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5.

 鍋を洗っていて、本当によかった。

 数十分前の自分をほめてあげたい。

 鍋を洗っていなければ今ごろ、私は全身カレー人間になっていたのだ。

 危ないところだった。

 もう少しで、全身からスパイシーなにおいを漂わせなければならなかった。

 

 あ、それは今も、漂っているか……。

 先代の聖女がそう言っていた。

 自分ではわからないのだけれど、私ってそんなスパイシーな香りなのかしら……。

 悪女としてでも、聖女としてでもなく、一人の淑女として、気になるところである。

 まあ、今はそれよりも気になることがある。

 

 どうして、私がまた、追放されないといけないの?


 デイヴィス殿下が私に下した追放宣言は、陛下が取り消してくれた。

 それなのに、どうしてまた……。

 そうか……、陛下はお歳を召していて、体調が優れない日が続いている。

 設備の整った病院へ移るかもしれないという話があったが、もしかしたら、実際にそうなったのかもしれない。


 だから陛下がいない間に、デイヴィス殿下は私を追放しようとしているのかしら……。


 おそらく、そうなのだろう。

 ということは、状況は私にとって最悪である。

 陛下がいないということは、デイヴィス殿下の蛮行から守ってくれる後ろ盾をなくしたに等しいのだから。

 もし見つかれば、何をされるかわからない。

 さて、残された問題はまだある。


 私はいつ鍋から出ればいいのだろう……。


 兵たちはおそらく、全員この部屋から出て行った。

 しかし、いなくなったと思わせて、隠れていた私が現れたところを捕える、という頭脳プレーを実行している最中だとしたら、今鍋から出るのは得策ではない。


 兵たちが息をひそめて、私が現れるのを待っているのかもしれないのだから。

 ……いや、それはないか。

 あの脳筋集団に、そこまでの知性があるとは思えない。

 本当に部屋から出て行っている可能性の方が高い。


 そう判断して、私は鍋のふたをそっと開けてみた。

 そして、辺りを見渡した。

 うーん、誰もいない。

 どうやら、危機は脱したようだ。


 とはいえ、それは一時的なこと。

 兵たちはまだ私を捜している。

 いつまでもここに隠れていても、見つかるのは時間の問題だ。

 かといって、どこかに逃げるにしても、どうやって大勢の兵に見つからないように逃げるのか、それが問題となる。


 あとは、そろそろお腹が減ってきたという問題もある。


 いや、ふざけているわけではない。

 真面目な話、私のカロリーが底を尽きると、魔力が供給されなくなった結界が、消えてしまうのだ。

 私の空腹は、私だけの問題ではなく、この国全土の問題でもあるのである。


「あれ? 何か聞こえる?」


 部屋の方に、足音が近づいてきている。

 いったい、誰だろう。

 いや、とにかく隠れないと。

 私は、再び鍋の中に隠れた。


 数秒後、部屋のドアが開いた音がした。

 誰かが部屋に入ってきた音が聞こえる。


 部屋に入ってきたその人物は──。

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