四章 第八話 ブラックマンバ崩壊1
用語説明w
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる
アレックス
トウデン大学にやって来た留学生で、ドワーフの男性。ギアのテルミネト出身で、レスリング経験有りだがヘタレで心が折れやすい
「疲れた…」
バイト先で仮眠してから朝帰り
そのまま部活でみっちり稽古だった
は、早く帰って寝たい…
「それじゃあ、ロン君、アレックス君、ラーズ君。またねー」
ボーっとしていたら、二人がケイト先輩に挨拶をしていた
「あ、そうだ。忘れてたぁ」
武道館へ戻りかけたケイト先輩が、足を止める
「どうしました?」
「最近、ブラックマンバが壊滅したでしょ?」
「あぁ…」
ケイト先輩が知らないフリをしているが、やったのは俺達
不良チーム・ブラックマンバの幹部、プロボクサー崩れと喧嘩自慢
危険な二人にケイト先輩が襲われ、危なくゴドー先輩に助けられた
その結果、二人とも警察に逮捕されたらしい
ざまーみろ
「喧嘩自慢のトップツーがいなくなって、ブラックマンバは弱体化。でも、その結果…」
「何かあったんですか?」
「別のチームが入り込んできて、抗争が始まってるって」
「そうなんですか。どこでそんな情報を…」
「ケイト先輩、バイト中もいろいろな人と話してるからな」
ロンが言う
「ブラックマンバって何でスカ?」
アレックスが首を捻る
「イサグ駅周辺で調子に乗っている不良チームだよ。俺達も絡まれたことがあるんだ」
「へー、怖いですネ」
「二人とも、不良界隈で有名になって来てるみたいだから気を付けてね」
そう言って、ケイト先輩は手を振って武道館に入っていった
俺達はシャワーを浴びて、連れ立って帰る
大学から、駅行きのバスに乗る
「疲れまシタネ」
「あぁ、組技はきついぜ」
「確かに。変なところが痛くなる」
「アレックス、飯行くか?」
「お、いいじゃん。ラーメン行こうぜ」
「ハイ」
俺とロンはアレックスを誘ってラーメンへ
疲れていると、味の濃いものが旨いんだよ、これまた
「そう言えバ、今日はゴドー先輩はどうしたんですカ?」
アレックスが尋ねる
「今日は東玉流の道場に稽古に行ったってさ。あの人の階級、人が少ないから」
「レベルも違うもんな。俺達じゃ相手にならないし」
ゴドー先輩はプロレベル
いずれは、東玉流のプロイベント、「KAWANAKAJIMA」にも出場するんだろう
だが、ゴドー先輩の問題は、ヘビー級の選手が少なく練習相手が少ないことだ
そのため、ゴドー先輩はいろいろな場所に出稽古に行っている
「アノサイズは憧れます。大きさは強さデスネ」
アレックスが言う
アレックスも身長がそこまで高くない
ヘビー級なら百八十センチメートルは必要、身長と体重は、やっぱり才能の一つだ
「練習相手がいないと、上のレベルに行った時に困るだろうしな。いつか、ゴドー先輩よりもサイズやフィジカルが上の相手とも当たるんだろうし」
「そこまでいくと、怪獣大決戦だよ」
俺達は、ラーメン屋へと足早に向かう
腹減った、早く食べたい…
ゴガッ
「おらぁっ!」
「このっ…!」
怒声と何かがぶつかる音が聞こえてくる
「…」
「…」
俺とロンは顔を見合わせる
路地を覗くと、やっぱりだ
何人かの男達が殴り合っていた
「ブラックマンバを舐めるんじゃねーぞ!」
勝った方のグループが勝ち名乗りを上げる
「…喧嘩デスネー」
アレックスがのんきに言う
「おい、あれって…」
「ああ、タオだな」
俺は頷く
「…調子に乗るなよ。ブラックマンバは大分人数を減らしてるらしいじゃねーか」
「ふん、うちにはまだクグリオさんがいる。この人とボスがいれば負けはねー」
「どうだかな。お前ら、あの双竜コンビを、まだ野放しにしてるんだろ」
「あいつ等は強いんじゃねぇ。レア過ぎて見つけられねぇだけだ!」
タオが口調荒げる
いいぞ
ブラックマンバとの敵対グループが頑張ってる
どんどんやって共倒れしろ
「おいっ、何を見てる!」
後ろを振り向くと、不良が一人
ブラックマンバのメンバーか
「どうした?」
タオがこっちを向く
「タオさん、こいつ等が覗いてました!」
