第47話
全力で追いすがろうとした時、アーサーは持っていた剣を地面に突き刺した。周りにいた人間は何が起きたか分からず唖然とする。
「我が剣を捧げます。あなたを王として認め、この命尽きるまで従うと誓います。どうか我が主として、この忠義をお認め下さい」
膝を突き、頭を垂れるアーサーに困惑するレイド。カトレアもあまりの状況に動きを止めてしまう。
「ええっと……どういうことかな、アーサー? さっき王に仕えるのは嫌だって言ってなかったっけ……」
「うん、言ったよ」
呆気らかんと返すアーサーに首を捻るレイド。相手の真意が掴めない。
「他人に人生を決められるのが嫌なんだよ。それで家を出たんだ。誰にも仕えるつもりは無かったけど、レイド。君ならいいと思えたんだよ」
「どうして?」
「だって、僕があれだけ挑戦しても攻略できなかったダンジョンを、いとも簡単に制覇したじゃないか! そんな面白い奴は初めてだ」
「そ、それは……」
レイドは抜け道を使ってダンジョンを攻略していたため、アーサーの言葉に罪悪感を覚えてしまう。
アーサーに真実を話して、考え直してもらおうと思った時、上着のポケットっからバルタザールの声が聞こえてくる。
『レイド様、相手の提案を受け入れましょう』
「え? だけど……」
『今は少しでも戦力が欲しい所です。仲間になりたいと言う者は、積極的に受け入れた方が得策です』
「だけど信用できるかどうか何て、分からないよ」
「あれ? 僕の言葉って信用できない?」
「い、いや、会って間もないし、お互いのこともよく知らないだろ?」
「騎士の言葉は絶対だよ、レイド。君がこの場で死ねと言うなら死ぬことも厭わない。なんならここで死んで見せようか?」
「いや! いい、分かった。君の忠誠を受け入れるよ」
「ははは、良かった。レイド、君と一緒にいた方が面白そうだからね。これからもよろしく!」
楽しそうに笑うアーサーを見て、レイドは一つ息を吐く。何にせよ戦いは終わった。最後に波乱はあったけど、良しとしよう。
レイドは、そう考えて、仲間と共に城へと戻った。
◇◇◇
アレサンドロとの戦争から三日。モルガレアで大規模な式典が行われた。
オルド人が新大陸に造った新たな国を認め、モルガレアが後ろ盾になることを宣言するための催し。
王の間には、王や大臣はもちろん、各地から領主など大勢の貴族も集められていた。王族は全員出席が決まっていたため、憮然とするアランの姿もある。
オルド人側からは、レイドにバゼル、フィーネに村長と村人が数人、そして傭兵団の隊長格が三名。護衛として青騎士、カトレア、アーサーが来ていた。
並び立つオルド人を見て、怪訝な顔をする貴族もいたが、口には出さない。
レイドは王の前に進み出る。
「オルド人の国、オルドリア国の建国を認め、我が国モルガレアが同盟を結ぶことを、ここに宣言する」
王から意匠を凝らした書状が渡される。
それはモルガレアがオルドリアと正式な盟友関係となったことを示すものだ。レイドは王と固い握手をかわす。
会場からは割れんばかりの拍手が上がったが、この中のどれほどの貴族が快く思っているだろうか……レイドはそんな懸念を持った。
だが、いずれ多くの人に認めてもらえる国を造る。
そんな決意を抱くレイドに、ルドルフ王が話しかけてきた。
「レイドよ、此度のこと、感謝してもしきれん。今後、其方たちの国には全面的に協力する。何かして欲しいことがあれば遠慮なく申してくれ」
「ありがとうございます。ルドルフ王」
この同盟は国内外にも公布され、広く伝えられた。国内でも驚きを持って受け止められたが、それ以上に海外の国々に衝撃を与えた。
世界中で忌み嫌われているオルド人が自分達の国を造る。それも突如現れた新大陸で。何よりモルガレアがそれを認め、後押しすると言う。
数々の耳を疑う情報に、各国が混乱している中――
アレサンドロの宰相ロイスには、別の報告がもたらされる。
「ロイス様!」
部屋に飛び込んで来たフォレスに、ロイスは溜息をつく。
「何度も言っていますが、ノックをしてから――」
「見つかりました……探していた通路が!」
それはロイスが待ち望んでいた報告だった。
「そうですか……初めてノックをしなくてもいいと思う報告ですよ。フォレス」
「は、はい!」
◇◇◇
レイドとカトレア、フィーネとバゼルはアヴァロンのバルコニーから、王宮の外で働いている人々を見ていた。
モルガレアから入植してきた、千人弱のオルド人達だ。
全員で協力し、自分達が住むための家を建て、農地の整備も行っていた。
最初に連れて来られた時は半信半疑の者が多く、自分達がモルガレアから追い出されたんじゃないかと疑っているようだったが、実際にオルドリアに来てレイドに会い、家と農地を無償で与えることを伝えると喜びを爆発させる。
土地を所有することなど、夢のまた夢だったからだ。
一生懸命に働く人達を見て、レイドはもっと多くのオルド人を受け入れたいと考えていた。しかし、まだまだ受け入れるだけの態勢が整わない。
少し歯がゆい思いになっていた時、フィーネが声を掛けてくる。
「レイド兄は、どんな国を造りたいの?」
「え? そうだな……」
レイドは少し考えるが、すぐに答えは出た。
「争いの無い国かな。みんなが幸せに暮らせて、差別が無くて、飢えることも、戦争で死ぬことも無い。そんな国」
「……理想論だな」
バゼルが素っ気なく呟く。それはこの場にいる者が、全員思っているであろう、そんな言葉だった。
「ああ、分かってる。それを実現するためには【力】が必要だ。圧倒的な力があれば、空虚な絵空事じゃなくなる」
「そのためにダンジョンの‟秘宝”が必要ってことか」
バゼルが真剣な眼差しでレイドを見る。
「私達も全力で協力するから、レイド兄はやりたいようにやってよ!」
フィーネが屈託なく笑い、バゼルも同意するように頷く。
「俺に出来ることがあれば何でも言え、レイド」
「ああ、ありがとう。頼りにしてるよ」
信頼できる仲間がいることに感謝しながら、レイドは改めてオルド人のために安住の地を造ろうと決意した。




