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第6話

 「ブッ、クシュンッ!」



 布団にくるまって震えているレイドを、犬のジャックが心配そうに見つめている。滝つぼで抜け穴を探したレイドだったが、結局見つからなかった。



 「うぅ~寒い……。今日は早めに眠るよ。明日の仕事に差し支える」



 ランプの灯を消して、眠りに就く。


 ――滝は関係ないのかな……? 別の場所か、それとも抜け穴があったのは一つだけで、他には無いのかもしれない。


 レイドはぐるぐると思考を巡らせながら、微睡(まどろみ)に落ちていく。



 翌日――


 取りあえず風邪をひかなかったレイドは、畑仕事に出かけた。


 レイドの畑は4ヘクタールほどあり、肥料を撒いて全てを耕すだけでも一苦労だ。それを夏前までには行わないと、その後の収穫に影響が出る。


 農家としては、比較的忙しい春先の時期だったが、それでもダンジョンを調べることを辞める気はなかった。


 今まで感じたことのない好奇心が、レイドを突き動かす。仕事にある程度区切りがつくと、早々に切り上げ帰ることにした。


 そんな帰り道、連日早く山を下りるレイドを見て、フィーネが声を掛けてくる。



 「レイド兄、最近どうしたの? すぐに帰っちゃうけど」


 「ああ、いや、何でもないよ。日が落ちる前に帰りたいだけだって」


 「ふ~~ん」



 ――何か、怪しまれてる気が……。



 「まあ、いいや! 今日私の家に寄っていってよ。父さんや母さんもレイドならいつでも来ていいよ。って言ってるし」


 「ええ、でも悪いよ。急に行っちゃあ」


 「大丈夫だよ。ちょっとだけ! ねっ、いいでしょ」



 結局、フィーネに押し切られる形で村まで一緒に帰り、ジャックと共にフィーネの家に寄ることにした。



 「おう、レイド。もう仕事は終わったのか?」


 「ええ、終わりました。ヤニス爺さん、腰の調子は大丈夫ですか?」


 「ああ、何とかな。この歳になると騙し騙しだよ。ハハハ」



 このガレド村は五十人ほどしか住んでいない小さな村であるため、村人は全員顔見知りで家族のような繋がりがあった。


 簡素な家が立ち並ぶ、決して豊かと言えない村だが、外では子供達が走り回って遊び、それを家の前にある木箱に腰を掛け、微笑みながら見守る老人達の姿がある。


 そんな村のほのぼのした光景が、レイドはとても好きだった。



 「フィーネ、今日はレイドと一緒かい」


 「レイド! 家で取れた野菜があるから持ってきな」


 「レイド兄ちゃん! また遊んでよ」



 多くの人から声をかけられ、笑顔で答えていくレイド。このガレド村の人達はみな茶褐色の肌に、色素の薄い髪色をしているオルド人だ。


 この容姿のせいで、モルガレア公国に住む他の民族から酷く嫌われていた。


 オルド人が、かつて世界を支配し暴虐の限りを尽くしたオルドリア帝国の末裔とされているのが原因だが、千年以上も昔の話なので真偽は定かではない。


 差別される理由に納得出来ないレイドだったが、そんなことを言ってもしょうがないことは分かっていた。


 フィーネの家でしばらく待っていると、フィーネの父アゼルと母のマリーが帰ってくる。レイドの姿を見ると、笑顔で歓迎してくれた。



 「今日は夕飯を食べていくだろ? レイド」


 「いえ、用があるので今日は早めに帰ります」


 「ええ、それは残念ね。レイド君と一緒に夕飯を食べるのをフィーネが楽しみにしていたのに」


 「ちょっと! お母さん!!」


 「あらあら、ごめんなさいね」



 仲の良いフィーネたち家族の団欒を見て、レイドはいつも温かい気持ちになる。すでに両親がいないレイドにとって唯一、家族を感じる瞬間だった。


 しばらくアゼルやマリーと話をして、帰路につこうとするレイド。


 フィーネは不満気だったが、アゼルやマリーに窘められる。


 「また来るから」とフィーネに言い、ジャックと共に帰宅する。

 

