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第15話 月とラリア

 会場に入ると、全ての人がこちらを向いたように思う。

 王様からの紹介を得て、それぞれ簡単な挨拶を交わす。これを持って、勇者様聖女様歓迎パーティが始まったようだ。

 まず初めに、歓迎を祝ってダンスを行ってくれた。今回は、俺らに社交ダンスの教養はなかったので、見学させてもらうこととなった。

 気になったら、習ったりも出来るらしい。伝統的な事の為、いずれは一曲くらいは踊れるようになって欲しいなと言ってたな。

 まぁ、この国の文化を知ると思えば、少しは出来るようになりたいなと2人も言ってたな。


 上手い下手とかは、あまりわからないが、皆が一様に優雅に踊る姿は絵になるなぁ。

 2人も楽しそうに見入っていた。


 一曲が終わり3人で拍手していると、これを皮切りに凄い勢いで人が集まってきた。ダンスに夢中で気づかなかったが、周りは曲が終わるのを今か今かと待っていたようだった。


 それぞれに無数から声が掛かるため、少しずつ離れて会話が始まった。


 挨拶をした時から、顔の華やかさも能力の汎用性の高さもどちらも2人に劣る俺は、2人と比べれば人は集まらず楽にしてられるんじゃないかと勝手に思っていた。

 それが今までの日常で、元の世界でもよく見る光景だったから、何も思うことはなかったんだが、そんな事はないらしい。

 今現在の俺には、異世界人という称号があるのだから当たり前なのかもしれない。転校生ってこんな気分なのかな?


 まぁそれでも遠目で見る限り、集まってくる人の特徴は多少差がある。


 天馬の元には同世代らしき女性が、月音の元には男性や同世代の子供を持つ大人の人が集まっている。

 そして、俺のところは天馬と月音に興味を示さないが、異世界に興味を持った人が来たんだろうなと思ってる。

 わざわざ、倍率高いとこに行くメリットなんてないんだから、当たり前の話だよね。


 本当にたくさんの方々とお話しした。

 数人ぐらいの

 グループ毎に、会話が途切れても人の波が途切れる事はない。ひたすら聞かれた事を知ってる限りで話していた。

 親子連れだったり、同世代同士だったり、様々で順番待ちしてても聞き耳は立てているのだろうなと思うくらい、会話が被る事は無かったが、それでも何回か似たような話をしつつたくさんの話をした。


 俺らが移動する直前に流行っていたものや、便利だったもの。この世界への印象や、困ってる事。

 話に聞いていたような、崇拝に近い目や、必要以上に気を使われることもあったけど、概ねなんて事はなかった。


 中には聞いてて面白い話もあったなぁ。


 一個前の勇者様がとある事件をやらかしていたらしい。


 まぁ、罪に問われるようなものではないんだが、ノリの良い人ならみんな有罪判決を突きつけるくらいのことをやらかしていた。


 この世界には漫画やアニメなんかもあるらしい。おすすめを聞いたので、その辺りも読みたいなと思ってる。

 始まりは勇者様や聖女様の金策なんかで、こちらの世界の物語を本にして売り始めたり、同人を書いてた人が、売り始めたらしく、この世界でも気に入られて一大コンテンツになってるようだ。

 俺らの世界を舞台にしたラブコメが、ファンタジーラブコメとして、女性に人気ってのは凄いなって思った。

 俺らの世界についても結構一般的で、魔法が使えない世界のことを魔法の世界にいる人が、想像して書く物語。普通に気になる。


 まぁ、そんな感じでこの世界でも、漫画は人気なのだが、前回の勇者様もところ変わらず漫画好きだったらしい。

 そして、この世界を平和に出来たら絶対にやるって決めていた事があった。


 それが、とある漫画の布教だ。まぁ、異世界なので著作権とかは黙認していただきたいのだが、この人はとある漫画が大好きすぎて、コマ単位でほぼほぼ覚えていたらしい。


 絵を描く能力はなかったし、出来る限り原作に近づけたかったらしく、絵師を雇って、漫画を完成させてもらっていたそうだ。


 そして、二年弱の連載を通しつつ、単行本の販売を行なっていた。勇者様のおすすめという話題性があったとしても、まぁ、普通に流行ってたタイトルでおれも知ってたので、異世界でもちゃんと売れるんだすげーな、流石ですって感じだった。


