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少し寂しいボクの日常

「結局振られたのか」


「……うん」


 夕陽に赤く照らされる教室。

 充は相変わらず、ボクの相談に乗ってくれている。

 でも、今回の充のセリフはとても、今のボクの心をえぐるかのようなんだ。


「今回は珍しく上手くいっているな、と思ってたんだけどな」


「ボクもそう思っていたさ」


 凪くんの言葉を信じるなら、今でもボクを好きでいてくれたのだから、上手くいっていた筈だ。


一月ひとつきか」


「一月ほどだね。正確には二十七日。とても楽しい、充実した一ヶ月だったよ」


「恋人としての期間には、それでも短いが……長かったな」


 そう。ボクの人生の中で、最も長くお付き合いさせてもらったことになる。

 それでも、今までの誰よりも、その期間が短かったように感じているんだ。……それだけ、時間が経つのが早かったんだ。


「いつも、振られるのを嬉しそうにしていた気がするが、今回はそうでもなさそうだな」


「誰が振られて喜ぶんだい? 今までだって、喜んで振られたりはしていないさ。……ただ、凪くんは今までの男の子とは違うね」


 こんなにも、この事実に向き合えない相手であり、ずっと一緒にいたいと思っていたことは間違いない。

 ボクの中で、凪くんの存在はとても大きかったんだ。


「……それじゃ、今回は学べたみたいだな? お前の望んでいたものは」


「ボクの望み……?」


 ボクの命題、恋とはなにか。

 確かに、今までの男の子には多分、ボクは恋をしてこなかった。だから、恋について知ることなんてなかったんだ。


 でも、カナメも言っていたけれど、凪くんへのボクの感情は恋なんだと言うことらしい。

 ボクに恋を教えてくれたのは彼なんだ。……でも、まだ全部じゃないと思う。ボクはまだ、恋を知りきれていない。


「ボクはまだ、その感情を目の当たりにしたばかりなんだ。もっとたくさんの〝恋〟を知りたいよ」


 凪くん、戻ってきておくれ……。


「……結局、あの日の弁明も俺は聞いてない。どう言う意図で凪のやつが愛理を振ったかは知らないが、お前の気持ちも汲まずに行動に出たなら、それまでのやつだったってことだ」


「今までと違ったから、ボクにも見当すらつかないよ。彼はボクに相応しくないとか、充によろしくとか言っていたけれど、いくら考えても、考えはまとまらないんだ」


 ボクの考えが及ぶ程度じゃ、何一つ納得もいかないし、分からない。

 ボクのために、真剣に悩んでくれている充の姿を見ても、今のボクはドキドキすらできないでいる。


「……あー、そういうことか。ふざけてんなよ」


「どうしたんだい? 彼の気持ちが分かったの?」


「ああ。痛いほど、むかつくほどにな」


 さすが充だ。ボクが一日考えても至らなかった気持ちを、すぐ理解してしまうんだからな。


「君に相談してよかった。是非教えてほしい。凪くんの気持ちもわからないまま、こうして悩み続けるのが辛いんだ」


「嫌だね。これは他人が教えていいことでもないし、自分で気づくべきことだ。……特に俺からなんて論外だ」


「充のいけず! ボクはとても悩んでいるんだよ!」


 充はいつもそうだ。ボクが本当に悩んでいることには、答えを教えてくれない。

 いつもなら、それも彼の愛情みたいなものだと、開き直ることもできる。けど今のボクはそんな気持ちにならないんだ!


「それこそ、お前の大好きな〝考えること〟だろう? いつものように頭を回せ、思考を巡らせろ。朱思 愛理という女の、一番得意とするところなはずだ」


 そう。充の言う通り、ボクは常に何かを考えている。

 今回のことでも、考え続けているし、今後も考えていくべきことだ。

 それでもボクは、その真実を少しでも早く──


「あれ、ボクは何を考えて……」


「落ち着け愛理。らしくないことはするもんじゃない」


 充の言う通りだ。答えに逸って、自分の座右の銘を忘れてどうする。

 決して考えることをやめない。凪くんのことはゆっくりと考えて、答えを捻り出すんだ。

 答えがわからなければ、彼と元の関係に戻れても、同じことを繰り返すだけなんだから。


「ありがとう充。やっぱり君はとてもいい親友だ」


「……そりゃどうも」


 なんだか不満そうな顔だけど、満更でもなさそうだね。


「ねぇ充? 君はやっぱりボクをよく理解している。どうだい? 凪くんの代わりにはならないかもしれないけれど、ボク達はとてもいい親友以上の関係になれると思うんだ」


「お断りだ。お前は親友止まりが絶妙なんだよ」


「君はいつも即答する! 少しは考えてくれてもいいじゃないか!」


 ああ、この答えは相変わらずいつも通り!

 凪くんに未練があるというのに、節操のないボクだ。それこそ、充には相応しくないかもしれないね。けど!


「さあこれで五十回目ともなったボクの告白。そろそろ君の心にも変化があるんじゃないかい?」


「ああとても、大きな変化がある。女相手にどうかとも思うが、今後告白されるたびに一発殴ってやろうかなんて考えてるんだ。いい考えだろう?」


「よしておくれ! 考える頭がなくなってしまう!」


 すぐにその拳を突き立ててくるのは、彼の悪い癖だ。暴力は、良くないよね。


「じゃあもう振られてくるんじゃねぇぞ」


「充それって……」


 ボクを励ましてくれているのかい? それに、前回のように告白を否定されたわけじゃないんだね?


「ほら、愛理が変なこと考えてるから、もう下校時刻だ」


 相変わらず、充の声を合図に下校を促すチャイムが……君はわざとやっているのかい?


「続きはまた今度な」


「むう、仕方ない」


 凪くんのことは心残り、充のことは不完全燃焼だけれど、致し方ないよね。


「でもあれだね。やっぱり、ボクの相談に乗ってくれる君を見ていると思うところがあるね」


「デジャブだが……言ってみろ」


「甘い鳴き声で寄ってきた飼い猫に、撫で返してみたらダッシュで逃げられるた時のような、ちょっとした疑心感に見舞われるよね」


 相談に乗ってくれるのに、ボクの望むところには答えを与えてくれない。

 どこまでボクに寄り添ってくれるのかがよくわからないんだ。


「分かった。お前はとりあえず、一度猫を飼った方がいいんじゃないか」


「ああ、それは是非お願いしたいところだよ」


 猫が家にいたら、それだけで心が癒されそうだ。今度お母さんに相談してみようかな?


「──お互い様、か」


 下校路につく中、ふとしたときに彼が残した最後の言葉。

 その言葉に引っかかりながらも、この夜は色々と思考が捗りそうだと思えたんだ。


 ──まだボクは、恋を知らなくちゃいけないね。

 

とりあえず一区切りということで、一旦完結とさせていただきます。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


評価、感想、ブクマ等いただけたら幸いです。

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