1.学校の屋上って大体立ち入り禁止だよね。
何を考えているのかがよく分からない。
それが友人たちによる織原真琴評だった。
ある友人は「一体何に感動するのかが分からない」と寸評したし、またある友人は「美味しいとかそういう感情ってある?」なんて感想をぶつけてきた。
中学の時、良く知りもしない男子に告白された時は淡々と理詰めで「相手のことを良く知らないのに好きっておかしくない?」「お互いを良く知ってからでも遅くはないんじゃない?」「でも私、そんなに友達を増やしたいとかないんだよね」「そもそも恋人を作りたいって願望もないし」「君は私を好きみたいだけど、私は君のことを全く分かってないからなんともいえないかな」などといった言葉を並べてばっさりと切り捨てたら、野次馬に来ていた男子から「もうちょっと手心を加えてやれよ」なんて文句までつけられたこともあるくらいだ。
言いたいことは分からなくもない。
自分のことを客観的に分析してみても、正直何を考えているのかが分かりにくいというのはもっともだと思う。
もっと言うと、実際に「何を考えているのか?」という問いを自らに投げかけてみても、答えらしきものはとんと浮かび上がってこないだろうとも思う。その代わりに出てくるものと言えば「とにかくめんどくさい」という厭世のような感情だけなのだ。
高校二年生にもなれば大学受験を筆頭に、将来についていくつかの選択肢が現れ、それらから取捨選択をしていくことになるわけだけど、それに関してもぶっちゃけ「面倒だな」としか感じていないし、一度「進路希望調査用紙」に名前と「特になし」というデカデカとした文字だけ書いて提出したら、担任の教師から呼び出しを食らって、進路指導という名の、余計なおせっかいをかけられたことがあって、それ以降は形だけ志望校を書いて提出するようにしている。
そんな何事にも興味の薄い真琴のもとに、女友達二人によって、実に眉唾物の噂話が持ち込まれたのは、そろそろ夏も本番という七月のある日だった。
「ねえ、知ってる?屋上に幽霊が出るって話」
「幽霊?」
噂を持ち込んだ西村は実に嬉しそうに、
「そそ。幽霊。ほら、屋上って立ち入り禁止になってるじゃない?でもね、聞いたところによると、あれってずっとそうだったわけじゃないんだって」
真琴の、前の席に座り、前後逆さにして椅子に座って話に参加してた伊藤が、
「マジ?でも、うちらが一年生の時はもう閉鎖されてなかったっけ?」
西村が待ってましたとばかりに、
「そう。だけど、私たちが入学するちょっと前までは、普通には入れたんだって。でも、今は入れなくなってる。なんでだと思う?」
真琴がさらりと、
「危ないから?」
西村が不満げに頬を膨らませ、
「んもー違うって。それならずっと立ち入り禁止になってるはずでしょ?」
伊藤が、
「じゃ。なんでなんだよ?」
西村はこほんと咳払いをして、もったいぶり、
「それがね…………どうも、幽霊が出るみたいなの」
「幽霊って、あの?」
逆に他にどの幽霊がいるんだ。真琴は心の中でツッコミを入れる。これを口に出していると話が進まないことくらいはここ一年余りで学習済だ。
西村は重々しく頷き、
「そう。その幽霊。なんでも過去に屋上から飛び降り自殺をした生徒がいるらしくって、その生徒の霊が今もさまよってるんだって」
「うわぁ……怖え」
うわぁ……どうでもいい。
という感想は、心の奥底にしまっておいた。今、そんな感想を口にするべき時じゃないことくらいは流石に分かっている。つもりだ。
西村はすかさず真琴にも感想を求める。
「どう?織原。怖くない?」
「怖いっていうか……その自殺って、結構前の話だよね、多分」
「え?うん。そうだと思うけど」
「思うって……まあいいや。ってことはだよ?屋上を閉鎖するならその時点で閉鎖してるんじゃないの?」
西村はよどみなく、
「それは、ほら。この噂を聞きつけて肝試しにくる生徒が一杯出たとかじゃない?」
言い切ったよ。
なんともふんわりとした理由だなと思う。たかだかそんなことくらいで屋上への立ち入りを禁止したりするだろうか。幽霊騒動を原因として封鎖するくらいなら自殺なり事故なりで生徒に死人が出たタイミングで封鎖してなければおかしいのではないか。
起こったのかも怪しい自殺に、出るのかも分からない幽霊。大人がそんなものをいちいち真に受けて行動するとはどうしても思えない。大方柵が老朽化してきて危ないからとかそんなところなんじゃないだろうか。
「そこで……じゃん!これをご覧あれ」
西村が二人に向けて見せてきたのは鍵だった。
真琴は思わず、
「え、まさかその屋上の鍵じゃないよね?」
西村は不満げに、
「ちょっと、先に答え言わないでよー」
「あ、えっと、ごめん」
そうか。西村はこれを見せたかったのか。まさに今話をした、屋上の鍵がここにあります、といって見せびらかしたかったのか。
が、そこで一つの可能性が頭に浮かぶ。
それは、
「え、もしかして、これ、使うつもり?」
西村は「なんでそんなことを聞くの?」と言った感じの表情で、
「そうだよ?そのためにコピーしたんじゃない」
コピーした。ということは今目の前にあるこの鍵は屋上の鍵の複製ということだ。そんなことバレたら当然一大事だが、西村の関心はそこには無いようで、
「ねね。これ使ってさ。屋上、行ってみない?もちろん、夜に。肝試ししようよ」
伊藤がここぞとばかりに身を乗り出して、
「いいね!やろうやろう!織原も行くよな?」
「え、私?」
「そうだよ。んだよ、びびってんのか?」
そんなことは微塵もない。ないのだが、この時点で行かないという選択肢はそのまま「ビビっている」という結論に直結してしまう。
正直それでも構わないといえば構わないのだが、たかだか学校の屋上に行って肝試しをする程度のことを避けるだけでビビり扱いされるのもちょっと癪だ。
そうなると答えは一つで、
「別に。いいよ。行くよ。だけど、あんまり遅くなるのはNGね」
それを聞いた伊藤は拳を打ち合わせ、
「よし!決まりだな。いつにする?もう今日行っちまうか?」
西村も賛同の意を示す。
「そうだね。あんまり試験期間が迫ってからじゃない方がいいよね。織原もそれでいい?」
「あー……」
真琴は一瞬だけ悩み、
「うん。大丈夫。今日の夜ね?時間は何時くらいにしようか」
西村がスマートフォンを確認しながら、
「そうだね……本当は丑三つ時がいいんだけど……それだと遅すぎるから、午後八時くらいかな?」
「ん、りょーかい」
と、受け答え、スマートフォンを操作して、アラームを設定する。忘れたり、寝ていた李することは無いと思うけど、一応念のためだ。
楽しみだなーと思いを馳せる伊藤に、警備に見つからないような侵入ルートについて説明をする西村。
そんな会話に相槌を打ちながら、真琴は一人、計画を練る。数時間後。家から“脱出”し、学校の前に集合する、その作戦を立てる。午後八時。なんでもないその時間は、織原家の門限より一時間ほど後なのだった。
次回更新は明後日(8/20)の0時です。




