第22話 魔素クッキング
「さぁて、やってきました。ピークのお料理クッキングー!!」
「意味被ってるけど。」
「アシスタントはこの方。十四代目勇者様、ナギト・ナガルルさんです!」
「あ、よろしくお願いします。」
「では、今日お作りするメニュー何ですが、うーんナギト様は初心者ですし、そうですね。マカロンとかいかがですか?」
「マカロンって難しそうなイメージですけど、簡単に出来るんですか?」
「いえ、結構難しいですね。普通に作っても難しいのに、魔素を追加したら配分がわからなくなりますからね。高難易度と言っても間違いはないでしょう。」
「なんでそのチョイスなんですか!?え?俺のこと初心者って言いましたよね。」
「言いましたね。でも、この国には勇者様補正という言葉がありまして。」
「それは天馬に求めてください。俺の管轄外です。」
誰だそんな無責任な言葉作ったやつは。
「では、パンケーキあたりが無難ですかね。多少失敗してもカバーしやすいですし。」
「そうですね。それでいきましょう。」
パンケーキなら、一応作ったことあるし、材料入れて混ぜて焼くだけで、簡単だしね。
「では、卵、牛乳、市販のホットケーキミックスを用意します。」
「あ、市販のなんですね。」
「最近は、市販のものでも美味しいものは多いですし、魔素を配合して調合する場合、自力で味を整える必要があるので、あまり変わりません。」
「あ、そうなんですね。」
「そして楽です。何回失敗するかわからないですから。」
「まぁ、そうですね。」
「では、まず普通に練り合わせます。」
「はい。」
カコカコっと、それぞれ混ぜ合わせる。
「そしてここから、魔素を練って追加していくんですが、時間がかかるので既に混ぜ合わせておいたものがこちらです。」
ピークさんの手元にボウルがもう一つ召喚された。
「え!?嘘でしょ!?お手本なしですか!?」
「ちなみに、ナギト様の分も用意してあります。」
俺の手元にも、新しいボウルが用意される。
元のやつよりも少し白身が強い。
「あ、ありがとうございます。」
「これで後は焼くだけですね。」
「そうですね。」
「そして、焼き終わったのが………」
「ストーーーッッッッぷ!!!!」
「どうかしましたか?ナギト様。何かわからないところがありました?」
ピークさんはわざとらしく首をコテンと傾げて見せた。
「え?これ、配信でもしてるんですか?」
「オフレコですよ?」
「え?貴女の目的はなんですか?」
「ナギト様に、魔素を使った料理について手解きする事です。」
「あ、目的は間違ってないんですね。」
「当たり前じゃないですか!料理のことならお任せください。」
なぜここまで自信に満ち溢れているのか、俺には謎である。
「じゃあ、続きをお願いします。」
「えーと、あ、焼き上がったものがこちらになります。」
「えっと、俺のは?」
「もちろん、ありますよー!」
俺が焼いた設定のパンケーキが目の前に現れた。
流石異世界だね!(絶対違う)
「では、実食です!」
「あ、食べるんですね。」
「味見は大切ですから。」
言われるままに口をつけてみる。
ふむ、とりあえずナイフとフォークの入りが良くて切りやすいね。
味も、うん。まぁ、美味しいとは思うけど、この世界では結構良いもの食べさせてもらってる気がするから、感動とかはないかな?
「ふふふ、どうですか?」
「ん、美味しいですよ。」
「ほう!では、こちらも食べてみてください。」
そう言って、ピークさんがパンケーキを一切れ切り分けて、フォークに刺して差し出してきた。
え?これはこのまま食えってことなのかな?
