プロローグ
銀河の片隅に存在する、ある恒星を中心とした太陽系
十の惑星を持ち、三番目の惑星が生存可能領域にある
この第三惑星には、他の大多数の惑星とは一つだけ違う特徴があった
それは、この惑星が二連星であったことだ
この二連星の惑星は、それぞれ惑星ウル、惑星ギアと呼ばれ、二連星をまとめてペアと呼ぶ
太陽系第三惑星は、と聞かれれれば、ペアと答えることが一般的だ
ペアの二つの惑星は大気を持ち、生命を育む条件が揃っている
事実、この惑星には宇宙空間へと進出するだけの文明が産まれている
「母さん、近くでモンスターが出現だってさ」
「カリュブデス…? どんなモンスターなのかしら。ラーズ、分かる?」
リビングでニュースを見ていた父さんと母さんが俺の方を向く
「………聞いたことがないね」
「おいおい。騎士の卵のくせに、それでいいのか」
「しっかりしてよ」
「いや、俺は騎士を諦めたって言っただろ!」
俺の父さん、パニンは竜人
母さん、ディードはハーフエルフ
そして、俺は竜人だが耳だけは母さんの尖った耳が遺伝している
そんな俺の抗議には耳を貸さず、父さんと母さんはニュースに釘付け
テレビ画面には、沿岸部の町で家が複数壊れ、水浸しになった戦闘の痕が映し出されていた
「酷いな、激しい戦いだったみたいだ」
「負傷者が三十七人…、死んだ人がいなくてよかったわ」
「海軍が海から、陸軍が陸地から挟撃したのか」
「騎士が三人掛かりで討伐したんだって。強いモンスターだったのね」
そんな話をしていると、トタトタと階段を降りてくる音がする
「フィーナ、おはよう。昨日も遅くまで勉強していたの?」
「少しだけだよ。寝坊しちゃった」
母さんが、フライパンで追加の目玉焼きを作り始める
下りて来たのは、フィーナ
四人家族の最後の一人
フィーナはノーマンで、真っ黒な髪と真紅の目が特徴的
俺の二歳下の妹だ
「なぁ、フィーナ。カリュブデスってモンスターを知らないか?」
父さんが尋ねる
「カリュブデス? B+からAランク帯の精霊系モンスターだよ。大渦の化身で、沿岸部の町や通りかかる船を襲っちゃうから、よく警報が出されるんだけど…。どうして?」
「さすがフィーナねぇ。物知りだわ」
「さっき、ニュースでやってたんだ。東区の沿岸部に現れて、軍と騎士が連携して倒したらしいぞ」
「そうだったんだ。討伐、ちょっと見たかったなぁ…。ね?」
フィーナが、目玉焼きを齧りながら俺に言う
「俺は別に。もう騎士は目指してないから興味ないよ」
「まだ魔法も特技も闘氣も使えるのに。…今からでも考え直したら? 騎士を諦めるの」
「放っておけって。今更だし、俺には無理なんだよ」
「…」
俺とフィーナは、残った朝食を口に運ぶ
そんな俺たちの脳裏には、多分だが同じ情景が再生されているはずだ
それは、俺達が卒業した騎士学園の思い出
超常的な能力を持ち、モンスターから人類を守る最終兵器である騎士
騎士学園とは、そんな騎士を育成するための教育機関だ
バチバチバチーーーーッ!
「ぐあぁぁぁっ!?」
ダンジョンの深層階で、激しい雷を振りまくドラゴン
「ラーズ!」
避け切れずに巻き込まれた俺に、フィーナが聖属性回復魔法を発動する
「た、助かった…! このっ!」
ブオォォォォッ!
俺は、杖を構えて風属性投射魔法を発動
螺旋回転する風を絞り、槍のようにドラゴンに突き刺す
「…っ!?」
ドゴォッ!
