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そして三日などは一瞬にして過ぎ去り、決勝公演当日。
「鏡よ鏡。世界で1番美しいのはだぁれ?」
濃いめの化粧を施した継母役の麗しのオネエ、レオンティウス様が鏡へと尋ねる。
すると大きなその鏡に黒いローブのようなものを着たクレアの姿が映し出された。
聖女であるクレアは本来なら白いローブを着るような存在なのに、なんとも斬新なキャスティングだ。
「あんた毎日懲りないわね、白雪姫だって言ってんでしょ? 全く、理解力も記憶力もないのね」
随分あけすけなく言ってしまう鏡だ。
さすがツンデレ聖女クレア。
「んまぁっかわいくない鏡ね!! あんたそろそろ役目を全うしないと壊すわよ!」
「壊せるもんなら壊してみなさいよ!! その代わりあんたの姿を醜い化け物の姿に変えてやるんだから!!」
「キィィ!! なんて鏡なの!? くそ生意気な!!」
「持ち主に似たんじゃない?」
うん、いいテンポ。
ていうかハマり役すぎるわ二人とも。
最初の脚本ではこんなではなかったのだけれど、二人が代役するにあったって、メルヴィが二人をイメージしたものに少しセリフを直したのだ。
メルヴェラ・シード……恐ろしい子!!
舞台はどんどん進んでいき、とうとう私こと白雪姫が眠りにつくシーンになった。
「ここは何かしら?」
塔のセットで、炎の魔石を使用した燭台を片手にゆっくりと登っていく。
その先にある丸いサイドテーブルの上に置いてあるのは、一つの真っ赤なリンゴ。
「まぁ!! 美味しそうなリンゴ!! ……誰もいない……わよね? いっただっきまぁ〜す!!」
ガブリッ!!
りんごを丸齧りした私こと白雪姫は、針で指を刺した眠り姫の如くふらりと倒れ、眠りについてしまう。
そして場面は暗転した──。
「──エェッ!? 先生がまだ来てない!?」
「そうなの。さっき伝達魔法で連絡が来て……。なんでも、魔物討伐の後処理に手間取っているみたいなの。終わり次第すぐ向かうとは聞いたんだけど」
暗転で舞台袖へと戻った私は先生がまだ来ていない旨をクレアから聞いて、驚きの声を上げた。
間に合う……かな。
ここからのシナリオの流れは……。
①小人たちが歌いながら仕事をする
②家に帰った小人たちが白雪姫がいないことに気づいて探す
③小人たちの古屋の近くの塔で眠る白雪姫を発見し、それが呪いであると気づいて小人たちはガラスの棺に彼女を入れ、森の中で最後の別れをする
④悲しみの中、埋葬しようとしたところ、王子が白馬に乗って登場!!
あと少ししかない!!
でも……。
「どうする? 誰かに代役でも……って言っても、馬に乗れるような美形なんてそうそういないし……」
不安げに瞳を揺らすクレアに「大丈夫です」と私は答えた。
「先生は絶対に来ます」
間に合うかどうかはわからないけれど、律儀な先生のことだ。
必ず来る。
彼が来ないなど、ありえない。
「どうにかして繋ぎましょう。先生が来るまで」
といっても、眠ってしまった白雪姫役の私は、他の皆に頼るしかないのだけれど……。
「……そうですわね。でも、どう繋げたら……」
「まったくしょうがねぇなぁ。俺がひと肌脱ぐか!!」
カラッとした声が舞台裏に響いて、私たちは一斉に声のした方を振り返った。
「レイヴン!!」
「兄様!!」
「レイヴン先生!!」
私とメルヴィ、クレアの声が綺麗に重なった。
そう、そこに立っていたのは、セイレ王国魔術師団長であり、グローリアス学園で私たちの担任でもあるレイヴン・シードその人だった。
「コレ借りるぞー」
と脇の方に置いてあった耳と尻尾を取り、慣れた手つきで自身へと取り付ける。
あっという間にワン……狼の出来上がりだ。
「俺が狼役で登場して時間稼ぐから、お前たちは信じて待ってろ」
そう言って犬歯をのぞかせニカッと笑ってみせたレイヴン。
不思議だ。
今日はなんだかかっこよく見える。
「ありがとうレイヴン……!! メルヴィ、指示を」
私は総監督であるメルヴィに指示を仰ぐと、彼女は緊急事態にもすぐに頷き、
「兄様、よろしくお願いします」
とレイヴンへと伝えてから、すぐにノートへと指示を大きく書き出すと、舞台上の小人役の子どもたちに見えるように掲げた。
すると上手側にいたレオンティウス様がそれに気づいて、そちらでも同じようにメルヴィが書いた指示をノートへと書き、舞台上へと向けた。
これで上手、下手、どちらに視線を向けている子どもたちにも指示が行き渡る。
さすがセイレ王国騎士団副団長レオンティウス・クリンテッド。
素晴らしい機転だ。