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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

7人の王子と紫の魔女。

作者: 日暮蛍

7人の王子と紫の魔女。というタイトルのゲームがある。

シルバーという名前の会社が作り販売された物でジャンルは恋愛シミュレーションゲームで世間からは乙女ゲーとも呼ばれている。

難易度を選べるため初心者でも楽しめる上に背景絵やスチルは美麗で描かれているキャラクター達も魅力的であり、ストーリーも高い評価を得ている。

人気のゲームとして話題となり、多くの人達がそのゲームをプレイした。


そのうちの1人である少女がそのゲームの元になった世界に転生した。

少女はゲームでの舞台となった学園に入学した時に前世の記憶を思い出した。前世の自分が女子高生であった事。7人の王子と紫の魔女をやり込んだ事。家に帰る途中で意識を失った事。それらを思い出した。


記憶を取り戻した少女はまず、攻略対象である彼らと自然な形になるように接触した。幸い少女の持つ知識と明るい性格と態度で彼らとはすぐに仲良くなった。


そして次に紫の魔女を探し始めた。

紫の魔女というのはゲームではラスボスとして登場する。魔女は国を滅ぼすほどの力を持っており、倒さなければ多くの犠牲が出てしまう。

ゲームに登場する魔女を倒さなければゲームの主人公やキャラクター達が死んでしまいバッドエンドになってしまう。

そうならないために少女はゲームと学校の図書室の本からの知識で魔女について徹底的に調べた。


大昔、魔女は強大な力を使ってさまざまな国の多くの人達に害を与え苦しめてきた。そんな魔女を倒すために多くの人達にが協力し合い、なんとか魔女を撃退する。

しかし魔女はまだ生きていた。魔女は失った力を取り戻すために自身の核である紫の宝石に魔力を貯め、少しずつ力を取り戻し復活する時を待っていた。


それが少女の持つ魔女の知識。

そして少女は魔女のいる場所を知っている。魔女は少女が通っている学園の地下に潜んでいる。

少女はバッドエンドを回避するために周りの信用を得ながら魔女討伐への準備を進める。


そんなある日、国に大きな災害がやって来た。

作物だけでなく服や家までもかじる害虫の大量発生だ。突然の事に人々はなす術なく虫にやられてしまい、食糧危機に陥ってしまう。

ゲームでも起きたイベントに少女は最終決戦が近いと判断し、ゲームの攻略対象のキャラクターとして描かれていた彼らと多くの協力者と共に魔女のいる地下へと向かう。


ゲームと同じように学園の下には暗く広い地下があり、手持ちの明かりを頼りに少女達は慎重に進んでいく。

そしてついに魔女を見つける事ができた。

艶のない髪。

ボロボロの服。

やつれた顔。

目の下にある濃いクマ。

そして大きな紫色の宝石がついた首飾り。

明かりで照らし出された座り込んでいる魔女はゲームに出てきた魔女の容姿と同じ特徴をしていた。


魔法を使われる前にと彼らはすぐに魔女を取り押さえる。捕まった魔女は目を見開いて少女の方を見る。睨まれていると思った少女は思わず彼の後ろに隠れる。

彼ことこの国の王子は少女が怯えている事に気がつき、魔女を睨みつけて宣言する。


「魔女め! よくも我らの国を荒らし、人々に危害を加えたな! しかし今日ここで私達がお前を倒す!」


ゲームで登場した王子が1番好きだった少女は目の前にいる王子の事も好きだった。少女を守るように立つその姿に見惚れてしまう。


「覚悟!」


王子は持ってきた剣を抜き切っ先を魔女に突きつける。そして魔女の胸元で怪しく光る紫色の宝石に狙いを定め、勢いよく貫くと宝石はあっさりと砕けた。


そのまま魔女の胸元に突き刺さり魔女は死ぬ。悪い魔女が倒された事で国は救われ、少女は王子と結婚しいつまでも幸せに暮らしました


と、少女の頭の中では結末はこうでした。

宝石が砕けた瞬間を見た少女は幸せな未来を想像しました。

しかし、そのまま魔女の胸元を貫くと思っていた剣が途中で止まってしまいました。王子が手を抜いたわけではありません。見えない透明な壁にぶつかってしまった。王子が、少女が、彼らが、そしてその場にいる多くの人達がその結果に驚いた。

