第26話 アリアトス・ヴェーヴル
さっきまでのゲームセンターとは、異質の雰囲気を放っていた。
巨体の周りにはたくさんの観客が並び、何処かしらで必ず人が湧いていた。
「VS魔王城は、11代目の勇者様と聖女様が合算して作ったゲーム機体です。ここでは、歴代の魔王たちと思う存分戦うことが出来ます。」
「過去の魔王って?完全に過去の魔王ってこと?」
「文献とかを使って再現したって感じかな?」
「いえ、もともと勇者様が暗黒魔素や魔王についての研究を進めていて、魔素の歴史を辿る事で、魔王の情報を取り出す事が出来る様になったのが、始まりでした。」
「そんなことが出来るんですか?」
「それが勇者様の能力でした。魔素から情報を吐き出し、万全に準備を整える事で、スムーズに魔王を討伐したと言われています。」
「へぇ。凄いですね。」
「魔王討伐後、その研究成果を聖女様が勝手に使う事で、完成したのがこちらのゲームでした。」
なんかサラッと良くない事言ってた気がするんだけど。
「魔王についての情報って、そんな簡単に取れるのか?11代の勇者が得た情報は、11代目の魔王だったんだろ?それ以外や、以降の魔王については戦えないのか?」
「いや、魔王については全ての世代の魔王がラインナップされてるよ。勇者様の魔法は、暗黒魔素から情報を得るものだったんだけど、魔素から情報を読み取る技術は、昔からあってね。それを暗黒魔素からも、読み取れたのは彼だけだったよ。その暗黒魔素から得られる情報を軸に、聖女様は通常の魔素から過去の魔王の情報を取り出せないか研究を進め、そして辿り着いた。」
「ん?だとしたら、俺らの前やその前の魔王はどうしたんだ?」
「勇者様と聖女様が魔法として、残してくれましたので、闇、光、空間、時間、使役、分解の6属性を扱える人なら、誰でも簡単に出来るようになったのです。」
「それって簡単なの?私らだとナギナしか出来なくない?」
あれ?俺もしかして役割きた!?
「闇と光、両方を使える人は、少ないですし、そこに四つの希少属性ですからね。数十年に1人ぐらいの確率なんですよね。」
「そのため、このゲームのアップデートは、魔王討伐後も暫くは、増えなかったりもしたみたいだよ。」
なんていうか、災害も楽しめてるのは良いのか悪いのか。
「なんていうか、怒りそうな人も結構いそうなコンテンツだね。」
「んー、否定は出来ないけど、勇者様達が始めたプロジェクトだからね。否定はしづらいし、歴代の勇者様からも好評だから、思ってる人がいても、口にはしづらそうだね。」
「まぁ、たしかに。既に準備運動始めてる人もいるしね。」
天馬の目がキラキラしてるよ。強敵を前に待ち切れないって感じだ。
天馬としては、この世界で戦うのはゲームやスポーツに近いのかもね。
「興味を持ってもらえたのはよかったけど、もう少し待ち時間があるから、他の人のプレイを見てみよう。映像でも見れるけど、せっかくだから直で見たくない?」
俺たちは観客席の方に移動した。
「機体って、三つもあるんですね。」
「最初は一つだったらしいけど、反響が大き過ぎて増設したらしいよ。」
俺たちが来たのは、今まさに試合が始まろうとしている機体の上だ。魔王とプレイヤーを見下ろす感じの神視点で見物が出来る。
まぁ、中の人が移動しても位置が固定した感じに見えるため、映像にも似てる気がするけど、それでも迫力は全然違うんだろうな。
「今から戦うのは、国産勇者と名高いアリアトス・ヴェーヴルさんだね。VS魔王城でも1、2を争うトップランカーだよ。」
赤茶髪の長身イケメンが見えた。
身長と同じくらいの大きさの大剣を片手で持って、魔王と相対している。
今回の魔王は、第9代の魔王、ドラクェス。
唯一の竜型の魔王だ。
文献で見てて、どんなのか気になってたんだよね。
長い胴体で塒を巻き、黒い靄を体中に纏っていた。
アリアトスさんと比べると、10倍以上の大きさがある。
これに一人で勝つとか可能なんかな?って思ったもんだけど、結論で言えば余裕だった。
魔王ドラクェスは、見た目に恥じぬ、火炎のブレスや雷撃を何発も止めど無く打ち続けていたが、アリアトスさんはスルスルと全ての攻撃を回避してしまった。
回避に合わせた追撃も刺さり、少しずつドラクェスを追い詰めていく。
「全部の攻撃を避け切ってますね。」
「受け身とかって話でもないもんな。」
「VS魔王城の歴史も長く、ここで戦っている人は、攻撃パターンも全て理解しているからね。避け方や当たらない距離が大体わかっているんだよ。それでも全て避けてしまうのは、凄いと思うけどね。」
「ですよね。わかってても、攻撃量が多すぎて、なんで一度も当たらないのか。」
