第10話 復活のウデ
満身創痍の中駆けつけてくれた天馬を見上げつつ、息を整える。
安心はしたけど、ここで気を抜くわけにはいかない。
「一先ず、大きな怪我はなくてよかったわ。」
「……そうだね。後数分遅かったら、怪我で済んでたかわからないから、そこは助かったよ。」
黒衣獣を警戒しつつも、天馬は俺を視覚に捉えているはずだ。
それでも天馬は怪我が無くてよかったと言ってくれた。
そのことに俺は更に安堵した。
取れた腕を隠すためだけに使っていた、霧属性魔法は無駄でなかったようだ。
最初っからこんな大怪我を負ったことを知られたら、変に心配されそうで怖いから。
何事もなくギリギリ間に合った。天馬に映る事実はそうあって欲しい。
俺のただのわがままと、実力不足でしかないんだから、知られてはいけないことだ。
「ナギナの頑張りを無駄にするわけにはいかないからな。騎士団の人達と迅速に片付けてくるよ。」
「うん。任せた。」
「おう!」
力強い言葉で自分を鼓舞する様に、天馬は駆け出していった。
一撃で倒す…なんてことはないが、一太刀二太刀と確実に攻撃を当てていく。
俺と違い、魔法が出ない何てこともなさそうだ。
黒衣獣については、時間の問題だね。
そうなると、俺も急がないとな。少しの間だが、休むことができたので、立ち上がることくらいはなんとか出来そう。
少しふらつきながら、俺は自分の腕を探した。
落ちてる腕を見られたら俺の魔法のレベルでは、簡単に看破されてしまうだろうし、早いこと見つけないと。
「あった、あった。あれだ。」
転がった腕をひろうと、肉塊に土がついてるのが目立つ。
これは汚れ落とした方がいいよな。
さっと、水魔法を使って、ここからが本番だ。
腕と腕を繋ぎ合わせるように繋ぎつつ、回復魔法をかけていく。
「初めてやるけど、上手くいくよな?じゃなかったら意味がないんだが。」
俺の回復魔法は、高度になるほど、自分に対してしか使えないものになっていく。
高度とは言っても、月音のように腕を生やすなんてことは出来ないけど。それでも実体さえあれば、取れた腕だろうと繋ぎ合わせることができると思うんだ。
試したことはなかったから、予想でしかないんだが、断片を見ていくと、グジュグジュと蠢きつつ、骨も肉も繋がっていくのが見えた。
グッロー。視覚情報は酷いが、せめてもの救いは血液の色が、赤じゃないことだろうか。日本で育った常識のお陰で、現実感を感じずに済む点は、精神的に優しく思える。
鉄の匂いがしないのも良いところかもね。
繋がってはいるが、少し速度が遅く感じる。これは天馬が倒すまでの時間でつけられないかもな。
なんとか集中して、速度あげらんないかな?
「あっ!!」
突然の大声に、体がビクッとなる。
「こんなとこにいたの?ナギナ!」
あ、あ、あ!
驚いて動いたせいで、少し繋がっていた肉たちが、ブチっと離れてしまった。
なんてことするんだ。
そう思いつつ、後ろを向くと月音が立っていた。
「こんなところで何してんの?」
「満身創痍で、休んでるの。天馬も来たし、どこにいてもそんなに変わらないだろ?」
「なるほどね。ふーん。」
月音の目が俺の全体を順に追っているのがわかった。
「思ったより、なんともなさそうで安心したよ。」
「もー一歩も動けないけどね。」
「はぁ、こういう時、ナギナは運悪いよね。何で最初に会っちゃうかなぁ?」
黒衣獣のことだろうな。
「俺じゃなくて、天馬が運悪いんだよ。天馬が1番戦ってみたそうにしてたから、こんなことになったんだよ。」
「それはあるかもね。」
「でしょ。」
「じゃあ、よく頑張ったね。」
月音のそうそう見せない優しい笑みを見た途端、重かった体が急速に軽くなったのがわかった。
「回復魔ホう?」
声が一瞬上擦った。ズルンッと腕が生えてくるところを見たら誰でもこうなると思う。
「そ。私のは効き目抜群でしょ?」
そういうと月音はドヤ顔で笑ってるが、そんなレベルじゃないんだけど。
うわすご!すごってか、どーしよ!?
左腕が生えてきた為、右手に持っていた、左手が手持ち無沙汰となってしまった。
「ああ、助かったわ。俺のじゃ時間かかってて仕方なかったから、助かったわ。」
「………なんか、思ったより魔素の使用料が多かった気がするんだけど、もしかして内臓ぼろぼろだったりした?」
するどいな。そういうのわかるのか。左腕なかったし、臓器もぐちゃぐちゃだったから、大正解なんだが。
「無我夢中すぎてわかんないな。まぁ、攻撃全部避けたなんて言えないし。どっかしら折れまくってたかもね。」
「はぁ、全然無事じゃ、ないじゃない。」
「無事なんて言ったっけ?」
「言われてなかったわ。」
「だろ?」
はぁっ、と月音がため息を吐いた後、呆れた顔をした。
「ま、生きてれば私がなんとかしてあげるから、安心してよ。」
「わかった。安心して怪我すんね。」
「ええ。特別価格で対応してやるわよ。」
「でも、お高いんでしょー?」
「安心しなって!定価の2倍増での提供を約束するわ。」
「にばっ!?まぁ、俺自分で手当てできるしな。」
「安心してね。早い、上手い、可愛い。をモットーに提供してあげるわ。」
「回復魔法、押し売りするなよ。返品に困るだろ。」
「受け付けてあげても良いけど、辛いわよ?」
「受け付けんでいいよ!そんな中途半端な優しさいらないんだけど!?」
「ま、そういうことだから。」
「はい、怪我しないように気をつけます。」
「よろしい。」
「じゃあ、ナギナももう大丈夫そうだし、私も天馬達のところ行ってくるね。戦えないけど、できることはしたいしさ。」
「わかった。」
「ナギナは早いところ後衛に合流してね。」
「うん。ありがとう。」
そう言って、月音は走っていった。
左腕を持った俺を残して。
気づかれなかったのは、よかったが、もっと魔法に手慣れてきたら、魔素の使用料で怪我の大きさとかバレる可能性があるようだ。
さっきの話は月音の冗談とはわかるけど、あまり酷い時に月音を頼るわけにはいかなそうだな。
「さて、どうしようこれ。」
右手に持っていた左手に目を向ける。
左手をグッパッとしてみる。一緒に動き出す旧左腕さん。
グロイグロイグロイよぉ!
本当になんてことするんだよ。
改めて思ってしまう。
「魔素で繋がってるから、動いてるって感じなのかな?でも、神経が同じだから、別々に動かすことは出来ないけど。」
月音がいたら、千手観音とか出来ちゃいそうだ。それぞれ同じ動きしかしないけど、それでも多少は強そうだな。
絵面は最悪だろうなぁ。
あれぇ?回復術師ってこんなんだっけ??
腕はとりあえず、その辺に埋めて置くことにしたみたいです。
Q.その時の感想は?
A.掘ったり埋めたりする時に、連動して指が動いてるのが、怖かったです。