「あっ、お前ら!」
タオが俺たちを見て目を見開く
「…いちいち、俺たちを見つけて喜ぶんじゃねーよ」
ロンが吐き捨てる
「ブラックマンバ、やられてそうだな。そのまま消えちまえ」
「そうだ、消えちまえ。トップの二人がパクられて弱体化したんだろ? 残ったのは雑魚だしよ」
「お二人共、煽りますネ」
アレックスは、状況が飲み込めていないのかキョロキョロしている
「こいつ等は社会のゴミ、純然たる犯罪者だ」
このクソ野郎
ケイト先輩のこと忘れてないからな
「…双竜コンビとか言われて、調子に乗ってるんじゃねーぞ。こっちには、まだクグリオさんがいるんだからな」
「うわっ、人の紹介してる。虎の威を借りすぎだろ」
「お前が来ないのかよ。ってか、あの時によく捕まらなかったな」
「雑魚キャラすぎて見えなかったんじゃないか?」
「ある意味チートじゃん」
「お二人共、煽りスゴイ…」
「落ち目のチームなんて、気にしたら負けだろ」
「落ち目かどうか、教えてやるよ!」
タオが前に出る
「トコロで、双竜コンビって何でスカ?」
「アレックス、喧嘩の腰折るなよ」
「そういや、何だよ双竜って」
ロンがタオに言う
「そうか、お前らが双竜コンビか…」
話を聞いていた、タオ達の喧嘩相手が口を挟む
「は?」
「黒髪のドラゴン拳法使いと、白髪の竜人。ブラックマンバのツートップに勝ったのってお前らのことだろ」
「…」
双竜コンビ?
なんだ、その中二みたいなアダ名は
バキッ!
「うるせぇ!」
タオが男に蹴りを入れる
「さっさと失せろ!」
「くそっ、ブラックマンバの弱体化は止まらねぇ。覺えてろよ」
言いながら、タオ達にやられた男達は仲間を連れて逃げて行く
残ったのはタオ達五人だ
「まだ俺達とやる気か。仕方ないな」
そう言いながら、ロンは拳をバキバキ鳴らす
「やる気満々マンじゃん」
「ここでボコってブラックマンバを解体させる。二度とここを歩けないようにな」
「え…エ…ゑ…ヱ…?」
アレックスが、どうしていいか分からず動揺
分かるぞ、俺もロンに巻き込まれてそうだった
「やれっ!」
タオが言うと、三人向かってきた
俺に一人が向かってくる
「はぁっ!」
いきなり俺の服の、肩と胸ぐらを掴まれてしまう
やべっ、油断した
この掴み方、柔道か!?
俺は、咄嗟に胸ぐらを掴んだ腕の肘を捻り上げる
「痛っ…!」
極りかけた腕を男が離す
ゴガッ!
空いた顔面に右ストレート
予想以上の衝撃で、ザックリと男の鼻から出血
そのまま尻もちをつかせる
すごい感触だ
人体とサンドバッグで、全然感触が違う
「ラ、ラーズ先輩! ちょっと助ケテ!」
振り返ると、アレックスが一人を相手にしていた
うむ、しっかりと巻き込まれてる
俺と同じで、ちょっと安心する
大学に入ってから、俺ってスゲー巻き込まれ体質になったからな
だが、やはり原因はロンだったってことだ
「何を一人で納得してるんですカ! アウッ!」
相手のパンチをアレックスが腕で受ける
「どうしたよ、アレックス。タックルに行けば余裕だろ」
「タックルが怖いです! ここ、下がアスファルトで、切られたら肌が削れマス!」
「あー…、確かに」
タックルを切る場合、地面に押し付ける
道場の床ならともかく、アスファルトはやすりと同じ
柔らかい肌がざっくりといくだろう
低空タックルの短所だ
実戦って、やっぱり道場とは違うんだなぁ
「くっ…どうすれバ…?」
アレックスが悩んでいる
「いや、胴タックルとパンチで行けって。普通に勝てるだろ」
格闘技の利点は応用
相手がパンチで来るなら、こう返せばいいというセオリーがインストールされる
もちろん、裏をかかれれば危険にはなる
だが、そういう駆け引きをする相手ってのは、だいたいが格闘技経験者だ
つまり、相手が格闘技経験者じゃなければ、駆け引きはそうそう生まれない
「おらっ…うおっ!?」
相手のパンチに、アレックスが胴タックルを合わせる
そして、落ち着いて持ち上げると、背中から叩きつける
「ごはっ…!」
一撃でタオの仲間が痙攣
痛みで呻いている
俺とアレックスは、残ったタオともう一人の男を見据えた
ケイト先輩の拉致 三章 第十四話 長い夜1




