第20話 月音の悩み
今日はバーツと二人で小型目の動物で、連携の練習をしつつ狩猟を行った。
ネア達がいなかったのと、バーツも予定(彼女)あるとかで、夜が暇になってしまった。
最近、外で食べることが多かったから、天馬と月音と話せてないんだよなぁ。
狩猟に行かないこともあるから、俺は王宮で食事を取ることもあるけど、天馬は外に出てる事が多いし、月音も知り合いと食べに行く事が多い。
避けてる訳ではないが、タイミングが合わないことが増えたんだよな。
今日は、いないかな?
そんなことを考えながら、王宮の離れにある、自室に向かっていた。
すると、離れに続く道の途中、ベンチに腰掛ける月音が見えてきた。
なんだろ?アメのお菓子?いや、アメの包みから月が出てきてるようにも見える気がするな。
じっと、絵を眺めてるように見える。なんか、表情も暗く見えるし、何してるんだろう?
「何してるの?」
「あ、ナギナじゃない!今日は、早いね。」
「うん。今日は人少なかったから、帰ってきてすぐ解散した。」
「そうなんだ。」
「月音は?なんか、飴玉の絵眺めてたけど?」
「あめだま?え?漫画読んでただけよ?」
「え?」
「ん?そんなシーンなかったけど………あ!カバーのこと?」
「かばー?」
「ほら、これ。」
そう言って、もう一度スクリーンを表示する。月音。そこには、先程と同じ絵が写ってた。
「あ、そうそう。それ見てたんじゃないの?」
「えー?マジか、ナギナ。もうこっち来て結構たったよね。」
「3週間くらい?」
「でしょ!?これくらい知っとこうよ。ほら、こっち来てみて。」
月音がベンチの半分を空けてくれたので、促されるまま横に座って、画面に目をやる。
「いや、同じ絵じゃん!?」
さっきとおんなじ絵が画面に写ってた。あれ?別々に出来る的な話じゃなかったの!?
「そういう冗談よ。」
そう言って、画面を変えて見せる。こっちの世界の友達との写真っぽい。
「いや、わかってない人にされても困るぞ。え?どっちなの?」
背面を覗き込んでみる。確かに絵柄は飴玉の絵のままだ。
「背面て変えられたん……」
関心しながら、体勢を戻すと画面がまたしても、飴玉になっていた。
「え?何!?どっちなの??不安になるだろ!!?」
「あっははは、冗談だってば。もう動かさないからさ。」
もう一度見比べてみる。
ちゃんと、前後で写っているものが違うみたいだ。
「どーなってんの?」
「すっごーく、うすーくもう一枚表示させてるだけだよ。お詫びに私が教えてあげるよ。」
「それは、助かる。」
無事出来るようになった。本当に簡単な魔法だし、魔素の量も微々たるものって感じ。
「こんなこと出来たんだな。」
「逆に、気にならなかったわけ?プライバシーだだ漏れじゃない。」
「人前では、あんま使わないもんだと思ってたし。ギルドだとあえて、だだ漏れ状態で開いている人もいたからさ。」
「そういうのもあるんだ。いや、だとしてもさ、周り見てれば気付かない??」
んー、たしかに気づくのかもね。みんなおんなじ画面ばっか見るはずないし。
「たしかに、周り見てれば気付きそうだね。」
この言葉で月音は察してくれたようだ。
「そっかナギナ、周りに興味ないもんね。」
「その言い方だと、何も見てないみたいじゃん!知り合いならちゃんと見てるから!!」
「その言い方でも、異常なんだよ。」
そんなことないでしょ?
二人が理由でも、話した事がある人のことは、覚えてるし、目にしたらなんとなく気になる。
でも、話した事もない人に、わざわざ目を向ける理由なんてなくない?
