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「随分賑やかだが、なんの騒ぎだ?」



 この声……!! ──先生──!!

 やっぱり来てくれた……!!


 嬉しさでその感情のままに飛び起きて抱きついてしまいたい衝動に駆られるけれど、今は公演中。

 グッと我慢する。


「あなたは隣国の王子!!」

「助けてくださってありがとうございます!!」


 吊るされた小人達助かったんだ。

 ぁ、さっきの氷の粒みたいなものは、彼らを吊るしていたモノを凍らせて割ったものか。


「キャーシリル様よ!!」

黒天馬(ブラックペガサス)に跨る姿も素敵ー!!」


 客席から黄色い声が飛ぶ。


 え!?

 黒天馬(ブラックペガサス)に乗ってるの!?

 ちょっ!! 見たい……!!

 見て写真におさめたい!!

 う、薄目なら許される!?


 私が自分の欲望と格闘していると「チッ……」と小さく先生の声が聞こえる。

 舌打ち!?


「王子!! 早くこちらへ!!」

「……あぁ、待たせてすまない。継母とやらを倒していたために遅くなった」


 あ、そういう設定にしたんだ。

 トントントン、と先生が舞台上に上がっているであろう音が響く。


「で、これは?」

 コレ!?

 見えないけれど、その声色から冷ややかな目で私を見下ろしている先生が目に浮かぶ。


「お、王子、姫ですよ!! 白雪姫!! 継母の呪いで眠ってしまったんです!!」

「日暮れまでに愛する人からの口付けがないと、白雪姫は目覚めることなく死んでしまう!! どうか王子の愛の力で姫を助けてください!!」


 小人たちの必死の訴え。

 うん、皆アドリブに頑張って対応しながら、稽古どおりの演技ができてる。

 問題は一度も稽古に参加していない先生だけど……。


「……はぁ……」

 ため息!?


「おい、起きろ」


 ガンッ!!


 なに!?

 すんごい揺れたけど!!

 まさか蹴った!?

 蹴ったよね今!?

 この人棺蹴ったよね!?


 いやぁぁぁやめてぇぇぇ!!

 私、一応白雪姫ぇぇぇ!!


「お、王子!! 蹴ってはなりません!! 口づけでないと目覚めないんです!!」

「……チッ……」

 また舌打ちした!?

 ていうか先生、台本渡しましたよね!?

 読んだの!?


 するとすぐ近くで、暖かい温度を感じ、耳元に生暖かい風が吹きかかると「おい」と彼の声が、耳を伝って脳に響いた。


「ッ!!」

 耳元でそんなイケボでしゃべっちゃイヤァァァァァ!!


「ひめ……おいひめ……」


 先生の声が耳にダイレクトに響く。

 彼の言う【ひめ】が白雪姫のことだって分かっていても、自分の名前を呼ばれているようでドキドキが止まらない。


 耳にかかる吐息が。

 声が。

 私から全ての思考を奪い取っていこうとする。


 が……。


「……おいひめ。分かっているのだろうな? 早く起きねば、これからしばらくの間、夜の修行は中止にするぞ」

「っっ!!」


 脅し!?

 でもそれは嫌ぁぁぁ!!

 先生と二人きりの特別な修行が中止だなんて無理!!

 私が思わず目を開けて起きあがろうとした瞬間。


「おい王子!! 口づけしなきゃ目覚めねぇっつってんだろ!! お前しないなら俺がしてやるからこの氷どうにかしろ!!」

 レイヴンの声。

 あ、もしかして氷で足止めさせられてる感じ?


 レイヴンの声のおかげで我に帰った私は、再び白雪姫の如く眠りにつく。


「チッ……うるさいハエだ」

 先生それ悪役が言うようなやつ!!

 まさかのラスボスは継母でも狼でもなく王子!?


「すれば良いんだろう、すれば……」

 ぶつぶつと言いながら先生の顔が私に近づく気配がする。

 多分今、私の上には先生が覆い被さってるような状況。

 私の頭の左側に自身の右手をついて、身体を支えているようだ。


 目開けたい……!!

 今どんな図になってるの!?

 私は堪えきれず、薄目を開けてから目の前を見て、そしてすぐに後悔する。


「っ〜〜!!」


 先生の……!!

 先生のドアップ!!


 まつ毛長っ!!

 肌綺麗!!

 やばい……!!

 このアングル駄目ェェェェ!!


 私がそんな先生の美の暴力に打ちのめされている間、当の本人は私を見たまま固まっている。


 え?

 えっと……先生?

 なんで?

 なんで固まってんの!?


「せんせ?」

 小声で彼を呼んでみる。


 それでも返ってくる言葉はなく、先生の表情も無表情で変わらないまま。

 明らかに聞いていない。

 私はもう一度、さっきよりも少しだけ大きな声で、でも彼にだけ聞こえる程度に「先生?」と目の前でぼぉっと私を見下ろし続ける男を呼んだ。


「!!」

 はっと我に返ったように息を吸い込む先生。


「カン……ザキ……」

「ひめ。今私は白雪姫ですよ?」

 瞳を閉じて、少しのいたずら心を込めて彼に声をかける。

「っ……!!」

 先生の息を呑む声が聞こえる。


 それでもいくら待っても降りてこない顔。


 この堅物男……!!

 別に唇にするわけではない。

 少しずらしたところで寸止めして、角度で魅せるだけなのに。


 ……あ……。


 この人、一回も稽古に参加してないんだったぁぁぁぁぁ!!



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連載中の長編、異世界転移恋愛ファンタジー「 もう一人の人魚姫は無双したい〜変態だと罵られようと推しの幸せのために私は生きる〜」もよろしくお願いします♪
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