すると突然魔女を拘束していた人達が突然吹っ飛ばされた。何が起きたのか分からない。見えない力に弾かれた人達、そしてそれを見ていた人達は突然の出来事に固まってしまう。


自由になった魔女は立ち上がり、顔をあげる。笑っている。魔女が笑っている。笑いながらぶつぶつと何かを言っている。

魔女が口を動かしている間、魔女の周囲の空間が歪んでいく。


それを見て何かが起きると思い彼らは魔女を止めようとしたが、見えない壁に阻まれてしまい魔女に近づくことすらできない。その間にも空間の歪みが大きくなる。彼らが見えない壁をなんとか壊そうとしている時、それを見ていた少女に魔女は目線を合わせる。


「ありがとう。」


掠れた小さな声だったが、魔女は確かに少女に向けてそう言った。


「ありがとう。」


そのすぐ後に突然お礼の言葉を言ったのは魔法使い。魔法使いもゲームにおいて攻略対象のキャラクターとして描かれていた。


「私を助けてくれてありがとう。人形を通してお礼を言わせてほしい。」


魔法使いの言葉の後に魔女の姿が突如消えてしまった。

魔女が消えた事に戸惑う人達。

そして魔法使いは突然倒れてしまった。

近くにいた人は慌てて魔法使いを起こそうと体に触れた時、触った箇所が崩れてしまう。そして崩れた部分が土となって落ちていく。

魔法使いは人ではなかった。人の形をした土塊だった。そして口ぶりからして魔女が遠隔操作して喋らせていたと彼らは気がついた。そして困惑した。魔法使いの正体が魔女の操り人形だった。彼らの中で魔法使いと仲良くしていた人達はより一層混乱していた。


少女も困惑していた。

魔女が逃げ出した。魔法使いの正体。そして魔女の力の源である紫の宝石を破壊したにも関わらず、魔女は魔法が使えた。ゲームには無かった展開だ。


一体何がどうなっている。


全員そう思ったが、その場でいくら考えても答えは出ない。それよりも逃げ出した魔女の捜索をする事が先だと考え行動に移した。



◆◇◆◇◆



魔女が失踪してから数日後、多くの災難が降りかかってきた。主にゲームの攻略対象のキャラクター達のモデルとなっている彼らに。


とある彼は街に侵入してきた魔物と戦闘中、仲間の攻撃の巻き添いをくらって右手を切り落とされ、さらにその隙をつかれて魔物に左手を食いちぎられてしまった。 

とある彼は食べるもの全てに問題があり、どんなに厳しく管理しても腐っていたり毒物が混入されたりして食事に対して恐怖を感じ拒食症に。

とある彼は眠気があるにもかかわらず眠れなくなってしまい、意識が朦朧として事故にあって大怪我を負う。

とある彼はどこへ行っても常に誰かの視線を感じる。人のいない所に行っても視線を感じ、やがて精神が参ってしまい自殺。

とある彼は常に無表情。どんなに嬉しくてもどんなに悲しくてもどんなに苛ついても無表情。それが嫌で、それのせいで人と会うのが嫌になり家に閉じこもってしまう。

とある彼は全身に痛みを感じ、寝たきりの状態になってしまった。

そして全員に共通している不幸はどこからか宝石が落ちてきて彼らに当たる事。色や形に大きさは違えど当たればかなり痛い。そのため彼らの体のあちこちには傷がある。


不幸な目に遭っているのは彼らだけではない。

彼らや少女が通っていた学園は生徒が放った魔法の炎が火種となってしまい火事になり全焼。多くの犠牲者が出た。

国ではあちこち事件や事故が起き、虫によって荒らされた影響もあったため治安が悪化していく。


そんな非常事態に頭を悩ませる王様。なんとかしようとしてはいるが、被害の数が尋常ではないため対処が追いつかない。

そんな王様のところに遠い国から1人の長命者、エルフという種族の老人がやって来た。エルフは公明な人物のため王様と会う事ができました。


「なぜあの魔女を逃した!」


エルフは王様と対面するとすぐにそう言いました。表情と声音でエルフが激怒している事に王様はすぐに気がつきました。

さらに魔女を逃してしまった事は秘密にしていました。なのにエルフはそれを知っている。それが気になったエルフの物言いを不問にし王様はなぜそれを知っている? と聞きました。