 ただ、話を聞いててある程度わかってしまった、勇者様がやったこと。


 前回の勇者様は、二年近い連載を通し、国内で大流行したところで、言い放ったそうだ。ファンみんなに向かって。


「俺が知っているのは、ここまでだ!この世界は大好きで、この世界に召喚されたのもよかったと思っているけど、この物語を最後まで見れなかった。結末を知れなかった。それだけがずっとずっとずっと心残りだった!この消失感を!この悲しみをたくさんの喜びを分かち合ったみんなとだから、分かち合いたいと思ったんだ!だから、今回の話で連載は終了します。」


 そう叫んだらしい。

 そして、全国民が泣いたそうだ。


 いやいやいや、これは有罪すぎる。話を聞く限りめちゃくちゃ盛り上がってるところだし、展開が気になるあたりだとわかったが為に、勇者様の悲しみもこの国の人たちの悲しみもわかってしまった。


 そしてそんな悲しみを背負った方々が、大人となり子供や孫を持った時に、行った所業も酷い。親世代の漫画に興味を持った子供達や、名作として読んでみろと、過去の勇者様が広めた大好きな物語だったから読んでみろと、勧めたそうだ。


 そして、読み始め、最後のネタバラシまでが、受け継がれるようになったという。


 この話は何度かされたんだが、みんなが悲壮な顔で話すのだが、これを笑わずにいられるか!?

 俺には無理だった。声を出して笑いたかったが、流石にまずいので顔を隠すしかなかった。どう頑張っても、にやける口を止められなかったから。


 いやー、酷い酷い。酷いよ。

 どれほど残酷な事か、自分の身を持って知ってるにも関わらずやり遂げる精神。どんな気持ちで二年過ごしたのかな?


 楽しかったろうなぁ。


 未だに、顔を抑える手を離せないよ。


 よって、続きを知りたい人たちがその漫画の続きを教えてほしいと聞いてきたのだ。

 今までの勇者様から考えて世代は近いはずだからと。


 もちろん俺も知っていた。流行ってたし、連載当初から俺も好きな作品だった。

 流石に、その勇者様みたいに一コマ一コマ覚えてる自身は無かったがある程度の展開は覚えてる。

 なので、なんとなく覚えてるよとは伝えてあげた。ただ、完全に覚えてるわけではないから、前回の勇者様のように時間があったら他の2人と内容をまとめてみるよと伝えてあげた。


 月音と天馬も確か読んでいたはずだ。

 前回の勇者様は知らないかも知れないが、アニメが映画化され、それがメガヒットするほどの人気になったのだ。

 大体の人が読んでいたし、2人も例外じゃない。


 2人も同じ質問受けてるかもだし、2人にも聞いてみよう。


 あー、2人の反応も気になるなぁ。なんで答えたんだろ?

 俺は、残り3話って予告されたところで転生したなんて、空気を読んで言えなかったよ。


 楽しみにはしてたけど、あそこまでの消失感は流石にないかな。でも、そう考えると完結を知れない作品がたくさんある事に気づいてしまった。

 うん。残り3話の事実は喋れないな。



 あーそれにしても、凄い喋ったな。めっちゃ疲れた。普段は月音や天馬が話題の中心の為、似たような話しかしないのに対し、思い出したり、思ったことを話す分、頭を使ったからか疲労感が半端ない。