「アリアトスは、身体強化と風魔法を得意としていてね。風魔法で、移動速度の補助と、魔法攻撃の来る範囲を予測しているんだ。攻撃は大剣による単調な攻撃の割に、防御に関しては凄く繊細な動きをするんだよね。」
「へぇ、面白いですね。」
話している所に、初めてアリアトスさんに攻撃が当たった。
「ヴァルヴァリヴァルドス。電撃が四方八方に降り注ぐ技だね。あれを避けれる人は、見た事がないよ。」
「それでも、大剣で上手く防いではいるな。」
しかし、視界を遮った事で、追撃の尻尾のような胴体からの攻撃を受けることとなった。
更なる追撃に、ドラクェスがブレスを放つ。
アリアトスさんは、大剣を呼び出すと大剣を足場に、更に高く舞い上がった。
そこへ、雷撃が狙ったように降り注ぐも、ひらりと空中で交わした。
そして、ドラクェスの頭上付近から、叩き落とすように、再び呼び出した大剣を振るい落とした。
ドラクェスの動きが止まり、体が光となって弾け飛んだ。
「凄いな。」
「うん。こんなすぐ倒せるものなの?」
「実践では、難しいかもね。これにも難易度がいくつかあるから。」
「そうなのか?」
「今回アリアトスは、魔素領域30%の世界で戦っていたからね。本来の暗黒魔素に包まれたエリアでの戦闘だと、剣をあんなスムーズに出し入れするのは難しいよ。」
強い動物ほど、自分専用の魔素領域を持っていて、そのせいで魔法をほぼ使わないで戦う必要があるんだったね。
「そうなんですね。」
「まぁ、今回戦ったのがって話だけどね。アリアトスは、魔素領域100%の最高難易度のモードもクリアはしてるから。もっと苦戦はしてたけどね。」
「難易度調整があっても、魔王ってこんな簡単に倒されちゃうの?」
「本来の魔王と比べられると、扱える魔素の量が減っているから、体力的な話だと弱いかもしれないね。それに、このゲームはやり尽くされているから、倒す事が出来る人は結構いるよ。」
「そうなんだ。」
「ただし、初見でクリア出来た人はほとんどいないけどね。」
「なるほどな。」
天馬の顔がすごい楽しそうだ。
俺は対策を立てた所で勝てるのかも怪しいってのに。今回は、事前に言われてなかったの、逆に良かったのかもしんないな。
試合が終わると、人が変わって別の人が入ってきた。
他の人の試合を見ていた所にら突然声がかかった。
「ん、見てたのか。デロイリッド……」
王子様に声をかけつつ、俺たち3人にも視線が来たように感じた。
「うん。でも今日は案内役としてだけどね。勇者様方に、この施設を知って貰いたくってさ。」
「あぁ、言ってたな。今日だったのか。じゃあ、悪かったな。サード・ドラクェスの最速記録更新しちまったよ。」
「いいさ、それは。また今度、塗り替えておくからさ。それに今日は、新しい記録を取りに行くつもりだからね。」
「ふ、そうか。じゃあ、楽しみにしてるぜ。俺も今日は見学してくかな。」
「うん。楽しみにしておいて。」
なんていうか、王子様って普段、温和な雰囲気の優しい人だと思ってたけど、仲の良いっていうか、ライバル関係の人とはこんな感じなんだね。
二人の視線がバチバチとぶつかってるのがよくわかった。
「さて、せっかくだし挨拶させてもらおうかな。」
アリアトスさんが俺たち3人の方に視線を向けた。
上から見ていた時も思ったが、やっぱり身長が高い。天馬よりも高いところを見ると、190くらいあるのかな?それに、顔もやっぱり整ってらっしゃる。デロイリッド同様甘めのマスクではあるが、自信に満ちた表情と高身長からくる雰囲気で、大人っぽさを感じた。
女子人気は言わずもがなかな。
「勇者のテンマ様にナギト様。そして、最後に聖女、ツキネ様ですね。」
天馬、俺、月音と目を合わせた後、月音に向かって、歩みだし、月音の前に跪くと、月音の手に唇を落とした。
「アリアトス・ヴェーヴルです。以後お見知り置きを。」
「え、あ、よろしくお願いします。」
月音が戸惑いつつ、返事していた。
俺はその横で、改めて異世界って凄いなって思うしかなかった。
「あんま、聖女様に気安く触れるなよ。」
王子様が邪険そうに注意しつつ、月音の手に洗浄の魔法をかけた。
「美人には最大の敬意を示すのは当たり前だろ?」
「敬意にも示し方があるだろ?ごめんね。自然すぎて防げなかった。」
「びっくりはしたけど、これくらいなら、まぁ大丈夫だよ。」
「ほら、聖女様もこう言ってるじゃないか。」
「ダメだよ。こういうのは、きちんと注意しないと、すぐ付け上がるから。」
「あはは、大丈夫だってば。心配しすぎ。ちゃんと、度を越してきたら、訴えるから平気だよ。」
月音はそういうとこは、ちゃんとしてるからな。
俺らもちゃんと援護するし。
「了承もなく、手を出したりはしないさ。」
月音の言葉に少し驚きつつも、爽やかな笑みを絶やさない。
少しチャラさも感じるけど、流石異世界、紳士的だね。