「分かるとも。こんな事ができるのはあの魔女しかいない! あの恐ろしい魔女が魔法を使えばすぐに分かるとも!」

「しかし、魔女の力の源を破壊した。魔法など使えるのか?」

「何? 何を壊したと?」

「伝承にあった紫の宝石だ。私の息子が壊した。」


王様の話を聞いたエルフは信じられないものを見る目で王様を見ます。


「何を、言っている。その伝承とは一体。」

「我が国から古くから伝わる魔女についてのものだ。おとぎ話にもなっている。」

「見せてくれ。」


エルフに請われた王様は部下達に命じて城内にある魔女に関する本を集めてもらいエルフに渡した。

エルフは本を読んでいく。本を読み重ねていくうちにエルフの顔色は悪くなっていく。そして全ての本を読み終えるとエルフは王様の元に行き、尋ねました。


「あの本に書かれていた事はこの国の人は知っているのか?」


そうだと王様が言うとエルフはその場に座り込んでしまった。


「なんて事だ。」


エルフの表情は絶望に染まっていた。

どう言う事だと王様は聞くとエルフはゆっくりと語ってくれた。本当の話を。



◆◇◆◇◆



昔々の話。魔女が目立った特徴のない少女だった頃の話。


少女は魔法が使える事以外は大きな特徴がなく、使える魔法は魔法使いならば誰でも使えるものばかりで性格も穏やかでした。

そんな少女が魔女に変わったきっかけは1つの絵でした。

少女が少し遠い街まで買い物に出かけた時、たまたま見かけた教会が気になりそこに入りました。そしてそこに飾られていた小さな絵を見つけ、見入りました。


この世界には存在しない風景を背後に佇む人の絵。冷たい印象を感じるがそれと同時に神秘的な印象を感じる。色使いや筆使いは独創的だ。

ある人が見たら異端だと評価してこの絵を嫌悪するだろう。

ある人が見たら素晴らしいと評価してこの絵に見とれるだろう。

少女は後者。

少女はこの絵に魅了されました。


絵はその後やって来た商家の人によって買い取られてしまったため長く見られませんでしたが、その絵は少女の心の中に強く印象に残りました。

そして少女はこう思うようになりました。

自分もいつかあんな素晴らしい絵を描きたい。と。


それから少女は絵を描き始めました。

もちろん最初はうまく描けません。何回も描いても下手な絵ばかりが出来上がる。

それでも少女は描き続けました。時間を見つけては描いて描いて描き続けました。そのおかげで少女の絵の腕前が上がっていき、やがて少女は描いた絵が人に売れるくらいの腕前になれました。もちろんその金額は微々たるものでしたが、それでも少女は嬉しく思いました。着実に目標に近づいていると実感できたからです。


しかし、いい事は続きません。

少女の絵の腕前が上がってから少女の知り合いに不安が見舞われてしまったのです。


ある日、少女の知人の1人が川で溺れ死んだと聞きました。

それを聞いた少女はかわいそうにと思い、先日描きあげた絵を見ます。知人が楽しそうに川で遊んでいる姿が描かれている。描きあげたら渡すと知人と約束していたため、少女はその絵を見て悲しい気持ちになりました。


別の日には隣人が魔物に襲われて大怪我をしたと聞きました。

それを聞いた少女はかわいそうにと思い、先日描きあげた絵を見ます。魔物に襲われた隣人が可愛い小動物と触れ合っている絵だ。描きあげたら渡すと隣人と約束していたため、少女はその絵を見て悲しい気持ちになりました。


別の日では仲の良さで有名な母と子がある日、母親が子供を殴り殺す事件が発生したと聞きました。

それを聞いた少女はかわいそうにと思い、先日描きあげた絵を見ます。母親が子供を優しく撫でる絵だ。描きあげたら渡すと母親と約束していたため、少女はその絵を見て悲しい気持ちになりました。


もう気づいているでしょう。

少女が描いた絵のモデルとなった人が全員、不幸になっている。

少女には魔法の他に呪術の才能もあった。しかし、使いこなす事はできなかった。制御できない力は無意識のうちに他人を呪った。少女の描く絵を通してその絵のモデルとなった人を呪いをかけ、不幸にしていった。

しかし、少女はそれにまだ気がつかない。


ある日、国でパレードが行われ少女はそれを見に行きました。

遠くからではあるが見る事ができた王と王妃。2人の堂々とした姿勢と美しさを見て少女は感激しました。

帰った後も2人の姿を忘れられない少女は2人の絵を描こうと決め、早速作業に取り掛かりました。2人の姿をいつまでも鮮明に思い出せるように少女は気合を入れて描きました。