ギルドみたいに、初めて行った場所でその雰囲気と、集まってる人の特徴を見たい時なら、周りにも目を向けるけどさ。
誰かといたり、目的持って歩いてたら、わざわざ周りなんて見ないんだけど。
「えー?まぁ、じゃあ、月音の意見は置いといて 。」
「私だけの意見みたいに言うなよ。」
「月音はなんかあったの?漫画読んでた割に、表情暗かったけど。」
「え!?」
なんか、ジトっとした目で見られてる気がする。
「なんでそう言う所はちゃんと見てるかなぁ?」
ボソッとなんか言ったみたいだけど、小さくて聞き取れない。
「え?なに?」
「やっぱ、ナギナは異常だなって思っただけ。」
「え!?なんでよ。心配しただけだよ!?」
「心配かー。んー、どうしたら良いんだろってなってる事があってね。」
「ふむ。」
「私、医局でのお手伝いをずっとしてるじゃない?」
「うん。」
それは聞いてる。回復魔法の練習にも1番良いって事で手伝ってるんだったかな。
「最初のうちは、魔法の練習ってのもあって、よかったんだけど、最近は凄い人が押し寄せるようになっちゃってさ。」
「それは大変そうだね。」
「うん。私的には負担はそんなないんだけどね。」
「え?そうなの??」
「私の魔素効率は凄く高いらしいから、そこまで苦ではないんだけど。人が増えすぎた事で、カルテとかの書記系の仕事が増えちゃってさ。私以外 の人がそっちに時間を取られる ようになっちゃったのね。」
「ふむ。」
「魔法って、やっぱ使うほど理解が深まるじゃない。」
「まぁ、確かにね。」
「医局の人達のチャンスを私が潰してることになるし、面倒な仕事だけ押し付けちゃってるみたいで申し訳ないなって。」
魔法はたくさん使った方が理解が深まるって言うのは、よくわかる。だからこそ、俺も狩りに出たりしてたくさん試すんだし。回復魔法だと、実験台がいたほうが良いってことかな。
「人が増えたってのは、やっぱり月音目当ての人が増えたって事?」
「うん。私に魔法を使って欲しいって人が増えてて、それも本当に小さな傷とかでも来るようになっちゃって、美人で可愛い聖女様って、罪なんだなぁって思ってさ。」
あれ?自慢が入ってた?いや、事実だけどもさ。
「そう言う時ほど、王子様の出番じゃないの?月音、仲良かったでしょ?」
「んー、デロイとは仲が良いのかな?色々と教えてくれてはいたけど、そういうのではないんだよね。」
あれ?パーティの時も楽しそうにダンスしていたし、結構仲良くなっているもんだと思っていたんだけど、そうでもないのかな?
「じゃあ、頼れないって事?」
「んー、どうだろ?頼れないっていうか、優劣をつけて良いのかなって。そもそも断って良いのかなって思ってて。」
「あー、そう言う。」
「重症なら受けれるって思われるのもなんか違うじゃん??」
「それは確かにそうだけど。」
「でも、そこはその人次第っていうか。例え何人犠牲にしたってさ、月音の安らぎにはかえらんないと思うんだけど。」
「私の安らぎ?」
「事務作業増えて困ってるのに、それを顧みず月音に魔法かけて欲しいのって、結構勝手な話じゃない。それで、重症じゃないとダメだからって、無茶するような人がいるなら月音が気にかける必要はないと思うけど。」
まぁ、俺の意見だけどね。
「そうかな。」
月音は腑に落ちなそうだ。
「まぁ、月音的にはそう思えないって事だもんね。」
「え?」
「月音って自分の魔法どれくらい理解してるの?」
「私?回復魔法って事?」
「うん。」
「私の回復魔法は、元々の体の状態で、最も状態の良い状態に持っていくって言う感じの魔法みたいなんだ。」
「元々の最も良い状態?」
あれ?軽く予想はしてたんだけど、思ってたよりも、なんか複雑なのかな?
体の調子の良い状態に戻す的な感じかと思ってたんだけど。
エステみたいに、体の調子良くなった事から考えて。
「本来、回復魔法って、その人の失った細胞を新しく復元して繋ぎ合わせる魔法なのね。」
「ふむ。」
「この世界だと、自然治癒もあると思うけど、それよりももっと正確に早く治すための魔法でさ。本当は、人体構造や体の部位ごとの魔素の繋ぎ方をきちんと理解することで、扱える魔法なのね。」
え?待って、あれ?知らないけど。
「俺も回復魔法使えるけど、そんなの知らないぞ。」
「ナギナは自分にしか使えないでしょ?自己回復だけ出来る人だとそう言う人が多いの。それに勉強すれば少しは人にも使えると思うし。」
「そうだったのか。」
それなりに、自分に使えるし、他人には無理なんだなって決めつけてた。
時間あったら、勉強するかな。
「それで、なんでそれが成り立つかって言うと、自分自身の人体を形成する魔素構造を無自覚に理解しているからなの。ここは、自然治癒で体が治るのとだいたい同じだと思っていいと思うよ。」
「まじか、すごいな自分。そんな精密なことしてたのか。」
「正確には少し違うかもだけど、ほんの誤差くらいで済んでるはず。」
「人体構造で起こる誤差は、普通に怖いんだけど。」
「なんともないって意味だからw」
「そうだったんだ。」
「それでね。私の場合は、回復魔法の中でその人の人体構造を把握して、その人の最も状態の良い状態に全部治すって効果があるみたいなんだ。」
「なんか、言い方がまわりくどいね。」
「前に腕が生えてくるとかあったでしょ?」
「言ってたね。」
顔に出てないよね?実体験しました!
