四章 第五話 GUNガン1
用語説明w
魔石装填型小型杖:魔石の魔法を発動できる携帯用の小型の杖
ホバーブーツ:圧縮空気を放出して高速移動ができるブーツ
ドラゴンブレイド:セフィ姉からもらったロングソードで、霊的構造としてドラゴンキラーの特性を持つ
ホフマン
クサナギ霊障警備の社員、魚人の男性で元ゲリラ兵の経歴を持つバウンティハンター。ゴツい体格と風貌で、見た目は完全にあっちの人。銃火器のプロでバウンティハンターの資格を持つ
クサナギ霊障警備
「おはようございます」
「おはよう」
出勤すると、事務作業をしていたプリヤさんが出迎えてくれた
俺は荷物を置くと、ホワイトボードを確認
これで社員さんの出勤状況が確認できる
レイコ社長 出勤
プリヤ 出勤
ホフマン 出勤
ビアンカ 休み
ピッキ 休み
ラーズ 出勤 →使い倒すチャンス!
「…」
なるほど、今日は四人か
俺は、そっと備考欄の『使い倒す〜』の部分を消す
俺もこのバイトに慣れてきたもんだ
「今日は、仕事は入ってるんですか?」
「ええ。だから準備しておいて。もう少ししたら出るから」
プリヤさんが情報端末のディスプレイから顔を上げずに答える
「あ、そうなんですね。分かりました」
「装備はホバーブーツとプロテクター、魔石装填型小型杖にドラゴンブレイド」
「フル装備じゃないですか」
今日の現場もヤバそうだなぁ
「ラーズ、これも持っていけ」
奥からホフマンさんが入ってきて、黒い革の入れ物を渡してくる
「あ、それは…」
これはホルスター
中には拳銃のオールドホクブが入っている
リボルバータイプの五発装填
銃身が短いため命中率はそれなりだが、携帯性に優れる銃だ
ホフマンさんがそっち系の人から仕入れてくれた
「現場に行ったら時間がある。実射訓練をするぞ」
「お、お願いします」
ちなみに、本日の依頼は沼地の悪霊退治
複数の目撃証言と二人の被害者がいる
被害者の一人は水に引き込まれて水死
もう一人はカバンを掴まれたが、それを捨てて逃げ出したことで生還した
「現場は里山となっている森の中の沼地だ。近くに人は住んでいないから、射撃にはもってこいだ」
「はい、お願いします」
「訓練弾があるから車に積もう。それと道具もな」
俺とホフマンさんは、車に除霊グッズや工具を積み込んだ
「もー! 全っ然ダメ!」
準備が終わると、二階からレイコ社長がプリプリしながら降りてくる
不機嫌さを足音で表現しようと、床に強く足を打ち付けている
しかし、そんなに音は出せていない
「どうしたんですか?」
「あの呪われた絵よ。まだまだ弱まってない。毎日、盛り塩をして削ってるはずなのに」
呪いの絵とは、前からレイコ社長が除霊を試みている依頼品
しかし、強力な悪霊が憑いているらしく、未だに除霊には成功していない
「気長にやるって、あんたが言ってたんでしょ。イライラするんじゃない」
「だって、プリヤ。あの絵ったらさ…」
「先に今日の依頼よ。早く準備しなさい」
ブツブツ言ってるレイコ社長を車に押し込み、俺達は現場へと向かう
ちなみに、運転は俺だ
・・・・・・
ケセラセラ沼
細い車道が山の中を通っており、上にあるダム湖へと続く
その道中には複数の沼地が点在している
「よし、ここでやるぞ」
「はい。訓練弾を降ろしますね」
訓練弾とは、本物の火薬を使った弾丸
弾頭が陶器のようなセラミックでできている
貫通力を落とした弾丸だが、当たれば大怪我は免れない
ホフマンさんが、円を描いたA4の紙を木の枝に貼り付ける
「それは的ですか」
「ああ。印刷しておいたんだ。すぐ作れる的は、俺も練習によく使った」
ホフマンさんが、的から十歩を歩く
「これくらいで十メートルだ。ここから狙え」
「思ったより遠く感じますね」
「実戦では、拳銃を使う距離は十メートル以内がほとんどというデータがある。近距離に入ってから銃を抜いて発射というパターンだな」
言いながら、ホフマンさんがオートマチックの拳銃を片手で構える
ガゥン!
ガン!
ガン!
