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アルティメット・グリッチ ~人類が数百年かかって攻略できなかったダンジョンを、裏技を使って2時間で制覇します~  作者: ARATA
第三章  史上最悪のダンジョン

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第18話

 「ひょっとして、入ったことがあるのか? このダンジョンに?」


 「ああ、何度も入ってるよ。もう一週間になるかな……ただ一層を出たり入ったりしてるだけで二層に進めないんだ。情けない話だよ」



 一層に入って生き残っているだけでも凄いことだとレイドは感心する。



 「今から、またダンジョンに入るのか?」


 「まあ、何とか二層まで行きたいんだけどね~」



 呆気らかんと言うアーサーに、変わり者が多い冒険者の中でも特別変わった人なんだろうな。とレイドは半ばあきれていた。



 「じゃあ、僕はもう行くよ。君達も気をつけてね、この辺りは深い沼もあるから抜け出せなくなって死んじゃう人もいるって聞くし」



 忠告を残して、手を振りながらアーサーは去っていった。



 「……アーサーか、こんな危険なダンジョンに挑戦するなんて大丈夫かな? 無事に戻って来られればいいけど」



 レイドは沈みかけた夕日を見やり、完全に日が落ちるまで、あまり時間が無いことに気づき焦り出す。



 「早く行こう、カトレア。もうすぐ日が沈んじゃう」



 レイドはぬかるみに足を取られながら、抜け穴を探すため進んで行った。



 ◇◇◇



 「それにしても、変わったカップルだったね~」



 暗い坑道に入り、下へ下へと向かっていたアーサーが、先ほど出会った男女のことを考えていた。



 「ここは外から眺めたって、なんにも面白くないと思うけどな……。折角ここまで来たのなら――」



 アーサーは足を止める。【龍の巣】と呼ばれるダンジョンの第一層、目の前には赤く不気味に光るマグマが噴き出し、そのマグマの湖に点々と岩場がある。


 大小の翼竜が悠然と飛びながら、天井まで噴出する溶岩をかわしていた。


 マグマの中にも蠢く巨大な影、長い胴体を蛇のように動かし赤く煮えたぎる湖を泳ぐ龍。



 「やっぱり中に入らないと! この光景を見てこそ楽しいんだよ」



 無防備に歩いて来るアーサーに気づき、上空を飛んでいた一体の翼竜が方向を変え、滑空してアーサーに向かって来る。



 「ギィイイーーーーーッ!!」



 アーサーはゆっくりと剣を抜き、口元に笑みを浮かべながら一歩踏み出す。竜と人が交錯する刹那、竜は獲物を見失った。


 振り向き人の姿を確認しようとした時、竜の首元から腹にかけて皮膚がパックリと切り裂かれ、大量の血を噴き出す。



 「ギィエッ!?」


 「遅い、遅い。全然遅いよ」



 血を流し過ぎた竜は白目を剥き、巨体を揺らしながら、その場に崩れ落ちた。それに気づいた翼竜の群れは、一斉にアーサーに目を向ける。


 翼を広げ、数体の翼竜は渦を巻くように滑空してきた。



 「そうこなくっちゃ!」



 急速に降下し、その獰猛な牙で噛みつこうとした竜を軽やかにかわす。地面に激突した竜の頭を踏み、上空へと跳躍した。


 二体の竜が、ほぼ同時にアーサーに向かって来る。


 彼の手にした剣が煌めき、強い光を放ったと思った瞬間―― 二つの竜の頭は胴体からこぼれ落ちていた。


 アーサーに頭を踏まれた竜は怒りに任せて上体を起こすが、降り立ったアーサーの剣に頭蓋を貫かれ、何が起きたのか考える間もなく絶命する。


 地上スレスレを滑空して迫ってきた竜も、アーサーの輝く剣の一閃で両の羽を切り落とされた。


 鉄のように硬いと言われる竜の鱗も、彼の前では意味をなさない。


 冒険者ではないレイドは知らなかった。アーサー・バンティス、この名を知らない冒険者はいないことを。


 各地のダンジョンを転々と渡り歩きながら、たった一人でそのダンジョンの最長到達階層の記録を塗り替えていく。


 その目にも止まらぬ速さの剣は、いかなる生物も斬り伏せる。ついた二つ名は【紫電一閃】


 彼こそ、(まご)うことなき世界最強の冒険者。



 「さて……そろそろ出てきたらどうだい? 見てるだけじゃつまらないだろ」



 赤い湖のほとりに剣を突き立て、アーサーは語り掛ける。まるでそれに呼応するように溶岩に不自然な波が立つ。


 何かが溶岩の中を泳ぎ、灼熱の湖から大量のマグマを纏った生き物が姿を現す。



 「一週間かかって初めて出てきたね。待ってたよ‟アグニ・ドラゴン”」



 その体長は空を飛ぶ翼竜の十倍以上、この一層における主であり、多くの軍人や冒険者を屠ってきた魔物。


 体表からは溶岩が流れ落ち、感じる迫力は翼竜の比ではない。


 アグニ・ドラゴンが口を開き、大蛇の如き体をうねらせる。次の瞬間、口から溢れ出したのはマグマそのもの。


 1000度を超える溶岩が、容赦なくアーサーの頭上に降り注ぐ。


 後ろに飛んでかわしたが、上空より飛来した数多の翼竜が襲い掛かってくる。絶体絶命の状況にもかかわらず、アーサーは口元に笑みを浮かべた。



 「いいね! たまらなく興奮するよ!!」



 跳躍して一体の竜の背に飛び乗ると一瞬で首をはね、乗っていた竜の背を蹴って、別の竜へと飛び移る。


 竜は不快な声を発して振り落とそうとするが、有無を言わさず振り抜かれたアーサーの剣で首を斬り落とされた。


 何体もの翼竜の背を渡ったアーサーは、ついにアグニ・ドラゴンの頭に近い位置まで辿り着く。勢いよく竜の背から飛び下りてきた敵に、その長く大きな体では対応できない。


 振り上げられた光の剣はドラゴンの右目を斬り裂く。


 洞窟を激しく揺らすほどの咆哮が轟いた。アーサーはマグマの湖にある小さな岩場に着地する。


 怒り狂ったドラゴンは明後日の方向にマグマのブレスを吐き出し続けた。


 その光景をアーサーは剣を肩に乗せ、微笑みながら見ている。ひとしきり暴れたドラゴンは、自分の足元に人間がいることに気づき、残った左目で睨みつける。



 「今日中に決着が着きそうだ」



 アーサーは剣を構え直し、互いに睨み合う。


 再び襲い掛かってきた翼竜の背に飛び乗るアーサーと、翼竜ごとマグマのブレスで殺そうとするドラゴン。


 両者の死闘が、灼熱の洞窟の温度を更に上げていく。



 ◇◇◇



 「う~ん……無いな」



 散々歩いたレイドだったが、抜け穴は見つかっていなかった。何か目印があるかと思っていたが、そんなものは見当たらない。


 結局ダンジョンの周りを散策しただけの状況だ。



 「絶対あるはずなんだけどな……仕方ない、今日は帰るか」



 そう思った時、踏み出した左足がぬかるみに取られ動かなくなってしまう。



 「あっ! まずい」



 必死に足を抜こうとするが、意思とは反対にズブズブと足は沈んでいく。



 「ダメだ。カトレア、手を貸して!」



 助けを求めると、カトレアはすぐに駆け付け腕と腰を掴み引っ張ろうとする。


 カトレアの腕力を知っていたレイドは一安心するが、助けようとしたカトレアの足もどんどん沈んでいった。

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