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2.

「悪女様、料理を持って参りました」


「あ、どうも、ありがとうございます」


 私は王宮に仕えるメイドから、()()を受け取った。

 メイドはその目的を終えると、すぐに去っていった。


「あぁ……、居心地悪いなぁ、この王宮」


 最初の頃はまだ、こんなことはなかった。

 メイドも私のことを聖女様とかシャロン様とか呼んでいたのに、いつの間にか嫌みの様に悪女様と呼ばれるようになっていた。

 

 メイドが料理とよんでいる()()も、以前とは大違いだ。

 以前はお皿に乗って料理が運ばれてきたのだけれど、今は籠に入った食材が運ばれてきている。

 メイドたちは、これは料理と呼んでいる。

 まあ、食材を持ってきてくれるだけ、ありがたいと思っておくことにする。


「さて、それじゃあ、料理を作りますか」


 私はさっそく準備に取り掛かった。

 そうそう、なぜ殿下に追放を言い渡されたのに、私がまだこの国にいるのかというと、まあ、いろいろと理由があるのだ。

 しかし、今はその説明よりも、料理を作ることに専念する。

 

 さて、先述の通り、私は結界を維持するために、莫大なエネルギーを消費する。

 エネルギーというのはつまり、カロリーのことだ。

 要するに、私は大量に食べないと(常人の百倍ほど)、結界を維持できなくなるのである。


 だから、私は一日十食食べることにしている。

 一食の量も、普通の人とは比べ物にならない。

 しかし、そこである問題が生じることになる。


 私のスレンダーボディが維持できない、というのではない。

 どれだけ食べても結界を維持するためにカロリーを消費するので、その心配はない。

 いくら食べても太らないというのは、私にとっては嬉しいことだ。


 問題は、料理の味に飽きることである。

 一食の量も多いのに、一日に十食も食べるのだ。

 これでは味に飽きてしまうのも無理はないだろう。

 そこで私が問題を解決すべく取った行動は、料理のレパートリーを増やすことだ。


 しかし、それはすぐに断念した。

 まず、私は料理が苦手なのだ。

 手際も悪いし、いろいろな種類の料理を作れるほどの知識も技術もない。

 よって、レパートリーを増やすというのは諦めて、次の策を採った。


 それは、すべての食材をお鍋に入れ、その中にカレー粉を入れるというものだ。

 お鍋といっても、こじんまりとした可愛らしいものではない。

 食堂なんかに置いてある、何十人分も作れる、あのどでかい鍋である。

 しかも、料理が下手な私でも、これなら美味しく作れる。


 食材を綺麗に洗って、適当な大きさに切って鍋で煮込めばいいだけだからだ。

 少々大きく切ってしまおうが、どうせ煮込めば溶けてなくなるのだから問題ない。

 最近では切らずにそのまま鍋に放り込むというズボラっぷりを発揮しているくらいだ。


 そして何より、味に飽きない。

 これが、何よりも重要である。

 カレーは毎日食べても飽きないというのは、本当だったのだ。

 何年も実施している私が言うのだから間違いない。

 この方法によって、料理が下手な私でも、毎日飽きずに食事を楽しめるというわけだ。


 この方法を考えた時は、自分が天才なのではないかと思った。

 思わず、そのことを先代の聖女に話してみたところ、「だから君からはスパイシーな香りがするのか」と言われてしまった。


 もう少し彼は、思いやりというのを学んだ方がいい。

 あれ、どうして聖女なのに()なんだ、と思われたかもしれない。

 それには、深い理由があるのだ。

 そのことも、追々説明しよう。


「あぁ、早く完成しないかなぁ……」


 煮込み始めて数十分が経過した。

 その時、食材を並べていた台に、カレー粉だけが残っていることに気付いた。

 

 私は慌ててそれを鍋の中に放り入れた。


     *


 (※デイヴィス殿下視点)


「陛下! どうしてあの女を追放してはいけないのですか!」


 私は、陛下が眠っている部屋に直談判に来ていた。

 なぜか、陛下はあの女を追放することだけはダメだと言って、私の決定を取り下げさせたのだ。

 今では国のことは私に任されているのに、どうしてあの女の追放のことだけには口出しをしてきたのか、理解できなかった。


 こんなの、ありえない。

 あんな悪女を王宮に置いておくなど、あってはならない!

 そのことを陛下に説明しても、帰ってきた答えは……。


「お前は何もわかっていない。とにかく、彼女を追放なんて、二度としてはならん。……私はこれから、設備の整っている病院へ移って、一か月ほど帰ってこれない。国のことは、頼んだぞ」


「はい、お任せください、陛下」


 私は頭を下げた。

 そして、思わず笑っていた。

 

 そうか、陛下はしばらく王宮から離れることになるのか……。

 それは、ちょうどいい。


 まったく、聖女なんて眉唾を、どうして陛下は信じているのか。

 言い伝えだとか古くからの習わしだとか、これだから年寄りはいけない。

 そんな非現実なことを信じるなんてどうかしている。

 私はそんな眉唾は信じない。


 戯言ばかり言って王宮に居座っているあの悪女を、陛下がいない間に追放してやる……。

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