第31話
雄大な荒野にそびえ立つ王城の地下の一室。天井が高い円形の部屋に、捕虜がまとめて入れられていた。
薄暗いが大きな広間で、百五十人を収容してもまだ余裕がある。
捕虜となった者は、全員手足を拘束されており、自由には動けなかった。アランがイライラと舌打ちする傍らで、ブレストたち近衛兵はげんなりしている。
そんなアラン達が座る斜向かいに、冒険者達が固まって座っていた。その集団の中で、グスタフは自分の手に嵌められた拘束具に目を落とす。
「見たことのない形だな……」
「ああ、こいつは外せそうにない」
カールが顔を顰めながら答える。何度も力づくで外そうとしたのか、腕が赤く腫れていた。
「――に、しても予想以上に兵士の数が多いな。一体この城の中に何人いるんだ?」
グスタフ達が、この広間に連れてこられる際、自分達を拘束した弓兵以外に数十人の騎士を見かけていた。全員兜を目深に被っていたため、顔は見ることが出来なかったが、規律正しく、よく訓練された兵士だとグスタフは思った。
「我々が考えているより、王城としての体をなしてるな……」
グスタフ達がそんなことを話していた時、正面に唯一ある扉がギイイッと、ゆっくりと開き、外の明かりが薄暗い室内に差し込んでくる。
目を細めるグスタフ達が見たのは、あの青銅の鎧を着た騎士。そして平民の服装をした青年とフードを被った少女だった。
「大丈夫か? すまない。手荒なマネをして……」
青年は申し訳なさそうに謝ってきた。拘束されているのは自分達なので、グスタフは違和感を覚える。
――この男が城の主なのか?
その時、グスタフはハッとする。迷いの森の迷宮。あのダンジョンの最下層には、170センチ前後の男と、160センチほどの女の足跡があった。
目の前にいる男と女は、その特徴に合致する。
――まさか、こいつらが……。
「貴様! 私にこんなことしていいと思っているのか!? 私はモルガレア公国の皇太子アラン・モルガレアだぞ!!」
大声で叫ぶアランに、周りの人間はギョッとする。冒険者達はアランをどこかの貴族のボンボンだろうと思っていたが、まさかこの国の皇太子だとは思いもよらなかった。
だが、カールとグスタフは冷ややかに見る。
「あいつ馬鹿なんじゃないか? わざわざ自分の身分を明かすなんて……」
「ああ、現実を知らない坊ちゃんのようだ」
カールの言葉にグスタフが同意する。相手に拘束されている状態で、身分を知られるのは弱みを握られるのと同義だ。
まして、それが一国の皇太子なら人質など、いくらでも使い道がある。
「すぐに手枷を外して解放しろ!」
語気を強めるアランに、レイドはバルタザールと相談し、アランやブレストなど一部の人間を別の部屋に移すことにした。
カトレアが足枷を外し、アラン達が立ち上がる。
『では、こちらへお越し下さい』
青騎士の手の上に乗せた金属の玉から声が聞こえてくる。アラン達は顔を顰めながらも大人しく従い、歩き出そうとしていた。
「待ってくれ!」
唐突に声を上げたのはグスタフだった。その場にいた全員の視線が集まる。
「あんたがダンジョンを攻略したのか? ずっと探してたんだ。教えてくれないか?」
その言葉に、周りにいた冒険者がザワつく。
自分達の目の前にいる男が、誰も成し得なかったダンジョン攻略者などと、俄かに信じがたい。グスタフに問われて、レイドはポリポリと頬を掻く。
何と答えようか一瞬迷うが、嘘をつくのもどうかと思い、口を開いた。
「確かに、俺がダンジョンを攻略した。ここにいる人達も、出来るだけ早く解放するようにするから少し待っててくれ」
オオッと唸るような歓声が上がる。ザワつきも先ほどの比ではない。
レイドが行こうとした時、うしろでアランが部下の一人に近づき、耳元で何かを囁いていた。何だろう? とレイドが思った瞬間――
アランの前にいた男達が飛び出し、レイドに向かって突っ込んで来る。
「あ!」っと叫ぶ間に、カトレアがレイドの前に出た。
襲い掛かろうとする二人の顎を裏拳で打ち抜き、意識を刈り取る。
掴みかかってくるブレストには腕を取り、関節を決めた状態で投げ飛ばす。背中から叩き落されたブレストは肩が外れ、悶絶しながら地面にうずくまった。
眼前の惨状を見て、アランは顔面蒼白となり、ゆっくり近づいてくるカトレアに恐怖する。
「カトレア、待っ――」
レイドの言葉は間に合わず、カトレアの前蹴りが腹部に深々と突き刺さると、アランは情けない声を上げて身を屈める。
そんなアランの顎に、美しい弧を描く蹴りが入る。後方に飛んでいくアランは、そのまま意識を手放した。
「ああ……まずいよ!」
カトレアがボコボコにしてしまった自国の皇太子を見て、レイドは青ざめる。取りあえず、青騎士や弓兵などに倒れた者を運ばせ、その場を後にした。
慌ただしく出て行ったレイド達を見送って、カールが口を開く。
「すげー強さだな、あの女……」
「そうだな……俺達が束になっても勝てるかどうか」
カトレアの動きを見て、グスタフも感心する。立て続けに起きた出来事に戸惑う者が多かったが、グスタフは冷静に現状を把握しようとしていた。
◇◇◇
簡素なベッドが置かれた部屋にアラン達を寝かせて、レイドは息をつく。
「バルタザール、これからどうしたらいいと思う? モルガレアの皇太子を蹴り飛ばしたんだから、大問題になるんじゃないかな?」
心配するレイドに、バルタザールは平然と答える。
『特に問題はありません。それよりも皇太子がいることによって、今後モルガレアと交渉することが出来るでしょう』
「交渉?」
『今我々は多くのオルド人を受け入れていますが、彼等の生活を支える準備が出来ていません。モルガレアに支援してもらえば生活の基盤を整えることも可能です』
「そうか……でも、具体的に交渉ってどうするんだ?」
『まず、アラン皇太子の付き人だった者を解放し、国に報告させましょう。そうすれば交渉のテーブルは向こうが用意するはずです』
成功するかは分からなかったが、バルタザールの言葉に従い、意識を取り戻したブレストを解放した。
レイドから書簡を受け取り、ブレストは馬に乗って王城を後にする。
「うまくいくといいけど……」




