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第5話

 ダンジョンから帰って来た日の翌日、レイドは光の地図を見ながら考えていた。


 ――本当にダンジョンの構造は、全て同じなんだろうか?


 昨日、自分が入った“山間のダンジョン”周辺の地図を何度も繰り返し見る。


 ――俺が入った穴は、ダンジョンの中心から5キロの場所だ。これが一つの手がかりになる。


 レイドはページをパラリとめくり、違う地図を表示させる。


 それは自分が住む地域から、最も近いダンジョン。“迷いの森の遺跡”周辺のものだ。その地図を眺めながら、レイドは今回の大まかな位置情報を当てはめていく。


 地図は縮尺を変えることが出来るため、見やすい大きさにして検討する。



 「中心部から5キロ、5キロっと……」



 おおよその検討をつけて、その円周を視線でなぞる。すると――



 「ここかな……」



 円周の一部に川があり、ちょうど滝が重なっていた。上から俯瞰(ふかん)している地図で見ると、明らかに目立っている。



 「取り敢えず、この周辺を調べてみるか」



 レイドは自分の推測が当たっているか確かめることにした。


 冒険者に憧れていたレイドは、この発想が自分の運命を変えるかもしれないという淡い期待を抱く。


 とは言え、仕事をしない訳にもいかないので、レイドは畑仕事が終わってから調べに行くことにした。


 (くわ)を担ぎ、肥料を持ち、ジャックを連れて家を出た。


 午前中には畑を耕し、肥料を撒いて土を作る。午後になってフィーネがお弁当を持って遊びに来たので、一緒にお昼にした。


 農業に関する知識や雑談などを話した後、帰るフィーネを見送り再び畑を耕す。



 「ふぅ~、今日はこれくらいにするか」



 日が沈み始めてきたので仕事を早めに切り上げた。ダンジョンを調べる時間を確保しなくてはいけない。


 いつものように農機具を片付け、(くわ)を肩に担ぎジャックと一緒に山を下りる。家に着いて明日の仕事の準備をした後、ジャックのご飯を用意した。



 「ジャック、出かけてくるよ。すぐ戻るから留守番頼むぞ」


 「わん!」



 レイドは本を出し、“迷いの森”の地図を開いた。滝の近くを拡大していくと、足元に光の魔法陣が描かれる。


 光が収まると、そこには誰もいない。ジャックは不思議そうな顔で、レイドが消えた場所を見つめていた。



 ◇◇◇



 水が激しく流れ落ちる滝の前に、本を持ったレイドが立っている。


 夕暮れ時なのもあり、滝の周りはやや肌寒さも感じた。レイドはもっと着込んでくれば良かったと思いながら周辺を調べ始める。


 しばらく探すが、以前見つけたような“穴”は見つからない。



 「ひょっとして……滝つぼの中か?」



 靴を脱ぎ、透き通った綺麗な水面に足を入れる。その冷たさに体がビクッと反応するが、我慢して水の中に入って行く。



 「早めに見つけないと、風邪ひいちゃうな……」



 レイドは頭から水面に潜り、ダンジョンの抜け穴を探し始めた。



 ◇◇◇



 モルガレア公国、王城――


 ダンジョン攻略の知らせは、この国の宰相(さいしょう)デミトゥリスの耳に入った。



 「何!? 本当なのか? ダンジョンが攻略されたというのは!」


 「はい、ギルドからの報告です。間違いないかと」



 日も沈み始めた夕暮れ時、国王軍の将軍オルス・ラーデンから聞かされた話に、デミトゥリスは困惑した。


 他国でも最下層に到達した者はいないと言われていたのに、ギルドに所属しているパーティー“黒剣”が最下層に入って調べた結果、ダンジョンが攻略されたことを確認したと言うのだ。



 「信じられん……」



 デミトゥリスは掛けている銀縁の丸メガネを外し、目元を押さえた。


 茶色の髪は肩にかかり、豪奢な服装は宰相としての威厳を放つ。四十代で国王に次ぐ内政の実力者に上り詰めた英才のデミトゥリスだが、前代未聞の出来事に頭をかかえる。



 「それで、誰がダンジョンの攻略をしたんだ? “黒剣”ではないのだろう?」


 「それが……分からないそうです」


 「……何だと!?」



 デミトゥリスの目の前にいる将軍のオルスは、紅蓮の髪をした勇猛果敢な騎士であり、戦場においては先頭を切って敵を薙ぎ払う豪傑として知られていた。


 そんな男だが普段の性格は極めて実直で、冗談など言う人間ではない。


 しかし、その男が報告した内容は、冗談としか思えないものだ。



 「分からないなど有り得ないだろう……ダンジョンの入口はギルドが管理し、出入りできるのは許可を取った冒険者か軍人だけだ。なのに何故(なぜ)分からない!」


 「はい、ギルドも軍の機関も首を(かし)げている状況でして……ギルドの局長であるコーダも誰が攻略したのか見当がつかないと……」


 

 ――バカな、ありえない。


 これから国王に謁見するデミトゥリスは、眩暈(めまい)がする思いだった。王に何と言うべきか……頭痛がするのを感じながらオルスを連れて王の間へと向かった。



 ◇◇◇

 


 モルガレア公国は、かつて隣の大帝国アレサンドロの公爵領だった。


 幾度かの大きな戦争の後、独立して今の公国の形となる。だが、とても小さな国であるため、常に帝国の影響を受ける弱い立場であった。


 そのモルガレアを治めるルドルフ・モルガレア7世は、国民から名君と呼ばれ誰からも愛される国王だ。



 「何と! 我が国のダンジョンが……では迷宮の秘宝を手に入れた者が――」


 「いえ……大変言いにくいのですが、誰が攻略したのか分からないそうです。現在調査中とのことで……」


 「そうか……分からぬのか……」



 (よわい)七十を超えて髪は白髪に染まり、顔にもシワが目立つ。いかに優れた王でも歳には勝てず、若かりし頃の面影はない。


 その国王の顔に一瞬、希望の色が浮かんだが再び影が差す。



 「ダンジョンが攻略されたというのは、間違いなく朗報だ。その意味は分かっておろう、デミトゥリス」


 「はい、もちろんです。アレサンドロからの圧力は日々増しております。我が国の力だけでは対抗することは出来ません」


 「うむ、それ(ゆえ)に迷宮の秘宝があれば状況を打開できるやもしれぬ」


 「軍に命令を出して、攻略者を全力で探します」


 「頼んだぞ、デミトゥリス。この国の未来がかかっておる!」


 「ハッ、必ずや!」

 


 謁見(えっけん)の間を出たデミトゥリスの顔には決意が(にじ)んでいた。



 「オルス、迷宮の秘宝に懸けられた報奨金はいくらだ?」


 「現在は4000万リグルです。一生遊んで暮らせる額かと」


 「倍にする。それと、“黒剣”のリーダ―を呼んでくれ、直接話が聞きたい」


 「分かりました。手配いたします」


 「迷宮の秘宝がどういう物かは分からん。だが世界に影響を与える物であるはずだ。何としても手に入れるんだ。何としても……」

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[気になる点] ズルしてクリアするのは良くないと思いますノ
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