 列が途切れたので、お手洗いに一度逃げたけど、戻ったらまた捕まりそうだ。


 どーしようかなぁと思って歩いていると、キラリアさんが目に止まった。

 凛とした姿で、1人窓際を歩いてるなと思ったら、テラスの入り口なのか窓型の扉を開けて外に出て行った。


 ここって2階だった気がするけど、中庭に続くテラスのようになっているのかな?王宮のホールだしな。ありえそう。


 俺も涼みたいな。

 疲れてたのでよく考えずに同じ扉から外へ出た。


 外はテラスではあったが、広い踊り場があるとかではなく、簡単な踊り場があるだけだった。

 先程とは変わり、黒い靄を纏ったキラリアさんと目があった。


 やっべ、思ったより狭かった。でも、このまま戻るのも確実に感じ悪いよな。


「ナギナ様も休憩ですか?」

「はい、流石に話疲れてしまって。」


 手すりに手をかけ、外を眺めていたキラリア様も扉が開いた音で気づいたのだろう。

 来たのが俺とわかり声をかけてくれたようだ。


 俺も手すりに手をかけて空に目をやった。


 そういえば、この世界で夜空みたの初めてかも。

 夜は2人と話すこと多かったし。


 あれがラリアか。

 この世界には、夜を彩る象徴が二つある。一つは地球と同じ月だ。この世界を回っていて、この土地も自転しているらしい。それに合わせて月も回ってる。

 逆にラリアは地球に隠れるように、太陽の反対側に居続ける。そのため、夜にのみ毎日現れる。


 青白く丸い光。初めて見る景色だが、違和感を感じなかった。


「どうかしましたか?」

「いえ、ラリアが綺麗だなぁって。」


 キラリアさんは、俺の言葉を聞くと少し微笑んだ。

「勇者様らしい反応ですね。」

「そうなんですか?」

「ラリアは毎日同じようにしか登りません。月のように様々な姿を見せず、味気ないって言われてますわ。」

「え?あんな綺麗なまんまるなのにですか?」

「そうですね。満月とは異なり、いつでも見れますから。それに、ラリアは魔素の濃度を高めますの。魔力の高い生物の能力が上がるため、影響の低い人間からは、嫌われていますわ。」

「へぇ、そうなんですね。」


 魔法操作の上手い生物なんかが、夜行性になりやすいって言う話は読んだな。

 ラリアによるバフがかかるから、夜の時間は捕食者達の時間らしい。


 でも、こうやって安全な土地を確保するようになった人間にはあんまり関係ない人の方が多いと思うんだけどなぁ。


「はい。困ったものです。」

 視線を外すように、キラリアさんは城内の方に向きを変えた。

 なんとなく追うように、視線を後ろに向けると、月音と王子様が目に入った。


 月音が手を引かれ、王子様にダンスを教わっているようだ。

 多少のぎこちなさを感じるが、たった今覚えたのだろうけど、なんとなく踊れているように見える。

 王子様が相当上手いのかな?


 無邪気に笑ってる月音に付き合わされて、王子様は大変そうだな。

 笑って応えてるあたり、優しい人なんだなとはよくわかった。


 キラリアさんの目も、2人に行っているように見えた。


「王子様、本当に誰にでも優しい人ですよね。」


「ええ、そうですわね。本当に、誰にでも優しい方ですわ。」


 あれ?なんの気なしに、話題を振ってしまったけど、これって修羅場?いや、月音がここにいるわけじゃないし、2人は幼馴染でお付き合いしてるわけではないと言っていた。

 修羅場とかそういう話では無いと思うのだけど。


 ラリアさんは違うのかな?


