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第34話 キラリアの頼み

VS魔王城の次の日にバーツ達と会ってから、一月近い月日が経ったが、バーツ達とはそれ以降会えていない。

理由は簡単で、あの日から3日後に黒衣獣ダスティマニアが出現し、2日前にも現れたからだ。


この影響で天馬も月音も忙しいみたいだし、場内もバタついている。


暇しているのはいつも通り、俺くらいなんだろうな。


いつもより閑散とした図書館を見てそう思った。

人も本もいつもより少なく見える。


黒衣獣ダスティマニアに関しては、2匹とも天馬がパパッと倒してくれたらしい。それでも生態系への影響や被害も大きいようで、後処理に追われているようだ。


黒衣獣ダスティマニアの出現速度としてはいつもよりも早い間隔のようで、次がいつになるかなんて誰にもわからない。


統計で考えれば今週は安全かもしれないが、誰にも読めないのが黒衣獣ダスティマニアの困った点だ。

趣味や副業で狩りをしているバーツ達のような人は、リスクを考えたら狩猟には出れなかった。


予定もないし、俺は天馬と月音のように、前線で役に立つ事もないしなぁ。

結局、帰り方についての研究を進める他なかった。


ただ、変わった事もある。


「ああ、ナギト様ぁ。今日もお勉強ですかぁ?」

「あ、うん。まだまだわからない事が多いから。」

「うーん。いつ見ても難しい内容ばかりですね。」

「そんなに難しいものでは無いですよ。」

得意属性じゃなかったら、分からなくて当たり前なんだから、この世界では当たり前だと思うけど。


「でも、私にはわかりませんもの。」

「そうですか。」

「ですので、私に出来るお手伝いを考えてきましたの。」

小さな小袋が手渡された。

甘い匂いがする。


「チョコクッキーですの。こまめな休憩もお勉強には大切なお時間ですからね。」


それだけ言うと、後ろで見ていた人を連れて去っていった。


今日は差し入れまで貰ってしまったが、こんな感じに声をかけてくれる人が明らかに増えた。

これは女性に限った話ではなく、図書館でも魔法練習場でも、男女問わず明らかに増えていた。


もともと全く声をかけられないって訳ではなかったが、今ほど多くはないし、自分を見られてる気はしなかった。

天馬や月音の話題なら良いんだが、勇者として声をかけられると何を答えたら良いのかよく分からなかったんだよな。


それが今は、VS魔王城での事で声をかけられて、それから続けて話しかけてくれる人が増えた。


勉強してる内容だったり、練習している魔法の事だったり、他愛の無い会話の時もあるけど、前よりも関わる人の数が増えた気がする。


その分、会話の数が減った人もいるけど。


黒衣獣ダスティマニアの影響で仕事が増えたとなると必然的に、キラリアさんのお仕事も増えている事だろう。

ここ最近、城内でキラリアさんを見かける事があっても、図書館では見ていなかった。必然的に声をかけるタイミングも無い。


いつだって見かけた時は、堂々と背筋を伸ばし、一切の疲れを見せず、顔を崩してなんていなかった。

けれど、その隣を歩くピークさんは、頻繁にキラリアさんの顔色を確認していた。

顔には出していなかったけど、ピークさんとしても気が気でないんだろうな。


きちんと休憩出来てないって事だと思うけど。


俺に何か出来ることってあっただろうか?

キラリアさんにはお世話になっているから、手伝えるなら手伝いたいけど。


考えてもパッと出ない。

俺は別に頭脳だって秀でている訳でもないからなぁ。

結局、何も思い付かないまま勉強を進め、図書館を後にした。


モヤモヤするし、少し休憩でもしようかな。


ここで飲食をしても良いんだけど、気分を変えたいしなぁ。

貰ったチョコクッキーの包みを持って、図書館を後にする。


お城にある庭園のベンチで包みを開くと、言われた通りのチョコクッキーが姿を表した。


パク。

あ、普通に美味しい。



黙々と食べながらぼーっとしていると、廊下を歩くキラリアさんが目に入った。


ピンっと伸びた背筋に、キリッとした大きな瞳は真っ直ぐ前を見据えていた。


あんな堂々とした佇まいで、疲れ一つ見せない姿を見たら、誰が彼女を心配するのだろう?


誰もがキラリアさんの病気を知っているはずで、その中で仕事をしている事も知っているんだろうけど。


ピークさんは心労でやばそうだけど、そんな姿も周りからは大げさとか思われていそうで、悲しい話だ。


キラリアさんはいつだって、その心を見せない。

いつ見ても彼女は凛とした佇まいで、弱さなんて感じない。


彼女の病を知り、黒衣獣ダスティマニアについて理解を深めた今、彼女の痛みは想像がつく。

動物なら理性を完全に失うほどの痛みを彼女はどうやって制御してるのか?


