【短編版】疎遠だった幼馴染に好きな人がいると恋愛相談したら様子が妙だ~どうやら幼馴染は好きな相手が自分のことだと気づいていないらしい~
あらすじを読んでもらえるとより面白く楽しめます。
短編版は少し先の話です。
俺には芹澤マキという幼馴染がいる。クールで勉学運動ともに完璧。まず名前を聞くだけで、学校の人間は美少女という単語を思い浮かべる。
人を寄せ付けない雰囲気を放ち、告白した人間は百パー撃破される。その所以から撃破女王と呼ばれたりもしていた。
誰にも心を開かない絶対の女王、それが十年以上離れていた幼馴染だ。
「相変わらず冴えねー顔してんな、ナオト」
「眼鏡曇ってんぞ、テツ」
「あっほんとだ」
早朝のクラスは活気に溢れていて、俺の前に席に座る悪友ことテツは情報通だ。何でもかんでもすぐに仕入れて、俺に話したがる。
一体どこからその情報は来るんだか。
すると、教室が唐突に騒然とした。
「見ろよ、撃破女王だぜ。今日もめっちゃ可愛いな。女王が彼女だなんて自慢できたら男として最高だろうなぁ」
「……マキか」
視線がマキに集中する。
腰まで流れる艶やかな黒い髪。しかし、光を浴びると僅かに青みがかっている。滑らかな足並みで、スカートの隙間からふともものラインが伺えた。
「今日もサッカー部のエースの告白断ったらしいぜ。ありゃ誰にも攻略できねえよ。だろ?」
「そうだな~」
「んだよそっけねえな」
実はマキは人望がある。人を寄せ付けないながらも運動神経が抜群で、助っ人として運動部の大会に出ると必ず好成績を残すのだ。その影響あってか、運動部の連中からの評価は女神様級に高い。
勉強も常に主席に近い成績を残しているため、教師たちからの人望もある。完璧な人間だ。
「俺は気が重いんだよ……なんつーか、マキに申し訳ないって言うかさ」
「は? どういう事だよ」
「俺とマキが許嫁って言ったら、お前信じる?」
「おいおい、どうした妄想が激しいぞ?」
「だよなぁ……でも、マキは責任感強いし真面目だから……」
俺が言い切る前に、マキが目前へとやってくる。
冷めた目でこちらを見据え、微かに笑う。
「おはよう。あなた」
開口一番、俺の下へやってきて挨拶をする。
クラスの全員が驚愕し、目を見開いている。あと隣でバカ面の悪友は叩くと元に戻った。
「ナオトぉぉぉ! どういうことだ!? あなたって、何どういう関係なんだー!」
「私たち許嫁なの」
「マキ……流石にその、恥ずかしいんだが?」
「もう隠すのはやめただけ。あっお弁当もあるから、お昼は一緒にしましょ? ね?」
「あ、あはは……」
まさかの俺とマキは恋人を通り越して、許嫁である。
それも全て、昨日の恋愛相談から始まった。
*
眠っていた俺は、休日の日曜ということもあってのんびりとしていた。
起きる時間もかなり遅いため、誰かが声を掛けない限り起きない。
些細な声が耳に届いた。
「可愛い……寝顔も好き」
なんだ? 誰か喋ってるな。
僅かに瞼を上げると、マキが居て俺の動きに気付き離れていく。
なんだ今の、夢か。
ベッドから起き上がって、ぼけーっとしていると声が聞こえる。
腰まで伸びる黒っぽい青髪にハーフアップをした美少女が、エプロン姿で立っていたのだ。
「朝よ。ご飯できてるから、早く顔洗ってきなさい」
「ん~?」
「っ!? 可愛っごほんっ。ご飯冷めちゃうから! もう……そんな可愛い顔ズルいじゃない」
ブツブツと呟いて顔を赤らめる。そっぽ向いて台所に戻っていき、しなやかに揺れる髪から柑橘系のいい香りがした。
判然としない頭を回転させて思い出した。
昔、父親が証券関係の仕事で失敗して、一文無しになった。隣り合わせだったけど、引っ越しを余儀なくされ、それ以降は会ってなかった。だけど、高校が偶然一緒になったということもあり、そこで再会した。
前のような関係ではないものの、思ったより良好な関係を築けていた。
「マキは……クールで、美少女で……全部完璧にこなす幼馴染……が、えっなんで家にいるの!?」
視界が急激にクリーンになり、ベッドから飛び上がってドタドタを足音を立て、さも当然に立っている幼馴染に問い詰める。