そして長い時間をかけてついに少女は絵を完成させました。渾身の出来です。少女は達成感と喜びを感じました。


これが悲劇の始まりでした。


少女が王と王妃の絵を描きあげた次の日。

王と王妃の顔が膨れ上がり、全身の肌にイボや吹き出物が出てきてしまい別人のように変わり果ててしまった。この謎の症状は何なのだと国中の人達が協力して調べ上げた結果、少女が2人を呪っている事が判明した。

国王は寝込んだ状態のまま少女を捕らえるよう騎士達に命じ、騎士達は一刻も早く王と王妃の呪いを解くために少女がいる家まで行き少女を捕まえようとします。

しかしその頃には多くの魔法を習得していた少女は空を飛んで逃げてしまいました。少女は逃げながら何故こんな事になったのか知りました。自分が多くの人達に絵を介して呪いをかけていた事を知りました。


「そうだったんだ。かわいそうに。」


そうと知った少女の感想が、それだった。


少女には罪悪感や罪の意識がなかった。

人に不幸が降りかかると知った後も少女は絵を描き続けました。

肖像画が駄目なら風景画なら大丈夫だろうと風景画をたくさん描きました。するとモデルとなった場所が突然荒れ果てたり、危険な魔物が生息するようになったりと被害は拡大。

それでも少女は絵を描き続けました。

そのせいで多くの人達が不幸になり、死んでいった。

やがて少女の所業は多くの人達に知れ渡り、少女は魔女と呼ばれるようになった。


魔女を倒そうと国や種族の垣根を超えて多くの人達が協力し合い、死力を尽くして魔女と戦った。そしてついに、魔女を捕らえる事ができた。そしてすぐに魔女を殺そうとしました。

しかしできませんでした。

魔法の技術の腕も上がっている魔女が魔法を使って身を守っているため剣で殺そうとしても魔法で殺そうとしても毒で殺そうとしても高所から突き落として殺そうとしても様々な処刑方法で殺そうとしても魔女は死にませんでした。


そこで人々が次にとった行動は封印でした。

魔女が逃げないように、魔法が使えないように、2度と絵が描けないように枷をつけました。見た目は紫色の宝石がついた首飾りですが、多くの人達が慎重に丁寧に幾重にも重ねた強力な呪いがこめられたもので魔女であろうとそう易々と外せるものではない。

そして衰弱死させるために明かりが一切入らない地下に魔女を放り込みました。

魔女を閉じ込めて、人々は安心しました。これで魔女は死んだも当然。もうこれ以上魔女によって苦しむ事はないと思いました。


けれど魔女は生きていました。

何百年経っても魔女は死んでいませんでした。

枷をかけられても魔女は何とか魔法を使えたからです。不老不死という外法を。それのおかげで魔女は生き長らえていました。

それでも魔女は枷のせいで外に出られませんでした。そして何も無く何も見えないため絵が描けませんでした。


「どうしてこんな事に。私、なにも悪い事をしていないのに!」


本当にそう思っていました。

魔女の中には罪悪感や罪の意識がなかった。それどころか自分には一切非が無いと感じていた。人々に不幸が降り掛かろうとも絵を描ければそれでいいと思っていた。

反省する気が一切無い魔女は地下から抜け出すためにまずは情報を集めるところから始めました。

実は魔女、捕まる前に分身をたくさん作りました。魔法と土から作った人形です。枷が付けられた状態でも人形を操作する事ができたので人形を遠隔操作して外の世界を見たり人との交流をとりました。それを何百年も続けました。


ある日、魔女は人形を通してある本の存在を知りました。魔女を題材にした本です。タイトルは【シルバーが思う魔女の解釈】。

魔女を題材にした本はこれまで数々のものを見てきた魔女だったが、その本は違った。魔女からすれば自分の悪口がたくさん書かれている本は表紙を見ただけで嫌な気持ちになったのに、その本だけは惹かれ人形を通して読んだ。

今までの本は魔女の悪逆さを後世の人達に教えるためにと有る事無い事書かれていたが、その本は魔女のこれまでの人生が書かれていた。前半は絵を描く前の少女だった頃の生活の様子をまるで見てきたかのように詳細に書かれており、後半は少女がどうして魔女になったのか考察する内容だった。


