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第3話

 レイドは真っ暗な部屋を、(あわ)く光る本で照らす。自分が入って来た扉に明かりを向けると、さっきまであったはずの扉がどこにも無い。



 「あれ!? 何でだ?」



 扉が無くなった壁を触って確認するが、やはり扉は消えていた。


 仕方なく別の出入り口を探すと、部屋の奥に扉を見つける。思いっきり押すとギイィィと重みのある音を立てながら、扉はゆっくりと開く。


 外も暗くてよく見えないが、どうやら上に続く階段があるようだ。


 だとしたらダンジョンの上層に行く階段かもしれない。そう思ったレイドは身震いし、開いた扉をギイィィと閉じた。



 「冗談じゃない、一般人の俺がダンジョンに出るなんて自殺行為じゃないか! 何とか安全に出る方法を考えないと……」



 レイドは少し悩んだ後、自分の手の上で浮かんでいる本に目を止める。


 さっきの“声”は、この本を魔導書と呼んでいた。どんな力があるんだろうと、本を開いてみると……。


 本から光が(あふ)れ、何かが飛び出してきた。



 「わっ!?」



 レイドは驚くが、よく見ると本の上に立体的な光の映像が浮かび上がっている。最初は何か分からなかったが、それが地図だとすぐに理解する。



 「光の地図ってことか……? これ多分、モルガレアだよな?」



 浮かび上がっていたのは、レイドが住む国、モルガレア公国だった。


 国の大ざっぱな地図は見たことがあったが、浮かんでいたのはそれよりも遥かに精密な立体地図だ。


 レイドは、光の映像に触れてみる。すると触れた部分が拡大され、より細かく周辺の様子が分かる。面白くなって色々触っていると……。



 「あ! これ俺が住んでる村だ。家もある」



 自分の家を見つけたことにテンションが上がってしまったレイドは、更に拡大しようと映像の家に触ってみる。



 「わん、わんっ!」


 「えっ!?」



 急にジャックが吠えだしたことにレイドが驚く。下を見ると床に魔法陣のようなものが描かれ、光輝いていた。



 「何だ、コレ!?」



 魔法陣から溢れ出した光がレイドとジャックを包み込む。


 次の瞬間―― 大人一人と一匹の犬はその姿を忽然と消した。光が消えた部屋には、静寂と深い闇が訪れる。





 「うわあああああああああ!?」



 レイドが気づくと自分の家の前に立っていた。訳が分からず辺りを見回すと、ジャックが舌を出しながら自分を見ている。



 「ジャック! 無事だったか……良かった」



 レイドはジャックを抱きしめ、お互いが無事だったことを喜ぶ。


 ――あの場所から一瞬で移動したのか? 訳が分からない。


 取りあえず家の中に入り、ジャックのご飯を用意した後、少し落ち着こうと思い椅子に腰かけた。色々あり過ぎて頭が追い付かない。


 レイドはもう一度“本”を取り出した。


 自分が望めばいつでも出てくる不思議な本。ページをめっくていくと色々な国や場所が記され、光の映像として浮かんでくる。


 

 「この地図の場所に移動できるってことかな?」



 ――あの部屋で聞こえてきた“声”は、この本を【空の書】と呼んでいた。つまり【空間を移動する魔導書】って意味か……。


 ――だとすれば途轍(とてつ)もない物だぞ。


 ダンジョンの最下層には古代の秘宝が眠っていると言われていることは、冒険者でないレイドでも知っていた。


 しかし、どんな物があるかは誰も知らない。


 何故なら、ダンジョンを攻略した者は存在しないからだ。レイドは再び“本”に目を移す。光の地図を開き、自分の仕事場である畑を拡大した。


 もう一度確認しようと思い、畑の場所に触れてみる。


 すると床に魔法陣が現れ、今度はレイドだけが忽然と姿を消した。取り残されたジャックは不思議そうな顔で辺りを見回す。



 「わんっ!」



 ◇◇◇



 夜の闇の中、月明かりが畑を照らしている。


 レイドは自分の畑にいた。この本を使えばどこにでも移動できるんだ……そう確信したレイドは、改めて本を出現させる。


 

 「すごい……こんなことが出来る魔法なんて聞いたことが無い」



 世界には魔法を操る“魔導士”が存在するが、才能を持った一部の人間の話だ。レイドのような一般人では、話は聞くことがあっても実際に見ることなど無い。


 だが、どんなに凄い魔導士でも好きな所に転移できる魔法など無いだろう。


 レイドはこれが古代の秘宝と言われていたことに納得した。そして本当に自分がダンジョンを攻略してしまったんだと実感する。


 レイドは本の映像に触れ、再び空間転移した。



 「ただいま、ジャック」


 「わん、わん!」



 嬉しそうに駆け寄ってくるジャックを撫でながら、レイドは複雑な気持ちになっていた。いつものように夕食を食べ、食器を洗い、寝るために着替える。


 明かりを消して布団に入り、天井を見上げた。


 ――どうしてこんな事になったんだろう? こんな力があっても……。


 レイドは戸惑っていた。とても驚異的な能力を手に入れてしまったが、自分が努力した訳でも、特別な資格があった訳でもない。


 そんな力を使って何かをすれば、それが原因で問題に起こり、今の生活ができなくなるかもしれない。


 ましてレイドはオルド人。国家に目をつけられれば、酷い目に遭うことだってあり得る。何もしないで大人しくするべきだ。


 レイドはそんな事を考えながら、目を閉じ眠りに就く。


 微睡(まどろみ)に落ちようとしていた時、何か引っかかるものがあった。


 ――何だ……何かを忘れているような……。


 その思いはどんどん強くなっていく。


 ――とても大事なことを……何だったろう?


 それはレイド自身を、レイドの人生を根本的に変えてしまうもの。平凡だった人生に終止符を打つ()()()()


 暗闇の部屋でレイドは、(まぶた)を開く。


 

 「待てよ……」



 レイドは以前聞いた話を思い出した。世界には様々なダンジョンがある。モンスターの強さもダンジョンによって違い、環境や進行難易度もバラバラ。


 ただし、ダンジョンの()()()()()()()()()だと言う。


 もし、それが本当なら――


 レイドはベッドからムクリと起き上がる。



 「まさか……ダンジョン全てに抜け道があるんじゃ……」

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