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閑話1 墓参り

用語説明w


フィーナ

ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級でハナノミヤ聖女子大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。


龍神皇国ファブル地区

カナメ町 町営墓苑



「よーし、これで終わりだぁ」


ドミニクお祖父ちゃんが、石の墓標にひしゃくで水をかける


「フィーナがオーティル家に入った挨拶ができてよかったねぇ」

トシコお祖母ちゃんがフィーナの頭を撫でる


今日はお墓参り

ご先祖様に、新しく加わった家族であるフィーナのご報告だ



「ラーズのひい祖父ちゃんは、龍神皇国の官僚だったんだよ」

「親戚の中でも一番の出世頭だったな」


二人がフィーナに昔話をする


「でも、息子の祖父さんは官僚なんて目指さずに、経験も無いのに農業を始めちまってねぇ。本当に食べていけるか不安だったんだよ」


「それは、お前がパンを焼くのが好きだったから、とびっきりの小麦を作ってやろうとして…」


「お祖母ちゃん、愛されてたんだね」


慌てて言い繕うお祖父ちゃんに、フィーナが言う


「もー、恥ずかしいこと言わないでくださいな」


トシコお祖母ちゃんが、ドミニクお祖父ちゃんの背中を叩いて、おうってなってる


ちなみに、この官僚だったガドインひいお祖父ちゃんの縁で、オーティル家は貴族であるセフィ姉と遠い親戚関係になったという経緯がある


セフィ姉は貴族の令嬢

一般家庭の息子であるラーズと知り合いになるなんてことは、普通はあり得ない


もし、セフィ姉とラーズが出合っていなかったら、フィーナとラーズも出会っていなかったはず

縁とは面白いものだ



フィーナとラーズは受験生


だが、親族の集まりくらいには顔を出してもいいだろう

気分転換にもなるし



「…あのおじさんって誰?」


「あれは私のいとこよ」


普段、会わない人もいる

どうやらディードお母さんの親戚のようだ


「まだ付き合いがある親族は、あそこくらいだ。墓参りも惰性になってくるけどよ、会うきっかけにはなるなぁ」

ドミニクお祖父ちゃんが言う


「ちょっと間が空いちゃったからね。流石に、そろそろ顔を出してあげないと。ひい祖父さんにひい祖母さん。私の兄さんと、あとは…」


トシコお祖母ちゃんが、お墓に眠ってる人を紹介してくれた




お祖父ちゃんの家に戻ると、畳の部屋でみんなでダラダラ


「ね、フィーナ」


ディード母さんがフィーナに話しかける


「何? ディードお母さん」


「ラーズって、騎士学園の時はどんなだったの?」


「え?」


「だって、急に騎士になるのを辞めるだなんて言うから。びっくりしたのよ」


「ああ…、そうだよね」


「ダンジョンアタックや大会では結果を出したって言ってたのに」



騎士学園では学科や実技で成績がつけられる

特に実技は、そのまま騎士としての実力に直結する


具体的には、ダンジョンアタックである実習結果

加えて、学生同士の勝ち抜き戦である、個人総合闘武大会の結果の二つが加味される


この実技の成績だけを見れば、最終学年のラーズは一位だった


ダンジョンアタックは、フィーナ、ヤマト、ミィと組んで、あのセフィ姉に迫る踏破記録を叩き出した

更に、闘武大会ではギリギリの戦いを勝ち抜いて優勝してみせたのだ



「それなのに、急にどうしたんだろうって」


「うーん…」


フィーナも首をひねる



ラーズは、重属剣という超火力技能を持っていた

モンスターを確殺できる威力でありながら、発動者のエネルギーを使い果たすリスキーな一発技だ


ド派手なその剣はラーズの代名詞となった


だが、実はラーズのタイプは派手さとは真逆

地味なスタイルだった


近接攻撃、防御能力、投射魔法、魔法による相殺

いろいろできて器用ではあるが、それぞれの専門職には勝てない


言い換えるなら、ほどほどの近接攻撃力、ほどほど防御能力、ほどほどの投射魔法、ほどほどの相殺力といった感じだ



そして、その最たるものがラーズの固有技能であるドラゴンエッグ


風属性の輪力で空気を身に集め、風属性の魔力で集めた空気を操作する

風を回転させて攻撃魔法などを散らす防御性能、風を噴出させることで移動力を得る


高機動力でフィールドを動き回り、攻撃に、防御に、仲間のフォローにと走り回る

パーティを支える縁の下の力持ち、パーティを動かすための潤滑油、それがラーズのスタイルだ



「ラーズ、火力を出せないことに悩んでいたから」


「そうなの?」


「でも、ラーズはパーティに無くてはならない存在だったよ。私も、何度もラーズに助けられたんだから」


「ふーん…」


ディード母さんは、意外そうに言う

「でも、それならどうして騎士をやめちゃうのかしら」


「分からないの。あのセフィ姉と喧嘩にまでなっちゃったんだから」


「セフィリアちゃんが?」



ラーズは悩んでいた


自分はプロの騎士になっても通じない

他の騎士学園の生徒に比べて、俺には才能が足りない、と



そんな卒業間際


ラーズは、初めてセフィ姉と喧嘩をした

そして、あのセフィ姉を怒らせたのだ



「どうなったの?」


「セフィ姉に嫌がるフォウルを巻き込んで挑んだの。でも、重属剣ごとすぐに地面に叩きつけられてた」


「やっぱり。さすがセフィリアちゃんね」


「でも、結局セフィ姉も、ラーズが騎士を諦めることを納得しちゃったんだ」


「ふーん…」


「もったいないよね、せっかく騎士になれるのに」


「フィーナは、ラーズに騎士になってほしかったの?」


「まぁ、それは…。私、またいつかラーズとパーティを組んで冒険とかしたかったから」


「危険なのに?」


「危ないけど…。でも、面白かったから。みんなで作戦を考えて、いろいろ試して…」


楽しそうに話すフィーナを見て、ディード母さんは微笑む


王族という立場がマイナスに働いていたフィーナが、今は楽しそうに暮らしている

それが嬉しかったからだ



「でも、ラーズ、頑なに騎士にはならないって…」


「いいんじゃない? やってみて分かることも多いし、本人にやりたいことがあるのはいいことよ」


今のラーズは、考古学を勉強したいと言って大学進学を希望している



「それはそうだけど…。でも、騎士になれば収入だっていいのに」


「それも含めて、ラーズの選択よ。選択するってことは、失敗も後悔も受け入れる覚悟をするってことだから」


「覚悟…」


「そして、その選択を繰り返して、人は大人になっていくのよ」


「ラーズが大人って」


そう言いながら、フィーナは向こうで話しているラーズを盗み見る



…あいつは、確かに凄い悩んでた

進路は、誰にとってみ大きな選択だ


でも、もうちょっと相談してくれても…



「おーい、フィーナ。ジュースあるけど飲むかー?」

ラーズが振り返る


「もちろん!」

フィーナが立ち上がる


お互いに受験生

一緒に冒険していた二人は、今度は受験という戦いに挑む


「ラーズ、受験がんばろうね」


「せっかく勉強のことを忘れてたのに、何で思い出さすんだよ」


「小っちゃいなー」


「急に何だ! イラッとする」


フィーナとラーズは、久しぶりのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家を堪能したのだった


フォウル プロローグ参照


序章終了

次話から一章開始です

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