからさ」
鉄パイプと包丁を用意して殺すとまで言われた
それなのに許しちゃうなんて、俺も甘いのかな
でも、今更だし、もう関わりたくない…
「ジェニファーが凄い怒ってたらしいぞ」
「え、何で?」
俺は、アルバロの言葉に固まる
どこにジェニファーが怒る要素があるんだ?
俺が怒るなら分かるけど
「ラーズに合コン行ったことをチクられたって。信じられないってさ」
「い、意味分からん!」
お前のせいでこっちは脅迫されて殺されかけたんだぞ!
「彼氏の方は、許してもらったのに文句言うんじゃないって、言ってたみたいだぜ」
「野郎の方がまとも? 女の方が頭おかしかったのか?」
合コンはカオスだ…
連絡先を交換した時はウキウキしてたのになぁ…
「分かるよ、ラーズ。俺も昨日、同じ目に遭ったんだ」
「え?」
「あの合コンの時、タチアナって子を持って帰っただろ?」
「いや、知らねーし。持ち帰ったのかよ」
「まぁな。そして、ラーズを助けるためにジェニファーのことをあれこれ聞いて、終わったらさ」
「うん、どうしたの?」
「付き合うって言ったじゃん! これから包丁持って行くって…電話で言われてさ」
「待って待って、展開が早い。ついて行けないから、端折らないで」
全然、話が伝わってこない
連続性が見いだせない
結論、意味が分からない
「だからさ。ラーズの事件が終わったら、タチアナから突き合おうって言われて」
「ああ、うん」
「俺は彼女に縛られたくないから嫌って言ったら」
「…」
「人を抱いておいて、ふざけんなって言われて」
「こ、怖っ…。でも、彼女の方が言い分は筋通ってない?」
「なんやかんやで、諦めてもらった」
「アルバロって、凄かったんだ…」
男女の包丁事案って、こんなに簡単に起こるものなんだ…
当事者になってみると、理不尽さと恐怖がシャレにならなん
もう、二度とごめんなんだけど
「ま、懲りずに、また合コン行こうぜ。誘うからよ」
「いや、俺はもういいよ。お腹いっぱいです…」
俺は、アルバロと別れて教室を出る
すると、アンと廊下で出くわした
「あ、ラーズ。講義だったの?」
「うん、地学基礎」
「私も去年、取ったよ。ノート必要だったら貸してあげる」
「ありがとう」
「実施研修のお礼がまだだから」
「アンはいい人だ…」
アルバロのお礼と違って、リスクが無い
人の優しさに、ちょっとホロって来てしまった…
・・・・・・
クサナギ霊障警備
今日はバイトの日だ
事務所に入ると、ホフマンさんとピッキさんがいた
「お疲れ様です」
「おう、ラーズ」
「いらっしゃいでござるー」
なんかのんびりしている
依頼はまだ入っていないようだ
「レイコ社長とプリヤさん、ビアンカさんはお休みですか?」
「ビアンカは休みだ。レイコ社長とプリヤさんは、契約を取りに出ている」
「俺って、何かすることってありますか?」
「もちろん、これだ」
ホフマンさんが紙を渡してくる
『
ラーズへ
最近、ホバーブーツの訓練を疎かにしているように見える
乗りこなすためには、感覚を磨き、何より鈍らせないために乗り続けることが必要だ
以下にメニューを記す
……
…
しっかりやっておけ ビアンカ
』
「おう…」
「いい師匠だな、休みの時まで弟子の育成に気を配るとは」
「は、はぁ…そ、そっすね…」
バイトに来てやることも無いので
正確には、遊んでいてプリヤさんの雷が落ちるのが怖いので
俺は二階に上がり、プロテクターとホバーブーツを持ってくる
このプロテクターも、包丁事件の時にお世話になった
防具は、戦いに赴くときには安心感を得られるんだ
ブォォォッ!
「ぐぁっ!?」
俺が、何度もスッ転びながらビルの裏でホバーブーツの訓練のノルマを消化していると…
「ラーズ、出動だよ!」
レイコ社長が走って来た
「あ、はい!」
「着替えなくていいよ、そのまま車乗って!」
「えぇっ!?」
ビルの表に停められた車で俺達はすぐに出発した
こ、今度の現場はどんなんだ!?
戦闘ランク 一章 第一話 受験勉強
ラーズの事件 四章 第二十六話 合コンの顛末1