嘘だろと言いたくなるのもわかるけど、傷や痛みを消しまくってる俺の台詞じゃ無いのかな?


彼女がどうしてそこまでして、平気なふりをするのかなんて知らない。

王子様が理由かもしれないし、もっと違う何かかもしれない。


そこに意味なんて無いのかもしれないけど。とりあえず、俺が否定は出来ないんだよ。



キラリアさんが俺に気づき、こっちに寄ってきているのがわかった。

だから俺も動き出す。

ベンチに俺の分身を残しつつ。


これは俺のただの杞憂かもしれないけど、間違っていた時困るから。


キラリアさんが庭園に踏み入れる時、小さいが見落としやすい段差で姿勢が崩れかけた。


直ぐに手を取って支えとなる。

側から見ても一瞬不自然に止まっただけで、よろけた様にも見えないんじゃないかな?


まぁ、キラリアさんの中でパニックが起きてる見たいだけど。


ベンチに座って見えた俺が突然横で手を取っていたら当たり前か。

でも、ベンチの俺もまだ残っているし。



ここで一つ思った。俺の偽装系の魔法は簡単に看破される。それは仕方ないと諦めている。

そして今、透明になっていた俺がキラリアさんの手を取った事でキラリアさんは違和感に気づき、俺の魔法を看破したことになるのだが、不特定多数にはどうなるんだ?

一人には看破されても、他の人には効力が出たままなのだろうか?


それとも一人に合わせて全部消える?


どうなんだろ?

バーツ達にはバレてないけど、気づいてる人とかいたか?いや、いたならバーツ達が何か言われてるよな?


面倒な事になる前に調べないとかも。


「こんにちは。ナギト様。休憩中ですか?」


キラリアさんの声で思考から戻る。

キラリアさんは、ベンチにいる俺に話しかけてくれたみたいだ。


そうしてくれるなら、魔法自体は溶けてない?


ベンチに座っていた分身を立たせつつ、同じ場所に俺自身も移動する。


違和感なかったかな?


「うん。天気も良かったから。」

「そうですか。お隣良いですか。」

「あ、はい。どうぞ。」


食べていたクッキーを退かせつつ、俺もまたベンチに戻る。


「それは?クッキーですか?」

「あ、そうです。休憩のお供にってくれたんです。お一つ食べますか?」

「……いえ、遠慮しておきますわ。」


なんか間があった?

市販の物でもないし、遠慮したのかな?


そっか。こういうのは自分で食うべきだよな。

あんま経験が無いから勝手がわからなすぎる。


「それでさっきのはなんでしたの?」

「分裂してたやつですか?」

「分裂してましたの!?分身では無く??」

「あ、いや。分身の方が正しいですね。」

「…そうですわよね。」

「はい。」


この世界だと出来る事多いから、下手な言葉選びしちゃまずいんだな。


「それで立っていたのは?」

分身と別に立っていた理由か。キラリアさんの佇まいがいつにも増して洗練され過ぎていて、逆に心配になったんだよね。


「驚くかなって思って。」

まぁ、そのまま言うことでも無いかな。


「確かに驚きましたわ。」

「すみません。突然。」

「いえ、私も助かりましたわ。」


キラリアさんが少し恥ずかしそうに顔をそらした。

一応助けにはなったっぽいし、選択としては間違ってなかったかな?


黒衣獣ダスティマニアが出て、やっぱりキラリアさんも忙しいんですか?」

「そうですわね。わかっていて色々と準備してきたはずなんですが……難しいですわね。」


キラリアさんってお手伝いしてるだけなんだよね?めちゃくちゃ仕事を受け持ってそう。


「そうなんですね。俺に出来る事があるかはわからないんですが、天馬や月音と違って暇している事も多いので、困ったら言ってください。出来ることなら、なんでもしますよ。」


「……本当ですか?」


あれ?キラリアさんの目が少し変わった?


「え、はい。俺に出来ることなら。」

「ナギト様はBランクのモンスターを狩ったことはありますか?」

「そうですね。パーティではあるけど、Bランクなら倒したことありますよ。」


「でしたら大丈夫だと思いますわ。そこでお願いしたいことがありますの。」

「お願いですか?」


そう聞くとキラリアさんは頷いて見せた。






そしてやってきたのがキラリアさんが生まれ育った土地にある廃墟というか街が森に飲み込まれたのかな?


建物がいくつか埋まって見える。


なんでもするとは言ったけど、まさか遺跡調査をお願いされるとは。


もっと雑用的なのを想像していたのに予想外過ぎるんだけど。

本当に俺で良いのかな?





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