 家に着くと、昨日と同じようにジャックのご飯を用意して「行ってくる」と言うと、ジャックも慣れたのか「行ってらっしゃい」と見送るような鳴き声を上げた。


 本を開き地図を出す、映像に触れて光の中へと消えていく。



 ◇◇◇ 



 迷いの森――


 モルガレア公国の南東にある広大な森の一角、鬱蒼(うっそう)とした木々が立ち並び、足を踏み入れた者を迷わせる、そんな危険な森だと言われていた。


 ギルドの分局が入口近くに併設されているが、このダンジョンに挑戦する冒険者は少なく、日中は閑散としていた。


 だが【空間転移】が使えるレイドにとっては関係ない。


 どんな場所でも簡単に到着してしまう。目的の滝の前に転移したレイドは、再び周辺を調べ始めた。


 三十分ほど辺りを見て回るが、それらしいものはない。


 他にあるとすれば――



 「この滝の裏側かな……」



 レイドは流れ落ちる水を見ながら考える。「よしっ」と意を決し、側面から回り込み、滝に近づいて行く。


 滝の裏側を確認するには結局の所、滝つぼに入るしかない。



 「また濡れるしかないのか……」



 水面に足をつけ、ゆっくりと滝つぼの中へ入っていく。泳いで滝まで近づくと、上から凄い勢いで流れてくる水に少したじろいだ。


 だが前に進まないと確認することは出来ない。


 レイドは頭に棍棒で殴られたような衝撃を受けながら、ゆっくり前に進み、何とか滝つぼの裏まで辿り着いた。



 「……あった」



 目の前には岩壁があり、その一部にポッカリと穴が空いている。


 ――同じだ……山間のダンジョンの時と。


 レイドはぐっしょりと濡れた服を脱ぎ、力一杯しぼり水を抜く。くしゃくしゃになった服をもう一度着直し、穴の奥へと進む。



 「うぅ~寒い……早目に帰らないと、今度こそ風邪ひきそうだ」



 愚痴りながら奥へ奥へと歩いて行くと、以前と同じように人工的な通路が下に向かって伸びていた。わずかな光が、壁や天井から漏れている。



 「造りも、まったく同じか」



 更に二時間ほど歩くと、通路の先に扉が見えて来た。光の文字が書かれた扉に触れようとすると、扉は左右に開く。


 ――ここまでは前回と同じだな。


 だが中に入ると、以前の部屋とは違っていた。狭いのは同じだったが中央に円台は無く、壁際に何か入れ物のような物が立てかけられている。


 青白い光が一際輝き、あの声が聞こえてきた。



 『――最下層到達者を確認しました』



 キョロキョロと辺りを見回すが、やはり誰もいない。



 『守護者ガーディアンの05【カトレア】の解放を認証、権限の委譲を承諾します』



 目の前にある入れ物が、蒸気を噴き出し動き始めた。フタが開き、中に入っていた物がうっすらと見えてくる。


 それは薄いピンク色の髪をし、褐色の肌をした少女だ。


 見た目はオルド人のようだと、レイドは思った。



 「君は……」



 少女に話かけようとした時、蒸気が収まり、ゆっくりと体が見えてくる。レイドは驚愕した。


 少女は服を着ていなかったが、そんなことが些末に思えるほど、その少女には特徴がある。全身が、鉄のような金属で出来ていたからだ。


 顔以外、首から下は全て銀色の体……レイドはあまりの事に言葉を失う。少女が歩き出すと、わずかに駆動音が聞こえ、レイドの手前で止まる。



 『登録を行います。名前を教えて下さい』



 一瞬少女がしゃべっているのかと思ったレイドだったが、部屋全体から聞こえてくる声だった。少女は口を真一文字に結んだまま、表情一つ変えていない。



 「あ……ああ、俺はレイド・アスリルだ」


 『レイド・アスリル……登録完了しました。委譲の完了により、私の役割を終了します。あなたがオルドリアの遺産を正しき事に使うことを祈ります』



 そう言って“声”は消えた。同時に部屋の中の光も消え、物言わぬ人形のような少女と二人っきりとなる。


 レイドは慌てて光を放つ【魔導書】を出現させ、少女の顔を照らした。



 「君は一体……?」


 『マスター、これよりあなたに付き従い、いついかなる時もお守りします』


 「守るって俺を?」


 『はい、それが私の役割です』



 少女は無表情で淡々と話す。まるで感情が無いようだ。少女はとても整った顔をしており、顔だけなら人間にしか見えない。


 だが、どこか冷たい表情にも見える。



 「ここで話しているのも何だから、取り敢えず家に移動しようか」



 本を開き、光の地図を映し出す。レイドと少女の足元に魔法陣が描かれ、二人を瞬間的に移動させた。


 次の瞬間、二人がいたのはレイドの家の前だ。



 「せまい家だけど、遠慮しないで入って」


 『はい』



 家の中に突然知らない人が入って来たので、ジャックは困惑した表情で立ち上がる。レイドは少女に席を勧め、椅子に座らせる。



 「ええっと、さすがにその格好じゃマズイよな……」



 レイドは自分の服が入れてあるタンスをあさり、少女が着られるような服を見繕う。大人しく椅子に座っている少女に視線を移すが……。


 ――これ、着てくれるかな? 嫌がられるかも。



 「あの……良かったらなんだけど寒そうだし、この服どうかと思って」



 レイドは恐る恐る少女に聞いてみる。すると少女は無表情のまま服を受け取り、じっと観察するように見ていた。



 『マスターがお望みなら』



 少女はそう言って服を着始める。


 何か変なプレイをしている気分になるレイドだったが、「いやいやそんなことはない」と首を横に振る。


 服のサイズは合っておらず、フードの付いた上着はブカブカだった。


 それでも、何も着ていないよりはマシだろうと思うレイド。



 「ところで、そのマスタ―って言うのやめてくれない?」


 『マスターはマスターです。それ以外の呼び方を知りません』


 「ああ……そう」



 こうして新しい家族? が仲間入りした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ありがとうございます。久し振りになろうに来たら活動再開されていてうれしかったです。
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