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──場面は森で悲しみに暮れる小人たちと、ガラスの棺で眠る白雪姫の場面へと移っていく。
「あぁ白雪姫……!! 彼女を愛するものの口づけがないと目覚めないだなんて……!!」
「今日の日暮れまでに、彼女を愛する人からの口づけがないと、姫は死んでしまう!! どうにかしないと──!!」
「でもどうしたらいいんだ!?」
途方に暮れる小人たち。
そこへ──。
「その役目! 俺がやってやる!!」
よく通る声が舞台上に響いて、現れたのはスーパー助っ人男・レイヴンこと森のオオカミさん!!
私は眠っているから声しか聞こえないけれど、ノリノリなのはその声色からもよくわかる。
さすがレイヴン。
なんだかんだ、こういう時には頼りになる。
「お前は森の荒くれオオカミ!!」
「何の用だ!!」
おぉ!! 小人役の子どもたちもアドリブ頑張ってるみたいね。
「俺なら白雪姫をずっと見守ってきたからな!! キスの一つや二つや三つ、喜んでやってやるよ!!」
いや、一つでいいです。
なにその唇の大安売り。
「お前みたいな万年発情期犬に大切な白雪姫を渡してなるものか!!」
「姫を守れー!!」
「おー!」
子どもたちのアドリブがすごい。
いやこれ、レイヴン自身にリアルに言ってない?
万年発情犬て……。
普段どんな目で子ども達がレイヴンを見ているかがよくわかる。
「なんだとー!? んなこと言う奴らは、俺が食っちまうぞ!! ガオォォォ!!」
いや食うな!!
いたいけな子ども達を食うな!!
もはや悪役は継母ではなくオオカミになってない!?
「姫の唇は僕らが守るぞー!!」
「かかれぇー!!」
かかれ!?
え!? 待ってどうなってるの!?
気になる!! 目を開けてもいい!?
いやいやいやダメだ。
私眠ってるんだから。
でも気になるー!!
ドンドンバタバタドカドカ──!!
舞台上で不穏な音がして、時折地響きで私の身体もガクンガクンと揺らされる。
ちょっ、気になる!
一体なにしてるのみんな!?
大乱闘!?
レイヴンちゃんと手加減してるよね!?
ずるずると地を何かが這いずり回るような音がした刹那──。
「わぁぁぁぁぁ!!」
「魔法とは卑怯だぞ!!」
「おーろーせー!!」
まさかとは思うけどレイヴン……。
魔法使って木の根とか出して小人達を吊し上げたりして……ないわよね?
絶対してるよね!?
大人気ない……!!
どうする!? 止めるべき!?
白雪姫、自力で眠りから醒めて、さながらヒーローのごとく悪の狼と戦う!?
でもそれじゃせっかくのメルヴィのシナリオが……!!
私がどうすべきか眠りながら考えていたその時──。
底冷えのする冷気が辺りを支配し、ガラスの棺を通して私の背にダイレクトにそれは到達した。
そして──バリンッ──!!
高く小気味の良い音がしてすぐに、私の手や顔、胸に冷たい粒がサラサラと舞い降りた。
アイスダスト──?
まさか──!!
「随分賑やかだが、なんの騒ぎだ?」