 表情を見たかったが、黒い靄が上手くキラリアさんの顔を隠してしまっていた。


 ここに来たのが、天馬だったなら、キラリアさんを天馬が誘って、相対的に絵になって丁度良かったんだけどなぁ。天馬なら、持ち前の運動神経でどうにか出来そうだし。


 なんか、ここに来たのが俺で申し訳なくなる。


「キラリアさん。」

「はい。どうかしま、え!?」

「問題です!どれが本物でしょう?」

 分身をたくさん出して並んでみた。

「ど、どれが本物か…ですか?」

 こういう時は話題を変えるに限る。天馬の恋愛系の話が出た時、天馬の好みや最近の興味関心なんかを答えたりは良くしてた。相手のことを知りたいって思うのは、悪いと思わないし、行き過ぎた質問で無ければ応えるようにしていた。

 でも、天馬が振ってしまったときや、他の人といい感じの姿を見た時に、俺からかけられる言葉なんてない。

 人から好かれることもなければ、自分自身ですら恋愛初心者の俺に言える事があるはずが無いのだ。

 そんな時は話題を変える。これ以外に俺に出来ることは知らない。

 口が聞けないほど落ちてるなら、俺も黙るしか無いけど、喋れるなら、考えさせないのが一番良いと思うから。


 俺程度に出来るのは、こんなもんだ。


「はい、最近覚えた魔法なんですが、結構自信があるんですが、どうですか?わからなければ、ヒントもありますが」

「貴方ではありませんか?」

「え!?」

 5分の1を一撃で当てられた。ぱっと見では、わからないくらいには自信があったのに。

「なんで、わかったんですか!?」

 キラリアさんは、お淑やかな笑みを保ちつつ応えてくれる。


「確かに視覚的には、構成な作りでは……ありま……」

 お淑やかな笑みが俺の分身Aのモサモサワンコの肉級のような手を見て、言葉が止まった。

 本体以外の俺に目線が避けていく。

 足がタコになっているもの。

 顔が点と棒だけで出来ているもの。

 I'm fakeという、ユーザ名が頭の上に浮き出ているものを見て、キラリアさんは言った。

「なぜ?そんな驚けたんですか?」

 真顔のマジレスはやめてください。俺のせいですけど。

「ごめんなさい、そうですよね。」

 ポンっと、全員消去する。どうしよう、これ黒歴史かな?


 キラリアさんが少し呆れたような笑みを見せた。

「ですが、気づいたのはそれではありませんよ。魔素量が全然違いましたので。魔素感知に優れた者なら見破れてしまいますわ。」

「あ、魔素感知ですか。そうですよね。」

 そういえば、黒衣獣ダスティマニアにも同じように見破られたんだったかな。

「普通に出すことも出来ますか?」

「あ、出来ますよ。」

 今度は一匹だけ、出してみる。

「あ、今回こそは精巧な作りですわね。見た目だけでは判断できませんわね。」

 隅々まで見て、キラリアさんが太鼓判を推してくれた。


「いえ、首の裏にバーコードがありますので、販売出来ます。」

「なぜ、そのようなことをしますの!?」

「自分に価値を付けたくて。」

「売れるほど低く無いでしょう?」

「あ、ありがとうございます。」

 キラリアさんが頭を抱えてしまった。やりすぎたかな?


「普通には作れませんの?」

「作れますが、面白くないですよ?」

「私は面白さを求めた記憶が無いのですが。」

 そういえば、そうでしたね。


「ナギト様は少し変わった方ですのね。」

「え?そんなことは無いと思いますけど、異世界人だからですかね?」

 俺は2人に比べたら凡人だからなぁ。でもこの国の人とは、まだよくわからないし。

「そういう話ではないのですが。」

「え?」

 声が小さくて聞き取れなかった。

「なんでもありませんわ。そろそろ終わりの時間ですし、中に入りましょう。」

「あ、そうですね。」


 テラスから城内に戻ることになった。

 もう月音達もダンスは終わったようだ。

 満面の笑みを作ることは出来なかったけど、俺は主人公でも無いしな。

 呆れた笑顔ではあったけど、これで許して欲しいな。

 誰かに見られてるわけでも無いが、なんとなく許しを乞いたくなってきた。






「はしたなく捲し立ててしまったわ。私らしく無い。こういう時だけは、顔が隠れるこの靄も助かるわね。」

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