的の紙の中心付近に三つの穴が開く
「凄い! 全部命中してますよ」
「当たり前だ。これくらいできないなら、俺はもう生きてはいない」
「どんな過去が…、いや、聞かない方が良さそうですね」
俺なんかが社会の裏側に興味を持っちゃダメだ
この人はバウンティハンター
社会の掃除屋なんだ
「よし、やってみろ」
「はい」
「最初はシングルアクションでやってみろ」
「シングル?」
シングルアクションとは、リボルバーの撃鉄を上げてから引き金を引いて撃つ方法
対して、ダブルアクションとは引き金を引くことで撃鉄を上げて、雷管を突くという二つの動作を同時に行う機構のこと
リボルバーが発明された当初は、毎回撃鉄を引かないと打てなかったため、連射は出来なかった
しかし、このダブルアクションが発明されたことで、引き金を連続で引くことで連射が可能となったのだ
シングルアクションは引き金が軽いため、精密な射撃に向く
ダブルアクションは引き金が重いが、速射性に優れる
リボルバーはこの二つを使い分けるのだ
「引き金を…、よいしょ」
うわっ、撃鉄って思ったよりも重いぞ
「思いっきり引き金を引くと銃口がブレるからな。静かに引け」
「はい」
…ガァン!
ぐぁっ、衝撃と音が凄い
やっぱり、これは本物なんだな…
的を見ると、ホフマンさんの弾痕よりも下の方に新しい穴が空いている
「次はダブルアクションでやってみろ」
「はい」
俺は撃鉄を引かずに引き金を引く
お、重いな!
ガァン!
さっきよりも下の方に新しい穴が空く
「難しいですね…」
「最初はそんなもんだ。よし、時間はあるからどんどん撃ってみろ」
「分かりました」
「おい、ラーズ。トリガーに指をかけるな」
「はい?」
「引き金の所に指を入れるのは撃つときだけにしろ。そうすれば、誤射はおきない」
「わ、分かりました」
「俺の前の職場でも、誤って仲間を撃っちまった奴がいた。銃は魔法使いの杖と同じで兵器だ。安全面には特に気を付けろ」
「すみません、気を付けます」
クサナギ霊障警備の事務所で撃ってしまったらとんでもないことになる
用心しなくては
ガゥン!
ドォン!
ガン!
ガン!
ドン!
五発撃って、弾を込め直す
「撃つときは、何発撃ったかを必ず数えろ。弾切れは、銃の最大の弱点だからな」
「はい」
リボルバーは弾数が少ない
その代わりに、オートマチックと違ってジャムることがない
万が一弾が出なくても、もう一度引き金を引けば次の弾が出るのだ
「ふぅ…、難しいですね」
「少し休憩だ。集中力が落ちてくるからな」
ホフマンさんが、バーナーでお湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れてくれた
「なぁ、ラーズ」
ホフマンさんが言う
「はい?」
「…お前、銃を撃ったことがあるのか? 勘違いかもしれないが、慣れを感じたぜ」
「あー…」
俺は頭をかく
「お前の年で、銃なんぞに関わることがあるとは思えないが」
「俺、初等部の頃に拉致されたことがあるんです」
俺は騎士学園の頃、拉致集団にさらわれたことがある
その集団は、子供を攫って無理矢理訓練をさせ、兵士として出荷するという組織だった
俺は幸運にも、一週間で助けられた
だが、助けられたのはほんの数人
…あの時、あの組織にいた他の子供たちの行方は分かっていない
「…ヘビィな経験をしてたんだな」
ホフマンさんが俺を見る
「あの場所で、俺はカラシニコフという銃を使わされました」
「自動小銃か。連射を知ってるなら、リボルバーの単発くらいすぐに慣れるか」
「いえ、難しいです。全然当たらないですし」
「そこは慣れだ。補正していけば…」
そんな話をしていると…
「ホフマン、ラーズ。行くよ、空気が変わったから」
レイコ社長が呼びに来る
気が付けば、周囲が暗くなってきていた
ここからは、ゴーストハンターの時間だ
「ラーズ、実包を込めろ。最初は大きい的、胴体を狙うことを意識しろ」
「は、はい」
俺は弾を込めてホルスターにリボルバーを収める
背中にはドラゴンブレイド
腰には魔石装填型小型杖
プロテクターにホバーブーツを装備して…
重装備すぎないか、これ
「ラーズ!」
「ぐぁっ!?」
バッシャァァァン!
突然の水鉄砲に、俺は吹き飛ばされた
更に、水が纏わりついてくる
ヤバい、窒息狙いか!
地面に転がりながら、俺はホルスターから銃を引き抜く
目の前には黒い影
恐怖を感じて引き金を引く
カチ!
撃鉄が落ちるが弾が出ない
…あ、銃が水に包まれている!
火薬が濡れたからか!?
黒い人影が動く
俺は咄嗟のことに反応できず、動けずに硬直してしまった
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