第48話
アレサンドロ帝国―― 北の領地アルグス。
多くが山林がある土地の一角。岩壁に囲まれた場所に、ひっそりと佇むダンジョンがある。その最下層、フォレスや護衛兵を従えるロイスの姿があった。
淡く光る扉を抜け、少し手狭な部屋に入る。
「ここがダンジョンの最下層ですか」
ロイスがそう呟くと、どこからともなく声が聞こえてきた。
『――最下層到達者を確認しました』
「だ、誰だ!?」
キョロキョロと辺りを見回すフォレスだったが、ロイスに落ち着くよう諭される。
「慌てなくても大丈夫ですよ。フォレス」
「は、はい……」
先ほどまで静かだった部屋がカタカタと揺れだし、床が隆起するように波打つ。倒れそうになるロイスは、壁に手をつこうとした。
しかし、地響きのような音をたて、壁の一部が崩れてゆく。
「な、な、なんですか!? ロイス様!」
「静かに」
フォレスや護衛兵が浮足立つなか、ロイスは壁の向こうに視線を移す。そこには、どこまでも暗い空間が広がっていた。
今まで光を放っていた壁の一部が無くなったため、辺りは薄暗くなる。
次第に目が慣れてくると、ロイスは暗闇に浮かび上がる、それに目を奪われた。
全身が氷に覆われた巨大な体躯。体の至る所に、金属の鎧のような物をつけているが、それ自体は生き物だろう。
ロイスはそう確信し、視線を上げる。
そこにいたのは、紛うことなき‟竜”であった。ダンジョンの内部でしか生息が確認されていない超常の生物。
だが、その体長は優に五十メートルを超えている。そこまで大きい竜は発見されていないはずだと、ロイスは息を飲む。
『古代神器の07【覇王竜ファーヴァニル】の胎動を確認、権限の委譲を承諾します』
ロイスは、その竜の名前に聞き覚えがあった。かつてオルドリア帝国が世界を支配した時代。世界中の都市を焼き払ったと言う伝説の竜だ。
「これがダンジョンの秘宝……?」
『あなたの名前を教えて下さい』
「……ロイス・クラインです」
『ロイス・クライン……登録を完了しました』
ロイスには闇の中から見下ろす竜が、不気味に微笑んでいるように見えた。
『委譲の完了により、私の役割を終了します。あなたがオルドリアの遺産を正しき事に使うことを祈ります』
その言葉を最後に、‟声”は聞こえなくなる。辺りは完全に光を失い、兵士からは戸惑いの声が漏れる。
「ロイス様……」
不安そうなフォレスをよそに、ロイスは微笑む。
「正しきこと、ですか……フォレス、この抜け道の情報を同盟国にも伝えなさい」
「え!? よろしいのですか?」
「かまいません。我々には共通の敵がいますからね」
ロイスは、フッと微笑み巨大な竜を見る。
「戦争が始まります……未だかつて無い、大きな戦争が――」
◇◇◇
レイドは、宮殿にある庭の一角に来ていた。土を掘り返し、手に持っていた缶をそっと埋める。
「ごめんな、ジャック。お墓を作るのが遅れて」
燃やされた村からジャックの遺体を探すのに苦労したが、何とか埋葬できたことに、レイドはホッと息をつく。
すでに日は沈み始め、差し込んでくる真紅の斜陽は宮殿の外壁に反射し、とても綺麗に輝いていた。
「ジャック。お前がいれば、きっと広い王宮を走り回ったんだろうな」
レイドはクスリと笑い、簡易で作ったジャックの墓に花をたむける。幼い頃から一緒に過ごしたジャックの死は、何より辛い出来事だった。
そしてこれから先、もっと辛いことが起こるかもしれない。
それでもレイドは前を向く。
自分が背負った大勢の人の夢や希望。その責任を自覚しながら、レイドは空を見上げる。
そこには白い鳥が数羽、雲一つない大空を飛んでいた。
オルド人も、いつかあんな風に自由に生きていけるように――
これは、数奇な運命によってダンジョンの力を手にし、迫害されていたオルド人を率いて、安住の地を造ろうとした一人の男。
数多の困難を乗り越え、三千世界にその名を轟かせた――
オルドリア皇帝、レイド・アスリルの物語。
最後まで読んで頂きありがとうございました。投稿しようか迷っていた作品でしたが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
拙文にて失礼いたしました。




