第33話 聖女 月音様
「はぁ〜、ありがたやありがたや。」
「聖女様、ありがとうございます!」
「すっごい!めちゃくちゃ体が軽い。」
さまざまな反応が届けられるが、好意的な言葉しか来ないってのは、やっぱり嬉しいね。
「いえいえ。」
全てに返事も出来ないので、笑顔で手を振っておく。
ほとんどの人が手を振りかえしながら、会場を出ていった。
アイドルってこんな感じなのかな?思ったよりも気持ちいい。
ずっと続けるのは疲れるのかもだけど、この世界だと私、回復魔法のおかげで疲れ知らずだからなぁ。
今日は聖女様の10秒エステを開催日。
毎度のことだけど、大盛況だね。会場に人が入りきらないので、数回に分けて行うんだけど、1番時間かかるのが、人の入れ替わりって点がやばいよね。
まぁ、お代については、本当にお布施にしてしまった。最低ラインが100円くらいで、そこから先は好きにしてって感じになっている。
理由としては、正式に値段をつけると、それなりの値段になってしまうのが嫌だった。
来れない人やお財布に無理させて来てくれる人を作りたくなかったんだよね。
別にたいへんなことでもないし、お金にも困ってなかったから。
ただ安くしすぎると、この国の産業の一部を破壊しかねないとも言われたので、開催数を犠牲にする事にした。
初めての開催時は、連続3日行うけど、そこからは不定期で特に告知もしていない。
今後もやるとは思うけど、時間あったらねって事になっている。
高難度魔法を格安で提供しすぎるのは、色々良くないんだろうね。
とりあえず回復魔法や広範囲の魔法の練習としても、この活動はちょうど良いけど、今後は戦闘訓練もしたいから、日程埋めたくないしちょうど良かったんじゃないかな?
私的にはそう思ってる。デロイに相談してやっぱりよかったね。
そして、この活動を初めて気づいたことを聞いてほしい。私たちの元の世界の感覚を知っている人に、聞いてほしい!
まぁ、無理な話なんだけどさ。心の中で叫ばせてくれ!
この世界の人、若くないですか!??見た目!!!
お爺さんお婆さんっぽい人が全然いない。
来てくれた人達にも、あまり見かけなかった。
ちらほらとはいるんだが、なんか逆にその渋さが良いっていうか、敢えて老いを楽しんでらのかなって印象を受けた。
話に聞く感じ、ある程度老化を抑えられるらしい。魔法によって。
成長を止めることは出来ないので、一定量の見た目年齢は進むみたいだが、皺やほうれい線なんかは、魔法によるケアで誰しも若さが衰えないとか、凄まじく羨ましくないですか!?
この世界に来て1番、神かよ!って思ったことだった。
見た目的に若くても、寿命自体はほとんど変わらないみたいなんだけど。
若々しく死んでいけるのって、素晴らしい事だと思うんだよね。
まぁ、昨日まで元気だった人が、突然亡くなるのも悲しみがでかいとは思うし。
普通に話していた人が、突然動かなくなるのは恐怖だとは思うけど。
だんだんと動けなくなって、死を待たれるのよりは断然良いよね。
それが当たり前なら、慣れるだろうし。
「月音、後はスタッフさんに任せられそうだから行こう。」
「ん、わかった。」
「行きたい所とか、したいこととかあるかな?」
「んー、そうね。とりあえず少しお腹空いたかも。」
「わかった。最近有名なお店があるから、そこに行ってみようか。」
「うん。」
今日の場所が、ポータルで移動した場所にあったので、エステ終了後はデロイと一緒に国内散策に出る事になっていた。
行きたい所やしたい事があったら、連れてってくれるらしい。
「んー!!美味しい。」
林檎の酸味と生クリームの甘さがベストすぎる。
やっぱり、魔法を使った後は、甘い物が欲しくなるんだよね。
ナギナがなんか言ってた気がするけどなんだったかなぁ?
