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第32話 テンマとネアとプラネッタ

 ここ最近、騎士団から休みを貰うようにしている。

 今までの統計で考えて、そろそろ黒衣獣ダスティマニアの情報が上がっても良い頃らしいから。

 黒衣獣が出るとたった一匹でも被害が大きく、俺が早急に倒せたとしても、その周辺のモンスターの生態系に影響を及ぼす可能性が高く、討伐後も忙しいらしい。

 一段落ついたと思ったら、また次の黒衣獣ダスティマニアが現れて、同じことの繰り返し。

 出現頻度が徐々に上がって、切羽詰まり始めた頃に、絶望的な希望と呼べる魔王様が誕生する。


 始まってしまえば、休憩してる時間がないかもだから、今のうちにしたい事をしておけって事なんだろうけど。


 別に魔王討伐後でもいいんだけどな。そういうのわ。

 でも、勇者である俺が休まないと、周りが休みづらいのかなと思って、貰うことにした。


 最初は、遊聖の勇戯城ゲーセンにでも行こうかなって思ってたんだけど。


 昨日アルべから

「天馬はこういうの好きそうだよな。」

 って言われて、チケットを一つもらったから、行き先を変えたんだけど。


「すみません、待たせましたか?」

 声のした方に目線を向けると、ネアさんが立っていた。

 白を基調としたワンピースに、明るい緑髪に合わせるように、少し濃いめの緑のベストを着ている。

 狩猟時の服装を見た時から、お洒落だなって思っていたが、私服は更にインパクトが凄い。


「あ、おはようございます。俺も今来たところですよ。」

「本当ですか?」


 突然、手を握られた。

 え?なんだろ?手を繋ぐっていうより、ただ両手で包み込まれた感じだし。


「んー?そういえば空気が冷たくないので、握っても冷えてるか分かりませんね。」

「え?」

「はっ、あ、すみません。突然。」


 待たせてないか、疑われてたのか。確かに30分前には着くように心がけてるから、待ってはいたが、それは俺が勝手にしてることだし。

 ネアさん自身も、10分前に来てくれてるしな。


「本当に待ってませんよ。それより、突然すみません。本当に、予定とかありませんでしたか?」


「はい。今日は、お休みでしたので。」

「じゃあ、ありがとうございます。本日はお付き合いいただいて。」

「いえ、私もありがとうございます。私も見たかったので、嬉しいです。」

「じゃあ、行きましょうか?」

「はい。」


 まだまだ、かしこまった状態だが、とりあえず目的地に向かうことになった。


 今日のこの状態は、アルベの提案によるものだった。

 チケットをくれるところまではよかったのだが、そのまま仕事中のネアさんに声をかけて、一緒に行ってくれないか、とか言い出してしまった。


 ネアさんも驚いていたが、気になっていたとかで、了承してくれたわけだけど。


 半ば強制的な感じじゃなかっただろうか?

 勇者様だからってなんでもありでもなければ、好感度が高いとも限らないのに。


 それでも、アルベから

「焦った(じれった)すぎる。そろそろ、ちゃんと会話くらいしてみろよ。このままじゃ始まりも、終わりもしないだろ!」

 って、怒られてしまったので、甘えることにした。

 ナギナと一緒に、エンマとしてネアさんと会話してから、もっと仲良くなりたいって思ったんだけど、テンマとしては接点が掴めずにいたからな。

 空いてる時間に少しだけ会話をしたくらいで、余り発展出来ていなかったけど。

 今回ので仲良くなれたら良いな。

 でも、少なくとも、今日は付き合ってもらってるんだから、ちゃんと楽しんで貰わないとダメだよな。






 チケットを機械に通すと2人の手の甲に、模様が浮き上がった。

 丸い鉢の中で魚が炎の中を泳いでいるシルエット。


 なんだろう?独特過ぎない?選択が。

「どうかしましたか?」

「手の模様を見てただけだよ。」

「あ、可愛いですよね。これ。私は雲兎クラウラでした。」


 そう言って、見せてくれた甲には、雲みたいにモコモコした兎の様なシルエットの動物が写っていた。背景も雪が降ってるみたいで可愛らしい。


「本当だ、可愛いですね。俺のは魚でした。」

「バクワクですね。溶岩を泳ぐ魚です。」

「え?これバクワクなんですか?」

「あ、知ってましたか?」

「ご飯屋さんで食べたことありますね。美味しかったです。」

「あはは、美味しいですよね。私も好きですよ。」

 お刺身とか好きなのかな?


「あ、見てください。」

 ネアさんの指に釣られて視線を動かす。


 そこには様々な水槽というか鉢の様なものが並べられていた。


 その一つ一つが鮮やかな輝きを放っている。

 今日見に来た展示物は、プラネッタと呼ばれるもので、この世界オリジナルのカルチャーって感じかな?