読み終えた魔女は充実感に満たされた。そして何度も何度も読み返した。そしていつしかこの本を多くの人達に読んでほしいと思うようになった。

しかし、この本と作者は知名度が低いのか読んでくれる人が少ない。どうすれば多くの人に読んでくれるのだろうと魔女は考えて、ある事を思いつきました。

他の本をなくしてこの本とすり替えてしまおう。そうすれば読んでくれる。そう思いました。


こうして魔女は人形を使って長い時間をかけて既存の本を盗み、燃やし、埋めていきました。そして既存の本があった場所に【シルバーが思う魔女の解釈】を置きました。

何百年も経っていたため魔女と会った者はほとんどいなかった上に魔女に対抗する力を持つ者がこの時代にはいなかったため魔女の工作は滞りなく進んだ。そして魔女の狙い通り、人々は【シルバーが思う魔女の解釈】を読むようになった。

すると本に書かれている魔女に惹かれた人々は次々と魔女に関する新しい本を執筆、出版し始めた。内容は最初に出版されたものとは少し違った。理由は真実を知る者がその時代にほとんどいないため、わずかに残った資料を元に何とか本として形にしたせいだ。


こうして真実は捻じ曲げられてしまい、魔女に関する情報が間違った状態で後世に残ってしまった。

そのせいで魔女は凶悪な魔法を使うという曖昧な情報だけが残ってしまった。

魔女がいる場所がほとんどの人達に忘れられてしまったため魔女がいる地下の上に大きな学園が建ってしまった。

人々は魔女の間違った知識を身につけてしまった。


それからまた長い時間が経った。


学園に忍ばせていた人形を通して魔女は1人の少女に出会った。明るい性格で前向きな姿勢で努力家で行動力があるとても魅力的な少女だ。そのため少女の周りには多くの人がいた。魔女もその内の1人。

人形を通してはいるが少女と一緒にいるととても楽しくてついつい時間を忘れてしまう。少女の存在は魔女にとってかけがえのないものだった。

さらに少女とその友人達が魔女を拘束する紫色の宝石を破壊すると言ってくれた。

魔女は思った。なんていい人達なんだろうと。

少女達が紫色の宝石を破壊してくれる事を期待して魔女は少女達の事を応援し手伝った。


そしてついに、少女達は紫色の宝石を壊してくれた。

魔女は歓喜した。宝石が破壊されたと同時にかつての力を取り戻せている事を実感できた。

本当は少女達にきちんとお礼を言いたかったが早く逃げないと悪い奴らがやって来てまた自分を閉じ込めると思った魔女は急いで魔法を使った。いずれ紫色の宝石が壊れる事を予想してあらかじめ考えていた魔法だ。その魔法は転移。それもこことは違う世界への転移魔法。


「ありがとう。」


転移する直前、魔女は少女に向けてお礼の言葉を口にする。しかし長年喋らなかったため声がうまく出なかった。これでは聞き取ってもらえないと思い人形を通してもう1度礼の言葉を口にすると魔女は自分を逃がしてくれた少女達への感謝の気持ちを胸に魔女は新天地となる世界へと逃げていった。



◆◇◆◇◆



鼻歌をしながら仕事に勤しむ。大量にある仕事を手際よくこなしていく。多忙ではあるが充実感があるため全く苦ではない。


そんな時、空間に歪みが生じた事を感じた。

何が来るのかと思い身構えていると空中に小さな亀裂のようなものが生じ、人の頭よりも少し大きいくらいの穴が空いた。そしてそこから少女が顔を出す。


「ようやく見つけた! 魔女!」


少女が誰だったかすぐに思い出せなかった。

しかし、まじまじと顔を見てようやく思い出せた。目の前にいる少女はかつて魔女の紫色の宝石を壊す手伝いをしてくれた恩人。それが魔女が少女に向ける認識だ。


「久しぶり! 元気にしてた?」


魔女は旧友に会ったかのように接する魔女の態度に少女は苛立つ。


「元気なわけないでしょ。あんたのせいで国はめちゃくちゃ! 人もたくさん死んだのよ!」

「? 何を言っているの。私のせいじゃないよ。ここにいる私がそんな事出来るわけないじゃないか。」


魔女のせいである。

別世界からでも魔女の呪いは届いた。


魔女はこの世界に来てから仕事としてたくさんの絵を描いた。その内容はかつて魔女がいた世界の絵。人物絵も風景画もこの世界の需要に合わせて描きまくった。そのせいで今、魔女がいた世界では多くの災厄が降りかかっている。