落ちないように、手ざらまでしてフォークを向けられてるから、そういうことだよね。
パクっと食いついてみる。
先程自分で作った(?)パンケーキと比べると、凄く口溶けが良く味わい深い。
「美味しい!」
「お、今度は心からの感想が貰えましたね。」
あ、なんか見透かされてるっぽい。
「別にさっきのも嘘では無いんですが、全然違いますね。」
「えへへ、そうでしょう!これが魔素配合して作った料理です。」
「めちゃくちゃ美味しいです。」
「まぁ、食べ物も全ては魔素から出来ているので、美味しいものは美味しいんですが、やっぱり鮮度が落ちると混じり気が出てしまいますから、味が落ちてしまうんですよね。ですが、味を整える術を身につけてしまえば最強なのです。」
「たしかにそうですね。」
「下手な事すると、死人が出るので注意がいりますけどね。」
「死ぬんですか!?」
「追加した属性が上手く馴染んでいないと、食べた瞬間烈火の如く燃え盛ったりと、危険ですからね。」
え!?一気に自信無くなってきた。普通に免許とか必要なやつじゃない?これ!?
「大丈夫なんですか?本当に??」
「流石に死人が出るほどのものは、ある意味才能なので、普通は大丈夫ですよ。軽く火傷したり、弱電流が流れるくらいです。」
罰ゲームレベルなのが、よくある失敗なのか。
「なるほどです。」
「はい。では、そろそろちゃんと始めましょうか。食べてみて、差はよくわかってもらえたはずなので。」
「ただ、最初から用意してくれればよかったんじゃ?とは思いましたけど。話を聞く限り、途中まで混ぜ合わせたやつ、不純物入ってますよね?」
少しの時間だけど、放置しちゃったからね。酸化みたいな感じに、土地の魔素の影響を受けてそう。
「はい!不純物を取り除く練習もせっかくだから、やっておきましょう!」
狙いがちゃんとあったんだ!ピークさん、侮れない。
こうしてやっと、魔素料理が始まった。
「んー、ひた、いたい!」
また口内を火傷してしまったので、回復魔法で自力で癒す。回復魔法使えなかったら、だいぶ地獄だったな。
「食材にまだ、上手く馴染ませることが出来ていないみたいですね。」
「でも、時間をかけすぎると、別の魔素に染まってしまって、思ったような味にならなくて。」
魔素を追加し、食材に混ぜ込む。焼く。食べる。回復魔法。これの延々ループを繰り返していた。
魔素追加は追加する属性で、味が変わってくる。例えば、炎属性はピリ辛になるし、雷属性なら酸味が強くなる。
しかし、上手く食材に馴染んでいないと、食べた時にそのまま火傷したり、電気が走ったりする。味見の時間が恐怖で仕方ない。でもここで、チキって魔素を馴染ませるのに時間をかけまくると、魔素が馴染みすぎて、味が落ちてしまう。
回復属性は、甘味があって失敗しても、辛く無いのになんで簡単に成功してしまったのか。
リスクのある属性ほど、難しいとか酷くない!?
「んー、行き詰まってきてしまいましたね。一度休憩しましょうか。」
そう言って、お菓子と紅茶を並べてくれていた。
キラリアさんように何か作るって言って席を外していたけど、俺の分も用意してくれてたんだ。ありがたすぎる。
この人は天使かもしれない。
「お願いします。」
ピークさんの作ったお菓子は、どれをとってもめちゃくちゃ美味しい。パンケーキで小さめに作ってはいたが、かなりの量の試作品を食べた気がするけど、これは別腹でいけますね。
「んー、やっぱり難しかったですね。パンケーキで作るのは。」
「そうですね。直ぐに出来る属性とそうでない属性が結構分かれちゃって。」
「でも十分出来てる方ですよ。食材にも相性がありますから。」
「え?そうなんですか!?」
「炎属性はそうですね。鍋みたいな植物や水属性だと馴染ませやすいですし、雷は紅茶とかだと難しくないですね。」
「もっと早く言って欲しかった。」
「ナギト様が直向きに頑張っている姿見てたら、なかなか言い出せなくて。ふふ、ごめんなさい。」
そんなことを照れつつ小さく笑ったピークさんを見て思った。