「ま、マキが俺の家にどうしているんだ」
「何言ってるの。別に初めてじゃないでしょ?」
「そうだけど、ま、マキがなんで料理を作ってるんだ」
「お母様に頼まれたからよ。なに、私だと不服?」
「嬉しいけど……学校の美少女が俺の家に来て、ご飯作るなんて夢か?」
「胸板……ふひっあっ! 寝癖を直してきて!」
咄嗟にマキが背を向けてしまう。
指摘を受けて近くにあった鏡を手に持つ。乱れた髪に胸板が見えているヨレヨレのパジャマ姿だった。
今、一瞬だけマキの顔がふにゃって綻んだように見えたけど気のせいか。
「ごめん」
「いいから、こっち見ないで」
あぁ、こりゃ怒ってる。
俺の馬鹿。好きでもない男のパジャマ姿なんか見たくないよな。
お目汚ししてすみません、と付け加えて洗面台へ向かった。
「夢じゃ、ないな」
歯を磨きながら、過去を思い出す。
昔はマキと親密だった。よくある、結婚を誓うとかそういう感じの。子どもの頃というのは現実を知らないだけで、純粋だった。
そして俺の恋はそこで終わるはずだった。高校に入って、マキと再会するまでは。
「……やっぱ可愛いよなぁ。めっちゃ怖いけど」
どうにも性格が変わっているらしく、俺に鋭い視線を向けてくることが多々ある。
でも、そんなマキを俺は好きだ。怖くても、世話焼きで優しい一面がある。さらには可愛いんだ。
「告白、してみるか?」
「何してるの?」
「あっ!? 今のき、聞いてた?」
「何の話よ。まだ寝ぼけてる?」
よ、良かった。聞かれていないようだ。
適当に返事をして、鏡に向き直る。
でも、絶対断られるよなぁ。アイツは男なんて選び放題だし、俺選ぶくらいならもっとイケメンでお金持ちを選ぶか。
よし、さりげなーく聞いてみてダメだったら今の関係を続けよう。
朝食にしてはやけに気合が入っている食卓に座り、両手を合わせた。
「ど、どう? 味は」
「最高、毎日食べたいくらいだ」
「……ん。あなたの好きな濃いめの味付けで作ったもの」
「あれ、俺濃いの好きって話したっけ」
「へっ!? い、言ってた!」
「そうか」
まぁ、前来た時にテンパって話したかもしれない。
再会したての頃はどんな会話してたか思い出せなくて、自然体になるまで時間がかかった。
今では軽い感じではあるが、互いにかなりぎこちなさはあった。だって、可愛くなりすぎなんだよ!
「悪いな、朝ごはん作ってもらって」
「いいの、これも役目だから」
「役目って、幼馴染だけど十年以上離れてたんだぞ?」
「私がしたいからするの。いいから食べて、おかわりもある」
黙々と旨いご飯を食べて、ある程度進んだ所で俺は話を切り出した。
俺のことをマキが好きかどうか知らないよりも、知りたいという欲が勝ったのだ。
「なぁ、マキ。大事な話があるんだ」
「改まってなによ。あぁ、勉強なら教えるわよ。運動も付き合ってあげる、何してほしいの?」
怒涛の魅力的な提案に、呆気を取られつつ話を切り出す。
やっぱマキは優しい。
「その――――実は、好きな奴が出来たんだ」
突如、衝撃が走る。
ゴンッという鈍い音と共にマキがテーブルに頭部を強打させていた。
綺麗に食器を交わししていたため、ダメージはマキのデコのみ。
「マキ!? 大丈夫か!?」
「……ふぅ、ええ。大丈夫よ。で! 何?」
「お、おい。なんか興奮してないか?」
「してない」
「お、おう」
赤く染まった頭部が気になっていたものの、ほ、本人がそう言うのなら、そうなんだろうと納得する。
「好きな奴が出来てさ、告白しようか悩んでるんだ」
「ひぐぅっ……誰よその女」
「な、名前は言えない」
えぇ!? 涙目でめっちゃ睨んで来る! 怖すぎるんだけど!
俺みたいなのに告白される女子の気持ち考えろってこと!?
……そうだったら、俺終わったな。
「どういう子なの?」
「えーっと、クールで世話好きで優しくて……勉強もできて健気な子なんだ」
「へぇ~、ふーん、そうなの」
「あ、あぁ! 告白したいんだけど、たぶん相手は俺のこと眼中にないし友達だとしか思ってない」
「そうでしょうね」
「えぇっ!?」
やっぱ、そうなのか?
