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アルティメット・グリッチ ~人類が数百年かかって攻略できなかったダンジョンを、裏技を使って2時間で制覇します~  作者: ARATA
第二章  天空に浮かぶ迷宮

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第11話

 迷いの森から帰ってきた数日後、同じ村に住むコーゼルが尋ねてきた。


 ボサボサ頭の青年コーゼルは、レイドの家の二軒隣の家に住んでいる仲のいい幼馴染だった。


 とは言えカトレアの事を聞かれると面倒だと思い、カトレアに隠れてもらってから玄関の扉を開く。



 「どうした? 何かあったのか?」


 「村長から、村のみんなに配ってくれって言われてよ。ほら、コレ」



 コーゼルから渡されたのは一枚の紙だった。国からの御触(おふ)れだということだが、その内容を見てレイドは驚いた。



 「これは……」



 そこにはダンジョンの“秘宝”を国に献上した場合の報奨金額が書かれている。


 

 「8000万リグル!?」


 「そうなんだよ、途方もない金額だよな。でも何でオルド人の村に、こんな物配るのかよく分かんねーよ」



 レイドは額の冷や汗を(ぬぐ)う。


 ――これは間違いなく俺に向けられた御触れだ。ダンジョンが攻略されたことはギルドも国も知っているはず。


 ――なのに誰も名乗り出ないから探してるんだ。



 「なあ、知ってるかレイド」


 「え? 何が?」


 「村の隣にあるダンジョン、鉱物なんかの資源が取れなくなったらしいぞ」


 「資源が!? どういうことだよ」


 「分からないんだ。ただダンジョンの中が真っ暗になって生物がいなくなったって冒険者が言ってたぞ。あのダンジョンは閉鎖されるって噂だ」



 困惑した表情で話すコーゼルだったが、レイドは背筋が凍る思いだった。


 ――ダンジョンで資源が取れなくなったのは俺のせいだ。それに閉鎖なんて事になったら、冒険者や軍人に食料供給している村の財政も危うくなる。


 レイドは自分が想像する以上に、周りに影響を与えていると思い知る。



 「俺達には関係ねーよな。上の奴等は一体何考えてんだか……」



 コーゼルは愚痴りながら帰って行った。レイドは扉を閉め、施錠をして椅子に座り、御触(おふ)れを改めて見る。


 その様子を部屋の隅に立っていたカトレアが眺めていた。


 ――いや、ダンジョンの秘宝に報奨金があるのは知ってたけど、こんなに高額なのか? 俺すでに二つ持ってるけど……合わせて1憶6000万リグル!?


 それはレイドの年収の200年分を遥かに超えていた。


 ――今からでも売れるのかな……? いやいや、カトレアを売るのは人身売買に近いんじゃないのか!? それに【魔導書】はどうやって売るんだ? 俺から切り離せるのかな……。



 「カトレア、俺は君のマスターだって言ってたけど、それって別の人に変更って出来るのかな?」


 『出来ません』


 「あぁ、そう……はっきり言うな~」



 ――だとしたら最悪、【魔導書】やカトレアを使うために俺が国に監禁されて自由が無くなるかも。


 ――それ以上に問題なのが、ダンジョンから資源が出なくなったってことだ。俺が攻略し続けたら、国に迷惑をかけるんじゃ……。


 レイドはモルガレアでのダンジョン攻略を一旦中止することにした。



 ◇◇◇



 アレサドロ帝国――


 モルガレア公国の東に位置し、広大な領土を持つ大国である。


 このアレサドロに匹敵する大国は、北のオーライン連邦と西のゲルマンド国の二つしかない。


 その帝国の宰相を務めるのは、二十九歳の若さで抜擢されたロイス・クライン。幼い頃から神童と言われ、若干十二歳の時に国の最高学府を最年少で卒業、国に仕官して現在の立場を手に入れた。


 他国にも前例が無いほどの若さで国の舵取りを任されている。


 城の中、豪奢な絨毯の敷かれた廊下を歩くロイスの脇を、行政長官や各役所の大臣が並行して歩いていた。



 「ロイス卿、サステナの街に通す街道工事の予算が不足しております。優先して手当してもらいたいのですが」


 「何を言う! 隣国との緊張感が高まっておるのだ。軍事費の増強こそ、今もっとも重要な国是だ!!」


 「いやいや、港町であるロゼリアの湾岸整備こそ急務。元老院は何も分かっていないのです、どうかロイス卿、お口添えを」


 

 好き勝手なことを言う、帝国の有力者を前にロイスは辟易(へきえき)していたが、顔には出さない。黒髪で黒い服を好んで着るロイスの肌は、実際より青白く見えた。


 切れ長の目は、愚かな臣下を通り越し、窓の外へと視線を移す。


 そこにあったのは、空に浮かぶ“島”だ。アレサドロには、世界で唯一の空中遺跡がある。


 王都から程近い所に浮かぶ島は、多くの市民が目にする国の象徴でもあった。


 島の中にはダンジョンが存在し、国の兵士や冒険者は帝国の飛空艇に乗って“空に浮く島”に降り立ち、ダンジョンの攻略に(はげ)んでいた。


 だが、それだけではなくアレサドロに来た観光目的の外国人にも人気の場所であるため、ダンジョン以外の場所は民間にも開放している。


 “島”自体が帝国の観光資源になっているのだ。


 物珍しい島ではあったが、ロイスに取ってはさして興味を引くものでは無い。外の島を一瞥(いちべつ)すると、ロイスは再び臣下と共に歩き出した。



 ◇◇◇



 夜、明かりを落とした部屋の中で、レイドは【魔導書】を開いていた。


 暗がりに浮かび上がる光の地図を眺めながら、今後どうしようか思いを巡らせる。見ていたのは国外の地図だ。


 ――国内でダンジョンを攻略しないとなると、海外のダンジョンしか攻略の対象にならないな。そうなると……。


 レイドはアレサドロ帝国の地図を出す。


 ――モルガレア公国と仲が悪いのは知ってるから、ここのダンジョンが攻略されても問題にはならないだろう。でも見つかったらマズイかな?


 レイドがアレサドロに興味を持ったのは、単に外交的なことだけではなく、この国には世界的に有名なダンジョンがあったからだ。



 「天空に浮かぶ迷宮か……」



 ――ダンジョンで得られる“秘宝”は場所によって異なってた。この変わったダンジョンなら、何か凄い秘宝があるかもしれない。


 レイドはワクワクした気持ちになる。


 そんな事を考えていた時、ふと見ると椅子に座って無表情で動かないカトレアの姿が目についた。


 ――もしカトレアみたいな子が増えってったらどうしよう……。


 レイドは一抹の不安を感じながら、その日は眠ることにした。

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