「でもそっか。そっちは大変なんだ。私の方も大変だよ仕事が忙しくてまいっちゃう。でもすっごく楽しいよ。」


そう言いながら魔女は自分の机の上にある紙を数枚少女に見せる。


「社外秘だけど、君には特別に見せてあげる。これ、私が描いた絵なんだ。ゲームで使われる絵を私1人で描いているんだ。」


そう言って魔女が見せてきた絵に少女は見覚えがあった。


「そ、それ。その絵って。嘘つかないでよ! あんたが描いたわけないじゃない!」

「え。嘘なんてついてないよ。」

「だってそれ、7人の王子と紫の魔女のイラストじゃない!」


そう。魔女が見せた絵は少女がやり込んだゲーム、7人の王子と紫の魔女で出てきたイラストそのものだった。

ゲームの制作に魔女が関わっていた事に少女は信じられなかった。


「7人の王子と紫の魔女。いいねそれ。分かりやすくて良い。凄く良い。その名前採用。」


そうとは知らない魔女は机の上にあったメモ用紙に早速書き留める。


「実はゲームのタイトルだけが決まらなかったんだ。でも君のおかげで発売ができるようになるよ。ありがとう。君にはいつも助けられてばかりだ。」


魔女は笑顔で本心からの言葉を少女に伝える。

それによって神経を逆撫でされた少女は穴から身を乗り出して魔女に掴みかかろうとするが、超えられなかった。穴から出ようとすると見えない壁にぶつかってしまい魔女の元に行く事ができない。

空間転移は高度な技。少女と魔女がこのような形で会話が出来ている事ですら難易度が高い。

少女は魔女を捕まえるために様々な方法を使って何とかこうして魔女と話をできる状態まで漕ぎ着けたが、それが限界だった。 

 

「この、卑怯者! こっちに来なさいよ!」


少女が出来るのは魔女に対して怒鳴りつける事だけだった。


「嫌だよ。締め切りまで時間がないんだ。確か後、どれくらいだっけ。」


魔女は机の上にある卓上カレンダーを持ち上げて日付を確認する。

魔女の持つカレンダーを見て少女は固まった。そのカレンダーの年月は7人の王子と紫の魔女が発売される前のもの。つまり、魔女が今いる世界は前世の少女がいた過去の世界だと気がついてしまった。


「さて、早速社長に報告しないと。これからさらに忙しくなるぞ。」


魔女は嬉しそうにしながらその場から立ち去ろうとしたが、すぐに立ち止まり机の前まで戻ると1枚と紙を手に取って少女に見せる。


「そうだ。実は君に見てほしいものがあるんだ。これなんだけど。」


そう言って魔女が見せてきたのは7人の王子と紫の魔女の主人公。つまり、目の前にいる少女のイラストが描かれた紙だ。


「君をモデルにしたんだ。」

「ひっ!」


魔女が無自覚に使う呪いの事を知っている少女は恐怖のあまり悲鳴をあげる。自分もこれから呪われる事を目の前で突きつけられたのだ。


「それじゃあそろそろ行かなくちゃ。会えて嬉しかった。また会おうね。」


少女が何かを言う前に魔女は手を1回横に振ると穴が瞬時に塞がってしまった。まるで通話を切るように少女が必死で行った高度な魔法を魔女はあっさりと消した。

そしてメモを片手に魔女は今度こそその場から立ち去っていった。



◆◇◆◇◆



7人の王子と紫の魔女。というタイトルのゲームがある。

シルバーという名前の会社が作り販売された物でジャンルは恋愛シミュレーションゲームで世間からは乙女ゲーとも呼ばれている。

難易度を選べるため初心者でも楽しめる上に背景絵やスチルは美麗で描かれているキャラクター達も魅力的であり、ストーリーも高い評価を得ている。

人気のゲームとして話題となり、多くの人達がそのゲームをプレイした。


そのゲームの開発にイラストレーターとして加わっていた魔女はゲームの評判を知って嬉しく思った。

異世界からやって来た魔女を拾ってくれた社長に感謝しつつ魔女は私物のパソコンを起動させゲームの評判をじっくりと調べようとした。そこであるネットニュースが目に止まった。


女子高生が突然街中で心肺停止。原因は不明。


それを見て魔女は思った。かわいそうに。と。

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