だが、俺の投射魔法はドラゴンの甲殻に阻まれて呆気なく霧散
ドラゴンの長い首が振り下ろされ、俺は転げ回って逃げ出す羽目になる
「こうなったら…!」
俺は愛刀ドラゴンブレイドを構える
「…思い出すよね、ダンジョンの階層ボスとの戦い」
フィーナが、そんな思い出に浸っていた俺を見て口角を上げる
「べ、別に。今更、そんなことないよ」
「ラーズの重属剣が決まらなければ、多分勝てなかったよ」
「それを言うなら、フィーナの複合魔法もだろ」
重属剣とは、魔法と特技、闘氣を一つに重ねた俺の必殺剣
そして、複合魔法とは火属性と雷属性という異なる属性を併せたフィーナの高火力魔法のことだ
「ラーズとフィーナのパーティは、ダンジョンの学園記録を出したんだろ?」
「二人が、そんな凄い記録を出しただなんて、信じられないわ」
そう言いながら、母さんが紅茶を入れてくれた
「勇者と賢者の兄妹か…。豪勢だなぁ」
パニン父さんが言う
騎士学園では、生徒のスタイルに合わせて職業なんてものが決められていた
俺は勇者で、これは重属剣という技能を身に付けた者の職業
フィーナは賢者で、攻撃、回復、補助という三種類の魔法を身に付けた者の職業だ
「グルル…」
「あら、フォウル。おはよう」
リビングでの話声で起きたのか
二階からパタパタと、肩乗りサイズの小さいドラゴンが飛んで来る
こいつはフォウル
騎士学園からの俺の相棒であり、ダンジョンにも一緒に潜っていた
典型的な西洋型のドラゴンで、雷属性を持つ
「はい、ご飯食べちゃいなさい」
「ガウ」
母さんがお皿に缶詰を開ける
これはダンジョンなどで討伐されたモンスターの肉を加工したもの
ドラゴンなどのモンスターは魔素を代謝に使っているため、定期的に摂取する必要がある
しかし、秘境やダンジョンなど空気中の魔素が濃い環境でなければ、他のモンスターを捕食して摂取するしかない
しかし、町だとそれも難しいため、モンスターを使役したりペットとして飼っている客用に、こういう商品が売られているのだ
「フォウル、人間社会に完全に順応しちゃったな」
「いつまでも野生でいられるよりいいじゃない」
「人間様に飼いならされるドラゴンって、それでいいのかよ」
「ガァッ!」
「痛ぇーーーっ!!」
悪口を認識し、しっかりと反撃を試みる
知能とプライドを併せ持つ、それがドラゴンだ
「やめてよ、うるさいから」
「こ、このやろ!」
「ガルルッ!」
牙を剥き出して唸るフォウル
無駄なことにばかり知能を使いやがって!
「ほら、さっさと食べちゃいなさい。騎士は諦めたのかもしれないけど、大学は諦めてないんでしょ? 受験は待ってくれないのよ」
母さんが撫でると、フォウルはすぐに食事に戻る
やはり、餌をくれる人が一番上なのか…
「うぅ…、ごもっとも」
「ラーズ、午後は図書館に行こうよ。赤本やりに」
「へいへい。あーあ…、魔法も科学も発達したっていうのに、受験勉強はいつまでたっても無くならない。人類は本当に進歩しているのだろうか?」
「昔は、いい家柄に生まれた人しか仕事を選べなかったんだよ? 勉強したら選択肢が広がるって、幸せな事じゃない」
「…」
優等生のフィーナにイラっとしつつも、俺はダンジョンの階層ボスとは違う強さを持つ難敵、入試へ向けてカロリーを摂取するのだった
チート能力を持つ騎士…
ではなく、一般人の大学生の話ですw
どうぞよろしくお願いします
一章は毎日投稿予定です
「ですペア」は複数の作品がありますが、どこからでも読めます
気が向いたら、他の作品もよろしくお願いします