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 ていうか先生、キスの仕方知ってるの!?

 キスってなんぞ? ってなってない!?

 いや流石に25歳の若い男が知らないわけないか。

 いやでもあの堅物且つ天然で純度100%な先生だから……!!



 もしかして……お芝居でもしたくない……のかな?

 私みたいなミジンコ小娘とは、フリだとしてもしたくないってこと?


 ぁ……なんか悲しくなってきた。

 でももう後には引けない。


「せんせ?」

 私はもう一度小さな声で、目の前の堅物男に向かって囁きかける。


「お芝居でも……してくれないんですか?」

「っ……!! 私は……!!」

 先生の声に動揺が滲み出る。

 普段クールな先生の余裕のない声色がなんだか愛おしくて、私は少しだけ頬を緩ませる。


「先生──……して?」


 私はそう言うと、彼の襟元をぐっと掴んで自分の方へと手繰り寄せた。


「っ!!」

 一瞬にして縮まる私たちの距離。


 そして私と先生の唇が重なった──ように、客席からは見えた。


 唇のすぐ横上に、少しかさついた感触。

 少しずらした口づけは、客席からの角度や首の傾きなど全てにおいてきちんと計算されて、客席からは本当に口付けているように見える。


挿絵(By みてみん)


 この黄金比を導き出した人物こそ、薄い本の神として今や淑女だけでなく紳士にもファンがいるという公爵令嬢メルヴェラ・シードである。

 まぁ、一度も実践(稽古)することなくぶっつけ本番だったから、うまくいくかは分からなかったけれど。


「キャー!!」

「シリル様ぁー!!」

「イヤァー!!」

「素敵……!!」


 客席の反応からうまくいっているであろうことは確認できる。


 でも……その……やっぱり少し恥ずかしい。

 だって口じゃないとはえ……先生の唇が触れてるんだもんね。

 うぅ……もったいないけど早く終わって……!!

 って、私が目覚めなきゃ口づけ終わらないんだ!!

 

 私は意を決して瞳をぱっちりと開く。

 すると目の前では硬直したまま微動だにしない先生こと王子の恐ろしく整ったご尊顔が……!!


「!!」


 桜色とアイスブルーの瞳が交わり合う。

 しばらく見つめ合った後、先に我に返ったのは先生だった。

「っ!!」

 飛び退くように身体を起こし上げる先生。

 それに連動するように私もゆっくりと体を起こす。


「ひ……ひめ……目覚めた、か……」

「は……はい。えっと、ありがとう、ございます、王子様」


 しどろもどろになりながら、二人ほんのり赤く色づいた頬のまま見つめ合う。


 うぅ……恥ずかしい。

 でもかっこいいよ先生……!!



「……」

「……」


 そこから話を進めようとせず見つめ合ったままの私たち二人に業を煮やした視界の端で小人達が動き出す。


「お、おぉ姫!! よかった!! 目覚められたのですね!!」

「やはり真実の愛の口づけのおかげだ!! ……ですよね!? 王子!!」


 小人達の圧が先生へと注がれる。

 すごい。

 普段その近寄り難いオーラに萎縮してあまり近づこうとしない子ども達が、しっかりと先生に圧をかけている……!!


「あ……あぁ……」

 普段と違った様子の子どもたちに戸惑いながらも応える王子こと先生。


「ではどうか、姫に愛の告白を!!」

「告白を!!」


 あぁそうだった。

 改めて王子が姫に求婚するんだった。


 先生は機械的な動きで私に向き直ると、未だ棺の中にいる私の手を取り、グッと自身の方に引っ張り上げた。


「わっ!!」

 倒れそうになる私の身体を、先生のたくましい胸が、腕が、手が、しっかりと支えてくれる。


 トクン──トクン──。

 鼓動がうるさいくらいに高鳴る。


 よく見れば彼の漆黒のマントには至る所に小さな傷ができている。

 今朝はなかったはずだから、きっとさっきまでの戦いでできたものだろう。

 疲れているだろうに、ちゃんと来てくれた私の大好きな王子様。


「王子様……。来てくれてありがとうございました。私……王子様のことが──ひゃぁっ!!」


 絶対に告白などしないであろうと踏んだ私が愛の告白を代わろうとした瞬間、私の身体はなんと先生によって軽々と抱き上げられ、告白は遮られることになった。


 ざわめく客席と舞台上、そして舞台袖。


 こ、これは……。

 お姫様抱っこ!?

 私、先生にお姫様抱っこされてる!?

 あのまるで荷物でも抱えるかのような抱え方しかすることのなかった先生が……!!

 私を!!

 お姫様抱っこ──!?


「コレはもらっていく」

 そう言って私を抱きかかえたまま舞台から降りていく先生。


 舞台上も客席も大混乱。

 私も大混乱。



「え!? あ、あの王子どこへ!?」

「私がコレとどこへ行こうが、君たちには関係あるまい?」


 絶対零度の瞳で小人達を一蹴し、彼は私を抱いたまま、ふわりと黒天馬(ブラックペガサス)へと跨った。


「おいシリル!! 氷溶かしていけ!!」

 ぁ、レイヴン忘れてた。


「姫をたぶらかそうとした狼は、しばらくそこで反省しているがいい」

 

 先生はそう言うと黒天馬(ブラックペガサス)を操り、私を乗せたまま飛び去ってしまった。



 遠くなっていく会場からメルヴィの声が聞こえる。



「こうして白雪姫は、どこかの大地で王子様と幸せになりましたとさ。めでたしめでたし──」




素敵な挿絵はADA様に描いていただきました!!

ADA様ありがとうございました!!

次話ラストです!!

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連載中の長編、異世界転移恋愛ファンタジー「 もう一人の人魚姫は無双したい〜変態だと罵られようと推しの幸せのために私は生きる〜」もよろしくお願いします♪
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