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第31話 変わらない日常を

「勇者様達が現れる前は、俺たちへの応援も多かったってのに。」

「まぁ、それはその通りね。でも、今でも無いわけではないじゃない?」

「そうだけど、俺は、俺はぁあぁ!!俺が守りたかったんだよ、この国を!」

「まだ、チャンスが無いわけではないでしょう?天馬様はわからないけど、月音様はパーティの募集とかするんじゃ無いかしら?」

「可能性はあるかもしれない。聖女様、めっちゃ美人だったし、お近付きにはなりたいけどさ。」

「煩悩は仕事するのね。」

「でもな、そういう話じゃねぇんだ。俺は俺が、勇者になるのが夢なんだ。勇者様のパーティに入って戦いたいわけじゃない。」

「面倒な話ね。勇者を目指す者の言葉とは思えないわ。でもね、欲望に忠実なところ、私は嫌いじゃないわよ。」

「ぐぅ、悪かったな。結局、俺は偽物だよ。」

「別にいいのよ。偽物でも。邪な理由だったとしても、あんたが世界を救ったなら、あんたが勇者よ。」

「エンヒ」

 少しうるっとした瞳で女性の方を見てる。今のは女性の名前かな。

「だから、こんなところで潰れてないで、今日の仕事行くわよ。ほら、口開けて!」

「あぐっ!」

 アリアトスさんが口を開かされると、口から少し濁った透明な光が回収され始めた。

「ゔ、おぅうぇ、ぁあ」

 光は空中に放たれてるけど、雰囲気が吐いてるようにしか見えない。

 大丈夫なのかな?あれ。いろんな意味で。


「はい。酔いは覚めた?」

「あ、あぁ。悪かったな、ありがとう。」

「いいのよ、今日のご飯を奢ってくれれば。」

「わかったよ。」

「じゃあ、行くわよ。」

「あぁ、でもちょっと待ってくれ。」

「いいけど、なに?」

 アリアトスさんが、目線を女性から変えて、あたりを見渡した。それに合わせて、周りを見て見る。

 アリアトスさんの声が大きかったからか、知名度の関係かはわからないが、俺たち以外にも注目してる人は多そうだ。


「いや、騒いで悪かった。申し訳ない。」

 大勢の前で、頭をきちんと90度曲げて謝った。

「出来れば、忘れてくれ。」

 そういうと、女性の後を追い去ってしまった。


 別に注意されたとかではないのに、ちゃんと謝ってくんだな。


「アリアトスも大変だな。記録を一瞬で消されてたからなぁ。」

「そうね。桁違いのスコアを見せられて、心が折れないだけ、凄いと思うわ。」

「国産勇者団体はどうするんだろうね?」

「別に無くなったりはしないだろう。始まりは勇者召喚を無くす事でもあるが、一番期待されているのは、結局黒衣獣ダスティマニアの討伐だからな。」


 勇者召喚は完全なる片道切符だから、それを良くないとして、国産勇者ってものが作られたって聞いてたけど。

「そうなの?魔王討伐じゃないの?」

「まぁ、確かに理想論はそこなんだけど、そこはやっぱり難しいんだよな。現状は。」

「まぁ、強いからね。」

「いや、そこだけじゃないんだ。」

「そうなの?」


「結局のところ、魔王については、どんな魔王が来るかは一切わかってないからな。物理的に強い魔王が来るとは限らない。わかっているのは、どんな魔王が来ても、それに対抗出来る勇者様か聖女様が来てくれるって言う点だけだな。」


 そっか、強いとは限らないのか。戦闘タイプの魔王もいるけど、疫病タイプの魔王もいる。昨日は誰も戦わなかったけど、疫病タイプは免疫を作れるとか、癒しの力が必須になるんだっけ?

 月音は戦えるかもだけど、天馬はわからないタイプっぽいんだよね。


「国産勇者は強さにしか比重を置いていないの?」

「今の所はな。強さ以外だとレパートリーが多くてな。疫病とか暗示とか、もっと違うのかもしれないし、予想がつかない。」

「まぁ、確かに。」


 博打属性や反転属性、催眠属性もあるし、どんな魔王が来るかはこないとわからないもんな。

 11代目の勇者様と聖女様が残したって言う、魔王について調べる魔法も、魔王の目の前か、倒した後じゃないと使えないらしいしな。


「だから、一番の期待は黒衣獣ダスティマニアなんだ。黒衣獣ダスティマニアは、基本的に戦って倒すしかないからな。」

「召喚された勇者様や聖女様が黒衣獣ダスティマニアと戦えるタイプかも分からなかったからね。今回は問題なかったけど。」

「そうなんだよな。今回はテンマ様がなんとかしてくれそうだよな。」

「うんうん。黒衣獣ダスティマニアはそうね。その上で、魔王については読めなくなったのよね。」

「ツキネ様が回復魔法の他に、魔素領域まで使えるから、完全に魔法を使えなくされても対抗出来そうだし、ナギト様の能力は未知数だからな。」


 えっ!?俺に期待されても意味ないよ。

 少しは2人の役に立ちたいけど、俺が使えるのは結局、人並みの力なんだよな。

 全ての属性を使えなくても、希少属性を使える人はいるんだ。

 俺が出来ることなら、その希少属性のエキスパート集めれば余裕で上をいかれてしまう。


「戦闘に比重を置いていたのに、最強の勇者様が現れて、戦闘以外が得意な勇者様と聖女様も召喚されたってなるとね。今回の国産勇者への期待値が下がっちゃったのは、少し不憫よね。」

