第28話 初めての魔王討伐 凪斗編
機体の中は、無機質な白い箱で、外から見た雰囲気とは少し違った。
俺が戦うのは、8代目の魔王ビゲスト。10数メートルの大きさをした巨人さんだ。
動き回るだけで地響きがなり、草木を揺らし雪崩を起こしたと言われてる。
戦闘が強いというよりも、攻撃を避けても二次災害が凄いってタイプの魔王らしい。
知性も低く、ただ暴れ回るだけの魔王の為、比較的弱い部類の魔王らしい。
白かった壁が亜空間みたいに、終わりの見えない柄に変容し始めた。
もうすぐ、魔王が出てくる。
大きめな深呼吸をして、心を落ち着かせる。
この世界の魔法には、決まりきった名前はない。それでも、名前が付いているのは、伝承としてのものと、定着のためだ。
やってみてわかったけど、きちんと名前をつけて、分量を決めて置かないと、結構技にムラが出てしまう。
月音も天馬も、そう教わったんだろうね。
ただ、わざわざ口に出すのは、味方に自分が何の魔法を使うか伝えるためだったり、天馬だと近くで戦闘している事を周囲に伝えるためだったりする。
最初は少し恥ずかしかったけど、みんなが当たり前にやってると、だんだんと慣れてくるものなんだよね。
俺もバーツやネアさん達と戦う時は、魔法の名前を叫んでいるし。
でも、この魔法だけはただの一度も口にした事はない。
知って得する人なんて何処にもいないから。
“ロペリカ“
体全体に無数の切り傷を植え付ける。
「ゔっ!?」
当たり前だが、めちゃくちゃ痛い。
本当に緊張してるんだな。
完全に忘れてた。
慌ててポケットから、飴玉を取り出し口に含んだ。
口内で溶け出す飴玉に合わせるように、全身の痛みが引いていく。
自己催眠魔法を飴玉に変更する事で、戦闘中に使う魔素を節約していたのに、完全に忘れてた。
自己催眠魔法がなかったら、“ロペリカ“なんて絶対に使えない。
この世界で魔法を使う場合、魔素を身体に供給し属性を変更するのは必須条件で、その変換出来る量の違いが、この世界での強さだ。
本来、この量は簡単に増やすことは出来ない。
でも、一つだけ簡単に増やす事が出来る方法がある。
全ての生命に一様に備わった機能であり、誰も進んで使おうとはしない力。
自然治癒力。
この世界の自然治癒は、傷口から供給した魔素を使って、自然と行われる。
回復属性魔法に適性があるとか関係なく、勝手に行われるのだ。
だが、これで得られる魔素は本来、自然治癒の為にしか使われない。体を治す為に吸収したものだから当たり前だ。
しかし、これが攻撃用の魔素へと変わるタイミングがある。
多くの傷や怪我を負い、アドレナリンが大量に出て痛みに対する感覚が麻痺してきた時、生物は自然治癒の為に吸収していた魔素を、戦闘用の魔素に転用するのだ。
火事場の馬鹿力とか、死物狂いみたいなものじゃないかな?
俺も前に黒衣獣と戦った時、腕が無くなってから、魔素の循環効率がめちゃくちゃ上がった。
だからこそ、この方法に行き着いた。体全体に無数の刃を入れて、自己催眠魔法で痛みを忘れてしまえば、俺もこれで多少は戦えるはずだ。
魔王ビゲストが現れると、すぐ目が合った。瞬時に腕が振り下ろされた。
俺は筋肉増量魔法と風魔法で瞬時に避け、すぐに攻撃に転じる。
“風の翼“。
風に乗って、縦横無尽に駆け回り、剣で斬りつける。
図体がデカイだけのビゲストは、おいきれていないようだ。
だが、追うのをやめて駄々をこねるように、ジタバタと暴れ回られると、俺の反応が追いつかない。
「ぐふ!」
適当に振り下ろされた右手が運悪くあたり、地面に叩きつけられた。
わかんないけど、骨とか折れててもおかしくないな。
追い討ちの如く叩きつけられた拳は、簡単に避けられたけど。
機体内で轟音が鳴り響いた。
地面が揺れて、地割れが起きてる。
あんなの当たったら、痛みとか関係なく当たり前に死ぬし、二次災害も半端なさそう。
向こうからしたら、今の俺って、風魔法で飛び回ってるし、小蝿でも叩いてる感覚なんかな。
中でフヨフヨと浮いていると、ビゲストが口を開いた。
突然ビームが放たれる。
間一髪のところで避けられたけど、あんなの食らったらどうなるんだ!?てか、人型のくせに口からビーム砲とか撃つなよ!
下手に距離取るのもまずいのか。
近づいて剣で攻撃しつつ、がむしゃらに攻撃してきそうになったら逃げるのが一番かな?
ビーム砲を撃つ場合は、口を大きく開けるっぽいし、距離を取ればなんとか避けられるか?