 魔石を使って、鉢の中に大地を形成し、大地の属性に合わせた植物や生物を配置して、一つの独立した世界を形成するって言う、この世界特有のアートだ。


 元の世界だと、盆栽とかアクアリウムが近いのかな?とりあえず、そのあたりを想像してもらえるとわかりやすいのだが、一つだけ違う部分がある。

 それは完成してしまえば、人の手が一切加えられないって言う点だ。


 このプラネッタでは、本当に一つの世界を構築することが目的とされている。

 中の動物に餌を与えたり、掃除したり、裁定するなどの行為を行わずに完全循環させるのだ。


 この世界の特殊な生物や植物、変わった原理があるからこそ、出来ることなんだと思う。


「凄い数ありますね。」

「合計で100近い数の展示がされてるそうですよ。」

「凄いですね。順番に見てきましょうか。」


 サイズとしては本当に金魚鉢ぐらいの大きさに見えるのだが、近づいて見てみると、中は凄く広い。


 鉢に特殊な加工がされていて、見るときも遠近を自由に出来るのも楽しいね。


 入り口近くは、装飾や内装に凝った単一属性のプラネッタが多かったが、奥に来ると複数の属性からなるプラネッタがあった。


「あ、このプラネッタ、バクワクが跳ねてますよ。」

「本当だ。凄いですね。」

 炎と霧の属性で出来たプラネッタで、炎属性のエリアと霧属性のエリアが延々と分裂と侵食を繰り返し均衡を保ちつつ、エリアの形を変え続けている。

「こんなことも出来るんですね。」

「凄いですよね。ここまで均衡を保ち続けられるように出来るなんて、私も知りませんでした。」


 複数属性で作られたプラネッタは、その大地の見た目だけで、混沌カオスって言って間違いなかった。


「うわぁ!このプラネッタ、凄いですね。」

 ネアさんが今日一の食いつきを見せていた。

「どれですか?」

「このズゥリュウが寝てるのなんですが、めちゃくちゃ可愛いですね。」


 ズゥリュウは、ゴムっぽい質感で少しふっくらしたお腹と30センチくらいと小型で可愛いらしい見た目の小さなドラゴンだ。


 そのドラゴンが少しだけ雪がかった岩山の上でお腹を出して眠っていた。


 確かに見た目は可愛いのだが、その岩山の下の方では、半分が砂嵐が延々と吹き荒れていて、もう一方では、延々と雷が降り続けていた。


 岩山の下の方が可愛くなさすぎないかな?

 画面がチッカチッカしすぎて、何も見えないんだけど。


 でも、隣ではキラキラとした目でネアさんがズゥリュウを眺めていた。

 完全にズゥリュウ特化のプラネッタなんだろうね。

 まぁ、俺も良いもの見れたから良しとしよう。




 暫く見て回った後、お腹が空いて来たので、お昼を取ることにした。

 フードコートも隣接されていて、バクワクのどんぶりを出しているお店があったので、2人して同じものを注文した。

 お店の中にも、バクワクのプラネッタが置かれていたので、眺めながら食べたんだが、水族館にお寿司屋さんがあるみたいに、こういうところの倫理観だけは、向こうもこっちも変わらないよね。