俺のことなんか好きじゃないよな……分かってたじゃないか。
結局、昔は昔で今じゃないんだ。
「諦めなさい。その子はあなたには合わない」
「そっか、だよな。いやー、ありがとう。悩んでたんだ」
「ええ、それがいい」
マキは箸を置いて、テーブルから離れていく。
台所に立って、包丁を取り出すと俺に問いかけた。
「で、誰?」
「いやいやいや! 何するつもりだ!?」
「ナオトをたぶらかすなんて、とんでもない女よ。許せない」
「そんなんじゃないって! その子は俺のことなんか好きじゃないだろうし!」
「なおのこと許せない」
なんとか包丁は戻させたけど、ど、どうすればいい。
友達思いなのは変わりなくて嬉しい。でも問題を起こされると困る。
「名前は言えないんだって」
「なんで言えないの」
「は、恥ずかしいからだ」
「……じゃあ、教えて。どれくらい好きなの?」
「え、えーっと……十年以上好きだったくらいには」
ほ、本人を目の前にする滅茶苦茶恥ずかしいな!
実質愛の告白みたいなもんだぞ! ああ、何がさりげなく聞くだよ、これじゃあ伝わるだろ!
「……じゅ、十年……」
ほら、マキの様子もおかしい。やっぱり気付かれたんだ。
これで、俺とマキの関係も終わりか……だよな。俺みたいな奴には贅沢な時間だったんだ。
「十年も……私以外の女を……カハッ」
遺言のように呟き、マキが倒れる。
意識を失って倒れる様子に気付き、咄嗟に支える。
「マキ!? マキぃぃぃ!」
俺の告白がそんなにショックだったのかぁぁぁ!
*
ベッドで横にして、毛布を掛けていた。
気が付いたのか、起き上がって俺と目が合う。
「……私、ごめんなさい」
「いいんだ。俺が悪い」
微妙な空気が俺たちを包む。
無理もない。俺は告白を断られただろうし、マキも関わりづらいだろう。
「本当にその子に告白するの?」
「やめておくよ」
「そ、そう」
安堵するマキに、友達関係が良いのだと暗に言われている気がした。
せめて、俺がイケメンかお金持ちであれば違ったのかもしれない。
「あなたは恋人が出来なくても大丈夫だから」
「酷くね?」
「だって要らないもの」
随分な言われようだが、実際に俺は彼女が出来た試しがない。
良い雰囲気になった子は何人かいるのだが、どうしてもマキの顔が浮かんでしまって好きになれない。
俺は一生、マキ以外の女性を愛せる気がしないのだ。
「ねぇ、そんなに彼女が欲しいの?」
「彼女が欲しいっつうかなぁ、まぁ欲しいけど」
マキが毛布に包まって、口元を隠すように顔を出した。
仄かに赤らめた頬が少しだけ色っぽく見える。
「私じゃ、満足できない?」
「っ!?」
数秒。さらに数分ほど目を見開いて口を開けっぱにアホ面していた。
信じられるか? あのマキが言ってくれたんだ。
……待て、これって同情じゃないか? 彼女出来ない俺可哀想。仕方ない、私がなってあげよう的な。
それだとすげえ申し訳ないな。
「マキと付き合えたら嬉しいけど、そんな安売りすんなよ」
「そんなつもりはないのに……」
「俺よりももっといい男はいるからさ」
これでいいんだ。
俺はマキを幸せにするには力不足だ。
「……じゃあ、あの約束もどうするの?」
「約束って?」
顎に手を置いて悩む素振りをする。
はて、約束なんかしただろうか。思考して捻っても出てこない。
「子どもの頃、結婚しようって約束よ」
「――――ぶふっ!」
思わず吹きだしていた。
何を言い出すかと思えば結婚!?
そんな子どもの頃の約束を覚えていたのか!
「さ、流石にないだろ!」
それは、昔に俺から言い出したことだった。
やべえ、マキの顔を直視できん!
めっちゃ恥ずかしい!
「知らないの? 私たち、もう許嫁なのよ?」
「……は?」
「十年以上前に、私とナオトの両親が了承したのよ。結婚すること」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
「なかったことになんてさせないから」
「どっえぇ……いいの?」
いやいやいや、聞いてないって! 初耳なんだが!?
マキは起き上がり、毛布を肩にかけた。
ドレスのように舞い、満面の笑みで告げる。
「ずっと花嫁修業してきたんだから、責任取ってよね。その好きな子なんかに負けないんだから」
勉強も、運動も、家事も、全て完璧にこなせる。それは全て、花嫁修業の一環であったのだ。
将来の旦那である、俺へ尽くすために。
【――お願い――】
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面白いです。