ちまちまとちまちまとだが、少しずつビゲストを追い込んでいく。
ロペリカの自傷行為で、魔素量を上げたところで、俺にビゲストを一撃で倒せるような技は使えない。
でも、あれをやって無ければ、風魔法もすぐにガス欠起こして、攻撃を避け続けることも出来ない筈だ。
追い詰めているはずなのに、追い詰めるほど敵が強くなる事を考えると、追い詰められているのは、自分の様な気持ちになってくる。
「いやでも、ビゲストは目立った魔法攻撃はビーム砲しか撃っていないし、魔素効率が上がったところで、効果は薄いはず。」
そんな考えは、当たり前のように間違いだった。
「何これ?」
ビゲストの周りに魔素の玉のようなものがフヨフヨと漂い始めた。
ビゲストがその玉を弾くと、凄い勢いで球が飛んできた。
人一人分くらいの全長の玉、当たるのはやばそうだけど、でもこれくらいなら避けられる。
後ろへ飛んでいった球を見送ると、球は壁にでも反射したように、向きを変えた。
俺をホーミングすることはないが、一定の範囲で永遠にバウンドし続けている。
そこにビゲストの攻撃が合わさると、避けるのが更に大変になった。
でも、これでもまだなんとかはなる気がする。
その後の攻防で、ダメージが蓄積するごとに、ビゲストの周りに漂う球が三つに増えた。
球は、一定時間飛び回ると、またビゲストの元に戻る。
ビゲストはこの球を打ち出すか、変形させてユニコーンに変えて地面を走らせた。
ユニコーンのせいで、地面に降り立ちづらくなったが、飛んでいればいいので、なんとかなるし、球が二つ出ても、ギリギリだがまだ避ける事が出来た。
そこにきての三つ目。三つとも球にされたら、運が悪いと避けきれない気がするが、球の動きは完全にランダムのようで、たまにビゲストにぶつかっているのも考えると、まだなんとかなるはずだ。
ビゲストは球を一つそのまま打ち出し、一つをユニコーンへと変えた。
これなら、まだなんとかなるはずだ。
そして最後の一つは、これまでより少し小さなバスケットボールほどの玉へと変更した。
デコピンで弾かれたその球は、今までの物より段違いに早い。
相変わらずコントロールはないようなので、避けずに済んだけど、あれの射線に入ったら、避けきれないんじゃないか??
まだ一つだけ、試せる事はあるけれど、あんまりやりたくなかったのに。
そして、案の定、球が自分の元へ飛び込んできた。
あー、できればできればこの魔法は、使いたくなかったのに。
「反転魔法」
まだまだ、未完成の魔法だけど、この威力の魔法なら、ビゲストにも大いに効くはず。
剣を媒介に、飛んできた球をビゲストに向かって跳ね返す。球は、テニスボールほどの大きさまで縮まったが、ビゲストの脳天を貫いた。
「ゔぉおおぉおおぉおぉぉお!!!!」
ビゲストの雄叫びが鳴り響いた。
これはだいぶ効いたようだ。ビゲストの周りの球が四つに増えた。
あれの数が増えるほど、ビゲストが弱ってる証拠だとは思うけど………
俺は自分の腕を見た。
ボロボロで指先が上手く動いてくれない。
回復魔法で少しずつ回復はさせているが、月音ほどの即効性はない。
ビゲストの放った球はバスケットボールほどだった。俺が返せたのは、テニスボールほど。
単純に考えると、その差分はモロに受けたことになる。
剣のおかげで多少は流せていたとしても、ダメージがデカすぎる。
全てを完全に返せない時点で、この技は諸刃の剣だ。
それでももう、これに頼るしかない!
どうせ痛みはないんだ。
動きさえすれば、剣は握れる。
回復魔法でなんとか治せば、もしかしていけるのか!?
「反転魔法!!!」
しかし、希望は簡単に打ち砕かれた。
手がくっついてはいるが完全にぐちゃぐちゃになった。直しきれていない中のセカンドインパクトで、両手は完全に使い物にならなくなった。
俺の回復魔法では、時間をかけないと直しきれない。
直しきるまでの間、攻撃を避け続けるなんて不可能だし。
けれど、ビゲストの玉も五つに増えた。
いくつまで増えるのか知らないが、体はまだ動いているんだ。
出来るところまで、出来るだけの事をするしかない。
俺が気を失ったりしない限りは、姿に関しては霧属性魔法で、悟られることもないんだし。
今はやり切れるだけの事をやるだけだ。
どうせ、勝てるなんて鼻から思っていなかったんだ、出来る限り盛り上げる為にも、全力を尽くして見せる。
「反転魔法!」
両腕がぐちゃぐちゃになった。
上手く動いてくれない。
「反転魔法!!」
右足がぐちゃぐちゃになった。
これで歩くことも出来ないけれど、ロペリカを使った時以上の魔力が体内で溢れてる。
片足が無いなら、空を飛べばいいじゃないか。
「反転魔法!!!!!」
左足がぐちゃぐちゃになった。
どうせ飛んでいるんだから、変わらないよな。
「反転魔法!!!!!!!!」
完全に意識が遠のいていくのがわかった。
ビゲストに攻撃が当たったのかもよくわからなかった。
浮いていた身体が地面に落ちる前、亜空間のような歪な色をした地面が、無機質な白色に変わったことだけはわかった。
「…………」
終わったのかな?
ビゲストがいなくなり、遠のこうとしていた意識がはっきりしていることがわかる。
骨も臓器もぐちゃぐちゃで、見れた物じゃなかった体も、綺麗さっぱり元通りだ。まるで、月音の魔法を受けたみたい?
いやでも、月音の魔法の時と違って、体がめちゃくちゃ軽いみたいな事は、無さそう。
戦う前に戻ったって感じかな?
「とりあえず、終わったってことか。」




