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第7話

 時は少し遡る――


 レイドが迷いの森のダンジョンを攻略する前、王城では深刻な問題が発生していた。その中心にいたのは“黒剣”のグスタフだ。



 「何故呼ばれたかは理解しているな」


 「ああ、大体の見当はついてる」



 王城に呼ばれたグスタフを待ち構えていたのは、国王軍のオルスだった。二人とも大柄な男だったため、その迫力に周りにいた人間は息を飲んだ。


 だが――



 「よく来た、グスタフ! 久しぶりだな」


 「ああ、お前も元気そうで良かった」



 二人は拳を突き合わせ笑いあう。元々国軍にいたグスタフにとってオルスは同期の仲間だった。


 進む道は分かれ、時は経ったが、お互いを尊敬しあう関係は変わらない。



 「分かっていると思うが、宰相のデミトゥリス様はお前の話に疑問を持っている。ダンジョンでの出来事は何も隠さず、ありのまま話せ」


 「隠すことは何もない、俺は見たままを言うだけだ」


 

 城には“黒剣”の他のメンバーも来ていたが、別の部屋で待機させられていた。宰相の部屋に向かう二人は重苦しい空気を纏う。



 「グスタフ……本当にお前じゃないのか? ダンジョンを攻略したのは」


 「俺も自分だったらどんなに良かったかと思うよ」



 オルスはグスタフが嘘を言っているとは思っていなかった。だが宰相のデミトゥリスが疑っているのは明らかだ。


 最悪の状況も考えられるため、不安は(ぬぐ)えない。宰相の部屋の前で二人は立ち止まり、オルスは扉をノックする。



 「オルスです。冒険者のグスタフを連れてまいりました」


 「入れ」



 中に入ると、宰相のデミトゥリスと数人の護衛兵。ギルドを管轄する行政長官が待ち構えていた。



 「よく来てくれた。座ってくれ」



 グスタフは執務室にある革張りのソファーに座り、その後ろにオルスが立つ。仕事机に座っていたデミトゥリスは立ち上がり、対面のソファーに腰をかけた。



 「グスタフ、君に聞きたいことがあってね。もちろんダンジョンのことだ」


 「はい」


 「ダンジョンに変化が起きた時、君たちのパティ―が最も下の階層にいたのは間違いないかな?」


 「間違いありません」


 「君たちが最下層に行った際、他の人間は見かけたかな?」


 「いえ、絶対に居なかったとは言い切れませんが、少なくとも我々は見かけておりません」


 「ふむ……」



 デミトゥリスは状況的に考えて、グスタフがダンジョン攻略した可能性が高いと考えていた。だが、それを隠す理由が分からない。


 ダンジョンの最下層の秘宝は、国が買い取りたい意思を示しているが、絶対に売らなければいけない訳ではない。あくまで国のマイナスにならなければ良い。


 むしろダンジョン攻略者は英雄として国中から賞賛される。


 ――どうしても隠したい理由があるとすれば……想像を絶する力を持つ秘宝があったということか? もし国に仇為すことを考えているのなら……。


 デミトゥリスはグスタフに対する懸念を、より強くしていった。



 ◇◇◇



 「おい、どうなってんだ! 何で俺達が疑われるんだ。腹が立って仕方ないぜ」



 城内の一室で待たされていた“黒剣”のメンバー。その中でも副リーダーのカールは、自分達の扱いに不満を持っていた。



 「落ち着けカール、怒っても状況が変わる訳じゃない」



 カールを(なだ)めたのは、グスタフやカールと同じくベテランのダイアだった。新人のマルコとダイトスは大人しく座っている。



 「上の奴等は、俺達がダンジョンの秘宝を猫ババしたと思ってんだぜ。悔しくないのか? 誰がそんなこと秘密にするかよ!」


 「怒った所で解決しないだろう」


 「疑われてること自体が腹立たしい!」



 部屋の中をカッカと怒りながら歩くカール。それに対し座って足を組み、冷静に話すダイアは対照的だと新人の二人は思った。



 「知ってるか? ダンジョンの秘宝……報奨金が8000万リグルになったそうだ」


 「は、8000万だと!?」



 ダイアの言葉にカールが驚愕する。新人の二人もその額に目を見開いた。



 「さっき警備兵に聞いたんだ。城内でも噂になってる」


 「そんな金がありゃ~、冒険者なんて辞めて遊んで暮らすのに……ちくしょー誰だよ、ダンジョン攻略した奴は! さっさと名乗り出て金貰えよ」


 「それだけ国も必死ってことさ、今回の件……簡単には終わらんだろう」



 ◇◇◇



 デミトゥリスによる聞き取りが終わったため部屋から出たグスタフだったが、数日の滞在を求められた。


 断る訳にもいかず了承する。


 足取り重く城内を歩くグスタフとオルス、二人とも深刻な表情になっていた。



 「どう思うグスタフ? ダンジョンを攻略しても名乗り出ない謎の人物……どんな奴なんだろうか」


 「犬を連れた男だ。身長は恐らく170前後だろう」


 「何でそんなことが分かる!?」


 「最下層に残っていた足跡の大きさと、歩幅で大体の体格は分かる。問題なのは何もない壁際から現れて、何もない所で消えていることだ」


 「どういうことだ?」


 「分からん……まるで突然現れて突然消えたような、そんな痕跡だ」


 「ますます謎が深まるな」



 オルスと別れたグスタフはメンバーがいる部屋に行き、宰相と話した内容を伝えた。自分達の立場が良くない事も隠さずに全て話す。


 全員納得してない様子だったが、文句は飲み込むしかない。


 “黒剣”のメンバーは、グスタフを含め城内の一室で滞在することになった。部屋の前では護衛兵が目を光らせている。


 それは事実上の監禁だった。


 真実が明らかになるまではグスタフ達を自由にする気が無かったデミトゥリスだが、その翌日信じられない報告を聞くことになる。



 「た、大変です! デミトゥリス様!!」



 朝早く執務室に飛び込んできたのは、ダンジョンの管理を任されている行政長官だった。(ひたい)には汗が滲み、酷く慌てた様子だ。



 「どうしたのだ? そんなに慌てて?」


 「ダ、ダンジョンが……」



 息を切らせて、デミトゥリスの顔を見る行政長官。その顔は青白く、何かに(おび)えているようにさえ見えた。



 「迷いの森のダンジョンが……攻略されました!」


 「何だと!?」



 グスタフを始め“黒剣”のメンバーは全員城内にいる。つまりはグスタフ達ではない、第三者がダンジョンを攻略したということ――


 その事実にデミトゥリスは衝撃を受け、行政長官と同じく蒼白な顔で椅子にもたれかかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすいし引き込まれるわ~( ´ー`)
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