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アルティメット・グリッチ ~人類が数百年かかって攻略できなかったダンジョンを、裏技を使って2時間で制覇します~  作者: ARATA
第六章  アレサンドロ帝国

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第37話

 差別撤廃の御触れが出た後も、オルド人に対する差別は根強く、各地で続いていることはデミトゥリスも知っていた。


 王の理想を実現するには長い年月が掛かる。そう考え、領主などに厳しい対応を取らず事実上の棚上げにしていたのだ。


 それが失敗だったことは否定のしようがない。



 「どうか赦してもらいたい。オルド人全員が、等しく医療を受けられるように手配する。他に不平等な扱いについても改善させようと思うが、すぐには無理かもしれない。だが、必ず実現させる」



 レイドは目の前にいるデミトゥリスという人物が嘘をつくようには思えなかった。しかし自分達がされたことを、おいそれと赦す気にはなれない。


 この人物が本当に信用に足るか、レイドは見極めようとしていた。



 「ここに来た目的は、捕虜の引き渡しだけですか?」


 「え?」


 「モルガレアは、アレサンドロと戦争をするんじゃないですか?」



 デミトゥリスは目を見開く。何故そのことを知っているんだと。



 「全て話してもらえませんか、そちらが置かれた状況を――」



 この男に嘘を話しても意味がない……デミトゥリスはそう思い、今までのことを話し始める。


 アレサンドロの空に浮かぶダンジョンが攻略され、それをモルガレアの人間が行ったのでは? と噂が流れたこと、新大陸が突如として出現し、領土問題になっていること、その後アレサンドロの使節団との交渉など。


 包み隠さず、話せることは全て話した。


 それをレイドは複雑な思いで聞いている。


 モルガレアは、ずっとアレサンドロとの関係が良くなかった。だが決定的な亀裂を生んだのは、レイドが行った‟空に浮かぶ島”の攻略からだ。



 「俺が原因だったんですね……申し訳ない」


 「いや、君のせいじゃない。アレサンドロは以前から我が国に対して、戦争を仕掛ける口実を探していたんだ。今回のことはきっかけにすぎない」



 重苦しい沈黙が部屋に広がる。


 デミトゥリスは話せることを全て話した。あとはレイドが決断するだけだ。



 「捕虜の引き渡しについては同意します。でも同盟については、しばらく考えさせて下さい」


 「分かった。それで充分だ」



 レイドとデミトゥリスは固い握手を交わし、捕虜の引き渡しに関する細かな条件を話し合う。


 全員を解放する代わりに、モルガレアからは食料の援助、村の人達が生活するのに必要な資材の提供を受けることになった。



 「ふ~~、やっと外に出られたぜ!」


 「一時はどうなるかと思ったけどな」



 拘束されたままだった冒険者達が、一週間ぶりに解放されたことを喜び、宮殿パレスの内庭にワラワラと出てきた。


 本来ならばモルガレアが解放条件を守っているか確認しながら順次捕虜を解放していくべきだが、レイドはデミトゥリスを信頼し、全員の即時帰国で合意した。


 外へ出てきた者達は腕を伸ばし、肩をぐるぐると回して自由を噛み締める。そんな冒険者達の様子を見ながら、将軍のオルスとグスタフが並んで歩いていた。



 「これでモルガレアに戻ってこれるなグスタフ。これからどうするつもりだ?」


 「それなんだが……」



 グスタフは言い淀む。どうしたのかと、オルスが訝しがっていると、



 「ここに残ろうと思うんだ」


 「残る!? どういうことだ?」



 後ろからついて来る‟黒剣”のメンバーは「やっぱりな」と言いながら、特に驚く様子もない。



 「ここでレイドがやることを見届けたいんだ。一体どこへ向かって行くのか……馬鹿みたいに思うかもしれんが、ここで帰ったら一生後悔しそうでな」


 「グスタフ……今までのように、安定して稼げなくなるんだぞ」


 「安定を求めるなら、そもそも冒険者にはなってない」


 「ハハハ、それもそうだな」



 オルスは楽し気に微笑んだ。グスタフは立ち止まって振り返る。



 「これは俺の我儘だ。お前らはモルガレアに戻ってくれ、俺がいなくても仕事で困ることはないだろう」


 

 グスタフが‟黒剣”のメンバーに向かって申し訳なさそうに言うと、カールはスキンヘッドの頭をポリポリと掻きながら、やれやれという表情になる。



 「お前がいなけりゃ仕事にならねーよ。‟黒剣”はグスタフがいてこそのパーティなんだからな! 俺達も残るに決まってんだろ」


 「しかし……ここに居ても、まったく金にならんぞ」


 「多少の蓄えならあるし、問題はないだろ。なあ! そうだろ、お前ら!」


 「ああ」


 「グスタフさんについて行きます!」


 「もちろん俺も!!」



 異を唱える者はいなかった。



 「お前ら……」



 グスタフ達はその足でレイドの元へ行き、今後もここで力になりたいと伝える。



 「――と、言う訳だ。しばらく世話になってもいいか?」



 問われたレイドは、嬉しくて胸が高鳴った。



 「もちろん! 大歓迎だ!!」



 無骨な笑顔で右手を差し出すグスタフ。レイドも応じて、二人で固い握手を交わす。


 それはオルド人以外で初めて出来た、頼もしい‟仲間”だった。


 

 ◇◇◇



 城門の近くで、不機嫌そうに馬に跨るアラン。近衛兵も解放され、全員が用意された馬に騎乗する。



 「デミトゥリス! 帰ったらすぐに兵を起こして、この城に攻め入るぞ!」



 険しい表情で語気を強め、アランは喚き散らした。だが周りの者はデミトゥリスを含め、冷めた目で見つめている。



 「アラン様……。王からのご命令です。アラン様の全ての役職を解き、当面のあいだ城から出ることを禁ずるとのこと」


 「なっ!?」



 アランは絶句する。まさか王が自分を見限るような命令を出すなどと。



 「私は、国のため、モルガレアのために……」


 「その行動が、かえって国を危機に陥れているのです。ご理解下さいアラン様」



 蒼白な顔でうなだれるアラン。それを見て、デミトゥリスは嘆息する。


 冒険者を含め総勢百数十名の集団を率い、新緑が芽吹き始めた広大な新大陸を抜けて、一行はモルガレアへの帰路に就いた。


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