「さて、ご飯も食べたしどうしますか?」

「そうですね。展示自体は一応全部見たみたいですけど。」

「んー、後はプラネッタの体験教室をやってるみたいですけど、行ってみます?」

「え!?良いですね。私も見てたら作りたくなってたんです。」

「本当ですか?じゃあ、行きましょう!」


 プラネッタについての情報は前から知ってたけど、実際に作るのは初めてなんだよな。

 ネアさんはお店に飾ってあるのを見たことあるし、他にも作ってるんだろうけど。


「わっ!初級、中級、上級の三つのセットがあるんですね。」

 体験教室と言っても、初心者向けだけじゃないってのは聞いてた。

 後は、上級で物足りないとかじゃなければ、いいんだけど。


「俺は初めてなので、初級にするけど、ネアさんはどーします?」

「んー、そうですね。あ!上級だと他属性のプラネッタにも挑戦出来るんですね。私、単族性しか作ったことなくて。」

「いいじゃないですか。せっかくですから、教わってみようよ。」

「そ、そうですね。」

「じゃあ、ちょっと申し込んできますね。」

「え?あ、私も行きます。」

「大丈夫ですよ。直ぐなんて、見ててください。」


 パパッと料金を払って、ネアさんの元に戻る。


「あ、お金。」

「これは今日お付き合いいただいたお礼なので、気にしないでください。」

「いえ、でも。チケットまで出していただいているので。」

「そっちは本当に貰い物なので、俺も同じですよ。」

「ですが……」

「とりあえず、選びません?」

「むー!……わかりました。」


 今日は本当に突然来てもらってるからなぁ。気にしなくて良いんだけど。


 さて、実際にプラネッタ作りを始める前に、主体となる動物や植物を決めて、魔石の属性を決めないといけない。

 でも、決めることが多いのかと思っていたけど、一つ決めてしまえば、そこから先は食物連鎖や大地の属性に合わせて、ほぼほぼ組み合わせが決まっている様なものみたい。


 だから、個性が出るならレイアウトの部分になってくるのかな。

 ネアさんみたいに複数属性のエリアを作るわけでもないし。

「あ、もう作り始めてるんですか?」

 ネアさんが他属性用の簡単な講習から戻ってきた。

「そうですね。わかりやすいセットになっていたので、思ってたよりも難しくは無さそうですね。」

「そうですよね。私も属性エリアさえ作れればなんとかなりそうです。プラネッタを成立させる部分を、既に構築してくれているのは助かりますね。」


 まぁ、本来は1番時間がかかり、醍醐味とも呼べる部分だとも思うけど、初めてには重たすぎる気がする。こうやってセット商品にしてくれるのは、取っ掛かり易くて助かるな。





「良し!出来たかな?」


 俺のプラネッタの属性は植生だ。


 絶え間なく成長を続けつつ、根本から朽ち続けるネルカと呼ばれる木を基調として、変わり続ける地形の中をワルテコウと呼ばれる小さな子猿が飛び続けている。


「可愛いですね。ワルテコウ」

 ワルテコウは、小さくて目が大きい白毛の猿で、見た目が可愛いらしい。

「ですよね。それに動きが活発で見てて楽しいんですよ。」

「そうですね。それに、ネルカの使い方が凄いですね。こうやって、花や木のみを付ける植物をネルカに付けると、動き続けるプラネッタが作れたなんて。」

「ありがとうございます。」


 思ったよりも良い出来のものが出来てよかったかな。


 次にネアさんの作品に目を向けた。

 俺の方が難易度低かったのに、ネアさんの方が先に完成していた。ニアピンくらいの差だったけど、それでも手際が全然違うんだろうな。


 ネアさんの作品は、嵐に包まれた世界だった。

 風属性で暴風を作り、雷を追加する事で、嵐を再現してる。

 その中で一匹の狼が鳴いていた。


「これ、デイストームですか?」

「そうですよ。可愛いですよね。」

 二足歩行の狼に、大きな翼を生やした動物。

 紺の毛並みに黒い翼、鋭く光る目に、鋭い牙。

 吹き荒れる嵐の中で、デイストームだけを避けるように、デイストームの近くだけ、嵐が弱く見える。

「凄い、カッコいいですね。嵐を切り裂いてるみたいで。」

「デイストームの特性ですね。」

「体験キットでも、ここまでのものが作れるなんて、凄いですね。」

「それは私も思ったんだけどな。」


 マジで、ネアさんの作ったプラネッタ、カッコいいな。ずっと眺めてられる。

 ていうか、今日見てた感じ、カッコいいのよりも可愛い系のプラネッタの方が食いついていたのに、作ったのはカッコイイのなんだな。


「ずっと見てますけど、気に入ってくれました?私のプラネッタ。」

「あ、すいません。めちゃくちゃカッコいいなって思って、これならずっと見てられそうです。」

「本当にぃ?」

 少しモジモジと恥ずかしげに、ネアさんがもう一度書き換えしてきたけど、どーしたんだろ?

 ガチで思ったこと言っただけだったけど、変に聞こえたかな?

「本当ですよ。デイストームも生き生きとしていて、見ていて飽きないって言うか。」

「これ天馬君をイメージして作ったプラネッタだったんです。天馬君の戦い方は、嵐の様に見えるから。」

「確かに。属性選びはそうですね。」

「それにデイストームは嵐の中も駆け巡る事が出来る上に、見た目がカッコ良さと可愛さを兼ね備えている所も天馬君みたいで、最強なんですよ!」


 えっと、それは間接的に俺のことも言ってるんだよね?

 カッコ良さはまだ良いとして、可愛さなんて俺にあったかな?

「なるほど。」


「そんなデイストームを天馬君と一緒に見てるなんて、夢みたい。」

 えへへ、と凄く嬉しそうに笑ってくれた。

 今日の一番の目標は達成出来た感じかな?


「それで気に入ってくれたなら、こちら貰ってくれませんか?」

「え!?それは、せっかく作ったのに。」

「今日一日の感謝の気持ちです。ダメですか?」


 首をコテッと傾げて聞かれてしまい、ダメとは絶対言えそうにない。

 俺もさっき感謝と言って、言いくるめてしまったし。


「じゃあ、代わりになるかわからないですけど、俺のやつ貰ってくれますか?せっかくなんで、交換にしましょう?」

「え!?良いんですか?せっかく初めて作ったのに。」

「はい。」


「大事にしますね。」

「俺もです。」


 こういった、1日を守る為にも明日からまた、頑張らなくちゃな。



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