「ふふっ。」
「ん?どーかした?」
「いや、美味しそうに食べるなって思ってさ。」
「そうかな?」
「うん。ほら口元ついてるよ。」
デロイの手が伸びて来て、ほおに触れた。
クリームのついた手を反対の手で覆うように隠すと次の瞬間には消えてしまった。
「そんな事出来るんだね。」
「うん。元は魔素だからね。」
まるでマジックのような雰囲気を醸し出したデロイを見て笑みが溢れる。
だからか、ちょっとだけからかいたくなってしまった。
「でも、ちょっと勿体なくない?」
「うん。だから、貰ったよ。」
デロイが口を開けて舌を見せて来た。
先程のクリームが少しだけ乗っている。
「うん。美味しいね。」
笑顔を見せるデロイだけど……
不意打ちすぎるでしょ。
体の中の体温が一気に上がったのがわかった。
デロイがもっと、王道の王子様だったら良かったのに。
そしたら、私の心はこんなに乱されなかった。
初めて見たデロイの印象は、流石は異世界!美男子すぎる!だった。
ただそれだけだった。
他の騎士団の人達もみんながみんなかっこよくて、デロイもその中の一人としか思ってはいなかった。
そしてその後の印象もそんなに良くなかった。
なんか知らないけど、王子様に付き纏わられてる?
なんて思ってもいたからなぁ。
召喚された私たちが珍しいのはわかるし、交流を持ちたい気持ちもわかる。
転校生とかほっとけないからね。
けれど、明らかにデロイは私との交流が多かった。
ナギナと天馬にもう少し構っても良いと思うのに、私の所によく来るのを見て、唯一の女性だからなのかなぁ?とか思っていた。
異世界の王子様の割にチャラいなぁって、そんな印象だった。
けれど、流石は王子様で良い教育受けて来た事は、交流しているとなんとなくわかった。
教え方は懇切丁寧だし、わかりやすい。
話したい事があると、きちんと目を見て聞いてくれるし、話題が無ければ振ってくれる。
これがパーティが当たり前の世界の男性なのかって感心した。
少しずつデロイって人間を知って、知るほど印象を上がる一方だった。
そう思うと少しチャラけてるくらいが丁度いいのかなとか思っていた頃に、一つの話を聞いてしまった。
「はぁ、王子様。今日も麗しかったぁ!」
「メイ先輩。彼氏いませんでしたか?」
医療部でデロイから私が話を受けて、デロイが出て行くと先輩の一人が声を上げた。それに対しアメちゃんがツッコミを入れてる。
「推しと彼氏は別物でしょう?最近は、テンマ様やナギト様への声が大きいけど、私は今でも王子様派よ。」
「そうなんですか?」
普通に疑問を返したつもりだったが、アメちゃんにはそう聞こえなかったらしく
「ほら、ツキちゃんがしゅんとしてるじゃないですか!!」
なんて言われてしまった。
「あら、ごめんなさいね。でも、勇者様の中ならツキちゃんが1番可愛いじゃない。」
そんな嬉しい事を言うので、思わずメイさんの胸に飛び込む。
「メイさーん。」
アメちゃんが良いの、それで?
みたいな顔してるけど気にしない。
やっぱり女性からしても大きい人のって気持ちいいよね。
顔を埋めるのを辞めて、背もたれにしつつなんとなく、話題を続けた。
「でも、メイさんって王子派だったんですね。」
割とワイルド系の人が好きなイメージだったから、意外だなって思って聞いたんだけど。それが間違いだったのかな?
「ええ。王子様の回復魔法で癒されたいわぁ。」
まぁ、癒されたいってのはわかるけど、なんで回復魔法?そんな物理的に癒されたいの?
「なんでわざわざ回復魔法なんですか?デロイは難しい技は出来なかったと思うけど。」
「あれ?ツキちゃんは知らない?王子様のお話?」
なにか回復魔法で話があるんだろうか?
