3.
「あぁ、おいしいなぁ……」
何時間も煮込んだカレーが完成したので、私はそれを堪能していた。
カレー粉を入れ忘れていることに、途中で気付いて本当によかった。
気付かなかったら、ただお湯で沸かしただけのよくわからない物を食べなければいけないところだった。
「自分でいうのもアレだけれど、カレーを作る腕だけは、なかなかのものだわ」
具材は溶けて形がなくなっているが、その味がカレーの中に染み込んでいて、とてもおいしい。
これならご飯が何杯でも食べられる。
いや、比喩的な意味ではなく、本当に私は何杯も、否、何十杯も食べていた。
ライスと一緒に食べたり、ナンに付けて食べたりと、私は存分にカレーを味わっていた。
「ふぅ……、ごちそうさまでした」
お鍋一つ分のカレーを食べ終わった。
さて、これから洗い物をしなければならない。
これが、めちゃくちゃ面倒なのである。
だって、お鍋のサイズが、かなり大きいから……。
洗うのも一苦労なのである。
ここだけの話、毎回お鍋を洗っているわけではない。
三回に一回くらいの頻度で洗っている。
批判は、甘んじて受け入れよう。
しかし、考えてもみてほしい。
私は、一日に何度もカレーを作って食べるのだ。
それなのに、一度カレーを作るごとに鍋を洗っていたら、それだけで時間がかかってしまう。
確かに数時間洗わずに鍋を放置していると、鍋にカレーのにおいが染みついてしまう。
しかし、どうせこの鍋ではカレーしか作らないのだ。
カレーのにおいが染みついていようが、とくに問題ない。
という合理的な判断をして、三回に一回しか鍋を洗わないのである。
決して私がズボラというわけではない。
まあ、今回はそろそろ洗わなければいけない頃だったので、こうして洗っているわけである。
鍋の大きさは私と同じか、それよりも大きいくらいだから、本当に大変なのだ。
しかし、その作業もようやく終わった。
「ふぅ……、洗い物で体を動かしたから、お腹がすいてきたなぁ……」
また、カレーでも作ろうかな。
でも、次の食事の時間までもう少しある。
暇になってしまった。
聖女としての仕事が、何かあるわけではない。
結界には常に魔力を供給しているから、はたから見れば、私は何もしていないように見える。
魔力を供給するのも、それなりの疲労がたまるのだけれど、そんなことを言っても、誰も信じてくれない。
私が悪女ではなく聖女だと信じているのは、陛下を含め、数人しかいない。
それを、寂しいとか、悲しいなんて思わない。
信じてくれる人がいるだけでも、私にとっては救いなのである。
「……あれ? なんだか部屋の外が騒がしいな」
なんだろう?
たくさんの足音が聞こえる。
どうやら、王宮中を兵たちが走り回っているようだ。
いったい、何をしているのだろう。
私は廊下の様子を確認するために、扉に耳を近づけた。
「デイヴィス殿下の命令だ! 悪女を捕えろとのことだ! どうやら、あの悪女を追放するみたいだぞ!」
部屋のすぐ近くで、兵たちが話しているのが聞こえた。
へえ、悪女を追放ですかぁ……。
悪女って、いったい誰のことなんでしょう?
え、私?
いえいえ、私は悪女ではなく、聖女ですからね。
彼らが話していたのは、私のことではありません。
……さて、とりあえず、どこかに隠れようかな。