「頑張ってるのは、知ってるからなぁ。」

「そうね。でも、勇者様や聖女様も頑張っているし、実力主義は今に始まったことじゃないわ。」


 アリアトスさんが国産勇者を目指したように、夢を見た人はたくさんいるんだろうな。

 どんな世界でもヒーローに憧れる人は等しく多いんだね。

 その中で勝ち取った枠だとしても、別格てんまには敵わない。


 それは俺も良く知ってることだ。


 俺だって天馬や月音に憧れたことがある。そして現実もたくさん見てきた。


 努力で届かない壁ってものはある。だって、一番前に立つ人って大体は才能に連なって相応の努力をしてるから。


 心から思う。

 世の中って残酷だ。

「世の中って残酷なのよ。」

 ラシュアさんの言葉が重なった。


「アリアトスみたいに、行き先に不安を覚える人もいれば、ここにいる魔導士志望の人達みたいに、希望を見出す人もいる。そうやって、世界は釣り合いを取ってるの。そんなものでしょ?世界って。」

 なんとも悟った意見だけど、凄く気持ちはよくわかる。


「まぁ、そうなのかもな。」

「そうそう。私たちでもそうでしょう?ネアみたいに、夢見たいな恋が発展しそうな人もいれば、バーツみたいに破局まじかの恋もあるし。」

「は!?そんなことないぞ!!俺たちは今でもラブラブだ!!!」

「そう思ってるのは貴女だけかもしれないでしょう?ミール(バーツの彼女)から、愚痴とかよく聞くもの。」

「え!?な、嘘だろ!?本当なら言ってくれ!直すから。」

「言っても、直らないってよく聞いてるけど。」

「うっ!いや、そんなことは、てか、え、本当か。」

「ラシュアちゃん。」

 割とガチでバーツが凹み始めたところで、ネアさんの言葉が入った。

「はいはい、冗談よ。愚痴を聞くのは本当だけど、愚痴に見せかけた惚気もよく聞くわよ。別れるとかは聞いてないから、安心なさい。」

「本当か?あぁ、よかった。」

「でも、直した方がいいんじゃないって思うこともあるから、ちゃんと直しなさいよ。成長を感じない男は飽きられるわよ。」

「それは肝に銘じておく。」

 バーツは、ホッと息を整えつつ、ラシュアさんの言葉を飲み込んだ。


「それじゃあそろそろ行く?」

 ネアさんの言葉にみんな頷いた。

「そうね。行こっか。」

「そうだな。」

「うん。」


 人が多く、少しだけ進みづらい道のりを歩いてギルドを出た。

 ネアさんとバーツが先を歩く中、ラシュアさんが隣にやってきた。


「思った以上の混み合い方よね。」

「たしかにそうだね。それにギルドって、わざわざ来なくても仕事の受注出来たよね?」

「そうなのよ。そう思うと、もっと沢山の人が復帰したってことよね。」

「凄いよね。」


 月音の能力の影響って考えたらやばすぎるよね。

 月音の適正属性がもう少し少なければ話は違ったのかもだけど。希少属性を除く全ての属性だからなぁ。


「まぁ、それでも私達には何の影響もないことだったんだけどさ。」

「たしかに。」

 俺たち4人に対する影響なんて特になかった。


 VS魔王城で魔王を倒せたからって、俺が忙しくなったりなんて事もなかったし。

 3人に対しても影響のあることでもなかった。


「よかったような、残念なような、複雑な感じよね。」


 んー、まぁ、普通ならそうなのかな?

 3人だって、勇者や聖女様に憧れたことはあるだろうし。それにネアさんやラシュアさんは、俺と天馬にお礼をしたいとかも言ってたから、目指せる力があったら目指してたのかもしれないな。


 まぁだから言いたいことはわかるし。

 俺も出来るなら天馬と隣で戦えるだけの力が欲しかったし、それだけの力を示したかった。


 でも、その位置まで届く事は出来なかった。

 だから、気持ちは少しはわかってる。


 でも、そこまで辛くはないんだよね。

「たしかに少しだけ残念ではあるけどさ。いいんじゃない?いつもみたいに4人で狩りに行けてるんだし。特に影響が無くたって。」


 ラシュアさんは少しだけ驚いたような顔をした後、すぐに笑った。


「それもそうね。」


 たぶん、1人だったらもう少しだけ、心が落ちてたかもな。

 そんなことを思った1日だった。




凪斗様との関係を、もう少し進められないかなって思ってたけど。

仕方ない。

今はまだ、このままでいるしかないわよね。


いつまで続くかはわからないけど。

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