短編︰春は出会いの季節
考えてたら出てきた小説です……多分続かない。
朝七時半の東京駅。たくさんの人が行き交う中で巴菜と颯は学校に向かっていた。
そこに後ろから一人の男性が小走りに近づいてくる。スマホでゲームをしているようだ。案の定、男性は巴菜にぶつかり、謝るどころか舌打ちをして先へと進んでいった。
「っ、大丈夫巴菜ちゃん!」
「ああうん、平気」
ぶつかられた巴菜はふらりと体を揺らし、咄嗟に動いた颯に抱きとめられる。派手にぶつかったものの、巴菜は特に気にしていない様子だ。その様子が颯には我慢しているように映ったらしく、既に見えなくなった後ろ姿を睨みつけた。
「なんだよあいつ……。謝りもなしに! 次会った時には睨みつけてやる」
既に睨みつけている上に、次会った時の報復が幼稚園児レベルである。颯の横顔を見た巴菜はくすりと微笑んだ。
「別にいいよ颯。……ああいう謝れないタイプのクズはぺろぺろして夜のオカズにしちゃいたいくらいだから……気にしていないわ」
「ごめんなんて??」
顔色を変えないままありえないほどの早口を紡ぐ巴菜に、颯は思わず聞き返した。
巴菜──小林巴菜は今年から女子高生になる。艶のある黒い髪にきめ細やかな白い肌。百七十ある身長が決して笑わない少女の冷たさを助長している。中学時代のあだ名は仮面系美少女。好きな男のタイプはクズ。それも小物であればあるほど良いという一風変わった性癖を持っていた。
その隣の笠置颯は巴菜の幼なじみで、身長がそろそろ百九十に達するガタイのいい男だ。巴菜のことを好いているけれども、本人も気づいていない「いい友人」で終わるタイプの男だ。きっと将来、巴菜と結ばれることはないだろう。
二人は先日入学式とクラス分けを終えて、今日が初めての授業日になる。
昨日、巴菜は高校という新しい環境で自分の好みの男が見つかるだろうと大きな期待を持って学校に向かった。その結果は散々なものだった。人生の辛さを感じながら不機嫌なオーラを撒き散らし、それがぶつかられるまで続いていた。
さっきの男性はそんな巴菜に「学校の中だけじゃなくていい! 学校に至るまでの道でたくさんのクズに出会いなさい!」という天啓をもたらした。ほとほと困った娘である。
「ほんとに巴菜ちゃんってば怒んないね。俺はぎったんぎったんにしてやりたいのに」
改札を通りながら颯は頬をふくらませる。
「別に怒っても得はないでしょ。……なによりああいうクズに限ってなにかやらかしたらイキってた相手に土下座して頼み込むんだから」
後半は聞き取れない言葉を口にする巴菜に、颯はため息をついた。
「周りに寛容すぎるのも考えものだよ?」
「私は十分に寛容よ。だってクズをクズとして受け入れているから」
その言葉がルビであることに、颯は気づいていない。
「聖人君子じゃん……優しすぎない? 少しくらい罰を与えてもいいと思うんだけど」
「罰? 与える必要は無いよ。だってクズとして存在することが彼の義務なんだから。……まあ罰は与えられるものではなくて与えてもらうよう懇願するものなんだけど」
「早口……!!」
「ひとまず気にしなくていいんじゃない? 直接被害があったわけじゃないんだし」
「いやぶつかったでしょ!?」
颯は耐えきれずに突っ込んだ。
「……ああ。確かに。でもあれで怪我したわけじゃないから。……もしこれで相手が怪我していたら合意の上で監禁調教陵辱コースで永久就職が成り立つかな」
「……俺生まれた時からずっとそばにいたのに全く聞きとれないや」
「別にそんな速度で話してるつもりじゃないよ。聞き取れなくても会話が成り立ってるから別にいいんじゃないかな」
「俺が理解したいの! もっと解りたいし……巴菜ちゃんのこと」
「そう。でもごめんね。颯は(世間的に見れば)いい男だから私(みたいなクズ最推し)には(理想がかけはなれすぎていて)合わないと思うの」
「俺告白してないのに振られたのはじめて!」
「そうね、私も振ったのは初めてだわ」
会話が噛み合わないまま、二人は学校へ向かう。そして颯はわずか三十分後に、巴菜の本性を知ることになるとは夢にも思わなかった……。
読了感謝。