首を傾げて見せるとメイさんは語り始めた。
「王子様がね、回復魔法を使えるようになったのは、確か8歳くらいの時なんだけどね。王子様には回復魔法への才能が一切なかったのよ。」
「え?それって??」
この世界の魔法って、属性ごとに才能が無いとめちゃくちゃ努力しないと使えるようにならないんじゃなかったっけ?
それに使えたとしても初歩の初歩の魔法とか。
「うん。王子様はどーーしても直してあげたい。癒やしてあげたいっていう、病気の人がいてね。その人が良く体を痛そうにしているから、直ぐに癒やしてあげられるようにって、回復魔法を勉強したの。もしかしたら、後咲きかも知れないしって事で。」
「それで?」
「知っての通り、王子様は後咲きでもなかった。それでも習得したのよ。初歩の魔法をいくつかね。」
「そうだったんだ。」
「だから、そんな話を知ってたらさ、王子様に回復魔法を使われてみたいってならない??癒されたーい!ってなるでしょ?」
気持ちはわからんでもないけども。
「それは野暮なんじゃ?」
「そうなんだけどさぁ!でもー、だってぇ。」
「王子様派はそれで二つに分かれるのよ。」
「マジか。」
そんな感じに話を聞いて、その時は少しだけモヤっとしたくらいでなんともなかったんだけど。
キラリアさんの話を聞いた時に、気づいてしまった。
デロイが助けたかった人と、私に引っ付いていた理由に。
最初に知った時は
私も助けになれたらな。
なんて思っていたのに、少しずつ時が進むにつれ、その気持ちに霞がかかったような気分になった。
デロイに恋人や婚約者がいない理由がハッキリとしてくると同時に、私の心の中もハッキリと色がつき始めていた。
デロイの大切な人はキラリアさんだ。
そして、キラリアさんの大切な人もデロイだと思う。
けれど、二人の恋が発展しなかったのは、三つの理由が重なったせいだろう。
一つがキラリアさんの病気だ。永遠と体を蝕み続ける病だって聞いている。
普通に動いて仕事しているのが、不思議だってよく言われている。
次にデロイの立場だ。デロイは時期の王子様であり、この国のトップでもある。政治については、まだちゃんとわかってないけど、天皇様と総理大臣を担うって事だよね?忙しいに決まっているし、それは夫婦となった人も同様だって言える。
でも、この二つだけで考えるなら、デロイは努力の人だもの。一人でも仕事を成し遂げて、キラリアさんに無理をさせるつもりなんてないだろう。
けれど、キラリアさんはそれで納得するだろうか?今キラリアさんはこのお城に通う為に、デロイの近くにいる為に、お城で様々な仕事に携わっているはずだ。デロイが一人で出来たとしても、支えないなんて事は、出来なかったんだと思う。
その思いのすれ違い。これが二人が進めない三つ目の理由だ。
そう思うと二人にとって、異世界からくる私達は最後の希望だったはずだ。
過去にも並外れた回復魔法の使い手が、召喚されたこともあるんだから。
そんな中に、私って言う回復魔法が得意な人がいたなら、期待するのも頷ける。
ただ結果として、私の魔法は1番良かった時に戻すだけであり、未知の病には対処する術なんてなかったんだけど。
私ってやっぱり、性格悪い。
こんな酷い話を聞いたのに。その本人達を前にしてるのに。
良かったって気持ちが勝ってしまっているんだから。
デロイが物語の中の王子様らしくないなんて思ったけど、私だって変わらないんだ。
いや、なんなら私は悪役令嬢に負ける、悪役系ヒロインって表現された方が正しいんだと思う。
それでも…
「あれ?ツキネ?どうかした?」
「ううん。なんでもない。」
それでも、こうして今一緒にいられる事が嬉しくて仕方ない。