この人鬼かもしれない。
「キラリアさんに言いつけるか。」
ボソッと口にしてしまった言葉にピークさんが直ぐ反応した。
「止めてください。それはダメです。絶対怒られます。申し訳ありませんでした。」
めちゃくちゃ潔いな。
「なんでピークさんは、侍女を解任されないんですかね。謎で仕方ないですよ。」
最初からそのあたり謎だったけど、一向に納得出来なすぎる。確かに、お菓子も紅茶も美味しいけどさ。それだけでは、足りないくらい難あると思うんだけど。
「あー、ナギト様なら良いですよ。私が雇われているのは凄く簡単な話です。」
え?なんだろう。
「キラリ様って、いっつも凛とした涼しい顔をしているじゃないですか?」
「そうですね。芯がしっかりした人なんだなって思います。」
「あの顔でいつも身体全体に激痛が走り続けているんですよ。」
「え!?」
「黒衣獣化すると、その獣は魔素を大量に集めてしまい、激痛で理性が飛んでいるって言うのは、知ってますよね。」
「はい、それで無差別に攻撃するようになるって。」
「キラリ様は、生まれたときから魔素を吸収しやすい体質だったんです。」
「子供の時からですか。」
「あ、幼少の間は、そこまでだったみたいです。成長とともに痛みも酷くなり、今では凄まじい激痛だと言われています。」
「そうだったんですね。」
黒衣獣と同じような靄を出しているのは、わかっていたけどメカニズムもほとんど同じだったんだ。
人が黒衣獣化しても同じように理性を失うと言われているのに、それと同じ状態で一切苦痛を悟らせないとか、並大抵の気力で出来ることだとは思えないんだけど。
俺なんか、早々に痛みをシャットアウトしたっていうのに。
「私は催眠属性を扱うことが出来るので、紅茶などに混ぜ込んで、痛みを和らげるお手伝いをしているんです。」
「なるほど。」
希少属性を扱うことが出来るからこその抜擢ってことなのか。
「デロイ様が取り立てて下さったんです。年代も近かったこともあって。」
あ、王子様が見つけてきたんだ。ピークさんのこと。キラリアさんの両親とかじゃなく。
「それほど催眠属性を使える人がいなかったってことですか?」
ピークさんは一度不敵な笑みを浮かべた後、答えてくれた。
「そうですね、王宮内にはほとんどいませんね。また、極少数の中でも催眠属性を魔素料理に落とし込める人は私くらいです。催眠属性で失敗すると幻覚作用など、症状も読めませんからね。」
「それは……」
確かに、ピークさんしか最良物件がいなかったってことなのか。
「まぁ、私の料理も一時的な緩和でしかありませんから。食事を取りずらい時には何も出来ませんし、ましてや痛覚遮断の魔法が使えたりもしませんからね。」
そう言ったピークさんは困った表情を浮かべていた。
「本当に私って役に立てているのか謎なんですよ。キラリ様はお優しいから、何も言わないんじゃ無いかって。」
ピークさんが悩んでる理由がよくわからないな。
「一時的でも痛みが緩和されるなら、それほど癒される事ってなく無いですか?どんなに辛くて大変なことがあっても、休憩して一息つけると、リフレッシュされません?今こうして、お茶してるのも疲れを癒す為じゃないですか?この感覚をキラリアさんに与えられるのが、ピークさんだけって言うなら、重宝して当たり前ですよ。」
「………」
「もっと胸を張って良いと思いますよ?」
てか、そんな悩み方をしてる割に結構自由に動いてた気がするんだけど、あれは自分の価値を理解しての動きじゃなかったの?
「たしかに、言われてみるとそうですね。キラリ様を休ませてあげられるのは、私だけ。ふふふ。確かにそうですよね。」
「逆によくそんな感じで、あんな自由にやってられましたね。」
そう聞くと、ピークさんは優しい笑顔でつぶやいた。
「キラリ様はお優しいですから。」
え?優しさに付け込むタイプですか。
「キラリアさんが可哀想。」
「大丈夫です。私が癒やして差し上げますから!」
「マッチポンプすぎないですか!?」
あ、これはおれ、いらんこと言ったっぽいな。