「あれの逆でさ、人によっては、生まれてきた時に腕がなくて義手だったりすると、義手を取ってしまったりもするらしいの。」
「あー、なるほどね。」
人によっては、遺伝子情報的に考えて、無いものがあったら取っちゃうみたいな動きをするのか。
「それを私の場合は、取らないみたいでさ。その人が必要としているって情報を読み取って最適な状態に整えるって魔法みたいなの。」
「ふーむ、なるほどね。」
「だから、私は治ってない病気は治せなくてさ。」
「この世界にもやっぱり、そういうのがあるのか?」
あんま詮索したくないけど、キラリアさんのはそうなのかな?
「うん。向こうの世界とは、また違った問題がやっぱり山積みなんだよ。この世界でも。」
「魔王災害だってその一つだしね。」
「うん。」
ま、今の問題はそこじゃない。話を戻そう。
「なんとなく、月音の魔法はわかったよ。やっぱ、月音の魔法は便利だね。」
「そうなのかな?結局、自動でやっちゃうから、応用にかけるんだよね。」
「だとしてもさ、体を一発で元気に出来るって、普通に凄いと思うんだよね。それも、広範囲に一気に使えるでしょ?」
「ん、まぁ出来るけど。」
「簡単な話、月音の元に通ってる人は怪我を治すのが目的じゃないんだよ。」
「やっぱ、私?」
いや、そこでのあざとさはいらないんだけど。無駄に、上目遣いしないの。
「それもあるかもだけど、男女関係なく人は来てるでしょ?」
「私、女性人気も悪くないよ。この国だと。」
後半の強さには、つっこみたくないな。
「月音の魔法は、エステ的な効能があるんだよ。」
「え?あー、たしかに!言われてみるとそうかもね。」
本当に気づいてなかったのか。それに期待されて困ってるってことかと思ったけど。
「エステとか整体とかさ、通ったら体の調子が良くなるんなら、月音だって通わない?」
「たしかに!お肌にも良さそう!」
「そういうことでしょ。」
「え、だとしたらどうしよう。それだと今後もどんどん人増えそうじゃない?」
まぁ、結局そうなるのか。
「いや、主な目当てがそれなら、やりようはあるでしょ?医局の方だとさ、月音じゃないと難しいレベルの患者さんだって来る可能性はあるし、そういう人は助けたいんでしょ?」
「そりゃあ、困ってて、私に出来る事なら手伝いたいって思って始めたことでもあるしね。私にしか助けられないんなら、絶対助けたいよ。」
「うん。だからそっちはそのままのスタンスで良いよ。逆に、聖女様の10秒エステ的な施設でも作ればいいんじゃないって思うよ。医療行為とは別だから、医局とは差別化できるし。値段は知らないけど、お布施とかでも貰ったら、お小遣いとかにはなるんじゃない?」
まさか、本当にこの提案をすることになるとは思わなかったけどね。
「いかがわしさこの上ないけど、その発想は良いわね。」
「どうやってやるかとかさ、規模感をどうするかとかは、知らないけど。こういう時ほど、王子様を頼ってみるべきなんじゃない?」
「デロイを?」
「困った事があったら、気軽に相談してって言ってたでしょ?」
「んー、確かにね。おっけぇ。そうしてみるよ。ありがとうね。ナギナ、相談乗ってくれて。」
「まだ解決はしてないけどな。出来るかわかんないし。」
「いやいや、十分だよ。やっぱり、悪い事考えさせるなら、ナギナだよね。」
「え!?悪いことだったか?今の!?」
「だって、大規模なスペースに人集めて、ちょちょっと、光振り撒いてお布施を集めるんでしょ?側からみたら、完全にヤバめの集会じゃない!?」
「まぁ、確かに教祖様だな。」
「でしょ!?」
月音の顔も笑顔になって、夜空に月が覗き始めた。今日は、このまま王宮の離れで二人で食事をした。
この後、二人で月音を教祖様に置いた宗教団体を立ち上げるなら的な話で盛り上がっていたら、後からきた天馬に本気で引かれたらしい。




